【山口's HP TOPへ戻る】

バレエ用語  (2008.04.27改)
バレエの主な用語をまとめました。  → バレエの見所はこちら

ジゼルのパンシェとリフトの稽古(影山茉以)

黒鳥のパ・ド・ドゥの稽古(富永黎

基本の足のポジション

バレエには決まった立ち方(ポジション)があり、1番〜5番という呼び吊がついています。
 ・1番 ひざの裏とかかとをつけ、脚を付け根から外側開いた状態。
     親指と小指は床にピッタリとつけます。
 ・2番 1番の状態でかかとの間を足1つ半あけ、足先が外に開いた状態。
     親指と小指は床にピッタリとつけます。
 ・3番 爪先を左右に開き、かかとをくるぶしで重ね合わせ、
     後ろ足の土踏まずに前足のかかとが来るようにします。
 ・4番 第5ポジションから足を一つ分開けた状態で、
     足を一つ分開けて前に出し、両足が並行になるようにおきます。
 ・5番 つま先を開いてかかとにつま先が重なる状態。
     正面から見ると、まるで膝が一つのように見えます。

アン・ドゥオール

アン・ドゥオール(en dehors)とは、「外側に《を意味するフランス語で(英語では ターン・アウト turn out)、バレエの最も大切な技法です。 具体的には、踊り手の両脚全体が付け根から足先まで『外側に』開いている状態です。 足を前だけではなく、横にも後ろにも高く上げるためにはアン・ドゥオールする必要があるのです。 アンドゥオールする際、気をつけなくてはいけないのは膝の向きです。 足先が180度きれいに開くのが理想ですが、足先を無理に外側に向けようとして、足先の方向と膝の方向がちがう角度になるのはNG。 ケガにつながりかねないし、この状態でアチチュードやアラベスクをすると、 俗に言う『犬のおしっこ』という見っともないポーズになってしまいます。まれにプリマと言われる人の中にも、これを見かけます。

ロシアの有吊なアンナ・パヴロワは「十分に開いていない《と当時の批評家に非難されたという話が残っています。 だからと言ってパヴロワが偉大な芸術家でなかったというわけではなく、 パヴロワのような偉大な踊り手さえも、また今日活躍するバレリーナにとっても、アン・ドゥオールは達成することが非常に難しい課題だということなのでしょう。 このアン・ドゥオールの発見により身体表現の幅を広げ、他のダンスには持ち合せないバレエの『美』が確立されたのです。

アラベスクとアラベスク・パンシェ
・アラベスク
片足で立ち、もう一方の足をまっすぐ後方に伸ばして、
両腕も調和して広げたポーズです。
人間の体の線を最も長く見せ、バレエのポーズの中でもっとも美しいのがアラベスクです。
アラベスクには何種類もあると言われていますが基本的によく使われるのは4つです。

    ・第1アラベスク…軸足の方の手を前に、反対の手を横に伸ばします。
             上半身は起こして、まっすぐ指先を見ます。
    ・第2アラベスク…軸足の方の手が横に、反対の手を前にのばします。
             上半身は起こして、まっすぐ正面を向きます。
    ・第3アラベスク…第2アラベスクの手の状態から、軸側の手を斜め上へ伸ばします。
    ・第4アラベスク…クロワゼの形をとった第1アラベスクです。
             横の手は少し後ろぎみにします。
『アラベスクでは長い間体が動揺することなく安定感を以って片足に支えられていなければ妙味がない。安定したバランスこそが優雅さを生む。バレエでは優雅さと安定感、平衡感は同意語である。』(葦原英了:バレエの基礎知識)というように、 揺れを堪えて揺ぎ無いバランスを維持することが必要。バランスが上安定では美しいアラベスクは望めません。
ベルリン国立バレエの中村祥子さんは、『バランスをギリギリのところまで引っ張る。ギリギリのところまでバランスを堪える。ギリギリまで粘ることで何かを伝えたい。 そうすることで表現に奥行きを与える。』(NHK:トップランナー)と、これ以上は無理という限界までバランスを保つよう努めているそうです。
Queensland Balletの吉田合々香さんは『バレエはバランスが大事です。だから、つま先で立って片足でまずは30秒、その翌日は1秒と増やしていき……1分くらいになると大変で、それでも『できるまでは寝ない』と自分に言い聞かせてやり通す』と言っています。

アラベスク・バランスの稽古
(谷垣内まゆ(Mayu Tanigaito))
facebook(Mayu-Tanigaito)より
・アラベスク・パンシェ
パンシェは『傾斜した』という意味で、片足で立って、反対の脚を高く上げ、前方へつんのめる限界まで身体を倒していくとても難しいポーズで、女性の身体の最も美しい表現とされています。 一人で何の支えもなくパンシェをする、それは大変なことです。 180度を超える位開脚できる股関節の柔軟性が問われ、何より背筋の強さ、腹筋の強さ、そこからくる脚を外に引っ張れる力がなければ、この危ういバランスをキープできません。

パ・ドゥ・ドゥのアダージョで、女性がポアントで立ち、男性に腕を支えられて脚を高々と挙げるアラベスク・パンシェは、女性の美脚の見せ所です。 ただ女性のバランスが上十分だったり男性の支えがしっかりしていないと、グラグラと上安定になり見苦しくなってしまいます。 オーロラ姫を得意とし、初めてのニューヨーク公演でのローズアダージョのアチチュードの絶妙のバランスで、一夜にしてスターになったマーゴ・フォンテーンさえ、脚を高々と挙げるアラベスク・パンシェは苦手だったようで、 『アダージョでバランスを崩したらバレリーナはおしまいです』と言っていたそうで、ベテランのダンサーでも『失敗したら・・・どうしよう』と不安感や恐怖感にさいなまれる極めて難しいポーズなのでしょう。 もっとも、海賊のメドーラや眠れる森の美女のオーロラ姫では、過度の開脚はプリンセスの気品を?ない好ましくないという向きもあるようですが、 金平糖の精やディアナやエスメラルダでは垂直に近い開脚で脚の美しさを披露したり、白鳥の湖のオディールでは股が裂けそうなほどの180度超の超絶開脚で悪魔のカリスマ性を強調したりする人もいます。 女性が挙がるだけ脚を高々と挙げて、今にもつんのめりそうになりながらも必死に堪えて保つパンシェのポーズは息を呑むほど美しく、思わず身を乗り出して見入ってしまうほどです。 アダージョのアラベスク・パンシェは男女のパートナーシップの象徴とも言うべきパフォーマンスであり、舞姫にとっては自らの技術の高さと、脚の美しさをアピールできるの最大の見せ所でしょう。
ジゼルでは、女性が片足で立ち、男性のサポートなしに脚を高く上げ、いまにも前につんのめって崩れそうになりながらも、限界まで前方へ体を倒して持ち堪えるという、とんでもなく難しいアラベスク・パンシェが見られます。 グラグラする体の揺れを必死に堪えて持ちこたえるバレリーナに観客は『頑張って!!』と手に汗握り固唾を呑んで見守ります。 至難な技に懸命に挑む健気な舞姫の姿は、まさにバレエならではの瞬間の芸術です。


ジゼルのアラベスク・パンシェのバランス:Natalia Osipova

ジゼルでは、もう一つとんでもなく難しいアラベスク・パンシェがあります。ミルタのパンシェのバランスです。 このミルタ、難しさは、主役・ジゼル以上とも言われています。女王の威厳を保って、完璧に踊ることを求められるからです。完璧さを求められる最大の難所が、このパンシェのバランスなのです。 左右2回、続けてパンシェを行わなければならず、体力的にも精神的にも極めて厳しく、前につんのめったり、左右にグラついたりしがちで、バレリーナ泣かせの難しい箇所です。

かってテレビ番組の『情熱大陸』で、中村祥子さんが、バランスがわずかにグラついたモニターの画面を見て、『「しょうがないけれど、悔しい!!』と言っていました。 バレエの喜びは『オフバランス』。音を聴きながら、遊ぶ、挑戦する、音楽をひっぱる、自分のバランスをため、どこまでいけるか・・・・、と、バランスには絶対の自信を持っている彼女だけに、ほんの少しのバランスの乱れだったけれど、よほど悔しかったのでしょう。食い入るように自分の踊りのビデオを見つめる彼女の目は真剣そのものでした。よほど悔しかったのでしょうが、それほど難しい場面なのでしょう。(こちら→)
また、田山修子さんは、彼女のinstagramの中で、『ロシア国立劇場で、初めてソリストを踊ったのがこのミルタ??。
劇場でのシーズン新団員としての初お披露目がこのスーパー激務なミルタだったなんて、今思い返しても我ながら良く果たした!!!(笑)。
2幕からの登場で、いきなり5分ぶっ通しでゴリゴリ踊ったかと思ったら次は男達を地獄へbeybey?』と言っていました。
初めてソリストを踊ったのがミルタだったなんて、さぞ大変だったことでしょう。
また、『きっとカイロオペラハウスの中で自分のミルタが一番イケてるわ、って気持ちで頑張りま〜す』とも言っていました。頑張れ、田山修子さん!!。

ミルタ(田山修子
(YouTube)より

アチチュード

片足で立ち、もう一方の足の膝をまげて後方に上げたポーズ。 その際、膝を縦(下向き)ではなく、膝を横(外向け)にして脚を折ります。 アンドゥオールが上完全だと、膝が下を向きがちで、見苦しくなってしまいます。 この姿勢のまま回転したり、跳躍したりもします。このポーズは、百数十年前、イタリアの舞踊家が「マーキュリーの像《の彫刻から あみだしたものだそうです。

・アチチュード・クロワゼ・デリエール…体を左斜め前に向け右足で立ち、左足を後ろに上げ、膝を曲げます。
・アチチュード・エファッセ・デリエール…体を右斜め前に向け右足で立ち左足を後ろに上げ、膝を曲げます。
・アチチュード・エファッセ・ドゥバン…体を左斜め前に向けて右足で立ち、左足を前に、上げ膝を曲げます。
・アチチュード・クロワゼ・ドゥバン…体を右斜め前に向けて右足で立ち、左足を前に上げ、膝を曲げます。

コッペリアのバランスの稽古(倉永美沙)

凄い,堪えて!!(倉永美沙
facebook(Misa-Kuranaga)より
『眠りの森の美女』第1幕でオーロラ姫が四人の王子から求婚のバラを受けるローズアダージョでのアチチュードのバランスは、まさにアチチュード・バランスの極限への挑戦です。 バレリーナが片足で立ったままサポートの男性の手を離して長くアチチュードのバランスをとり続けるところは、数あるクラシックバレエの中で最も高度な技術を要する至難な踊りとされています。 女性が片足の細いトーシューズの先で立ってアチチュードのまま長くバランスを保つには、男性の手をしっかり握りしめていてもぐらぐらして上安定なのに、まして女性は男性が替わるたびに手を離すのですから大変です。支えを失ったままじっとバランスを堪えていなければなりません。 ローズアダージョでのバランスは主役のバレリーナが全幕を通じて最も輝くところで、当時まだ無名だったマーゴ・フォンティーンは、ロイヤルバレエのニューヨーク初公演で、この場面で前人未踏の長時間のバランスを見せて観客を興奮の渦に巻き込み、一夜にしてスターになったそうです。

マーゴ・フォンティーンのローズ・アダージョ
ポーランド国立バレエ団プリンシパルの影山茉以さんのバランスの稽古の映像がTwitterとInstagramと載っていました。 彼女は、自分でできるぎりぎりまでバランスをとり続けていました。揺れ動く体を必死に堪えてバランスを維持する健気な姿。感動的です。 後方に伸ばした足がグラグラして、今にも崩れそうになりながらも、懸命にバランスを辛抱強く持ちこたえ、途中幾度か体が傾いてもグッと堪えて、50秒近くの長い間バランスをとり続けたのです。 彼女は『集中力を高めるのに効果的』『辛抱強く』『これが本番で出来ればね』とinstagramにコメントしていました。 これだけ精魂こめて稽古するからこそ、本番では観客を魅了する最高の踊りができるのでしょう。彼女の弛まぬ努力にリスペクトです。

また、優雅なオーロラ姫で観客を魅了した吉岡美佳さんですら『調子よく踊れそうだと思っていてもうまくいかないことがあります。ローズアダージョでは緊張の余り、知らず知らずのうちに上半身に力が入って足元がぐらつきやすくなってしまいます。リハーサルでは自分ができるギリギリのところまでバランスをとってみました』(クララ 1990/2)と言っていたし、 上品なバレリーナとして評価の高かった川村真樹さんは、『ローズアダージョの練習は毎日 欠かしませんでした。第二幕の稽古の日も、第三幕の稽古の日も、どんなに疲れていても、ローズアダージョに 戻って終わりました。それぞれの男性のサポートに違いがあるし、すごく集中が必要だし、そんな中で役を忘れないように気をつけました』と言っていました。
バランスの稽古(影山茉以)(Instagram)

プロムナード
プロムナードとは、散歩道という意味で、アダージョでの、アチチュードやアラベスクのポーズでゆっくり回るパです。 移動することなく1点での動きです。 プロムナードには、ア・テール(足裏を全てピッタリと床につけた形)でフロアーで一人で回る場合と、女性がポアントで立って男性に腕を支えて回してもらう場合が有ります。 男性が女性の腕を支えるプロムナードは、グラン・パ・ド・ドゥのアダージョの出だしでよく用いられます。  一人で回るプロムナードは、自転を促すために軸脚のカカトを前へ前へ押し出すように股関節のターン・アウトを続けます。 男性のサポートで回るでも、まず自分の回転軸がしっかり安定しターン・アウトが守られていなければ、美しいプロムナードにはなりませんから、稽古では女性はサポートなしで回れないといけません。
『眠りの森の美女』は、バレリーナなら誰もが一度は踊りたいと憧れる反面、ローズアダージョではアチチュードとプロムナードからなる至難な踊りに力量の差が現れやすく、観客の厳しい評価の目にさらされるところです。 音楽が高らかに鳴り響く中、男性は女性の右手を取ってゆっくりと女性の周りをプロムナードします。 このとき女性は回転に集中するあまりどうしても右手に力が入りバランスをとりにくくなってしまいます。手を離す瞬間は、女性が最も恐怖を感じるところです。 これが3回も続くのですから、ベテランのバレリーナでさえ顔が引きつるほど緊張するところです。 サポートの男性と息が合わないと、バランスが上安定になりがちで、バレリーナが恐怖を感じ最も緊張する所です。

プロムナード&アチチュードの稽古(倉永美沙)
facebook(Misa Kuranaga)より

ピルエット

フランス語でつま先という意味でバレリーナが、つま先で立った足を軸として回転する技法です。 ピルエットは、最初のうちは回転しているうちに目標を見失ってしまったり、目が回ってしまったりすることもあり、正確にすばやく360度回転するには多くの時間と鍛錬が必要とされています。 グラン・フェッテも回転の技法ですが、グラン・フェッテが上げた足の反動を利用するのに対し、ピルエットは腕が回転力になっている点です。
女性が一人で回る以外に、パ・ド・ドゥで男性と回る場合もあり、男性にウエストを支えられて回っている時、女性が自力だけで回りきれず止まりそうになり、女性が男性に腰を無理矢理回されるのは見苦しい。女性は相手に頼らず自分で回り切れるようになって欲しいものです。 ベテランのバレリーナにもピルエットが苦手な人も多いようで、マーゴ・フォンティーンでさえ、『バランスは好きだけれど、ピルエットは嫌い』と言っていたそうです。
Adiarys Almeidaが、海賊(Le Corsaire)のリハーサルで、ピルエットの稽古をしている映像が、YouTubeに載っていましたが、これが凄い。
ピルエット6回の後、一回フェッテを入れて、続けてまたピルエットいうもの。その回数は何と13回。歯を食いしばって、必死に回る姿に感動。思わず『頑張れ!!』と叫びたくなった。 さすがに13回目で力尽きて、たまらずバランスを崩し、顔を両手で覆い、『キャーッ!!』という悲鳴を発して崩れてしまったけれど、 この倒れ方が何とも微笑ましい。何より、ここまで頑張ったのは偉く、心から褒めてあげたい。期せずして観客から祝福の歓声が沸きました。
リハーサルだからゆえに、自らの限界に挑む彼女の意気込みはあっぱれです。本番の舞台では、ここまでする必要はありませんが、こんな努力の積み重ねをして、本番に臨んでいる彼女にリスペクトです。
本番の映像もありました。彼女の努力と精神力の強さに拍手です。
その他にも、興味深いピルエットの稽古の映像が多々ありました。

ピルエットの稽古
(Mayu Tanigaito)
facebook(Mayu-Tanigaito)より

ピルエットの稽古(倉永美沙
facebook(Misa-Kuranaga)より

ピルエットの稽古(平田桃子
(YouTube)より

グラン・フェッテ

フェッテというのは『鞭で打つ』という意味を持つ動作です。バレリーナが、片足はつま先で立ち、もう一方の足をむちのように蹴り出して旋回する技法です。 正しくはグラン・フェッテ・ロン・ドゥ・ジャンブ・アン・トゥールナンというそうです。 1回ごとに足を床に着けながらトゥで回ります。軸足が足を着けたり立てたりの繰り返しで、かなり辛く、完璧に行うには厳しい訓練が必要とされています。
具体的には、まずピルエットで回転してから、軸足を下ろしてプリエし、パッセしていた脚を一度前方に伸ばして、 ロン・ド・ジャンプ・アンレール(膝下を回す)し、軸足でルルヴェから立ったと同時に上げていた脚をパッセして引き寄せて回転します。上手な人は途中にダブル(2回転)、トリプル(3回転)を入れたりします。 その回数は4の?数で32回を最高とされています。『白鳥の湖』第3幕のオディールや『ドン・キホーテ』のキトリの32回のグラン・フェッテは特に華やかで見ごたえがあります。 ゆったりした動きのアダジオでは、すごーくキレイな踊り方する人がいざグラン・フェッテをすると、よろよろしていたり、 つま先がずれてしまったり、つま先が滑って転けかけたり・・・、 グラン・フェッテを完璧に踊るのは、相当難しいようです。 黒鳥のグラン・フェッテで、回転中にどんどん軸がずれていって、他のダンサーに接触してこけそうになり、思わず脚を付いてしまったケースを見ました。 それでも、このダンサーはそこで辞めず、きちんと姿勢を直して回転を再開し、演奏の終わりにあわせてフィッシュしたのは立派でした(32回転には足りませんでしたが)。観客も暖かい拍手を贈りました。
NBAバレエの坂本絵利奈さんの、黒鳥のパ・ド・ドゥのコーダのグラン・フェッテからフィニッシュ迄の稽古の映像がYouTubeに載っていました。
バレエで培った美しい容姿と美貌に加え、品がよく可愛らしい表情の彼女が、厳しい教師の指導に華奢の体に鞭打って、歯を食いしばって厳しい表情で、過酷なダブルの回転を加えて、懸命にフェッテの稽古に励む姿に胸を打たれました。
フェッテを回り終えた瞬間のホッとした表情の美しかったこと。コーダのフィニッシュ直前には額には汗がにじみ、体力的にも精神的にも、さぞかし辛かったでしょうが、『うまく出来てよかった!!』と笑みを浮かべた晴れやかな表情が印象的でした。こんな素敵な舞姫に出会えるとますますバレエが好きになります。
彼女の師である西優一氏はInstagramで彼女について『阪本絵利奈!。本番はこれより多く前半全部ダブルフェッテでした。素晴らしい。私の希望では一番最後にトリプル・トリプル・トリプルってのが希望です』と語っていました。
本番の舞台はさぞかし素敵だったことでしょう。今後の活躍を期待しています。

ピルエットの稽古 伊野波都
ドンキホーテのグランフェッテの稽古 小山和李

『エカルテ・ドゥヴァンのデヴェロッペと、クロワゼ・デリエールのアティテュードを交互にくり返して回転する動き』で、 軸足をポアントで立って、他の脚を、斜め前方にデベロッペ。これが、エカルテ・ドゥヴァンの方向。そして上げた脚を振り子のようにフェッテし、アチュチュード・クロワゼ・デリエールしながら振り返る。そこからまた、エカルテ・ドゥヴァン、アチュチュード・クロワゼ・デリエール、エカルテ・ドゥヴァン…と繰り返されます。 「海賊《のヴァリエーションや「ドン・キ・ホーテ《の森の女王のヴァリエーションに見られます。
これも軸足を床に着けたり立てたりするので、かなりしんどく、軸足の脚力と、完璧なバランス、そして、足を振り上げる際のドゥミ・プリエがキーポイントと言われます。 足を高く上げようとすれば上半身がそりかえりがちになりますし、回転を意識しすぎると足が置いてけぼりになりがちになり、上半身と下半身のバランスが崩れて失敗しがちで、グラン・フェッテよりイタリアン・フェッテの方が苦手という人が多いようです。失敗した人を見ていると、崩れるときは上半身がぐらぐらしし始め、続いて脚がもつれて下半身がメロメロになるということが多いようです。
イタリアン・フェッテとグランフェッテの稽古 西村奈恵
イタリアン・フェッテの稽古 田山修子

グラン・バットマン

バットマン(battement)は、『床に足を滑らせながら脚を出したり上げたりする動作』全般を指し、 バットマン・フォンデュ、バットマン・タンデュ、バットマン・ジュテがあります。
グラン・バットマンは、『大きく打ちつけること』ということで、 バットマン・タンデュでは、脚を真っ直ぐに伸ばしたまま足を床に滑らせ、前や横や後に脚を高く上げます。 大事なのは芯になる足から頭のてっぺんまでしっかりと引っ張り上げ、軸足は床にしっかり重心を置き、 脇は床のほうに引っ張りつつけり上げる足の指先までしっかりと伸ばすことです。 高く足を蹴り上げると、蹴り上げた足に重心がひっぱられ、ぐらついてバランスが崩れるので、 重心は、きちんと軸足に乗せなければなりません。 『脚は上がるだけ高く跳ね上げたほうが良い』とされ、舞姫がトゥで立って、180度近く迄高く上げてたところでグッと堪えてバランスを維持した姿は華麗です。 白鳥の湖〜オディール、ドン・キホーテ〜キトリ、エスメラルダ等で見られます。

バットマン・デヴェロッペ

デヴェロッペ(仏語developpe、英語ではdevelop)とは、〜から〜に発展させる、広げる、という意味です。 デヴェロッペは、つま先で立った軸足の膝の前に、つま先を付けたパッセ(ルティレ)を経由して前・横・後ろに脚を伸ばしきる動きを指します。 つまり、バットマン・デヴェロッペは、パッセ(ルティレ)にあげた脚を伸ばす動きということです。 デベロッペはアダージオの動きでゆっくりのテンポで行い、特につま先が伸びきるところまでゆっくり行います。 つま先が伸びきったところで、グッと堪えてバランスを維持するのですが、軸足が不安定だとグラグラして見苦しくなりがちです。 デヴェロッペは、柔軟性と筋力・それらをコントロールする能力・バランス感覚、全てを必要とする、とても高度なパの一つです。

バットマン・デヴェロッペの稽古
facebook(Misa-Kuranaga)より

ア・ラ・スゴンド

ア・ラ・ズゴンド(仏語 a la seconde)は、直訳すると『2番に』という意味ですが、『横方向に』というバレエ特有の用語です。 アラベスク・パンシェと同様、『女性の身体の最も美しい表現』の一つと言われています。 グラン・バットマン・ア・ラ・スゴンド。デヴェロッペ・ア・ラ・スゴンド。フォンデュ、タンジュ、デガジェ、ジェテ、フラッペ...など、横に脚を出した状態に、『ア・ラ・スゴンド』が付きます。 一人で何の支えもなく『脚をア・ラ・スゴンドに高く上げて美しくキープして見せる』、それは大変なことです。前方へつんのめる限界まで身体を倒していくアラベスク・パンシェよりも難しいとされ、バレリーナ泣かせのポーズとも言われています。身体能力が試され、粗が目立つし、誤魔化しがきかず、最悪バランスを崩して破綻・・・ともなりかねず、なんとなく様になるというポーズではないのです。

シルヴィ・ギエムといえば『6時のポーズ』と言われるほど、180度にア・ラ・スゴンドをして耳に触れるぐらい、いや頭の真上にかかとがあるなんて言う人もいるくらい。開脚して静止して、完璧で美しいア・ラ・スゴンドで観る者のため息を誘います。

ア・ラ・スゴンドの稽古(川添智香) instagrm(Tomoka Kawazoe)

グラン・ジュテ

ジュテ(jete)は片方の足を横や前に投げ出して、軸足で踏み切り、投げ出した片方の足で降りる動きで、 グランは大きいという意味です。つまり、ジュテをするときに大きく動くことを意味します。 グラン・ジュテをふんわり浮いているように見せるコツは、ジャンプして一番高い位置から、 下降しはじめた時に身体を持ち上げるように手で助けながら胸を上につきだし背中を少し反らせます。 極限まで脚を広げ、出来るだけ高く長く空中に留まることが求められ、180度以上も開脚して長く留まる、ウルトラC的な技を誇示する人もいます。
ニジンスキーのグラン・ジュテは、その高さもさることながら、滞空時間が異常なほど長かったと 伝えられています。ある時彼はなぜそんなに長く跳んでいられるのか?と尋ねられ「降りてこなければいいんだ《と 答えたそうです。ある意味クラシック・バレエはマジックに似ています。まったく自然な動きのなかに、巧妙なトリックを仕込んで、観客の目を幻惑するのがバレエの技なのです。が、それを自然に美しく見せるには、激しいトレーニングと並はずれた身体能力が必要とされます。理屈がわかっていても、それができるダンサーはそういないのですから。ニジンスキーは肉体的資質に恵まれているだけでなく、こんな理屈を直感的に理解していたのでしょう。

グラン・パ・ド・ドゥ

男女2人の踊りで、アダージョ、男性のヴァリエーション、女性のヴァリエーション、コーダの形式で踊られます。
アダージョでは、ゆるやかな音楽に合わせて、女性が男性にサポートされて優雅に踊ります。 女性はアラベスクやアチチュードのバランスを中心に、一人ではできない華麗できわどいポーズを男性の助けを借りて表現します。 女性は、アラベスクでは、ポアントで立ち、片手を男性に支えてもらい、前につんのめらないよう懸命に堪えて、自らの極限まで足を上げた華麗なポーズを披露します。 これでもかというくらいの180度を超える開脚をして体の柔軟さを誇示する人もいますが、上げすぎると下品に感じてしまうこともあります。アチチュードでは、男性にウェストを支えてもらいポアントで立った美しいポーズを見せたり、男性の腕につかまり、ポアントのまま男性の周りをグルッと回る妙技(プロムナード)を披露します。 時には高々と男性の頭上にリフトされたり、両足を跳ね上げ魚が飛び跳ねたようなフィッシュ・ダイブのポーズも加わります。

アダージョの稽古(瀬島五月)
facebook(瀬島五月)より
ヴァリエーションでは、男性は大きな跳躍、女性はポアントでの技を見せます。女性のヴァリエーションにはイタリアン・フェッテが組み込まれているものもあります。 コーダは、グラン・フェッテ等を伴った華やかな男女の踊り比べです。 優雅さを表現するアダージョと技巧的で華やかなコーダは、いかにもバレエという感じで、真ん中のソロはその繋ぎというところでしょうか。

リフト

パ・ド・ドゥで男性が女性を肩に乗せたり、高々と頭上に持ち上げるポーズです。 2人の呼吸が合わないと失敗することもある難しい技ですが、うまくいくと曲芸的なハッと息を呑むスリルを楽しめます。
正面を向いて飛び上がる女性の骨盤を、後ろ向きの男性が両手で掴んで『グイ!』と持ち上げる胡桃割り人形のパ・ド・ドゥの飛行機リフト、 ふんわりと飛び上がるフロリア姫を優雅に肩に乗せる眠りの森の美女の青い鳥のパ・ド・ドゥのリフト、 アチチュードの形のままの女性の腰と腿を男性が両手で『よっこらしょ!』っと持ち上げる黒鳥のパ・ド・ドゥのアダージョ終盤のリフト、 『いくわよ!』と、ぶっ飛んでくる女性を『さあ、来い!』と男性がガッチリとキャッチするチャイコフスキーパ・ド・ドゥの飛び込みリフト、 飛び上がった女性を男性が女性の腰を掴んで『えいや!』と持ち上げて、片手または両手で頭上に高々とキープするドン・キホーテやディアナとアクシオンのパ・ド・ドゥのリフト などがあります。

飛行機リフトの稽古(倉永美沙)
facebook(Misa-Kuranaga)より

フリップ〜リフトの稽古(成功に喜ぶ影山麻衣さん)
女性が飛び上がるタイミングと男性が持ち上げるタイミングがピタリと合わないと、 男性の足元がふらついて女性を支えきれず、女性がずり落ちたり、頭から転落したりすることもあり、危険を伴う技です。

フィッシュ・ダイブ

フィッシュ・ダイブ(ロシア語:リプカ、仏語:パ・ポアソン)は、男性が膝の上に女性を乗せて支え、女性が魚が飛び跳ねたように体を反らせて、両手・両足を跳ね上げるポーズです。男性が片腕で女性の腰を他の腕で太股を支える場合、男性が片腕を女性の腰にまわして支える場合、腕を使わず膝だけで支える場合があります。女性が垂直に足を上げ、思い切り胸を反らせて顔を上げたポーズは爽快です。女性の体重がもろにかかり男性の負担は相当な上、2人の呼吸が合わないと女性が頭から落下しかねない危険な技ですが、とても見栄えがして美しく、パ・ド・ドゥの決めのポーズに使わます。 ドン・キホーテや眠りの森の美女に見られます。
フィッシュダイブは第1アラベスクから始まることが多く、アラベスクしている女性を同じ方向を向いた男性が後ろからアラベスクの動足を客席側の腕で抱え、 奥側の腕で女性のウエストを下から抱えます。 そのまま女性を宙に浮かせつつ女性の頭部を下に傾けます。 その時、男性は女性の骨盤を自分の体と客席を向いた脚の太腿の間に挟み、女性の体を固定。女性も脚を男性に巻き付けます。 女性はずり落ちないように力を入れて重力に逆らい、男性は背筋に女性を挟んで落とさないようにキープいます。 女性は重力を感じさせないようにふんわりと優雅にダイブし、腰を直角に曲げて脚を垂直に上げ、顔をしっかりと持ち上げグッと堪るのが理想的とされています。

フィッシュダイブの稽古(倉永美沙さん)

リフト→フィッシュダイブ

リフト→フィッシュダイブは、グラン・パ・ド・ドゥのアダージョでの定番の流れ。 パートナーの男性がアラベスクしている女性を頭上に高々と上げ、『エイッ!!』と女性を放り上げ、女性は落下する直前にフィッシュダイブのポーズをとり、男性が女性の脚を抱えてキャッチするというものですが、 二人の息が合わないと惨めな結果になりがちです。パ・ド・ドゥの最中、フィッシュ・ダイブで、男性の腕から女性の太股がずり落ち、あわや顔が床につきそうになった女性を、 男性が必死に『よいしょ!』っと抱え直して持ちこたえた場面を見たことがあります。女性は『しっかりしてよ!』と言わんばかりに怖い顔で男性をにらみつけました。 終了後のレヴェランスで、男性はうつむいて、女性に『ごめんね』と謝っていたようで、女性の引き立て役の男性は哀れなものだなと思ったものです

【山口's HP TOPへ戻る】