バレエ「パキータ」は、19世紀、パリオペラ座の振付師ジョゼフ・マジリエが人気バレリーナ、カルロッタ・グリジの為に作ったのが原型だそうです。
フランス占領下のスペインでのジプシのー娘パキータとフランス軍仕官との恋の話であり、エキゾティックな情緒が漂う、楽しい作品とのことですが、
プティパがこれをお気に入りのバレリーナ、エカテリーナ・ヴァーゼムの為に改変したそうです。
プティパは彼女のために「ラ・バヤデール」ほかのバレエも作ったそうで、彼女をよほど気に入っていたのでしょう。
ソロやコールドバレエがふんだんに取り入れられ、ストーリーを知らなくても、十二分に楽しめ、そして、踊り手の踊りいかんで、
何倍にも楽しさが増す作品だと思います。
下村由理恵、
佐々木大による興味深いパキータの映像があります。
NHKの「これであなたもバレエ通」(2001年11月放送)という番組の録画ですが、この二人まさに旬。
下村由理恵の可憐な中に凛とした雰囲気、佐々木大の力強い中にノーブルな雰囲気がマッチして、それに、他のソリストやコールドバレエも美しく、素敵な映像です。
まず、コールドバレエ。一列に並び、ラインや整然とした動きを見せる場面は、動きが固く、少々ぐらつきもありましたが、
全体として、とても良くまとまっています。
ソリスト達も明るいライトに照らされて、軽やかに踊る笑顔が、生き生きとして、とても楽しめます。
ソリストとコールドバレエは、NBAバレエ団。
そして、佐々木大のジャンプが圧巻です。高さもさることながら、空中で、保たれた姿勢の美しさが、さらに目を引きつけます。
着地の瞬間に、見せる本当に生き生きとした表情。それは、本当に「踊るのが楽しい…!」という、満面の笑顔です。
佐々木大はサポートが上手で、二人で踊るシーンでは出過ぎず控えすぎずでとてもバランスがいい。
下村由理恵を高々と持ち上げるリフトは、多少つらそうなところもあり、やはり、大変なのだろうと思います。
支える立場というのは、支えられる立場以上に、力も必要な部分だし、パートナーシップも必要。万一パートナーを落下でもさせたら大変。
本当に難しい場面だと思います。
下村由理恵は、テクニック的にも安定していたし動きの見せ方も旨い。けれどもパキータはジプシーとして育ったけれど皇室の血も流れている女の子なので、
パキータのヴァリエーションは、エスニックな腕や肢体の動きに加えて、貴族の生まれとしての上品で気高いイメージも要求されるので、
クリスタルガラスのような透明感のある純潔な内面的な表現が必要ですが、下村由理恵は、ちょっと力みが出た感じで、しっとり感に欠けて、いまいちでした。
ヴァリエーションの前半の脚が上がるだけ跳ね上げた方がよいと言われるエカルテ・ドゥヴァン・デヴェロッペ では、高々120度も上げなかった(上がらない?)し、バランスキープも不十分。
脚を高く上げてグッと堪えて決めた華麗なバランスのポーズが見ものなのに、これでは手抜きをしているように思えてしまった。
どうも下村由理恵はバランスの調子が悪かったようで、ヴァリエーションの最後で、幕に倒れ込むように突っ込んで行った。頑張ってもっと長くキープしてほしい。
でも、コーダの部分では力みがとれて動きが良くなった感じ。32回転のグラン・フェッテやシェネは破綻なくこなした。
グラン・フェッテに挑んでいる下村由理恵の表情は真剣そのもの。フェッテはバランスがよく回転も落ちなかったけれど、軸がややずれてきて苦しそう。
体力的に相当きついようで、必死に回っている様子が伺えました。
それだけに、回転の最後、バッチリと決めてにっこりした下村由理恵の笑顔がより一層美しく感じられました。
フィナーレは、下村由理恵と佐々木大を中心に、女性陣が、華やかに並んで、幕となります。
正面を向い下村由理恵と佐々木大の充実した笑顔は、この踊りの手応えを十二分に感じさせるものです。
ダンサーの満面の笑み、これを見ると本当にバレエっていいなあと思います。
ただ、下村由理恵は背が低い。他のソリストやコールドバレエが脚が長くて美しいだけに、脚の短さが目立ってしまう。
もう数センチ長かったら・・・と思うけれど、こればかりは、どうしようもない。それでも輝いて見えるのは、彼女の踊りのうまさなのでしょう。
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