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斎藤友佳里著「ユカリューシャ」に思う       (2003.1.15改)

バレリーナの斎藤友佳里さんが書いた「ユカリーシャ」。私は、数ヶ月前にこの本が出て、話題になっているのを知っていました。でも、私は買って読む気持ちにはなれませんでした。「怪我をしたバレリーナが見事に復帰した、めでたしめでたし!!」というサクセス・ストーリーくらいしか思っていたからです。
先日、横浜の書店をぶらついていたとき、何気なしにこの本を手に取り、最後のページをめくりました。私はよく最後のページを読んで、買う気になることが多いのです。
試練というものは、『お前はそれを克服できる』と神に選ばれた者だけに与えられる」という一節が、妙に気になりました。そして、あとがきには「たった一行でも、たった一つの言葉でも、あなたの心のかたすみに残り、こじけそうになったとき、あきらめそうになったときの励みになることが出来るなら、私にとってこれ以上の幸せはありません」と結んでいます。私は、この人は、何かを訴えようとしている、平凡な自伝ではなさそうだ、と思い、買い求めることになったのです。
 
読み出したら、もう止まらなくなってしまいました。
「くるみ割り人形」での大怪我の事から書き出しているのは、筋書きからは当然と言うところでしょうが、彼女は、この怪我が、雪のシーンの紙吹雪に足を取られたという単なるアクシデントではなく、起こるべくして起こったと考え、この怪我に至るまで、また、この怪我を克服して復帰するまでを、克明に描いています。
ここ数年間、これほど夢中で、一気に読んでしまった本はありません。
読み進むうちに、彼女がいかに精魂込めてこの本を書いたか、しかもどんなに丁寧に言葉を選んで書いたか、この気持ちがひしひしと伝わってきます。また、彼女が、ダンサーとしいう職業に、プロとしての凄まじいほどの意識を抱いているかが分かります。
 
この本には、我々も見習わなければと思われる言葉がたくさん書かれています。お世辞抜きに、こんな素晴らしいダンサーが日本に居たということは、同じ日本人として誇りに思ってしまうくらいです。
特に印象に残った言葉を以下に記します。
この人の最も良いところは、何事にも良い方向にとらえることだと思います。プラス指向だということです。彼女は先日、「徹子の部屋」という番組に出演されましたが、この中で、怪我から復帰した公演の時、劇場へ向かっていた黒柳さんの車のタイヤがパンクしたと言うのを聞いて、これで舞台は成功すると思ったとか。普通なら、タイヤがパンクするような事があったら不吉に思うのでしょうが、それを良い前触れと捉えるあたり、ただ者ではないと思います。このような気持ちの持ち主だからこそ、二度と踊れないと宣告されたにもかかわらず、苦しいリハビリを経て、見事に復帰できたのだと思います。
先日、彼女が主演する東京バレエ団公演「ドン・キホーテ」を見に行きました。本当に素敵なキトリでした。
斎藤友佳里さんが、二度と、こんな怪我をなさらぬよう、いつまでも元気で踊り続けてくれることを願ってやみません。

→ユカリューシャのHP

追:先日、斎藤友佳里さんが、NHK-TVの「私はあきらめない」に出演されました。
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