バレエ「眠れる森の美女」:豊田シティバレエ公演 (2017.3.5)
とても素敵なバレエの映像がYouTubeに載っていました。2005年の豊田シティバレエ公演の「眠りの森の美女」(全幕)の記録映像です。
NPO法人豊田シティバレエ団はウズベキスタン国立ボリショイ劇場と姉妹提携をし、古典及び創作バレエの公演活動をしているバレエ団で、
この「眠りの森の美女」も、15名の男性ゲストダンサーが集っての公演でした。
オーロラ姫の工藤彩奈、リラの精の三宅佑香、フロリナ王女の池本梨奈をはじめ、プロローグの妖精達やコールドバレエに至るまで、ゲストダンサーの男性以外は豊田シティバレエの団員達で、若々しいダンサー達の初々しい踊りを見ることができました。
映像がやや不鮮明なところが惜しいですが、フレッシュなダンサー達の爽やな踊りを楽しめました。
特に、第一幕での工藤彩奈からは目を離せませんでした。こんな素敵なバレリーナが居たんだとの改めて驚きました。
何といっても、ローズアダージョでの息を飲む気品に満ちた絶妙のバランス、ローズアダージョのヴァリエーションでの清純・可憐なプリンセス、そしてカラボスの毒牙に倒れる迫真の演技、どれも最高です。
相当な集中力と精神力、そして優れたバランスの技術力を備えた素晴らしいバレリーナだと思います。
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プロローグでは、妖精達は、リラのすみれ色を中心に白、ピンク、黄、山吹、オレンジと、暖かい花の色を思わせたクラシック・チュチュが美しい。
中でもリラの精を踊った三宅佑佳の踊りには目を離せませんでした。
三宅佑佳はスラッとしたプロポーションの美しいダンサー。
ヴァリエーションは緊張していたようで、最初表情は強ばっていたけれど、懸命に踊る姿は清々しく、エカルテ・ドゥヴァンのバランスでは、180度近くまで脚が上がり、アラベスクはピタリと決まって美しい。
トゥを揃えて立つフィニッシュで、僅かに爪先がズレたけれどご愛嬌。踊り終わってほっとした笑顔が美しかった。
パ・ド・シスの最後のコーダは、体力的にも相当きつく難しいイタリアン・フェッテを一糸乱れず、完璧に回りきったのは流石でした。
彼女はラトビア国立国立バレエ団のソリストとして活躍しているそうです。
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プロローグが終わって、いよいよ第一幕。工藤彩奈のオーロラ姫の登場。
きらきら輝いて、可愛らしくフレッシュな16歳のプリンセスでした。経験を積んだベテランのダンサーでさえ、足が震えるほど緊張するというオーロラの出の場面。
若い工藤彩奈、緊張していたのでしょうか、出だしは表情が強張っているように思えました。でも、キュートでバネがきいて、ステップが歯切れよく、かつ優雅で、好調な滑り出しでした。
ひとしきり踊って、見せ場のローズアダージョ。ゆっくりとした音楽にのって踊る工藤彩奈は清楚で初々しい。プリンセスとして大切に育てられ、まだ外の世界のことを何も知らぬような乙女という感じが良く出ています。
最大の難関アチチュードのバランス。緊張がピークに達したのでしょう、一際表情が険しくなり、思わず「頑張って!!」とと声をかけたくなった。右足のポアントで立ち、王子の差し出した手を握る右手がギクギクと揺れてなかなか手を離せない。
「離せるかな?、離せるかな?」と固唾を呑んで見入っていたところ、 恐る恐る、でも意を決して手を離してバランス。
一呼吸して上げた手を下ろして二人目の王子の手に掴まった瞬間、王女の上体が大きく傾き、王子の手にしがみついた。
「ヤバイ、堪えて!!」と身を乗り出して叫びたくなったけれど、王女の腕をがっちり支えた二人目の王子(水野陽刈)の力強さが流石でした。
工藤彩奈は、水野陽刈に助けられて必死に体勢を立て直し、このピンチを脱したのです。
この場面、幾度か、バランスが崩れ、たまらず上げた足が床についてしまった舞姫を見ていただけに、ホッと胸をなでおろしました。
続く3人目、4人目は工藤彩奈は、落ち着いて危なげなく前半の難関を通過しました。
その後は踊り進むうちに、求婚者の4人の王子たちへの初々しい恥じらいの気持ちが徐々に緩和され、お姫様の品格を醸し出していく様子を見事に表現し、鮮やかなドラマを演出していました。
いよいよクライマックス。オーロラの周囲を回る王子に掴まって、ポアントのアチチュードで立ち続ける難しい場面、舞姫の緊張が頂点に達するところです。
王子に右手を支えられてゆっくりと回るとき、舞姫の支えの右腕が小刻みに揺れて、必死にバランスの乱れ堪えている様子がうかがえましたが、回り終えて、慎重に、でも意を決したように、気品あふれる目で王子を見て、やわらかな微笑みを崩さず手を離して次の王子の手に掴まります。
この間の仕草がなんとも優雅で、特に4人目の王子の手に掴まった時、一瞬頭を傾げて観客の方に顔を向けて微笑んだ表情がチャーミングでした。緊張の中でも、終始、柔和な表情を失わないのは立派でした。
最後は、右腕を王子に支えられ、後方に左脚をまっすぐ伸ばして、美しいアラベスク・パンシェのポーズで締め括りました。
この場面、シルビー・ギエムやタマラ・ロホのように、まるでポアント先に根が生えているようなビクともしない完璧バランスを披露する人もいます。
でも私は、ローズアダージョはお見合いの場なので、支えの男性を無視するように「支えなんか要らないわ!!」と言わんばかりに、傲慢に力に任せてバランスを取り続けるオーロラ姫は、わざとらしさが鼻について好きではありません。
批評家の佐々木涼子さんが著書「バレエの宇宙」(文芸春秋)の中で、「なにも片足で完璧にバランスを保つ必要はないのだ。一人では立っていられないという心許なさこそが、オーロラ姫の初々しさを強調しているのだから。そもそもそれが、本来の振付の意図だったのではないだろうか」と言っていますが、
この「心許なさの中の初々しさ」こそ、倒れそうでいて倒れない彫刻のような「不安定の安定」の美を醸し出すのでしょう。
そうだとすると振付者のプティパは、工藤彩奈のように、幾分バランスが不安定になりヒヤリとする箇所があっても、険しい表情になりながらも必死に堪えて持ちこたえ、観客の感動を誘うようなバレリーナこそ、オーロラ姫の理想の姿と考えていたのでしょう。
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それにしても、このローズアダージョには感動し興奮しました。
「ローズアダージョの前には逃げ出したくなる」(吉田都)、
「登場のときの音楽ときたら……映画『ジョーズ』のテーマ曲に聞こえてきてしまうのは私だけでしょうか!?」(小林ひかる)と、プリマ級のバレリーナにも恐れられるローズア・ダージョ。
「ローズアダージョの練習は毎日欠かしませんでした。第二幕の稽古の日も第三幕の稽古の日も、どんなに疲れていてもローズアダージョに 戻って終わりました。」(川村真樹)、
「ローズ・アダージョはどんなバレリーナにも大変です。リハーサルの時は自分が出来るギリギリのところまでバランスをとってみるようにしました。」(吉岡美佳)のように、工藤彩奈も苦しい稽古の積み重ねがあったこらこそ、これほどの感動的な踊りが出来たのでしょう。
彼女の努力に敬服します。
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続くローズアダージョのヴァリエーションは、ローズ・アダージョを踊り終えたオーロラ姫がカラボスの毒牙に倒れるまでの間の数分間の踊りです。
16歳になったうれしさを体一杯に漲らせての可愛らしくと初々しくい踊ることが要求されます。
技巧面では数回転のピルエットを連続4度繰り返す難しい場面があります。
またフィニッシュは連続高速回転のシェネの後、両足のポアントで立ってグッと堪えて静止するポーズで締めくくります。
全幕の舞台では、ローズアダージョでの緊張に続き、休む間もなく踊るソロですから、バレリーナにとっては精神的に非常にきつい踊りです。
振りはおとなしく、テクニックを誇示する派手な見せ場が無い割りにミスが目立ちやすいので、バレエコンサートで踊られることはあまり多くないですが、とても品の良い珠玉の踊りです。
このヴァリエーション、いかにミス無く美しく踊るかが問われるのですが、工藤彩奈の踊りは、丁寧でとても品の良い踊りでした。
ピンクのクラシックチュチュをエレガントに着こなした工藤彩奈は、繊細で可憐なだけでなく、歩き方のドゥミ・ポイントが高くて美しい。
初めのアラベスクのポーズ、そして途中パッセのポーズはとてもアンデオールされていて、パッセの開き方が美しい。タメるべきところしっかりタメて、回るところは無理なくスムーズに回って・・・。
中盤の見せ場の4回のピルエットを危なげなくスムーズ回っていたのには感心。『やるぞ!!』と身構える様子を少しも見せず、自然にす〜っと回って、笑顔がとても美しかった。難しい場面でも終始柔和な表情を失わなかったのは立派です。
でも1回目から3回目は2回転、4回目は3回転で、回転数が少ないのが気になりました。6回転も回る人もいるので、そこまでいかなくとも、もう少し頑張って回って欲しかった。
最後の見せ場の俊足で舞台を駆け巡るシェネは、少しの乱れもなく軽快でとても美しかった。
この頃になると、工藤彩奈の胸と背中に汗が滲み出ていました。このヴァリエーション、肉体的にも、精神的にも、さぞかし重労働だったことでしょう。
汗をびっしょりかいたダンサーは汚らしく下品に見えることが多いけれど、工藤彩奈の汗は少しも汚らしく感じられず、むしろ爽やかに感じるのは、彼女の溢れる気品によるところでしょう。
そしてクライマックスのカラボスの毒牙に倒れるオーロラ姫。場面では、工藤彩奈は全力投球の迫真の演技。フィニッシュで倒れこんだ彼女の胸は、ハァハァという息遣いで大きく波打っていました。疲れきって、力尽きて・・・、持てる力を出し切って踊りぬいた舞姫に、思わず「お疲れ様」と声をかけたくなりました。
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第二幕は、オーロラ姫16歳の誕生日から百年の時を経た時代の想定。
狩りへ向かう途中のデジレ王子は、善の精リラに導かれ、オーロラ姫の幻影と出会い、 王子はその人こそ運命の相手だと確信するという場面です。
第一幕の華やかさとは異なり、オーロラ姫には、心を置き去りにしてきた人形のように、能面を思わせる無表情で、一心に待ち続ける乙女の心を表現する演技が要求されるのですが、
工藤彩奈の踊りは、第一幕の「ローズ・アダージョ」の緊張から解放された直後で、つい力を抜いてしまったような気がして、第一幕に比べるとやや平板に感じのたのですが、
王子の手に掴まってのアラベスク・パンシェでは思い切り180度まで開脚して身体の柔軟度をアピールした華やかな踊りでした。
この場面でも、王子を導くリラの精の三宅佑佳は、美しい上に存在感のある見事な踊りでした。
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そして第三幕は王子との結婚式。デジレ王子はイーゴリ・ゼレンスキー。
王子役のイーゴリ・ゼレンスキーは、リフトやサポートは力強く、回転も軽々とこなしていました。ゆっくりとリフトし、そ〜っとおろして。何気ない動作でしたが、すごいと思いました。
ただ、工藤彩奈とは初めてだったせいか、チョットしっくりいっていないようなところもあったような気がしました。
工藤彩奈はやわらかさもある美しい踊りですが、妻となる成長した女性のイメージとは、ちょっと違っていました。
そんなわけで、この「眠れる森の美女」では、工藤彩奈は第一幕が圧倒的によく、ひと時も目を離せないほど素敵だったけれど、とりわけ第三幕はやや物足りなさを感じ、いまいちの感じが拭えませんでした。
第二幕、第三幕での充実した彼女の演技を期待したいところです。
この舞台は、豊田シティバレエ団の公演です。豊田シティバレエ団はNPO法人(非営利組織)であり、スターダンサーを擁する大バレエ団の公演のように、豪華絢爛の舞台ではなく、多くの出演者は初々しい若手ダンサー達です。
大バレエ団と違い、ダンサーの技量や質素な装置という点では限りがあるものの、この映像で見る限り、ダンサー達の踊りは、まとまりの上では大バレエ団のものに引けをとらない魅力的なものでした。
これにはダンサーもスタッフも大変な苦労があったと思います。さすがに、コール・ド・バレエでは、経験が浅いためか、わずかに乱れも見られましたが、年月を重ね舞台経験を積んで成長することで、さらに舞台が充実することでしょう。
ただ、映像は、2005年のものにしては、不鮮明で、ダンサー達の美しい踊りを十分楽しめる状態ではなく残念です。
あまりに鮮明すぎると、ミスもよく分かってしまい、出演者には恐怖かもしれませんが、美しいにはこしたことはありません。さらに美しい映像を期待します。
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NPO法人 豊田シティバレエ団 秋季特別公演(2005.10.16)
バレエ「眠れる森の美女」(全幕)
オーロラ姫 工藤彩奈、デジレ王子 イーゴリ・ゼレンスキー
4人の王子 水野陽刈 小柴富久修 N・クリパエフ V・ゲルトフ
リラの精 三宅佑佳、カラボス A・シャルベルギン
フロリナ王女 池本真梨奈、青い鳥 青い鳥にN・クりバエフ
指揮:福田一雄、演奏:NPO法人 小牧市交響楽団
2005/10/16 豊田市民文化会館
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この公演の評がありました。
→こちら
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