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ロシアバレエの名花:リュドミラ・セメニャカ   (2002.11.24改)

「ロシヤバレエの名花・リュドミラ・セメニャカ」というレーザーディスクがあります。発売は、1991年11月となっています。
セメニャカは、レニングラードでバレエを学びました。レニングラードのバレエ学校は伝統と水準の高さと世界的にも有名で、彼女は優秀な生徒だったそうですが、その才能が花開いたのは、モスクワのボリショイバレエ団に移り、ガリーナ・ウラノワに出会ったからだそうです。ウラノワの指導で彼女は急速に力を付け、素晴らしい表現力を持つに至ったのだそうです。
このレーザーディスクには、そのセメニャカの20代〜30台にかけて、彼女が一番輝いた時期に撮影された映像が収められています。どの演目も非常に良いですが、ウラノワとのジゼル練習風景はとても興味深い映像です。ここで彼女は、熱心な生徒として、偉大な教師ウラノワの言葉に一心に耳を傾けています。プリマ・バレリーナとしての奢りはみじんも感じられません。どんな天才バレリーナでも稽古が基本、このウラノワの教えを、セメニャカは忠実に守り、ウラノワへの敬意をもってレッスンを受けているのがわかります。
 
このレーザーディスクには、 ガリーナ・ウラノワとのレッスン風景をはさんで、以下の場面が収録されています。
    ・「眠れる森の美女」第一幕よりローズ・アダージォ
    ・「愛の伝説」より (アレクサンドル・ボガティリョフと)
    ・「白鳥の湖」〜黒鳥のパ・ド・ドゥ(1978年)(V.アンニシモフと)
    ・「スパルタカス」よりアダージオ (ミハイル・ラヴロフスキーと)
    ・「ジゼル」第二幕よりパ・ド・ドゥ (アンドリス・リエパと)
    ・「アルメニア」のデュエット(1971年) (アレクサンドル・ボガティリョフと)
    ・「タリスマン」パ・ド・ドゥ (アレクサンドル・ヴェトロフと)
    ・「ドン・キホーテ」よりパ・ド・ドゥ(ミハイル・バリシニコフと)
 
この中で「ローズアダージョ」は圧巻です。まさにロシアクラシックのお姫様という感じ。お目当てのアチチュ−ドバランスもヨ−ロッパ系は、あまり足を高く上げずにバランスを長く取るバレリーナが多いのに対して、ロシア系は、足を比較的高く上げるかわりにてバランスは程々にというの多いのですが、セメニャカは比較的高く上げているにも拘わらず、バランスもたっぷりなのです。最後には、右手だけで支えられて、限界まで前方へ体を倒して後ろ側へ脚を上げた華やかなアラベスク・パンシェのサービスも付けています。しかも、この間柔和な笑顔を少しも絶やさないのはさすがです。
そしてもう一つ、注目なのがミハエル・バルシニコフとのドン・キホーテのパ・ド・ドゥです。映像で見る限り、二人ともかなり若い。おそらく、バレエ学校の稽古での録画だと思います。アダージョのバランスは不安が感じられるし、必死に回っているグランフェッテも軸足のズレは大きくて荒さは感じられますが、軽やかさと柔和な表情、それに、はち切れんばかりの若さ、初々しさ、とても素晴らしいのです。容姿がたいへん美しく、若々しく踊りに花があり、大変見応えがあり、将来の彼女を予感させます。
それに、アンニシモフとの黒鳥のパ・ド・ドゥでは、コーダのグランフェッテ・アントゥールナンを最後までダブルも入れて、いとも楽々と踊っているのに驚嘆です。彼女の並々ならぬ技術の高さを見せつけられます。
 
また、ローズアダージョの出番を待つ彼女の興味深い表情が収められています。王子の手を握って、直前まで入念にバランスの練習をする彼女の顔からは、笑顔が消えています。少しでも緊張を和らげようと、屈伸運動をしたり、足踏みをしてトゥの調子を確かめたりたり・・・、どうしてもトゥシューズが気になるのか、紐を縫い直したり・・・。でも彼女は、「劇場が私を不思議な力で引き寄せるの。どきどきして不安にさえなるけれど、舞台に出たくてたまらない。冷静すぎたら踊れないわ。緊張や興奮が私には必要なの」と言ってのけています。
そして、「ウラノワ先生は、何もかも見通しているみたい。ほんの僅かな変化にも気づいてくれるの。気づいても急いで否定したりせずに、まずこちらの気持ちを尊重してくれるわ。その後それとなく誤りを訂正してくれるの、こちらが気づかないくらいに。先生は柔軟に的確に導いてくれる、強い愛情と忍耐力を持って。」と語っていますが、出を待つセメニャカがウラノワを見つめる、すがるようなまなざしを見ると、どんなにかセメニャカがウラノワを頼っているかがわかります。花形バレリーナ・セメニャカと偉大な教師・ウラノワの理想的な師弟関係を見せてもらって、とても爽やかな気分になりました。

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