【山口's HP TOPへ戻る】

珠玉のモーツァルトのバレエ曲 「レ・プティ・リアン」  (2008.4.27改)

モーツァルトにもバレエがあります。「レ・プティ・リアン」(K追加10)で、このバレエは、1778年22才の時パリ・オペラ座で初演されました。
モーツァルトは、1777年から1778年にかけて、マンハイムからパリに旅行をしました。同伴した母が病死したり、マンハイムで思いを寄せたアロイジア・ウェーバーに失恋したり、決して幸福な旅行ではなかったようですが、その反面、以降のウィーン時代に向けて、実りのある旅でもあったようです。 この「レ・プティ・リアン」は、そうした時代の作品で、初演は好評でしたが、いつしか忘れられ、オペラ座の書庫に眠ってしまい、それから約100年後に楽譜が発見されたとのことです。
    序曲と14の小曲からなります。 ガヴォットを中心にいろいろな小さな舞曲から構成されていますが、一つ一つがいかにもモーツァルトといった可愛らしい曲です。
    ( 1)序曲  :アレグロ、ハ長調。すべての楽器が奏する華やかな曲です。
    ( 2)第 1曲:ラルゴ、ハ長調。伸びやかな曲。
    ( 3)第 2曲:ガヴォット、イ短調。ヴァイオリンの主奏。
    ( 4)第 3曲:アンダンティーノ、ハ長調。フルート2本の掛け合い。
    ( 5)第 4曲:アレグロ、ハ長調。弦楽器だけの力強いコーダ。
    ( 6)第 5曲:ラルゲット、ヘ長調。オーボエの独奏。
    ( 7)第 6曲:ガヴォット、ヘ長調。ロンド風のガヴォット。
    ( 8)第 7曲:アダージョ、ニ長調。秘めやかな小品。
    ( 9)第 8曲:アレグレット、ニ長調。ホルンの二重奏。
    (10)第 9曲:ガヴォット、イ長調。
    (11)第10曲:パントマイム、イ長調。優雅な旋律の弦楽器だけの小品。
    (12)第11曲:パスピエ、ニ長調。弦楽合奏のみの短い曲。
    (13)第12曲:ガヴォット、変ロ長調
    (14)第13曲:アンダンテ、変ロ長調
    (15)第14曲:ジーク、変ホ長調
楽器の構成は各曲によって組み合わせが異なりますが、最大でも次の通りの小編成です。
フルート2、オーボエ2、クラリネット2、ファゴット2、ホルン2、トランペット2、ティンパニ、ヴァイオリン2部、ヴィオラ2部、チェロ、コントラバス。 トルコ風のリズムを持つソナタ形式の序曲をはじめ、マントハイム・パリ時代の特徴とも言える、優雅・艶麗な作風です。

バレエ曲といっても、現在のバレエの技法が確立するずっと前の作品です。マリー・タリオーニが「ラ・シルフィード」でポアントで踊ったのが、1832年ですから、それより50年以上も前なのです。 当然チュチュやトゥシューズなどない時代。バレエというより、パントマイムに近かったようです。 今日、演奏会で取り上げられることはあっても、バレエとして踊られることはあまりありません。 私は、40年も前の20代の初めでに、NHKテレビでこのバレエを見たのですが、今から思うととても珍しいバレエを見ることができたわけで、非常に幸運だったと言えます。
実はこの曲、私がモーツァルトを大好きになるきっかけとなった曲でもあるのです。 このバレエの中の1曲が、私をすっかり夢中にしてしまったのです。このとき、バレエのタイトルロールを踊ったのは、森下洋子でした。 彼女がソロを踊った、「第10曲パントマイム、イ長調」こそ、私を虜にし、モーツァルト狂にさせた曲なのです。 二分の二拍子の優雅な曲の美しさに加えて、森下洋子の素敵なキューピットの踊りが、とても強く印象に残りました。翌日、レコード店に飛んで行き、このレコードを買い求めました。 先にも述べました通り、1778年の初演当時は、トゥで立つこともなく、踊りというよりパントマイムとして演じられたのですが、森下洋子はトゥを巧みに使って、とても魅力的な踊りを見せてくれました。 小さな弓を持って、手足と体を背中に小さな羽がついた真っ白な衣装でおおった可愛らしいキューピットは、すっきり伸びたポアントがこの上なく美しく、ステップは羽のように軽やかで、ほんとうにこの世のものとも思えない位美しかったのです。 驚異的だったのは、イタリアン・フェッテの正確さ。イタリアン・フェッテは脚を高く振り上げて華やかですが、ベテランダンサーでも上半身下半身のバランスが崩れてメロメロになることもある至難なパ。 森下洋子は、ポアントで立った軸足も寸分もずれず、垂直に立った姿勢も全く乱れることなく、ゆっくり何回もこの難しい回転を繰り返し、観客の拍手を誘いました。 私は、うっとり見とれていました。

「レ・プティ・リアン」
振=雑賀淑子、森下洋子、加藤正雄等
NHKバレエの夕
(1971.03.11サンケイホール)
 
「レ・プティ・リアン」は、「白鳥の湖」や「眠りの森の美女」のような大規模なものでなく、技巧的にも、イタリアン・フェッテ以外にはグラン・パ・ド・ドゥのような派手な踊りもありません。全部で30分程度の短いものですが、一曲一曲が、珠玉の曲からなる楽しいバレエです。
 
私のコレクションは、カール・ミュンヒンガー指揮シュトゥットガルド室内管弦楽団、 ウィーリ・ボスコフスキー指揮ウィーンモーツァルト合奏団(いずれもアナログ(LP)レコード)および ネヴィル・マリナー指揮アカデミー室内管弦楽団のCDです。 ミュンヒンガーのしっとりとした演奏と、ボスコフスキーの溌剌とした演奏、すっきりさわやかなマリナーの演奏と、 それぞれ楽しめますが、私はどちらかというとミュンヒンガーの演奏が好きです。

【山口's HP TOPへ戻る】