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劇場通りの子供たち(ワガノワ・バレエ学校)    (2010.5.3)
「劇場通り通りの子供たち」(The children of Theatre Street) という素敵なDVDがあります。この映画は、1977年のアメリカとソビエトの共同制作で、アカデミー賞のドキュメンタリー部門の候補にもなったそうです。 「劇場通り」はワガノワ・バレエ学校への入口のあるロッシ通りのこと。このワガノワ・バレエ学校では、ニジンスキー、カルサヴィナ、アンナパヴロワ、ヌレーエフ、バリシニコフ、マカロヴァのような有名なダンサーも勉強しました。このドキュメンタリーは、夢を成し遂げるための子供たちのワガノワ・バレエ学校での過酷な訓練や日常の生活を、モナコの故グレース王妃の解説で綴ったもので、カメラは彼らの踊りの体の動きや表情を至近距離から克明に捉えていす。 ただ、この映画は日本の劇場では公開されず、日本語字幕付の日本製DVDも販売されていないようです。私のDVDも米国からの輸入盤で日本語字幕はありませんが、 解説の英語には、あまり難しい単語はないので、シーンを見ながら何とか理解できます。なお、米国盤ですがリージョンコードはALLで、NTSCフォーマットなので、国産のDVDプレーヤーで正常に再生できました。
 
ワガノワ・バレエ学校への入学試験には、毎年1000人もの8〜13歳の子供たちが応募しますが、選ばれるのはわずか20人。映像では厳しい試験の様子が紹介されていましたが、子供たちは、身体の形態、足の長さ、柔軟性や骨格など細かくチェックされていました。試験に受かる事は、将来バレエダンサーとしての成功にもつながるということで、子供たちだけでなく親の必死な様子も写っていました。 試験に落ち悔しそうに泣いていた子もいました。 また、ひとたび学校に入学しても毎日が大変。子供たちは家族から切り離され、自ら命を捧げて芸術に没頭させられます。 学校では、バレエの練習だけではなく、フランス語の授業や普通の学校の勉強も同時にやらなければなりません。 ソビエト連邦が崩壊した現在はどうなっているか知りませんが、当時のソ連だからこそ出来たのだと思います。ダンサーの亡命が相次いだように、本当に厳しいシステムですが、でもこれが特権階級??でもあったバレエダンサーの養成には効果的だったのでしょう。
 
この映画ではキーロフ・バレエのいくつかの素晴らしいクリップが挿入され、とても楽しめます。「白鳥の湖」の模範演技をメゼンツェワとザクリンスキーが教室の特設舞台のようなところで生徒にみせていましたが、まさに、技術が、人から人へ伝えてられていという感じです。ナタリヤ・ドゥジンスカヤとコンスタンチン・セルゲーエフのライモンダ(1960年)や、ロミオとジュリエット、ペトルーシュカ・・・もありました。最後は、キーロフ劇場での卒業の発表会の様子が紹介されていました。 驚くべきことは、この映像がアメリカのカメラマンによって1970年代に撮影されたこと。当時はソビエト連邦、共産主義政権の時代です。西側の強国アメリカのカメラマンが、東側の強国ソビエトに入り込み、神秘のベールをかぶっていたバレエ学校や学生の写真を撮るのはほとんど不可能な時代。許可を得るまでには、相当の努力があったたはず。情熱と勇気に敬服します。
 
そして、この映画のもう一つの魅力が、解説者がモナコの故グレイス王妃であること。制作のアール・マックは、最終編集したフィルムとナレーション台本をグレイス王妃に示し、この映画のナレーターとして、映画界にカンバックすることを決心させたのです。 ハリウッドの女優が南フランスの一国の王妃になるという、映画を地で行くようなシンデレラ・ストーリーのヒロイン・グレース王妃は、元女優でフランス語が話せないアメリカ人ということで、モナコの人々と打ち解けるまでに相当苦労したそうです。彼女は王妃としての公務を積極的に務め、グレース王妃基金やモナコ・バレエ団を設立してモナコの芸術や文化の発展に尽くしました。
でもグレース王妃は、この作品への出演からわずか5年後の1982年、娘のステファニーとのドライブの途中、カーブの崖から転落して亡くなってしまったのです。 フィギュアのゴールドメダリスト荒川静香さんは「クール・ビューティ」と話題になりましたが、 「ダイヤルMを廻せ!」や「泥棒成金」でグレース・ケリーを起用したヒッチコック監督は、彼女を「クール・エレガンス」と言って賛美したそうです。 彼女の清楚なたたずまいの映像や語りかけるような暖かい解説を聞いていると、モナコ王国のレーニエ大公が、彼女に一目惚れをしたのも無理もないと思えてきます。私は、2008年、念願かなって、モナコのグレース王妃ゆかりの地(王妃の眠る大聖堂、事故で亡くなった場所、彼女の遺志をついで作られた日本庭園ほか)を訪れることが出来ました。

レーニエ大公とグレイス王妃
  (映画)The children of Theatre Street
   解説:Grace Kelly、監督:Robert Dornhelm、制作:Earle Mack
   内容:1.Introduction、2. Opening Credits、3. Entrance Examination、
    4. A Chance to Dance、5. Youthful Aspirations、6. Practicing for Perfection、
    7. The Early Days、8. Dudinskaya and Sergeyev、9. Marius Petipa、
    10. Igor Stravinsky、11. St. Petersburg、12. Physical Conditioning、
    13. Yaraslavna、14. Romeo and Juliet、15. Rehearsal、
    16. Graduation Night at the Kirov、17. Dreams Become Reality、18. Credits
この映画「劇場通り通りの子供たち」の制作者アール・マックが、この映画を作った時に併せて発行した、古い本を見つけました。内容は、映画のシーンの写真集です。1981年文化出版社発行となっておりますが、現在は廃刊になっているようです。アール・マックは、「それまでバレエを熱愛する一顧客としであったけれど、そういった趣味としての鑑賞だけでは満足できず、何らかの形でバレエに参加したかった」ということで、この映画を作ったそうです。ケイコ・キーンというバレエ研究家の方の訳ということですが、1979年にオックスホードの書店で偶然この本を見つけて読んだ彼女は、苦難を乗り越えて美を目指している日本の若いダンサーや子供達に、ワガノワ・バレエ学校をぜひ紹介したいと、一気に翻訳を終えたとのことです。
グレース王妃は次のように語っています。
「『苦難に堪えつつ美を目指す』。これこそ、ワガノワ記念国立レニングラード舞踊学校に学ぶ子供達の、努力と熱意を表すのに最もふさわしい言葉ではないでしょうか。実に感動的な彼らの物語は、いかなる芸術の世界においても共通する、完璧たらんことを目指す人達の、まさに模範的な例と言えましょう。これらの劇場通りの子供達に、そして彼らの先輩の人達や後輩の皆さんに、私は心から尊敬と賞賛の意を表します。
モナコ・グレース王妃

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