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眠りの森の美女:フォンティーン、サドラーズウェルズバレエ (2004.10.30)

没後、すでに10年以上。伝説の舞姫となったマーゴ・フォンティーン。若きフォンティーンのオーロラ姫のDVDが出ました。1955年にテレビ放送されたものだそうで、約90分のハイライトです。当時のテレビはモノクロ放送でしたから、当然この映像もモノクロです。出演者は、マーゴ・フォンティーンの他、フロリムント王子がマイケル・ソームス、悪魔カラボスにフレデリック・アシュトン、リラの精にベリル・グレイという豪華版。ロバート・アービング指揮によるコヴェントガーデン王立歌劇場管弦楽団による演奏です。当時はまだロイヤル・バレエではなく、前身のサドラーズウェルズ・バレエ団によるものです。
マーゴ・フォンティーンは1919年生まれですから、1955年というと36歳。まさに油の乗り切った最盛期です。フォンティーンは、1949年の米国公演で「眠りの森の美女」のオーロラ姫を踊って大成功を収め、英国のバレエを世界的なものにして以来、彼女が最も得意としていた役です。彼女は自著「バレエの魅力」の中で、「私の長いバレエ経験の中で最も大切な作品は、『眠りの森の美女』です」と語っています。
 
まず、プロローグ。妖精たちの踊りでは、リラの精の踊り以外はカットですが、このリラの精が素晴らしいのです。踊るのは、ベリル・グレイ。長身の均整のとれた美しい容姿。ソロでのアラベスクの美しいポーズを幾度も決めて楽しめさせてくれます。
いよいよ、第一幕、フォンティーンのオーロラ姫が登場。軽やかなステップでひとしきり踊ってローズアダージョ。4人のサポーターの手から離れてバランスを保つ都合6回のアチチュードはまさに圧巻。しっかりと王子の眼を見つめ、さっと王子の手を離し、高々と手を挙げます。一呼吸おいて、がっちりと、しかも柔らかく、次の王子に捉まります。この間、柔和な笑顔を崩しません。4人の見合い相手を前にしての16歳の少女の恥じらい、それが、徐々に和らいで、終盤には、少女を脱皮して成長していく様子を実に上手く、しかも自然に表現しています。何より、気品があります。バランスの長さだけであれば、最近は、もっと長くキープできるダンサーもいますが、この気品はフォンティーンには遠く及びません。手を離すのが精一杯で、腕を挙げられず横滑りの人や、こわばった表情で、ぐらぐら揺れながら必死にバランスをとっている人も多い中、フォンティーンはトゥに根がはえたように微動だにしませんし、終始柔和な笑顔を崩さないのは流石です。ローズアダージョに続くオーロラ姫のヴァリエーション。こちらもフォンティーンの踊りは優雅で気品に溢れています。振り付けのフレデリック・アシュトンは、「優雅さ」を最も重視したそうですが、フォンティーンの踊りにそれが良く現れています。
そして、カラボスの毒牙に倒れるシーンは迫力満点。フォンティーンの演技力が光ります。
続く第二幕幻想の場、ここでもフォンティーンは本当に美しい。物語の通り、この姿を見た王子もうっとりというところでしょう。ここでもベリル・グレイのリラの精が良い味を出しています。
最後の第三幕、結婚式。 青い鳥のパドドゥは、アダージョから、女性・男性のヴァリエーション、コーダとたっぷり見れます。フロリナ王女は、ロウェナ・ジャクソン。スリムは、とても美しいダンサー。青い鳥のブレイン・ショーとの呼吸もよく合っていてとても楽しめました。
最後は、フォンティーンとソームスのグランパドドゥ。ヴァリエーションとコーダはカットされて、アダージョはだけですが、これは、本当に美しく、うっとりさせられます。長年コンビを組んで来たソームスのサポートは適切で、フォーンティーンは、安心しきっているよう。三度のフィッシュダイブはばっちり決まっていましたし、最後のアチチュードのバランスも見事でした。いつだったかテレビでフォンティーンが「アダージョで失敗したら、バレリーナはおしまいです」と言っていたのを聞いたことがありますが、この「眠りの森の美女」でもローズ・アダージョもパドドゥも、フォンティーンが、いかにバランスを大事にしていたかわかります。
 
このDVDはハイライトですが、オーロラ姫の出の場面は、ほとんど収録されていますので、フォンティーンの妙技をたっぷり見ることができます。1955年のものなので、お世辞にも画質は良いとは言えませんが、不世出のバレリーナ、マーゴ・フォンティーンの魅力を味わえる貴重な映像だと思います。願わくば、デジタル・リマスタリングによって、画質を改善してくれたらと思います。「ローマの休日」のように、昔の名画が、驚くほど鮮明に蘇った例もあるのですから。
なお、このDVDはリージョン1なので、米国用DVDプレーヤー向けで、国産のDVDプレーヤーでは見ることができません。ぜひ、リージョンフリー(All Code)にして、日本製プレーヤーでも見れるようにし、一人でも多くのバレエファンが、フォンティーンの魅力を味わって欲しいものです。
 
    Sleeping Beauty Ballet
    Margot Fonteyn, Michael Somes, Frederick Ashton,
    Beryl Grey,Brian,Shaw, Rowena Jackson..
    Sadlers Wells Ballet (Royal Ballet). Choreography by Petipa.
    Music by Tchaikovsky. Conducted by Robert Irving
    Broadcast of December 14, 1955. Approx. 90 min. B&W

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