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東京バレエ団「ドン・キホーテ」    (2002.10.27)
 (斎藤友佳里さんの熱演に感激)

斎藤友佳里さんの「ドン・キホーテ」ということで、とても期待しておりました。例年の神奈川国際芸術フェスティバルの一つとしてこの公演、山下公園の神奈川県民ホールは、地元横浜出身の斎藤さんを一目観ようという観客で満員でした。この神奈川県民ホールは、斎藤さんが大怪我の後、復帰して初めて踊ったステージ。彼女にとっても思い入れの多かったことと思います。
斎藤友佳里さんというと、「ラ・シルフィード」や「ジゼル」といった妖精のイメージが強く、キトリは異色の役どころです。
斎藤さん、最初のうちは緊張しておられたのか、ちょっと表情が硬く、動きもやや重いように感じましたが、徐々に調子が出てきたようでした。ただ一幕ではコミカルな表現をしようとして逆にかなり大仰なしぐさが目立ってしまったり、演技にはとても苦労されておられたように感じました。
うって変わって、一幕最後のドン・キホーテの夢の中に出てくるドルシネア姫は、しっとりして、情感があって、とても美しいものでした。第一幕の感じからすると、やはり彼女には、キトリの様な町の娘より、夢の中の王女様や妖精の様な役所が相応しいように感じました。
 
斎藤さんらしい優雅さと華やかさが最も発揮されたのは第二幕だと思います。
キトリとバジルとの結婚式。赤と黒の華麗な衣装に身を包んだキトリとバジルのグラン・パ・ド・ドゥ。アダージオでは、目当ての二度のアチチュードのバランスはもう少し頑張って欲しかったものの、高岸さんに高々と上げられたリフトがぴたりと決まり、続くフィッシュ・ダイヴも鮮やかに決まりました。32回のグラン・フェッテはさすがにかなり辛そうでしたが、歯を食いしばって必死に頑張って、最後まで崩れず見事にクリア。観客から大きな拍手が起きました。ホッとして思わずこぼれた笑み、こちらも嬉しくなってしまいました。懸命に頑張る彼女の姿、本当に胸を打たれました。でも内心、痛めた脚は大丈夫かな?と心配にもなりましたが。
彼女は、ひとつひとつの動きを締めくくるポーズがとても美しく、爽やかな余韻を残します。間の取り方が絶妙なのです。斎藤さんのこんなすばらしいキトリに出会え、感激でした。
 
バジル役の高岸直樹さんは、サポートがとても上手でとても上品な踊りをする人です。表情がとても豊かで、バジルというちょっと二枚目半的な若者の陽気さがよく出ていたように思いました。ジャンプも回転もダイナミックで、バジル役への意気込みが感じられました。
 
ジプシーの踊りを踊った吉岡美佳さんの素晴しさには驚きました。オーロラ姫が得意で、時間の止まるような長〜いバランスや柔らかい動きが特徴の彼女が、こんなクセの強い踊りを踊るとは思いませんでした。哀愁がただようような、素晴らしい表現力でした。
 
メルセデスの井脇幸江さん。ナイフの間を踊るシーンとても難しそうで、ナイフを踏まなければよいが・・・とハラハラしましたが、見事に決めて、かっこよかった。一転、女性の優しさも見せて、素敵な踊りと見事な演技でした。
 
高村順子さんのキューピッド。 可愛らしさに加え、繊細さ、軽やかさも出色でした。素敵なダンサーですね。
 
指揮者のソトニコフがステージをよく見て指揮をしているようで、音楽とステージがとてもよく調和していました。パ・ド・ドゥの時、斎藤さんがグランフェッテの出だしで、曲に対してちょっと追いかける感じでしたが、指揮者が上手に合わせて調整し、斎藤さんをリードしたのはさすがだと思いました。
セットは、わりとシンプルで豪華すぎず、好感を持ちました。
ただ、一幕がやや長すぎで、疲れたという感じがありました。「ドンキ」は普通、三幕構成なのですが、今回は二幕。プロローグ、バルセロナの街角、ジプシー達のシーン、夢のシーンがすべて一幕に入っています。スピーディに物語が進んでいくという点では良いとは思いますが、やや詰め込みすぎという気がしないでもありません。
それにしても今回の公演、友佳里さんの地元ということもあるのでしょうが、劇場内は、いつにない温かな雰囲気を感じました。 彼女は著書「ユカリューシャ」の中で、「舞台芸術とは、私たちとお客様が一緒になって作り上げるもの。本番で、リハーサルやゲネプロでは 出てこない不思議な力が発揮できるのは、お客様からエネルギーをいただけるからなのです。」と言っておられますが、 何度も何度も繰り返されたカーテンコールに、深々と頭を下げる斎藤さん。オペラグラスを通して見た彼女の眼には、キラッと光るものがありました。悪夢の大怪我から見事に復帰した斎藤友佳里さん。 二度とこのようなアクシデントに見舞われず、いつまでもお元気で、私たちに夢と希望を与えてくれる天使であられることを願ってやみません。
 

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