「牧阿佐美バレエ団・バレエコンサート」という一巻の古いビデオカセットがあります。パッケージには1970年製作となっています。この中に、大原永子・加藤正雄による「眠りの森の美女」のパ・ド・ドゥが収録されています。
1970というとベータ/VHSのビデオカセットデッキが普及し始め、映画などのソフトも徐々に売り出され始めたころです。このビデオは東京放送(PONY)からの発売で定価は3万円でした。現在のビデオカセットやDVDの約3000円と比べると10倍の値段です。
大原永子は、当時牧阿佐美バレエ団の所属でしたが、このころ牧阿佐美バレエ団は、川口ゆり子など若い10代のバレリーナも多く、ティーンエイジャーバレエ団の愛称で親しまれていました。
そんな中で当時20代半ばの大原永子(1943年〜)はベテラン的存在で、牧阿佐美バレエ団のプリマバレリーナとして、自他共に認める同バレエ団の顔でした。
その後彼女は渡英しスコティッシュバレエで踊りました。
当時の大原永子は、可愛らしいお嬢さんが多かった牧阿佐美バレエ団の中で、きりっとした厳しい顔つきが印象的でした。
彼女はバレリーナにしてはふっくらと健康的で、背は低いけれど脚は長くてスッキリ伸びて美しく、クラシック・チュチュから覗く、ふくよかな太ももが魅力的(当時の資料では身長152cm,体重45kg)。
小柄ながら豊満な肢体が眩しい純日本的な大原永子の体系が、彼女がスコティッシュバレエに招かれる武器になったようです。
当時小柄なプリンシパルを探していたスコティッシュの芸術監督の眼にとまったのです(バレリーナのアルバム、ダンスマガジン編)。
帰国後も、秀逸なテクニックを土台に、この体型を生かし、叙情性、しなやかさを加えて、日本人ならではの踊りを生み出し、日本のバレエ界をリードしてきました。
今では、バレエ界の重鎮、大原永子は、
監督補として新国立バレエ団の大御所的存在だとか。
以前担当していたNHKのローザンヌバレエコンクールの解説の毒舌からもますます盛んな彼女の様子が伺えます。
パートナーの加藤正雄は、谷桃子バレエ団を経て、米国ペンシルバニア・バレエ団ソリストで活躍し、広瀬・加藤バレエスタジオで、後進の育成に努めているようです。
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この「眠りの森の美女」のパ・ド・ドゥは、初々しい絶頂期の大原永子の踊りを見ることができる貴重な映像です。相手の王子は、加藤正雄。
パ・ド・ドゥは男性の力強いサポートに女性がついていく形が一般的ですが、この映像では大原永子の方が加藤正雄をリードしている感じに見えます。
クラシックチュチュ姿の大原永子は堂々としたプリマの貫禄。
病的なまでに華奢なバレリーナが多い中、
豊かな胸元とはち切れんばかりの太ももの色っぽさ。新妻になった姫の健康的な色気むんむんという感じ。
踊りは、地味で、あまり足を高く上げたりせず、ジャンプもさほど高いほうではないけれど、
完全なテクニックを土台にした、とても正確で堅実な踊りという感じです。
橘秋子の養女となり、小学生の時から厳しくバレエをたたき込まれ、中学生の時、苦しんで苦しんで黒鳥の32回転のグラン・フェッテをマスターしたという彼女。
コーダ最後のフェッテも、破綻なく、うまくまとめていました。
「バレリーナには『芸術家』と『芸人』の両面があるが、大原永子は芸人らしい面の強い踊り手だ」(文芸春秋:バレエへの招待(1979))とありましたが、
全く笑顔を見せず、終始真剣な顔つきで踊っていた彼女に、私もそう感じました。
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このパ・ド・ドゥでの大原永子の踊りは、少ししの甘えもない堅実な踊りで、パートナーの男性を気迫で圧倒しているように感じました。
アダージョの見せ場、フィッシュダイブ。大原永子は、3度とも大きく弓なりになって、容赦なくパートナーめがけて飛び込んでいきます。
必死に大原永子を受け止めたパートナーの加藤正雄は、「よっこらしょ」と、かなり辛そうな表情で彼女を引き起こしていました。
大原をリフトする時も、加藤は、いかにも重たそうに大きく口を開けて息を弾ませて持ち上げていました。
スタジオ録画ですから、アップも多く、二人の顔の表情もよくわかります。
カメラはダンサーの動きを良く追っていて、細かな指先の動きや、足の使い方などが良くわかる反面、女性やパートナーの男性の表情もよくとらえています。
アダージョを無事踊り終えたとき、たいていの女性は、にっこり微笑んでほっとした表情を見せるものですが、大原永子は表情を全く変えないのです。
むしろ当然のことのように堂々としています。
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一方、加藤正雄は踊り終えて、「ハア、ハア」と大きく息を弾ませ、首からはどっと汗が流れ落ちて「やれやれ!」といった表情を見せていました。
それでも、加藤正雄の大原永子のサポートは的確で、とてもうまかった。
ウェストをデリケートに、かつ、しっかりホールドして大原永子をスムーズに回転させ、アラベスクパンシェでは大原永子のバランスをガッチリと支えて・・・等々、
ダンスールノーブルとしての女性の引き立て役を立派に果たしていました。
ともあれ、芸人ダンサーと言われる大原永子の芸にかける厳しさと迫力をありありと感じたパ・ド・ドゥでした。
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海外の公演やバレエダンサーを撮した市販のDVDやビデオ映像は増えてきましたが、このような日本のバレエダンサーを映像ソフトは非常に少ない。日本にも、世界に通用する素敵なダンサーも一杯居ます。 ぜひ日本の優れたバレエダンサーを収録したDVDがもっともっと発売されることを期待します。
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