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カルメン:斎藤友佳里、首藤康之      (2008.3.1)

マイヤ・プリセツカヤがカルメンを踊った映像があります。1976年のもので、ロシア・バレエのスターたちというビデオに入っています。 「カルメンと言えばプリセツカヤ」と言われるくらい、プリセツカヤのカルメンは定評があります。 でも私は、この映像からは、少しも魅力を感じませんでした。確かにはプリセツカヤは旨いと思います。でもそれだけのこと。 この映像を最初から最後まで見続けるのは退屈してしまい辛いのです。技術を駆使して踊っているのですが、淡々と踊っているという感じで感動しないのです。 むしろ、いかにも、自分が最高のカルメンだぞというような、傲慢さ、押しつけがましさのようなものを感じてしまうのです。
一方、斎藤友佳理さんがカルメンを踊った映像には、私はいつも引き込まれます。2005年8月の「ユカリューシャ」の中で踊られたものです。 斎藤友佳里さんは、しっとりとした和風的なの情感が印象的なバレリーナです。そして圧倒的な軽やかさの持ち主です。その意味で彼女はクラシックの妖精が最もよく似合います。 ですから、カルメンのような、情熱的な踊りは向かないのでは、という先入観がありました。けれど、以外や、これがとても良いのです。
斎藤友佳理さんは、カルメンという物語にある重厚な「愛」とか、どろどろとした「欲望」とかの表現は、あまり感じられませんでした。 そのため、斎藤友佳理さんのカルメンには個性がないと言えなくはないのですが、それよりも、クラシックで鍛えられた風のような軽やかさと、 日本画の女性が持つようなしとやかさと、しっとりとした情感の中に、ほのかに漂う色気が、自然ににじみ出てきているような、品の良いカルメンです。 私には、この斎藤友佳理さんのカルメンに、たまらなく魅力を感じるのです。
ホセ役の首藤康之もとてもいい。アドベンチャーズ・イン・モーションピクチャーズの「白鳥の湖」で主演して話題を集めたダンサーですが、 サポートも旨く、斎藤友佳理さんとの息もぴったりで、二人のパ・ド・ドゥは魅力的です。
中盤から斎藤さんの胸も背中も汗びっしょり。精魂傾けて踊る姿に、ジーンと胸が熱くなります。 踊り終わって、力尽きて足もふらつきがちな斎藤さん。首藤康之と高岸直樹に両手を支えられながら深々とお辞儀をする斎藤さんの瞳は潤んでいました。
私は、ローラン・プティ振付のアスィルムラートワのカルメンがとても好きですが、この斎藤友佳理のカルメンもまたこれとは違った、清涼飲料水のような捨てられない魅力を感じます。大好きな映像の一つです。

なお、このカルメンを振り付けたキューバの振付家アルベルト・アロンソは、2008年1月1日、居住先のフロリダ・ゲインズビルで90歳で死去したそうです。
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