第23号                                        1999年8月

 

書店員はスリップの夢を見るか?

 先日、「ネットワークと本の集い」と称して(といってもささやかなものだが)出版業界と同時にネット方面で活躍している方々との、ざっくばらんな飲み会に参加した。同じ業界といえども、やはりそれぞれの立場の違いから意見も微妙に異なっており、非常に刺激になって面白かった。

 が、共通していたことがひとつある。皆、再販制度の崩壊は目前だろうという考えを抱いていた点だ。確かに、返品率40%というあまりに異常な事態に直面している現実を考えると、もうこの制度は限界であると断言してもいいであろう。実際、書店で働いていて、毎日大量の返品を出すたびに悲しくなる。

 再販撤廃のリスクは確かに大きいと思う。が、メリットの大きさも考えるべきであろう。大冒険だがこの行き詰まった業界に大きな爆弾を投げて、活性化を図る時期ではないのか。慎重にやらねばだが。

 今の出版業界は、まさに黒船来襲(ネット販売)により、開国(再販撤廃)を迫られている旧幕府のようなものである。たくさんの血(倒産)も流れるであろうが、新しい夜明けに期待したい。

 

今月の乱読めった斬り!

『クリムゾンの迷宮』☆☆☆1/2(貴志祐介、角川ホラー文庫)

 『黒い家』の著者の作品だが、びっくりするくらいタッチが違う。もっとずっと乾いている。あまり感情のどろどろがなくて、ドライで、無機質的。ゲーム的要素が多く入っているゆえか。

 主人公藤木は、会社が破綻したため無職になった、40歳の男性。彼が目覚めるとそこは赤い奇岩が連なる全く知らない異様な世界だった。彼は、自分の周りに置いてあった食料と共に、携帯用ゲームを見つける。やがて彼は、何人かの人間と出会い、恐怖の殺戮ゲームに巻きこまれてゆくのだった…。

 生身の人間がゲーム機に従ってゴールを目指すという、話の設定が読者を惹きつける。次はどうなるのだ、と先が気になって気になってぐいぐい読んでしまう。なんたって、自分の選択の間違いによる失敗、ゲームオーバーはすなわち自分の死を意味するのだから。

 後半はやはりホラー的展開。といっても、やはりこの著者だなあと思うのは、彼が恐怖の対象とするのはいつでも超常的な存在ではなく、ただの普通の人間だということ。なんでもない人間がだんだん狂気に侵されてゆくさまをじわりじわりと描いてゆく。このあたりはやはり『黒い家』と共通するところがなくもない。

 謎を残したままのラストがちょっとアレだが、私はまあこれでもオッケー。話の展開が実に面白く、ホラータッチのエンターテイメントとしてはとても楽しめた。

『星兎』☆☆☆1/2(寮美千子、パロル舎)

 少年と等身大のうさぎ(!)との友情と別れを描いた、繊細なガラス細工のような中篇である。

 ふたりのやりとりが純粋で切ない。言葉じゃうまく言えない気持ちの一番大切なところを、さりげない描写で表現していて、ああ、そうなんだよね、と思わせる。ただうさぎといっしょにいるだけで楽しいというところや、手をつなぐシーンなどが特に印象的で、まるで当人が気がつかないくらいに淡い恋のようだと思ってしまった。(もちろん、友情を意図して書かれたものだろうが)

 ファンタジックな祭の後、唐突に別れがやって来る。人と人は出会い、ふれあい、そして別れてゆくものなのだ、ということを淡々と描いた話ともいえよう。が、そうやって愛する人と別れることになっても、お互いの心に残ったものはいつまでも消えない。なんでもない銀色の王冠がぼくにとってかけがえのない宝物になったように、うさぎと過ごした時間や思いはぼくの中で宝物として結晶化して、いつまでも大切に心の奥にしまわれるのだろう。

『たんぽぽ娘』☆☆☆☆(風間潤編、集英社コバルト文庫)

 「海外ロマンチックSF傑作選」という言葉がぴったりの、甘口の短篇ばかりを集めた、SFアンソロジー。コバルト文庫、いい本出してたのね。確かに、若い女の子のSF入門にはぴったりの本。これがお気に召したら、他のこんな本もどうぞ、なんていう紹介もあとがきについてて、とても親切。こういうSF初心者向きの本、今でも出せばいいのに。これを復刊したっていいし。「異形コレクション」はちょっと通向きだからなあ。

 ブラッドベリ、ジュディス・メリル、ゼナ・ヘンダースンなどの書いた8つの短篇が収められている。タイムマシンもの、惑星移住もの、有翼人ものなど、テイストはさまざまだが、どれも甘くてちょっとほろ苦い。みないい話だが、中でも気に入ったのは、やはりロバート・F・ヤングの表題作。妻や息子と離れて、夏期休暇の2週間をひとりで過ごすハメになった44歳の男性が主人公。彼は散歩に出た先の丘で、未来からタイムマシンでやって来たという、たんぽぽ色の髪の美しい若い娘に会う。ふたりはいつか恋に落ち…といった話。予想どおりのオチなのだが、過剰な説明を抑えて、淡々としめくくっているので、静かで心地よい余韻が残る。『翼のジェニー』(ケイト・ウェルヘルム)も好きな話。

『クロノス・ジョウンターの伝説』☆☆☆☆1/2(梶尾真治、朝日ソノラマ文庫)

 「愛は時を越える」。そんなちょっとキザなセリフがぴったりの本。あの名作「美亜へ贈る真珠」路線の、珠玉の純愛時空SF。

 これは、過去にしか跳べないなどの、かなり多くのペナルティをもったタイムマシン、〈クロノス・ジョウンター〉をめぐる3つの連作集である。そのどれもが、愛する人のためにさまざまな犠牲を投げ打ってでも時を越えるという設定である。

 たとえば「吹原和彦の軌跡」。彼は、事故で死んでしまう片思いの女性を救うため、まだ実験段階の〈クロノス・ジョウンター〉に無謀にも乗り込む。そして事故の起きる前の時間まで戻り、彼女に「逃げろ」と説得する。が、ほんの数分話しただけで、彼は出発時より何年かのちの未来へ引き戻される。が、彼はあきらめずに再度説得に向かう。もし彼女が事故で死ぬことから免れても、彼に会うことはもうできないというのに、それでも彼は彼女への思いゆえに〈クロノス・ジョウンター〉に乗り込むのだ。

 このひたむきな愛には、涙を禁じえない。そして、「愛は時を越える」。時の神〈クロノス〉は、3組の恋人達にやさしく微笑むのだ。少々苦味を残しながらも。でもおそらく彼等は幸福であろう。そして、読者も本を閉じた後、さわやかな涙と共に、じんわりと胸に広がる幸福を感じるのである。

 年齢を全く感じさせない、みずみずしさにあふれたストーリーに、著者の感性の柔らかさがよく出ている。SFファンでない方にもぜひぜひオススメの一冊!

『みんないってしまう』☆☆☆☆(山本文緒、角川文庫)

 いやはや、まいった。やられた。ポップな装丁にだまされた。短篇集だから、軽い内容でさらっと読めるんだろうと思ったら大間違いだった。どれもこれもずっしりと重たく、濃厚で、胸にずどんとくる話ばかり。この本あたりから、著者は「物語を書く」ということに達観してしまったのではないか。

 恋愛を描くにしろ、家族を描くにしろ、とにかくこの著者の書く物語は甘くない。ほろ苦いなんて生やさしいもんじゃなく、舌がしびれるくらい苦い。この短篇集に、100%幸せという人生を送っている人はひとりも出てこない。どの登場人物も、苦しく、つらい思いを抱えて、血を吐くようにそれでもその人なりのやり方で生きている。人が生きていくというのは、それほどにヘビーである。著者はそんな人生の機敏を、どこか冷めた目で語るのだ。

 例えば「片恋症候群」。恋するあまり、彼の出すゴミをこっそり盗んできてしまう主人公。一見奇異に思えるが、著者の筆によって恋とはそういう強く哀しく自分でもどうしようもないものなのだ、と納得させられてしまう。

 人生の苦さをぎゅっと凝縮したような本である。皆様、だまされるなかれ。

 

このコミックがいい!

 「トルコで私も考えた」 @、A(高橋由佳利、集英社)

 「高橋由佳利」と聞いてピンときた方はおられるだろうか。そう、昔、雑誌「りぼん」に作品を発表していた漫画家である。なんと彼女、トルコに旅行して以来すっかりその異国のとりこになり、ついにはトルコ人と結婚して現在子供と共にそこで暮しているというから驚くではないか。

 これは、彼女のその旅の顛末に始まり、更にはその地での日々の暮らしのあれこれを綴ったコミックエッセイの連載の単行本化である。

 私が「トルコ」と聞いて浮かぶのは絨毯やタイルなどの漠然としたイメージだけで、実は具体的なことは何ひとつ知らなかった。というか遥かな異国という感が強過ぎて、想像することさえなかったのだ。

 が、これを読んで驚いた。意外にも、日本人には親しみやすい国なんだそうである。
まず文法が似ている、トルコ人がとても親日家である、などなど。

 しかし、慣習は著しく違う。やはり、イスラム教徒のお国なのである。断食のシステムやトルコ風呂、結婚式の様子、羊だらけの食事など、初めて知ることばかりで、「へーえ!」と思うことしきりであった。

 情に厚く、ジョーク好きの人々の国。ううっ、行ってみたい!

 

特集 SF大会やねこんレポート

 去年に引き続き、今年も行ってまいりました、SF大会!今年はなんと、長野県は白馬の山の上にあるホテルを借りきっての合宿形式。7月3日の夕方から始まり、翌日4日のお昼まで、1晩SFにどっぷり浸かろうというスケジュール。今回は、ダイジマンとまゆみ嬢(職場の同僚)との三人の珍道中でありました。

 16時過ぎよりオープニング(やねこん開校式)。ホントなら野外の予定だったのですが、あいにく大雨だったので急遽、B1の和室をどどんとぶちぬいた大広間に会場変更。が、すごい人、人、人!コスプレーヤーは徘徊するわ、赤ちゃんや子供はいるわの大騒ぎ!私達は後ろの方に陣取っていたのであまり舞台の声が聞こえず、せっかくのギャグを聞き逃したのがちょっと残念。きちんと6番まで歌われた、校歌斉唱には笑いました。ここで、星雲賞受賞式。

 18時、企画スタート。私達は「SFセミナーオールナイト」の一コマ目、「巽孝之編『日本SF論争史』出版予告編プロモーションスピーチ」を拝聴。これは、今年の10月頃、勁草書房にて刊行予定の本の、著者本人による内容紹介と解説でした。聞き手は小谷真理氏。恥ずかしながら、初めて聞くことばかりで、とても勉強になりました。ホントにSFって、昔から論争の絶えない世界だったのね。

 サイバーパンクうんぬんから最近のクズSF論争まで、実に詳しく、私のようなド初心者にも楽しめるようにお話して下さいました。

 20時半、私とまゆみ嬢は「神林さん20周年おめでとう 神CON騒祭スペシャル」に参加。ダイジマンはお隣の部屋の「祝 野田昌宏さんペンネーム30周年 SF美術館から人間大学まで」へ。

 入り口で販売してたファンジンをゲットして神林氏ご本人にちゃっかりサインを頂きました。他の方々はビールを開け、座布団を敷いてすでに宴会モード。神林さんを真中に据えて向かって右に司会を務める漫画家の東城和美さん、左にゲストの方がかわるがわる登場して、それぞれにこの20年にまつわるお話をして下さいました。

 しょっぱなのゲストは野阿梓氏。お二人はほぼ同時期にデビューしたそうで、「ハヤカワコンテストの当選通知が、これでも文筆業かと信じられないくらい汚い字だったので、あれが早川書房の便箋でなかったらゼッタイ友人のイタズラだと思った」などなどの細かくてオカシイ、彼らのみの知るデビュー時のエピソードをいろいろ話して下さいました。他のゲストには、先ほどの巽氏などが登場。

 22時、またSFセミナーオールナイトの部屋へ。企画名は「SFコレクターのつくり方」。これ、なんとダイジマンが司会をするというではありませんか!私は当日パンフを見るまで全然知らなかったのでびっくり!水くさいなあ(笑)。

 出演者は牧眞司氏、北原尚彦氏、日下三蔵氏。これ以上のSFコレクターはおそらくいないでしょうってくらいの濃いメンツでスタート。ダイジマンが出演者の方々に質問をふって、それに答えていただくという形式だったのですが、彼はつい司会を忘れてふんふんと聞き入ってしまい(彼もコレクターだからね)、牧さんにうまく軌道修正してもらってました(笑)。とにかくこの部屋そのものがまさにコレクターの巣窟で皆良きライバル同士。出演者と視聴者の区別がほとんどないような状態で、全員がひとつになって語り合う、といった雰囲気でおおいに盛り上がりました。

 ネタとしては、コレクターになったきっかけや、増える蔵書の保存法など。お宝発見のコツは「とにかく棚を見て、背表紙を覚えること、知識を蓄えること。どんな本なのか、見て覚えておくだけでもずっと探しやすくなるから。古本買いのコツは、知識勝負だよ」とのこと。目録買いにも、いろいろとコツがあるなど、いろんなとっておきのお話が聞けました。

 お次は0時半より、「SFクイズとビンゴの部屋」。さまざまな難問に、小浜徹也氏、大森望氏、塩沢編集長、山岸真氏などが解答するのですが、これがむっちゃくちゃ難しい!彼らよりSFに詳しいお方なんておそらく存在しないと思うのですが、そんな彼らでも「う〜ん」とうなって頭を抱えてしまうようなハードな質問ばかり!私なんてもちろん全然わっかりません(笑)。それでも、答えてしまうんだな、この解答者の方々は!もう尊敬の溜息しか出ませんでした。結果は、山岸氏がダントツでトップでした。

 第2部からは、ビンゴを組み合わせたクイズ。視聴者にビンゴをやってもらいつつ質問を出し、解答者はその観客のビンゴの紙とひきかえに、視聴者が喜ぶようなプレゼントを持参し、それをエサにするわけですね。私は偶然にも早めにビンゴとなり、山岸氏のプレゼント(秋発売予定の文庫のサイン本)をいただけることに。ラッキー。

 移動の合間にディーラーズルームものぞきました。『星界の紋章』のアーヴ語の本があまりにおかしかったので買ってしまいました。あとは、風呂場に行く途中の廊下で、1晩中ぶっ続けのアニソンメドレーなどもやってました。真夜中に、大のオトナが「あんまりソワソワしないで〜」とか大合唱してんの。アヤシイよ〜(笑)。

 翌朝8時半、エンディング。インディーズSF映像大賞、ファンジン大賞、暗黒星雲賞などの発表&授賞式が行われました。ださこんで見知った顔が何人か舞台に出てらして、「おお、あの方が受賞!」といちいち驚く私。ギャグとユーモアを交えつつ、やねこん閉校式。

 SFづくしの濃い1晩でありました。SF界きっての大物から直々にじっくりいろんなお話を聞くことができ、贅沢させていただきました。皆様、来年横浜でのZEROCONでまたお会いしましょう!

 

スペシャルゲストレポート

「懲りない3人の2日間」が、今、よみがえる

 去る7月3日・4日、長野にて、あのSF大会が開催された。うかつにも私は、今やすっかりSFオタクと化した安田ママと師匠ダイジマンと3人で、勤務後車にて出かけてしまったのだ。

 現地に着いたのは、明け方の4時頃、ホテルのフロントにいた眠そうなお兄さんにチェクインをしてもらい部屋に直行した。ドアを開けるとナントそこは宇宙の墓場で光り一つなく…もとい、かつてスキーに来た時の3つ位隣の部屋だったさ。窓の外は広々としたゲレンデで傾斜の具合も心地よく我々を迎えてくれた。(滑りたかった)我々は来るべくイベントに備え、仮眠。

 午後4時にチャイムとともにSF大会林間学校は開始し(林間学校ですよ、図々しくも30男と女が大方なのに)期待に脳ときめかす我々なのだった。今回の面々はかなり濃くて、超初心者の私は「どうしよう、とんでもない所へ足を踏み入れてしまった。」と、激しく後悔したのだった。私とママはほとんど一緒に行動したが(ついてこい!っていうから…私恐くて…)(←ウソです!発行人注)前回もそうだったのだが、見たいイベントが同じ時間帯に重なって悔しい思いをした。

 今回の最大の目的、あの、神林長平氏に会った、話した、サインももらって、握手もしちゃった。もう思い残す事はない。なんか素朴な感じのとても素敵な方。グフフフッ、いいだろう、さくら!(注・職場の仲間)皆様、是非彼の作品を読んでくれ。損はさせないよ。

 さて、ダイジマンの「SFセミナーオールナイト」へ行く。なんと今回彼は司会デビュー!!絶対ひやかしに行かないとね。

 でもその前に、<巽孝之氏「日本SF論争史」出版予告プロモーション>を聞く。面白そうだったけど完全に営業だった。多分秋にはうちの店に3冊は入荷するんだろうな。やれやれ。 

 ついにその時は来た。題して「SFコレクターの作り方」彼らしい。怪しげな人々がわらわらと集まってきて、会場は怪しい雰囲気。観客と出演者の個性に少々押され気味のダイジマンだったが、楽しい話が進み、無事終了。ご苦労ご苦労。

 そうそう、1箇所、「電撃SFの部屋」というところに行ってしまった。そこは夏の野球部の部室の臭いがした。そうそうに退散。

 長い1日も、そろそろ終わり。ラストは「SFクイズとビンゴの部屋」。ビンゴは観客がやり、読み上げた数字がクイズの番号になっており、解答者(ゲスト=翻訳家や編集者)が答える。どちらも商品がもらえる、賢いしくみ。珍しくビンゴが当たり、大森氏の本をゲット。

 翌日林間学校の閉会式を終え、一路船橋へ。帰りの道は空いていて、夕方5時頃都内着。凝りもせず神保町に直行。おいおい。古本を物色後、私はそこから電車で帰路へ。あとの二人は船橋まで、いったいなにを話していたのやら。ネットでも流せない話をしたに違いない。(和泉澤まゆみ)

 (付録:ゲストプロフィール 安田ママ、ダイジマンと同じ書店に勤める書店員。というか先輩。性別は女だが、豪快な性格のため、「アニキ」と呼ばれ後輩たちに慕われている。海外ミステリ、SF(特にスタートレック)をこよなく愛する隠れたオタクな人。古本も大好き。その他ゲーム、歌舞伎など、趣味の幅が異様に広い。)

 

ダイジマンのSF出たトコ勝負!

  大自然にそびえるリゾートホテル、「ホテルグリーンプラザ白馬」貸し切り占拠!っつーか隔離(笑)!!その巨大魔窟と化した2日間に、SFびとは世紀末の楽園を見るか?

 SF大会で完全合宿なんて、今や規模が規模だけにそうは無い。だから待ってたゼ、「やねこん」!

 プログラムを見て気付いたこと。通常だと1日目・2日目のスケジュールが組まれる所を、合宿ってことは2日間とはいえ、夕方から朝に渡るひとつのタイム・テーブルしかない。それぞれの企画も小部屋で行われたし、とてもこじんまりとした印象。そうだ、極端なこと言えばこの感覚、SFセミナー合宿の拡大版という感じ。ま、ド派手じゃないけど、ぼくとしては密度の高い時を過ごせました。

 異例の受付早期締切りによって、リピーター以外の参加が困難になるという弊害もあったが、食事を含め移動に時間を取られる心配が無く、一体となって満喫できるSF大会というのは悪くない。

 それじゃあ、ぼくが参加した企画を辿ってみよう! あ、今年もベースキャンプは『SFセミナーオールナイト』だからね。まずはその1コマ目、「『日本SF論争史』出版予告プロモーションスピーチ」からスタート。10月に勁草書房より刊行予定の同書を踏まえ、編者の巽孝之がSF論争の歴史を概括した(聞き手/小谷真理)。収録された21篇は、それぞれ時代を代表する論客の優れたSF論であり、その意味で本書は、歴史的背景を視野に納めながら「SF」を理解・再考する作業の基本ツールとなろう。刮目して待て!

 続く「『グリンプス』を聴く」(DJ/小川隆、SE/浜田玲)では、ビデオを活用しながら60年代ロックの紹介。いろんな手を使って、ドラッグ(LSD)のアナグラムを取り入れていたこととか、面白い話が聞けました。

 途中で抜けて夕食ののち、「祝 野田昌宏さんペンネーム30周年―SF美術館から人間大学まで―」(ゲスト/野田昌宏、司会/牧眞司)に行く。野田さんのSFに対する純粋な情熱に触れるだけで、聞く価値があるというもの。毎度のことだが四方山話に花が咲く!

 セミナー部屋に戻って「SFコレクターのつくり方」へ。北原尚彦・日下三蔵・牧眞司という、ご存じ「ほんとひみつ」のレギュラー陣が織り成す古本魔境の冒険譚! 但し問題は、ぼくが司会を仰せつかっていることだ!! 牧さんがお声を掛けて下さったのだが、さてどうなることやら…。途中で「これはキミを鍛えるための企画なんだから(笑)」というウラの意図が明らかに。なぬっ!おいドン知らんかったバイ。ンならハラ括るタイ。どすこいドスコ〜イ!(>誰?)

 でも、そうと分かればかえって気が楽。気負う必要ないじゃん。お客さんも含めて(ここ重要)ガンガンしゃべる方ばかりなので助かりました。むしろ話題を取り戻さねばならないんだけど、本筋と異なるウンチク(暴走とも言う)を、ぼくが「へえ〜」とか一番感心しながら聞いてるようじゃいけません(笑)。楽しんだモン勝ち!?

 しかし皆さん、とにかくマメ。日下さんはドシャ降り(!)なのに、途中で漁ったダンボール箱ぎっしりの古本を抱えて会場入りしたし、それを聞いたギャラリーは、「もうダメじゃん」と落胆の声を響かせるし(笑)。そして北原さんと牧さんは、毎週の古書展でしばしば顔を合わすらしいし(笑)。地道な積重ねがモノを言うのですね。

 ツボを突かれたのが、牧さんの「まず〈SFマガジン〉と銀背(ハヤカワ・SF・シリーズ)を全部揃える」発言。曰く、「コレクターうんぬんと言う以前に、ファンとしてごくごく当然の行為とぼくは思った」そうです(注 中学生の頃か?)。良い子のみんなは決してマネしちゃダメだよ(笑)。あ、でも「そのうち…」とか思ってるぼくは、もはやフツーの人ではないのか? それにしても、これが前提条件とはハードルが高い…。

 まあこんな風に、まったりと濃い仕上がりに。出演者の方々には逆にフォローを頂いていた感もあったけど、よい経験をしました。またの機会では…ってヤル気か!?

 なお、この時の模様をアップした、〈SFオンライン〉7月26日号(29号)掲載の牧眞司「自己中心的やねこんレポート」、および林哲矢@不純粋科学研究所の大会レポートを参考にどうぞ。特に林さんには、その好意的なレポートに感謝感謝であります。

 終了直後、三村美衣さんに「あんた、この人知らなきゃダメだよ」と、客席で一際異彩を放っていた若尾天星さんを紹介してもらう。各種大会でオークショニアを20年やっていて、「牧眞司は高校生の頃に、凄い迫力でかぶりつきにいたのを覚えている」と言うのだから年季が違う。スゲー濃い。また、梶田俊哉さんには各種文庫の絶版リストを頂いちゃいました。

 急いで「ライブ版SFスキャナー」へ。間に合ったのは第2部、初心者のためのSF翻訳Q&Aの途中から(司会/小浜徹也)。翻訳家・編集者交えての座談会で、カタカナ表記の語尾処理についてとか、少し突っ込んだ話も出てましたね。

 同じ部屋で続いて行われた「SFクイズとビンゴの部屋」では、プロの方が解答者として前に出ている形式。山岸真と大森望が2強か。大森さんはさすが「ださこん大将」(笑)。でもクイズはやっぱり山岸さんが強かったのだ。驚異的。ビンゴでは解答者の持ち寄った景品、中でも大森さんのクラークサイン本(スリランカ土産)に注目が集まったが、ぼくは全然ダメ。ていうか最後までリーチ止りじゃ、惜しくも何ともないジャン(笑)。

 また駆け足で「真夜中のオークション」に途中から。凄い熱気に包まれた会場の主、オークショニアはもちろん若尾天星。その見事な芸を観るだけで、ぼくは何も落とさず。意外に堅実派なのだ(笑)。

 セミナー部屋に戻ると、最終企画の「どっぷりSF絵の話をしましょう」(主催/牧紀子)に腰を落ち着ける。SFイラストのトレーディングカードを肴に、ワイワイする企画。しかし聞けば聞くほど泥沼な世界かも(笑)。とっても奇麗だし、みんな楽しそうなんだけど、ハマッたらマジやばいな、きっと。と言いつつ、田中光イラストの3枚組特製オリジナルカードを頂いた上に、すかさず(笑)サインをお願いする、しっかり者のぼくなのでした。ウラヤマシイだろ〜。

 おお、なんか空が明るくなってきた! 寝て起きて食ったらもうエンディングだよ〜、という濃密な(しかもこの隙間に、ディーラーズで柴野ご夫妻と水鏡子師匠にご挨拶)空間が「やねこん」の正体だ!

 

あとがき

 またしても発行が遅れまして申し訳ありません。今回も増ページ。なんと、和泉澤まゆみ嬢がデビュー致しました。私なぞより遥かに年期の入った(失礼)彼女のSFものぶりをトクとお楽しみ下さいませ。(安田ママ)


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