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パ・ド・ドゥのパートナー         (2001.10.18)

 
先日の「シルヴィア」の舞台。主演の奥山有紀子さんと岩上純さん、微笑ましさ溢れる素敵なパ・ド・ドゥでした。 アダージョでの有紀子さんの素晴らしさ、岩上さんの暖かなリードによるところが大きかったようです。
「相手の男性のおかげです。 女性をうまく踊らせてくれるサポートでした。 やはり相手によってこちらの踊りも変わってきてしまいますから。」と有紀子さん。
彼女の言うとおり、パ・ド・ドゥは、男女のパートナーシップが重要な要素です。女性は、男性の優れたサポートによってこそ輝くのです。 そこで、パ・ド・ドゥのパートナーについて、私の感じていることを書いてみました。
 
バレリーナとパートナーの男性によって踊られるパ・ド・ドゥ。
アダージョでは、パートナーに支えられて、女性は自分の持てる最高の美しさを披露します。ヴァリアシオン〜コーダでは、お互いの技の競い合いの火花を散らす・・・・・・・
グラン・パ・ド・ドゥはクラシック・バレエの華です。
バランスのタイミング、回転の呼吸・・・・パ・ド・ドゥではパートナー同士の息が合うことが基本。信頼し合った二人の技がぶつかり合うハーモニーです。
 
パ・ド・ドゥでは、女性の華やかさの陰に隠れてしまいがちの男性。
でも男性がいなくては女性は何も出来ない。女性を生かすも殺すも男性です。
ここにダンスール・ノーブルとしての存在意義があります。
ロイヤルバレエのプリンシパル吉田都さんは、パ・ド・ドゥのパートナーについて、
「合わない人のタイプは共通していて、自分のことしか考えられない人です。
たいていは、女性をサポートした後に男性のソロが入ってきますから、自分のことを考えてなるべく体力を消耗しないように・・・・・という人は、その集中力の欠如が体から伝わってきます。
例えばトゥシューズで立っていて、それを支えてもらうとき、何ミリか重心がずれるだけで、ふくらはぎ、腿の負担が変わってきてしまうものなのです。
パ・ド・ドゥは、同じ演目でも相手が変われば表現が劇的に変わります。その変化の楽しさを共有できるパートナーが理想です。」(文藝春秋,MIYAKO)
「自分のことしか考えられない男性」、つまり「女性への思いやりのない男性」は、パートナーには相応しくないのです。
森下洋子さんが、ヌレエフと組んだとき、次のように言っておられます。
「彼はものすごくストロングなパートナーだと思いました。もし私がバランスを崩しても、彼は根が生えたように床に吸い付いてびくともせずに、しっかり立っているのです。だから絶対に私は心配ない。そのような面での安心感は女性にとっては非常に有り難いものです」(バレリーナの羽ばたき(ゆまにて出版))
森田健太郎さんが、ある雑誌のインタビューで、「女性が不安定になったとき、僕がさっと出て助けてあげたい」と言っていましたが、この気持ちこそ、バレエの女性のサポーターとして最も大切なことだと思います。
女性を力強く支え、もし女性がバランスを崩してもすぐ助けてあげ、女性に最高の美しさを発揮させる男性が良いパートナーなのです。
篠原聖一さんや森田健太郎さんの踊りを見ていると、この女性への「思いやり」を強く感じますし、相手の女性も安心しきって、本当に踊りやすそうです。
一方、今をときめく熊川哲也くん、彼はとても巧いダンサーだと思いますが、この女性への「思いやり」の面ではチョットと感じることがあります。以前、女性のサポートを忘れて、女性が転けそうになったし、先日も片手で高々と上げたリフトから女性を降ろすとき、落としそうになった・・・ゾッとしますね。パートナーを大切にして欲しいな(熊川くんのファンにはご免なさい)。
 
さて、私が見た中で特に印象の残っている、パ・ド・ドゥのパートナーをあげてみます。
まず、思いだされるのは、ヌレエフとフォンティーンです。
二人の年の差は20才。ヌレエフはフォンティーンの子供と言えるほどの年齢です。
この二人が出会ったとき、フォンティーンは世界的なプリマバレリ−ナ、ヌレエフはソ連から亡命してきた若干20才の若僧でした。
「天国から与えられたパートナーシップ」と言われて二人のコンビは20年も続くのですが、ここには、フォンティーンの欠点を指摘したヌレエフもあっぱれながら、それを謙虚に受けとめたフォンティーンの人間としての偉大さがあると思います。
二人は年齢差を越えて互いに高め合い、常に最高の舞台を作っていったのです。
 
次に、清水哲太郎さんと森下洋子さん
御夫婦ですが、ステージでは踊る為のパートナーになりきっていて、全く夫婦であることを感じさせません。このお二人から感じるのは、お互いのプロとしての息ごみです。
一糸乱れぬバランス、火花を散らすお互いの技のぶつかり合いなど、この二人のパ・ド・ドゥは、まさにプロ同士が築きあげる最高の芸術と言えるでしょう。
このお二人、既に50代。年齢を全く感じさせずに第一線で活躍されているのには頭が下がります。
 
まったく対称的なのが、夫婦としての幸せに満ちた篠原聖一さんと下村由理恵さん
聖一さんに頼り切った由理恵さんが可愛らしい。
これほど「人間」として、夫婦のほおえましさを感じさせるペアは他にありません。
由理恵さんにしてみれば、15才も年上の聖一氏は、夫であると同時に、師でもあるのですから、頼っているのも当然かもしれません。
二人の息はぴったり。幸せに満ちたむつまじい踊りに心が和みます。篠原さんは表向きは先日のジゼルを最後に由理恵さんのパートナーを降りられたようですが、この信頼感に満ちた踊りは何ものにも替えがたいお二人の財産、大切にして欲しいと思います。
 
最後に、マラーホフと吉岡美佳さん。「眠りの森の美女」のパ・ド・ドゥ、まさに一糸乱れぬ息ピッタリといった感じでした。
吉岡さんはマラーホフを信頼しきっているようで、のびのびと踊っていました。
またマラーホフ自身も吉岡さんを“互いを舞台で高めあうことのできる理想的なパートナー”と言っているくらい、2人の息はあっていました。「眠り・・」では、このまま本当の結婚式になってしまうのではと思ったくらいでした。
楽屋でのスタンバイの時、マラーホフは、緊張して極度に神経質になっていた吉岡さんに、「そんなに緊張しなくてもいいよ。何が起こっても僕が助けてあげるから」と言って、落ち着かせたととのこと。吉岡さん、どんなにか心強く感じたことでしょう。
 
私は、どのペアが好き・嫌いというのではなく、皆、とても素敵で、大好きです。
これ以外にも、素敵なペアは一杯あることでしょう。
クラシックバレエという厳格な様式の中にあって、最高に難しいがゆえに最高の楽しみであるパ・ド・ドゥ。
この魅惑の世界を作り出す男女のパートナーシップ。
クラシック・バレエを観る楽しみは尽きません。

 

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