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バレエの見所  (2008.04.27改)
『バレエの美はつま先に宿る』と言われるように、クラシック・バレエではつま先の美しさがとても重要視されます。 足を丁寧に差し出した時や、ポワントで立った時の、あの美しくしなる甲のラインと足先のアーチには、だれもが魅かれてしまいます。 バレエを習っている人なら誰もが憧れる、バレリーナのつま先。足先のあのラインは、バレエをバレエたらしめる重要かつ象徴的なパーツではないでしょうか。 トウシューズと一体化した、しなるつま先ほど美しいものはありませんし、己の体重を今にも折れそうな細く鋭い爪先の一点で支え、ギクギク、がくがくとする足首の揺れを必死に堪え、懸命にアラベスクやアチチュードのバランスを保ち続けるバレリーナの姿は美の極致でしょう。

アダージョでのアラベスクとアティチュードのポーズでの静止の技や、バランスしながらのゆっくりとした回転の技こそ、つま先の美しさを表現する最たるもので、技巧的にも難しく、ダンサーが最も緊張するところと言われています。
『ゆっくりとした動きは易しいと思われがちだが、実に容易でない。速く動けばバランスは誤魔化せるが、ゆっくり粘って動くとそれが出来ない。そのためには、非常な筋肉の緊張が要る。堪えるための力が異常に必要である。 アレグロのピルエットは、急激に回るのだから易しい。しかし、ゆっくり回転するのは、何と難しいことだろう。まるで力学の法則を無視したような遣り方である。アダージョでピルエットできる踊り手は、それほど多くない。』 と(故・蘆原英了:バレエの基礎知識)と言っていたし、 初めてのニューヨーク公演で、ローズ・アダージョのバランスで絶賛を博し、一夜にして世界のアイドルになった伝説のバレリーナ、マーゴ・フォンティーンでさえ、 ロシアのマレンスキー劇場での『眠れる森の美女』の公演では『上がってしまって、思い通りの踊りが出来なかったのが心残り。』だったそう。 『アダージョのバランスで失敗したら、バレリーナはおしまいです』と、バランスの失敗を恐れていたようで、完璧にバランスを維持することは難しいのでしょう。 そんな中、中村祥子さんはテレビの番組で『バレエの喜びは【オフバランス】。 音を聴きながら、遊ぶ、挑戦する、音楽をひっぱる、自分のバランスをため、どこまでいけるか・・・・』と言っていました。 どんなにバランスが危うくなっても、それをのりこえて、見せ場を作れるほどつま先でのバランスには自信を持っているのでしょう。流石です。

私の独断でクラシックバレエの見所をまとめました。 優雅なアラベスクや繊細なアチチュードの見られる場面や、高度なテクニックが必要なイタリアンフェッテやグランフェッテの場面を中心に選んでみました。
                              
ローズアダージョ
ローズアダージョのバリアシオン
眠りの森の美女のパ・ド・ドゥ
青い鳥のパ・ド・ドゥ
ドン・キ・ホーテのパ・ド・ドゥ
ドン・キ・ホーテ〜森の女王のヴァリ
白鳥の湖〜グラン・アダージョ
白鳥の湖〜黒鳥のパ・ド・ドゥ
くるみ割り人形の雪の国
くるみ割り人形のパ・ド・ドゥ
ジゼル〜第2幕のパ・ド・ドゥの冒頭
エスメラルダのパ・ド・ドゥ
エスメ〜ディアナとアクシオンのパ・ド・ドゥ
海賊〜パ・ド・ドゥのヴァリエーション
グラン・パ・クラシック〜アダージョとヴァリ
パキータ〜第1ヴァリエーション
パキータ〜第2ヴァリエーション
パキータ〜エトワールのヴァリエーション

クラシックバレエの中で最も高度な技術を要するとされる
ローズアダージョのアチチュードのポーズ。
4人の王子の代わりにエレプティカルマシーンを相手に、
至難なバランスの稽古に励む倉永美沙さん。
足首の揺れを必死に堪えてバランスを維持する姿に、
彼女の並々ならぬ意気込みが感じられます。  こちら→
    ローズアダージョのバランスの稽古(倉永美沙さん)

ローズアダージョ

「眠りの森の美女」第1幕でオーロラ姫が四人の王子から求婚のバラを受ける場面で、主役のバレリーナが全幕を通じて最も輝くところで、バレリーナの至芸をたっぷりと味わうことができる場面です。 バレリーナが片足で立ったままサポートの男性の手を離して長くアチチュードのバランスをとり続けるところは、数あるクラシックバレエの中で最も高度な技術を要する至難な踊りとされています。 女性が片足の細いトーシューズの先で立ってアチチュードのまま長くバランスを保つには、男性の手をしっかり握りしめていてもぐらぐらして不安定なのに、まして女性は男性が替わるたびに手を離すのですから大変です。支えを失ったままじっとバランスを堪えていなければなりません。 サポートの男性と息が合わないと、バランスが不安定になりがちで、バレリーナが恐怖を感じ最も緊張する所です。 「調子よく踊れそうだと思っていてもうまくいかないことがあります。緊張の余り、知らず知らずのうちに上半身に力が入って足元がぐらつきやすくなってしまいます」(吉岡美佳)、「ロ−ズ・アダージョが終るまでは緊張します。やはり四人の王子との呼吸が難しい(下村由理恵)」と言っているように、ベテランのバレリーナでも不安にかられます。まして経験の浅い若いバレリーナにとっては、出を待つ間の恐ろしさははかりしれません。
第一の関門はアダージョが始まってすぐに現れます。ゆるやかな音楽にのって女性はポアントで立ったまま男性の手を離し、手を上げたままじっとバランスを維持します。 観客がハラハラ、ドキドキ、固唾を呑んで見守る中、これを3回繰り返すのですが、手を離す瞬間、女性の緊張はピークに達し、観客も思わず「頑張って!!」と手に汗握るところです。 バランスを完全にキープする前に手を離してバランスが破綻し、上げた脚が床まで落ちてしまった人を見たことがあります。
そして、曲の最後近くにさらに難しさを増した二つ目の関門があります。アチチュード・アン・プロムナードです。音楽が高らかに鳴り響く中、男性は女性の右手を取ってゆっくりと女性の周りを回ります。 このとき女性は回転に集中するあまりどうしても右手に力が入りバランスをとりにくくなってしまいます。手を離す瞬間は、女性が最も緊張するところです。 これが3回も続くのですから、ベテランのバレリーナでさえ恐怖を感じ顔がひきつるほどといわれます。 見ているほうもハラハラ、ドキドキ、思わず『危ない!。堪えて!!』と応援モードになって身を乗り出してしまい、 終わるとホッと胸をなでおろす瞬間です。

踊る本人は顔がひきつるほど恐怖を感じ、見ている観客も緊張する難しい踊りにも関わらず、このシーンについて、加冶屋百合子さんは、『バランスをしながら一人一人の王子候補の目を見て手を取るこのシーンは、私の大好きな場面の一つ』と言っていました。 それだけ自信を持っているのでしょう。流石ですね。
こんなに難しい踊りだからこそ、成功した時の喜びは絶大なものがあり、ローズアダージョは、バレリーナなら誰もが一度は踊りたいと憧れる踊りと言われています。
かって、故マーゴ・フォンティーンがニューヨーク公演で、このシーンで驚異的なバランスを見せ、観客は総立ちになり、彼女は一夜にしてスターになったということです。
ポーランド国立バレエ団プリンシパルの影山茉以さんのバランスの稽古の映像がInstagramに載っていました。 彼女は、自分でできるぎりぎりまでバランスをとり続けていました。揺れ動く体を必死に堪えてバランスを維持する健気な姿。感動的です。 後方に伸ばした足がグラグラして、今にも崩れそうになりながらも、懸命にバランスを辛抱強く持ちこたえ、途中幾度か体が傾いてもグッと堪えて、50秒近くの長い間バランスをとり続けたのです。 彼女は『集中力を高めるのに効果的』『辛抱強く』『これが本番で出来ればね』とinstagramにコメントしていました。 本番の舞台の映像も載っていましたが、これも素晴らしい踊りでした。これだけ精魂こめて稽古したからこその結果でしょう。彼女の弛まぬ努力にリスペクトです。
バランスの稽古(影山茉以)(Instagram)
ローズアダージョは、バレリーナなら誰もが一度は踊りたいと憧れる反面、力量の差が顕著に現れやすく、観客の厳しい評価の目にさらされるところです。 バランスをとるのに精一杯でサポートの差し出した手をぎゅっと握りしめたまま離せないようではいただけません。まして、ギクギクして今にも崩れそうで必死にサポーターにしがみついているようでは、観客は興ざめしてしまいます。観客は、しっかりと手を離して頭上に高々と挙げ、そこでグッと堪えてバランス・・・という、ハッと息をのむ究極の美を期待しているのです。
このアチチュードのバランスの技は、女性ダンサーには本当に過酷な要求ですが、無事終えて観客の拍手に迎えられた時、彼女は、張り詰めた緊張が一気に解け、汗がドット噴き出し、理想の技をやり遂げた誇りで最高の満足感と恍惚感に浸ると言われています。 マーゴ・フォンティーンが「ローズ・アダージョで失敗したらバレリーナはおしまいです」と言っているほど、どんなに熟練したベテランでも、足が震えるほど恐怖を覚える試練の場です。 一方、観客にとってはスリル満点、興味津々で固唾を飲んで見守るところです。「立てるかな、立てるかな?」・・と、ハラハラ、ドキドキ、手に汗握って、気が気でない。 うまくいくと「ああ、良かった」とホット胸をなでおろすのです。

ローズアダージョの稽古(倉永美沙)
facebook(Misa-Kuranaga)より
倉永美沙さんと田山修子さんのアチチュードのバランスの稽古の映像がInstaglamに載っていました。 二人とも、笑みを忘れて『耐えるのヨ。持ちこたえるのヨ。もっと、もっと!!』と自らに言い聞かせるように真剣な眼差しでグラグラする上体の揺れを堪えて必死にバランスをとっているのが伺えます。 この二人こんな厳しい稽古を積んでいるからこそ、本番の舞台で観客を魅了する素晴らしい踊りができるのでしょう。
私の見た限りの日本のバレエ団の公演などの一般的な振付では、女性をエスコートしている男性のすぐ横に次の男性が控えていて、女性が手を離した後いつでも掴まれるように手を添えています。万一女性が手を離した後にバランスを崩しても、すぐ手を下ろして次の男性の手に掴れます。バランスが苦手なバレリーナにとっても、恐怖なく手を離せます。 しかし、ロイヤルバレエやアメリカン・バレエ・シアターの舞台では、次の男性は現在の掴まっている男性から数メートルも後方に居り、女性が手を離した後に近づいて手を差し出します。 このため女性が不幸にしてバランスを崩しても次の男性に掴まることができません。女性は必死に倒れないように堪えなければなりません。バレリーナにとっては恐怖です。 特に、終盤近くのアチチュード・アン・プロムナードでは、男性にぐるっと回されて、右手に力が入りグラグラしてバランスを崩しがちです。まさに極限のバランスを求める過酷な振り付けです。 マーゴ・フォンティーンやヴィヴィアナ・デュランテなどロイヤル・バレエのプリマ達は、この至難な技をいともた易くやってのけるので驚きです。 ロイヤルバレエのニューヨーク初公演で、この場面で前人未踏の長時間のバランスを見せて観客を興奮の渦に巻き込み、一夜にしてスターになったそうです。-->
ローズ・アダージョを初めて踊ったときの吉岡美佳さんと川村真樹さんの言葉です。 『ローズ・アダージョは、どんなバレリーナでも大変です。知らず知らずのうちに上半身に力が入って、足元がぐらつきやすくなってしまいます。リハーサルの時は自分が出来るギリギリのところまでバランスをとってみました。』(吉岡美佳さん)、『ローズアダージョの練習は毎日欠かしませんでした。第二幕の稽古の日も、第三幕の稽古の日も、 どんなに疲れていても、ローズアダージョに戻って終わりました』(川村真樹さん)。 クラシックバレエの難関中の難関「ローズ・アダージョのバランス」。二人とも血のにじむような苦しい稽古に耐え抜き、恐怖を克服したからこそ、本番でこれを見事にやり遂げ、観客から『ブラボー!』の嵐と大きな拍手を受けたのでしょう。
とても興味深いローズアダージョの映像が、youtubeに載っていました。 タイトルに、『Ballet Manila’s Sleeping Beauty world premiere: A modern retelling of a classic story. 』と書かれているので、 マニラのNewport Performing Arts Theaterで演じられた「眠りの森の美女」公演の一部のようです。 オーロラ姫役は少女のような若いダンサー。小柄でふっくらして、終始微笑みを絶やさなくて可愛らしい。でも、バレリーナが恐怖を感じ最も緊張するバランスの部分に差し掛かると、歯を食いしばって必死に揺れを堪えている姿に、思わず『頑張って!!』と声をかけたくなりました。 この場面、バランスをとるのに精一杯でサポートの差し出した手をぎゅっと握りしめたまま離せなくて、ギクギクして今にも崩れそうで必死にサポーターにしがみついているようなダンサーもいる中で、彼女はしっかりと手を離して頭上に高々と挙げ、そこでグッと堪えてバランス・・・という、ハッと息をのむ究極の美を演じてくれました。 終盤には胸や背中には汗が滲み、至難な踊りに懸命に取り組んでいる健気な姿がいじらしい。踊り終わってのレヴェランス、笑みを浮かべて、『無事終わって良かった!!』とほっとした表情が何とも美しかった。 『素晴らしかったよ。お疲れ様!!』と祝福したくなりました。至難なローズアダージョを見事に踊りぬいたフレッシュなバレリーナ、さぞかし良い経験になり、自信もついたことでしょう。今後の成長を期待しています。
ローズアダージョ (いずれもArts Theater at Resorts World Manila)
最近、驚異的なバランスを見ました。タマラ・ロホの踊りです。まず出だしのエカルテに続くバランス。3秒程度はお茶の子さいさいという感じ。 後半のバランスにはさらに仰天。三人目の王子の手を離してから、とても人間業とは思えないくらい、長くバランスを保ったのです。 四人目の王子は「いつ掴まってもいいよ」と手を差し出しているのに、ロホはアティテュードのポーズを決めたままで、いっこうに手を下ろそうとしない。 「支えなんか要らないわ!!」と言わんばかりで、軸足もまったくぶれず、微動だにせずバランスをとっていました。 まるでポアント先に根が生えているよう。その後、そのまま最後のアラベスクへと繋げ、大きく両腕を開いてフィニッシュ。 なんと13秒。観客は興奮してブラボーの嵐。ローズアダージョはお見合いの場なので「なにも片足で完璧にバランスを保つ必要はないのだ。一人では立っていられないという心許なさこそが、オーロラ姫の初々しさを強調しているのだから。そもそもそれが、本来の振付の意図だったのではないだろうか」(佐々木涼子「バレエの宇宙」(文芸春秋))という向きもあり、この超絶技巧、チョットやりすぎという気もしますが、驚きを通り越して、いやはや、恐れ入りました。
もう一つ、とても感動した素敵なロースアダージョの稽古の映像がYouTubeに載っていました。 タイトルは、『[Sleeping Beauty] with Minami channel』。『世界3大バレエの1つ「眠れる森の美女」より第1幕。 1人でローズアダージオを踊ってみた』とコメントがついています。登録者はMinami Watanabe。
ひとしきり踊って、お目当てのアチチュードのバランス。ここはサポートの男性の手を放してバランスをとる振付のところですが、『1人でローズアダージオを踊ってみた』とコメントしている通り、なんとサポートなしに一人でバランスに挑戦なのです。
両足のポアントで立ってから、右足の爪先だけで支えて、左足を後方に挙げて行きます。45度ほど挙げたところで伸ばした左足が上下に大きくグラリ・グラリ。 「ヤバい!。崩れる!」と目が釘付けなりました。 堪えきれず崩れて破綻となるかと思いきや、そこがこの人の偉いところ。 ポアントで立った右足首を前後に巧みに動かして、必死に体の揺れを抑えたのが凄い。思わず「頑張って、堪えて!!」と叫びたくなりました。 彼女、そのまま懸命に持ち堪えて、15秒ほどバランスを取り続け、見事に悪夢の破綻を回避したのです。「よく頑張った。素敵!」と祝福したくなりました。 さぞかし苦しい稽古を積んで獲とくした高度の技術なのでしょう。このバレリーナの努力に感動です。 こんな踊りをみると、ますますローズアダージョという踊りの奥の深い素晴らしさを実感します。
それにしても、このダンサーの爪先、何と美しいことか。研ぎ澄まされた爪先の先端から円やかなカーブを描く甲。まさに芸術品です。この映像のYouTubeの登録者の名前「Minami Watanabe」をクリックすると、『Minami Watanabe』のページが開きますが、ウェブサイトには自己紹介などのコメントは記載されていません。 インターネットを探したら、Minami channel in Ulan-udeというページと、 渡邊美菜実というページが見つかりました。 スタジオマーティというバレエ教室の教師のようです。 「Eurassian Ballet Competition in Ulan-ude パドゥドゥ部門 ファイナリスト」との記述があり、Minami Watanabeさんは、Ulan-Udeで踊った動画もアップしているので、渡邊美菜実さんとMinami Watanabeと同じ方でしょう。もし人違いであったら御免なさい。


ローズアダージョのバリアシオン
ローズ・アダージョを踊り終えたオーロラ姫が、カラボスの毒牙に倒れるまでの間の数分間の踊りです。 オーロラ姫は16歳になったうれしさを体一杯に漲らせての可愛らしくと初々しい踊りです。技巧面では、2〜3回転のピルエットを連続3度繰り返す難しい場面があります。 またフィニッシュは連続高速回転のピルエットで締めくくります。
ローズアダージョでの極度の緊張に続き、休む間もなくソロを踊るのですから、バレリーナにとっては精神的に非常にきつい場面です。最後のカラボスの毒矢に倒れる場面では、肉体的にも極限に達し、汗びっしょり、息も絶え絶えになってしまうほどです。

ローズアダージョのバリアシオン
(Arts Theater at Resorts World Manila)

眠りの森の美女のパ・ド・ドゥ

100年の眠りからさめたオーロラ姫が結婚式で踊るパ・ド・ドゥです。 ローズ・アダージョでの初々しさから一転して、妻となるうれしさを体一杯に表現する華やかさあふれるハイライトで、 女性の肢体の線の美しさを強調するアダージョが見所です。衣装をローズ・アダジオのバラ色から、花嫁の純白に替えたオーロラ姫の踊りは、大部分がポアントで立ったままで終始繊細さと安定感が求めらます。 息を呑む独り立ちのアラベスクのバランスや華やかなフィッシュ・ダイブが見ものです。
フィッシュ・ダイブは、アラベスクしている女性を同じ方向を向いた男性が後ろからアラベスクの動足を客席側の腕で抱え、奥側の腕で女性のウエストを下から抱え、そのまま女性を宙に浮かせつつ女性の頭部を下に傾けるポーズです。 その時、男性は女性の骨盤を自分の体と客席を向いた脚の太腿の間に挟み、落とさないように女性の体をキープし、女性もずり落ちないように脚を男性に巻き付けます。女性は重力を感じさせないようにふんわりと優雅にダイブし、腰を直角に曲げて脚を垂直に上げ、顔をしっかりと持ち上げグッと堪るのが理想的とされています。 ただロシアなど一部の振り付けでは、フィッシュ・ダイブを省くことがあり、いかにも手抜きをしたようで残念です。

パ・ド・ドゥのアダージョの稽古(倉永美沙)
facebook(Misa-Kuranaga)より
アラベスク・パンシェは、舞姫の脚線美の見せ所ですが、以前シルビー・ギエムが股が裂けそうなほどのアラベスク・パンシェをして、曲芸もどきでエレガンスのかけらもないとこっ酷く叩かれたことがあり、優雅さが命のオーロラ姫の場合、開脚はほどほどにしておくのが良いとされてきましたが、 最近では、上品さを失わない程度に華やかさが好まれ、180度超の超絶開脚のアラベスク・パンシェををして、身体の柔軟性とクラシックチュチュから覗く脚の美しさを強調する人もいます。
オーロラ姫が踊るヴァリエーションは優雅さ・気品が求められる踊りです。このヴァリエーションを踊るポイントとして、「姫」らしさ、すなわち、上半身の背中、肩、アームスを柔らかく使うこと、肩を下げて首を長く使うこと、アラセゴンの腕は低めに使うこと、背中を上げる意識を保つこと…などと言われています。 終盤、高速回転のシェネは見栄えがするけれど重労働。シェネ終えての両足のポアントで立つフィニッシュは、疲れ切っている舞姫には過酷なシーン。 舞姫の技術の見せ所ですが、ポアントがズレて決まらないこともある至難の技。ピタッと止まって舞姫も観客もホッとするところです。

パ・ド・ドゥのバリアシオンの稽古
(坂本絵利奈)

青い鳥のパド・ド・ドゥ

100年の眠りから覚めてめでたく結婚することになったオーロラ姫とデジレ王子。 「眠りの森の美女」第三幕の結婚式でのフロリナ王女と青い鳥のパド・ド・ドゥは、オーロラ姫とデジ王子レのパド・ド・ドゥと並んで見せ場の一つです。 ある意味、主役のオーロラ姫とデジレ王子のグラン・パ・ド・ドゥよりも個性的で、若い新進の男女によって踊られることが多く、人気があるようにも思います。 アダージョが始まって間もなく、ウエストを支えられた女性が、180度近くまで足を上げて体の線の美しさと柔らかさを誇示するアラベスクや、終盤近く、女性が右足のポアントで立ち、左足をア・ラ・ズゴンドにあげたまま、男性の支えの右手を離して、揺れをグッと堪えてバランスを維持する妙技が見ものです。男性は女性の支えに加え、肩の上に担ぎ上げるリフトもあり、体力的に大変です。

ドン・キ・ホーテのパ・ド・ドゥ
アクロバッティックな華やかさあふれるパ・ド・ドゥです。 アダージョでは、キトリのアチュードのバランスが見ものです。 右足のポアントで立ち、左手を腰にあて、高くあげた右手でパートナにつかまってバランスをとった後、慎重に右手を離します。 この後グラグラして崩れそうになる上体やギクギクする爪先の揺れを必死に堪えて、極限のバランスを維持する舞姫の姿は感動的です。今にも崩れそうでハラハラ・ドキドキと手に汗握る観客、これに応える健気な舞姫、どれだけ長くもちこたえられるかも興味のひとつです。 バレエコンサートでアナニアシビリが、10秒近くもバランスを維持したことがあり、拍手喝采でした。 彼女は「これは、西側に出て学んだ手法です。ロシアでは曲芸的でいいことだとは思われていないので私も全幕ではやりませんが、お祭り的なコンサートでは、観客に喜んで貰えますから。今回はこれまでで最長かな?・・・」と言っていました。

また高々とあげるリフト、これに続くフィッシュ・ダイブもスリル満点です。 これは二人の息が合わないと惨めな結果に・・・。男性の腕から女性の太股がずり落ち、あわや顔が床につきそうになった女性を、 男性が「よいしょ!」っと抱え直して必死に持ちこたえた場面を見たことがあります。

バランスとフィッシュダイブの稽古。
バランス・堪えて堪えて!!(倉永美沙)


本番での完璧なバランス。
稽古の成果,お見事!!(倉永美沙)
いずれもfacebook(Misa-Kuranaga)より
続く女性・キトリのバリエーションでは、早いテンポでの扇子をさばきながらのパッセやエシャッペなどの難易度の高いパが続きます。
YouTubeに載っている坂本絵利奈さんの稽古の映像に好感をもちました。 いかにも良家のお嬢さんといった感じの品がよく可愛らしい表情の彼女が、華奢の体に鞭打って、歯を食いしばって厳しい表情で、 厳しい教師の指導に応えて、懸命に稽古に励む姿に胸を打たれました。厳しい稽古の中にも、柔和な笑みを忘れない彼女の精神的な強さを感じました。
阪本絵理奈さんの師である西優一さんは、instagramの中で『常に前を見て前進を続ける。 坂本理奈の努力は凄い。全てに完璧を求めて努力を繰り返すその姿勢はダンサーの鏡である。』と語っていました。
また、コーダでは至難で華やかな32回のグラン・フェッテが見られます。 これは相当な重労働で、後半になると体が左右に大きく揺れ、次第に爪先もズレてくることもしばしば。そんな中、果敢にトリプルやダブルの回転を加えて、歯を食いしばって懸命に頑張るバレリーナの姿には感動します。

ドン・キ・ホーテ〜森の女王のヴァリエーション
バレエ「ドンキホーテ第1幕 夢の場面〜森の女王のヴァリエーションは、ドン・キホーテ(ミンクス作曲)の追加曲としてリカルド・ドリゴが作ったものです。 森の女王のエレガントさを強調するために、キープするところはきっちりキープしてメリハリつけ、上半身のしなやかで大きな動きで脚を先導し、 エカルテ・ドゥヴァンやグラン・バットマンの極限の開脚のびっくり技、最後は究極の難技イタリアン・フェッテと、バランスと回転のオンパレードで、優雅で、とても見栄えがするヴァリエーションなので、ドンキホーテ以外に、アダンの海賊のメド-ラのソロにも使われています。
出だしのアティチュードでは、アンオーの腕をまろやか可愛らしく、優雅なアラベスクでは、脚をまっすぐ綺麗に伸ばし、続く、脚を垂直に跳ね上げるエカルテ・ドゥヴァンでは、両足とも、優雅に高々と上げ、華麗なバランスをグッと堪えて決めたポーズの美しさが求められます。 最後の16回のイタリアン・フェッテは、16回回りきるのはかなり辛くて12回程度でやめてしまう人がいたり、途中でメロメロ・・・破綻となることもあるバレリーナ泣かせの踊りですが、 それだけに踊り手の超絶技巧の誇示には打ってつけです。コンクールやバレエコンサートにも取り上げられることが多い、華やかなヴァリエーションです。

夜の女王のヴァリの稽古(金子扶生)
facebook(Bunheads Dance Boutique)より

白鳥の湖〜グラン・アダージョ

かって、柳瀬真澄さんが小林紀子バレエシアターのプリマだった時代にこの踊りを踊ったとき、『最初に王子に出会って顔も見れないような オデットが、だんだん王子に惹かれていく、そんな気持ちをアダージョの中で表現したい』と言っていたのを覚えていますが(→こちら)、 こんなオデットの気持ちを体で表現するには、優しい雰囲気で、気品に溢れ、可憐で知的な優しさ、清楚なたたずまいといった、クラシックのバレリーナ資質を全て備え、丁寧に、正確に、じっくり踊り込んでいるという感じが必要なのでしょう。
NBAバレエの坂本絵利奈さんのアダージョの稽古の映像がYouTubeに載っていました。 ほっそりとしたシルエットがとても美しく、痩せすぎ?と思うくらいスリムなせいか、少し弱々しく感じるところもありますが、 かといってギスギスした感じではなく、とてもしなやかで、優しい雰囲気で、気品に溢れ、可憐で知的な優しさ、清楚なたたずまいといった、オデット姫にはぴったりの雰囲気です。 このグラン・アダージョは、丁寧にで、正確に、じっくり踊り込んでいるという感じで、本当に素敵でした。 バレエで培った美しい容姿と美貌に加え、品がよく可愛らしい表情の彼女が、厳しい教師の指導に華奢の体に鞭打って、時には歯を食いしばって厳しい表情で、 懸命に稽古に励む姿に胸を打たれました。
彼女の師である西優一氏はInstagramで坂本絵利奈さんについて『NBA バレエ団ソリスト 阪本絵利奈さん。たくさん舞台をふんで 急上昇に上手くなってきました。やはり舞台というのはダンサーを育てますね。後はやはり沢山を学ぶこととても大事だと思います』と語っていました。本番の舞台はさぞかし素敵だったことでしょう。

グラン・アダージョ(坂本絵利奈

白鳥の湖〜黒鳥のパド・ド・ドゥ

「白鳥の湖」第3幕で、悪魔の娘オディールが王寺を子を誘惑する踊りで、女性のテクニックの見せ所です。 アダージョではアントレでのリフトされながらの真横への開脚、独り立ちのアラベスクのバランスと男性の支えの手に掴まったアラベスク・パンシェ、コーダでは32回のグランフェッテと、 これほど見所満載のパ・ド・ドゥは他にありません。 女性には大変な技量と精神力が必要で、踊り終わってヘトヘトになるほどの重労働で、ベテランのダンサーでも途中で力尽きて破綻となりがちな過酷な踊りです。 ましてや若い駆け出しのダンサーには大変です。このためオデットと第3幕のオディールは同じバレリーナで通すのが本来の姿ですが、それぞれ別の女性にして破綻のリスクを軽減する演出もあるほどです。
アダージョのアントレで、オディールが手脚を横に広げ、王子にリフトされて移動していく場面、女性は横一線の動きでオディールのカリスマ性を強調する為、思い切り高く飛び上がり、左右に伸ばした脚は上がるだけ上げたほうがよいとされ、180度以上の開脚をして柔軟性をアピールする人もいます。
アダージョでは、アラベスクの長〜いバランスの粘りが見もの。女性は、左脚のポアントで立ち、男性の支えの手を離して右足を挙げたままアラベスクのポーズをとってグッと堪え、極限まで粘ってバランスのキープを続けるという難しい踊り。
かってこの場面で、支えの手を離した瞬間、後ろに伸びた左脚が床に付きそうなほど、女性の体がグラッと大きく後ろに傾き、崩壊寸前になったことがありました。 でも女性は慌てず、必死に反った体を引き起こし、グラグラする体の揺れをトゥで立った足首を前後に動かして必死に堪え、 バランスを持ちこたえたので、固唾を呑んで見守っていた観客は総立ち、ブラボーの嵐でした。踊り終えてホッとしたのか女性の柔和な笑顔が美しかった。

かって中村祥子さんがテレビの番組で「バレエの喜びは『オフバランス』。 音を聴きながら、遊ぶ、挑戦する、音楽をひっぱる、自分のバランスをため、どこまでいけるか・・・・」と語り、 このオディールのアラベスクでも揺れをグッと堪えて長〜い長〜いバランスに挑んでいました。 バレリーナにとって危うくきわどい極限のバランスへの挑戦は、至極の楽しみでなのでしょう。

倉永美沙さんのオディールのパ・ド・ドゥ" のバランスの稽古と本番の興味深い映像がFacebookに載っていました。 ギリギリまでバランスを堪えて厳しい稽古を積んだからこそ、本番で完璧なバランスを披露できたのでしょう。

オディールのバランスの稽古
facebook(Misa-Kuranaga)より


【本番】お見事、完璧なバランス!
(倉永美沙)
facebook(Misa-Kuranaga)より
次にアラベスク・パンシェ。オディールの女性は、悪魔の娘としてのカリスマ性を強調するため、男性の支えの手に掴まり、いまにも前につんのめりそうになるくらい前方に上体を倒し、極限まで開脚したアラベスク・パンシェで王子を誘います。 優雅さが命のオーロラ姫の場合、脚を上げすぎるのは下品で良くないとされ、150度程度の開脚にする人が多いのですが、 悪魔のオディールの場合は、王子をセックスアピールで誘惑することから脚は上がるだけ上げるのがよく、 180度を大幅に超えて股が裂けてしまいそうなほどの超絶開脚も多々見られます。
ヴァリエーションには2曲あり、一般的な「プティパ版」と、「ブルメイステル版」があります。 プティパ版は悪魔ながらも姫らしさを漂わせる美しいメロディーで、ブルメイステル版はいかにも黒鳥というような怪しげなメロディです。 優雅さや演技力、テクニック、体力、スピード感などが要求される「プティパ版」の方が、より至難な踊りとされています。 ピルエット、フェッテ・アティテュードの連続からアティテュード・クロワゼでプリエするパに続き、エカルテ・ドゥヴァンでのバランスを経て、 グラン・バットマンで脚を上がるだけ高く跳ね上げ、ピケ・トゥールで舞台を一周する・・・というのは、体力的に極めて辛いことでしょう。

オディールのVaの稽古(藤室真央
コーダの女性のパには、やり遂げるには体力的にも途方もなく苦しく、技術的に極めて難しい32回のグラン・フェッテがあり、 ダブルやトリプルを入れて技巧をアピールする人もいます。かって前半ダブルを入れ過ぎて後半に力尽き、軸足がずれてきてメロメロ・・・破綻、となったベテランダンサーを見たことがあるけれど、 それほど至難なグランフェッテ。歯を食いしばって超絶技巧に挑む舞姫の姿は感動的です。

オディールのフェッテの稽古(Auu Goto)

くるみ割り人形の雪の国

第1幕第2場の雪の国は、カットされる演出もありますが、バレエには珍しく歌詞のない歌が入り幻想的な風景が広がる中、 雪の女王と王、雪の精霊たちが美しく踊り、王子とクララはお菓子の国を目指して旅していきます。

雪の国のパ・ド・ドゥの稽古(永久メイ
くるみ割り人形のパド・ド・ドゥ

くるみ割り人形第二幕のディベルティスマンの中で、主役二人によって踊られるのが、この『金平糖のパ・ド・ドゥ』です。 アダージョでは、女性が持ち上げた脚を体の前方でグッと堪えて保つアティテュード・ドゥヴァンのポーズや、男性に腰を支えられて、これでもかと言うくらい回り続けるピルエットが見られます。 さらに、リフトを多用するアクロバット的な妙技の連続も見物です。 正面を向いて飛び上がる女性の骨盤を、後ろ向きの男性が両手で掴んで『よっこらしょ!』と頭上に持ち上げるリフトは、 お互いの呼吸が合わないと、すんなり挙がらず落下の危険もある難技。 かって見た舞台で、飛び上がった女性の勢いに押されて、男性の腰が今にも碎けそうになり、ハッと息を呑んだことがあります。 でも男性は、足元のふらつきを懸命に堪えて、女性を高々と持ち上げ続けたのは立派でした。 アラベスク・パンシェもトゥで立つもの、靴底で立つものと、ふんだんにあり、男性の腕に掴まって、180度を超える開脚で、柔軟さをアピールする人も居ます。

金平糖のパ・ド・ドゥの稽古(倉永美沙
女性のヴァリエーションは、繊細さ、可愛らしさ、お菓子の甘さに加え、金平糖の女王の威厳も必要な踊りで、女性ダンサーの腕の見せ所です。(女性のヴァリ) コーダのスピード感溢れる男女の踊りで、フィニッシュで、高いジャンプから真っ逆さまに飛び込む女性の豪快なフィッシュ・ダイブはスリル満点。 あわや落下と、はっと手に汗握るほどです。

ジゼル〜第2幕のパ・ド・ドゥの冒頭のバランスとリフト
バレエを志す女性が、『いつかは踊りたい』と夢見るジゼル。 中でもウィリとなったジゼルのソロのパート。パッセからバットマン・デヴロッペ、アチチュードでのプロムナード…アラベスク・パンシェへと、今にも崩れそうなバランスの連続のアダージオの冒頭は、観客の視線を一身に集める華麗で見ごたえのあるシーンです。
もともとトウシューズは、爪先で立つことに特化して、靴底は極めて細くできている為、靴底で体を支えのには向いていない。 こんな靴底のトウシューズを履いて片足で立ち、他方の足を挙げていくのだから、足元は不安定になりがち。 ギクギクする足元を必死に堪え、他方の足を極限まで挙げていく舞姫の努力は大変なもの。 『危ない!!、気を付けて!!』と観客が固唾を呑んで見守る中、『堪えるのヨ!。持ちこたえるのヨ〜!!』と自らに言い聞かせて、険しい表情でひたむきにバランスの限界に挑むバレリーナの姿は健気で美しく感動的で、観客はハラハラ・ドキドキ手に汗を握りながら『頑張って!!』と激励と賞賛の拍手をおくります。
影山茉以さんが、このバランスを稽古している映像が、instagramに載っていました。 終盤のパンシェの部分で、軸足の靴底が僅かにブレたものの、必死に持ちこたえて左足を高々と上げてフィニッシュ。流石です。 彼女はこの部分について『何度やっても難しい。安定!!』と言っていましたが、それだけにやりがいがあるのでしょう。 完璧な結果を目指して険しい眼差しで懸命に稽古に励む姿に感動です。
ジゼル第2幕のアラベスク・パンシェの稽古
至難な技に挑む影山茉以さん。「頑張って!!」
これに続くパドドゥのリフトは、テンポが遅いだけに極めて難しい技。男女の呼吸が合わないと女性の体がスムーズに上がらず、最悪転落も免れないし、 女性のコンディションが思わしくないと、女性の体がぐらつき、空中でのバランスを崩して・・・あわや破綻・・・ともなりかねず、ベテランの舞姫でも恐怖を感じ極度の緊張を強いられる過酷で至難な振り付けですが、反面、男女の技量の見せ所でもあり、最も華やかな場面の一つとも言われています。

パンシェ・バランスとリフトの稽古(影山茉以)
facebook(Mai Kageyama)より
Adiarys Almeida Natalia Osipova

エスメラルダのパド・ド・ドゥ

「ノートルダムのせむし男」を題材にしたバレエの中のエスメラルダとフュビュスのパ・ド・ドゥです。 アダージョでは優雅なプロムナードとこれに続くアチチュードのバランスが見られます。

女性は、上半身をまっすぐにのばし左足を後ろに上げ膝を曲げたポーズで回転し、パートナーの手を離して独り立ちします。 ここでグッと堪えて、自分が出来る限界までバランスを保ちます。 上体がグラグラ揺れながらも、懸命に頑張ってギリギリまでバランスを持ちこたえる舞姫を、観客はハラハラ、固唾を呑んで見つめます。 長〜いバランスを決めてにっこり微笑む舞姫の姿に、観客は興奮し、絶賛の拍手が起こります。
エスメラルダのアダージョの稽古の映像が、facebookに載っていました。 踊っているのは、金井水夢さんという若いダンサー。サポートの男性の手を放してアチチュードのバランスを3回繰り返しますが、回を重ねるごとに安定度が増してきました。コメントに「最後のプロムナード安定してバランスを取れるようになってきました」とありますが、最後はゾクゾクする様な目を見張る素晴らしいバランスでした。 これだけ上達するには、さぞ苦しい稽古を積んだことでしょう。彼女の努力にリスペクトです。 エスメラルダのアダージョの稽古(金井水夢)
エスメラルダのヴァリエーションは、1982年にベン・スティーヴンソンという人により振付けられたヴァリエーションで、古典のエスメラルダには存在していなかっそうです。 バレエのバリエーションの中では珍しくタンバリンを持って踊るのが特徴的で、足でタンバリンを打つ技巧的な踊りで、タンバリンエスメとも呼ばれています。 トゥで立って脚を180度近く迄高く蹴り上げてバランスを維持するグラン・バットマンの連続は、きちんと軸足に重心を乗せないとバランスが崩れやすいし、 二回のピルエットはメロメロ〜破綻になりがちで難しく、最後まで踊りきるのが至難な踊りですが、脚線美と超絶技巧の見せ所で、コンクールでは定番の演目です。
ピルエットは、3〜4回が普通ですが、何と6回転に挑戦した映像がYouTubeに載っていました。バッチリ決まって流石です。

6回転ピルエット。お見事!!(倉本バレエスタジオ


エスメラルダのヴァリエーションの稽古 (Auu Goto)
あるコンクールで、ピルエットの三回転目でバランスを崩し四回目で転んでしまって第2位に終わったあるダンサーが、『「ピルエットで転んでしまったのに諦めずに最後まで踊りきったのがすごいね!」「これ転けなかったら絶対1位だったね。」』とコメントされ、私も第1位のダンサーの踊りより華があって、はるかに惹きつけるものがあると感じたことがありましたが、それほどミスを犯しやすく、舞姫にとっては過酷で難しい踊りなのでしょう。 (こちら)

エスメラルダ〜ディアナとアクシオンのパ・ド・ドゥ

このパ・ド・ドゥは、プーニのオリジナルにはなかったのですが、プティパ?が改編したとき、ディベルティスマンの一つとして挿入されたそうです。この踊りはバレエ「エスメラルダ」の中で、猟師のアクシオンと弓を手にした狩猟の女神ディアナとのパ・ド・ドゥで、女神の優しさ、勇壮な男性の対比が見所で、物語の本筋とは関係ありませんが、この方が有名になって、バレエコンサートではエスメラルダとフェビュスのパ・ド・ドゥより踊られることが多いようです。
アダージョでは、ディアナが弾みながら現れ、弓を引くように腕と脚を鋭く開いてアラベスクをし女神の威厳と輝きを誇示します。続いて野性的なアクシオンが高いジャンプとともに登場します。 女性ダンサーは、180度を超えるエカルテ・ドヴァンやアラベスク・パンシェの開脚、パートナーの手を離してグッと堪え、観客が思わずハッと息をのむ独り立ちの長〜いバランス、フェッテのような回転やジャンプの技術に加え、女神の気高さが求められ、 男性ダンサーには、女性を軽々と高く持ち上げる強力と野性的な爆発力が求められます。

ディアナとアクシオンの稽古(倉永美沙)
facebook(Misa-Kuranaga)より
女性のヴァリアシオンは、女神の踊りです。 女神と聞けば、優しさや穏やかさをイメージしやすいですが、ギリシア神話のダイアナは強く気高い女性です。 このダイアナのヴァリエーション、とっても技術的にも難しい。 そして、魅せ方、身体の柔らかさや回転力、キープ力、全ての面で求められる物が多いのです。 NBAバレエの坂本絵利奈さんのヴァリアシオンの稽古の映像が、彼女の師である西優一氏のfacebookに載っていました。 西優一氏は、あえてこの難しいヴァリエーションを与えたところに、彼の坂本絵利奈さんへの期待が感じられます。 期待に応えて、坂本絵利奈さんの踊りはとても素敵でした。 西優一氏が言っている通り、彼女は素直な心、謙虚な姿勢の努力家のようですし、バレエが本当に大好きなのでしょう。踊る事が楽しいと、上手になりたいという気持ちが伝わりま 体が柔らかく、綺麗な甲の高い足・・・、私もそんな彼女の踊りが大好きです。

エスメラルダVAL稽古(坂本絵利奈)

海賊〜パ・ド・ドゥのヴァリエーション

バレエ「海賊」は、その華やかな内容ゆえに、ショーとしての性格がどんどん強められていき、 音楽も演出の方針に合わせて、さまざまな演目や作曲者の作品が次々と織り込まれていきました。 第2幕の洞窟の中でのパ・ド・ドゥ(パ・ド・トロワ)は、 優雅なアダージョやコーダの32回のグランフェッテなどが楽しめますが、 女性のヴァリエーションには、たくさんの種類の音楽が使われていて、どの踊りが踊られるか楽しみで、見せ場のひとつです。 衣装もクラシックチュチュ、チュニックドレスなど様々です。
メドーラ、パキータ、バヤデールのガムゼッティ、ドン・キホーテの森の女王の踊りのうちのひとつが殆どですが、 いずれも、華やかなヴァリエーションで、コンクールや発表会で定番になっています。
メドーラ パキータ ガムゼッティ 森の女王

メドーラが一般的で、ガムゼッティも連続のグランジュテが見ものですが、 エカルテ・ドゥヴァン、グラン・バットマン、16回のイタリアンフェッテと見所満載の森の女王が最高でしょう。 締めくくりのイタリアンフェッテは途中で崩れてメロメロ・・・破綻となりがちな難技で、 12回程度しか回れない人もいるけれど、しっかり16回まで回って欲しいです。


「海賊」〜森の女王 (木下友美)


夜の女王の稽古(坂本絵利奈)

グラン・パ・クラシック〜アダージョとヴァリエーション

グラン・パ・クラシックは20世紀中頃の初演ですから、古典とは言い難いのですが、 男女で踊るアダ−ジョ、男女それぞれのヴァリエーション、そして、二人のコーダといった古典のグラン・パ・ド・ドゥの形式をとっています。
アダ−ジョでは終盤近くのパートナーに片手を支えて貰ってのバットマン・デヴロッペが見物。ポアントで立って反対の脚を思い切り高く上げて、グラグラしながらも懸命に堪える舞姫の健気な姿に、観客はハラハラドキドキ、手に汗を握って応援します。 女性のヴァリエーションは難しいテクニックの連続で、特に26連続のルルヴェはとてもキツく、次第にかかとが落ちてきてメロメロになりがち。 最後は高速シェネをピタリと止めて終わります。 「これが踊れたら、怖い者なし」と言われるほど若い女性ダンサーの憧れの踊りであり、 コンクールでは定番ですし、バレエコンサートや発表会でも絶大な人気を誇っています。
グラン・パ・クラシックの稽古(伊野波都)
発表会の出の直前、「体力の限界に挑戦するような辛さ」、 「無事最後まで踊りきれますように!!」と恐怖に震えていた若いダンサーが、無事破綻なく踊り終えて、 「あこがれの踊りを踊れて幸せ」、「踊るのことがこんなに楽しいということを再認識できました」と大感激したとのこと。それほど、やり甲斐のあるヴァリエーションなのです。 (ヴァリ→1 2)

パキータ〜第1ヴァリエーション

バレエ「パキータ」の原型は、19世紀パリオペラ座の振付師ジョゼフ・マジリエが人気バレリーナ、カルロッタ・グリジの為に作ったものだそうですが、 プティパがこれをお気に入りのバレリーナ、エカテリーナ・ヴァーゼムの為に改変したそうです。 主役のパ・ド・ドゥ以外にもソリストのヴァリエーションもふんだんに取り入れられ、踊り手の踊りいかんで、何倍にも楽しさが増す作品だと思います。
ソリストのヴァリエーションは、ミンクス、プーニ、チェレブニン、ゲルベル作曲の四つで、 主役のバレリーナが踊るエトワールのヴァリエーションと並んで見ごたえがあります。  特に「ナイヤードとオンディーヌ」の中の踊りとしてミンクスが作曲した第1ヴァリエーションが華やかです。 「Fermata(静止)Val」とも言われるように、脚は上がるだけ上げ、バランスはためるだけためて・・・とされている出だしのエカルテ・ドゥヴァン・デヴェロッペのバランス。 これでもかという位高く脚を上げ、グッと堪えて静止してバランス。180度を超える開脚ができる人もいて、思わず観客の拍手が沸くところです。 終盤の見せ場はアティテュード・クロワゼ・ドゥヴァンのポーズを優雅に決めたあとのイタリアン・フェッテ 。 グランフェッテよりゆっくりだけれど、エカルテ・ドゥヴァンのデヴェロッペと、クロワゼ・デリエールのアティテュードを交互にくり返して回転し、軸足を床に着けたり立てたりするので、 かなり辛い。上半身がグラつき脚がもつれて下半身がメロメロ・・・破綻となったベテランのダンサーもいるほど。 「グランフェッテは32回でもへいちゃら。でもイタリアンフェッテの16回は怖い」という人もいます。 フェッテを終えたら両爪先を重ね合わせてポアントで立ってフィニッシュです。 (第1ヴァリ→ 1 2)

パキータ〜第2ヴァリエーション

パキータの第2ヴァリエーションは、プーニが作曲した「カンダウル王」の中の主役ニシアが踊るヴァリエーションです。 第1ヴァリエーションに比べると、派手さは少なく、ゆっくりでしっとりした踊りですが、ポアントで立ったアラベスクのポーズが多く、 舞姫の体形の美しさを表現するには打ってつけの踊りですが、遅いがゆえにミスも目立ちやすく至難な踊りとされています。 それゆえ、第1ヴァリエーションほど、コンクールには取り上げられることは少ないようですが、。 第1ヴァリエーションと同様、「Fermata(静止)Val」とも言われて、脚は上がるだけ上げ、バランスはためるだけためて・・・とされていエカルテ・ドゥヴァン・デヴェロッペのバランスが見ものです。 これでもかという位高く脚を上げ、グッと堪えたバランスを懸命に持ちこたえる舞姫の姿に観客はうっとり。思わず賞賛の拍手を誘います。 (第2ヴァリ )

パキータ〜エトワールのヴァリエーション

パ・ド・ドゥでは、アダージョが見せ場ですが、こちらは女性は介添え役の男性に頼る部分も多いのですが、 頼れる人がいないヴァリエーションは、女性にとってアダージョ以上に神経を使う難しさがあると言われています。 パキータ〜パ・ド・ドゥの女性のヴァリエーションは、エトワールのヴァリエーションと呼ばれて、アダージョに並んで見せ場のひとつです。 パキータはジプシーとして育ったので、エスニックな腕や肢体の動きに加えて、 貴族の生まれとしての上品で気高いイメージも要求されるので、 クリスタルガラスのような透明感のある純潔な内面的な表現が必要で、 パキータのヴァリエーションは、女性のパ・スルの中でも至難な踊りの一つとされています。 ただ、派手な見せ場が少ない上に、しっとりとした動きでミスが目立ちやすいことから、バレエコンクールの演目としては、さほど取り上げられる機会が少ないようです。 ()
見所の一つは、ヴァリエーション中盤の脚を高く跳ね上げるエカルテ・ドゥヴァン・デヴェロッペ のバランスで、跳ね上げた頂点でグッと堪えて決めた華麗なバランスのポーズが見ものです。 このエカルテ・ドヴァン・デヴェロッペのバランスの直後に、もう一つの見せ場があります。 2回転のアチチュードに続いて右足でツンツンと跳ねながら左脚を挙げてアラベスクでバランスというもので、 これを2度繰り返すのですが、これが大変難しくミスが出やすいのです。 1回目の時、左脚を後方に挙げて、バランスのポーズに入り、ツンと跳ねた途端、 右足首が崩れ落ち、アラベスクに上げた左脚が落下、たまらず床に左足を床に付けてしまったダンサーを見たことがあります。 でもこのダンサー、とっさに気を取り直して2回目のバランスをバッチリ決めて、観客の大きな拍手を受けました。流石ですね。

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