第12号 1998年9月
えー、今回の銀河通信は、なぜこんなに早いのだ?とお思いの方も多いでしょう。実は、さる事情により、9〜10月にかけて、ばたばたと3号出すことになりました。
というのは、銀河通信は現在、9月末に9月号が出る、という形式になっております。が、普通、雑誌の発売号の表記って、9月末発売なら10月もしくは11月号ですよね?ゆえに、いまの形はちょっと変ではないか?と、ダイジマンから指摘されたのです。紙版だけならまだしも、web版ではちょっとね。他の方のページと比べても変かな、と。第1号を発行したときに、そこまで考えなかった私のミスです。
だったら、思いきってふた月で3号出してしまえ!そうすれば、10月末には11月号が発行できる!という、無謀な賭けに出たわけなのです。ほっほっほ。
いきあたりばったりな発行人で、まことに申し訳ありません。いよいよ次号は、1周年記念号です!
『すべてがFになる』☆☆1/2(森博嗣、講談社ノベルス)
ずうっと前から気になっていた著者だった。なのに、なかなか手に取るチャンスがなく、やっと読めたという感じ。今さらの書評で、どうもすみません。
森博嗣の著作は、「理系ミステリ」だとよく言われる。初めて聞く言葉だし、いったいどういう意味だろうかと、非常に興味があった。
読んでみてなるほど、と思った。話の設定、味付け、登場人物の性格、そのあたりがすべて数学的なのだ。冷ややかな、コンピュータの肌触り。みな作り物めいていて、生身の人間の感じがしない。確かに、これは新しいジャンルかもしれない。
話の設定は、ある孤島の、窓さえない徹底したコンピュータ管理の研究所での、密室殺人。ここの中心であった、天才女性科学者が殺される。それも、手足を切断され、白いウェディングドレスを着た状態というすごさ。一体、この密室でどうやって?さらに第2、第3の殺人が起こり、主人公の犀川教授とその生徒、西之園萌絵がこの謎を解明する。
確かに、謎解きミステリとしては、よくできているかもしれない。おおがかりな仕掛けが読者を引き込むし、トリックにはしてやられたという感もある。が、どうも私個人にはいまいち感情移入ができなかった。あまりにもすべてが人工的すぎていて、その中身が空洞のような気がしてしまうのだ。現実感がなさすぎるといおうか。
テイストは全く異なるが、自分の確固たる世界を構築しているという点で、京極とどこか似ている気がした。
『ひまわりの祝祭』☆☆☆1/2(藤原伊織、講談社)
「テロリストのパラソル」に続く、彼の(乱歩賞&直木賞受賞後の)第2作目である。
これは、妻に自殺されて以来、自分の殻に閉じこもってひっそり暮らしていた男に、ある日突然ふりかかってきた、幻の名画をめぐる事件である。彼の穏やかな生活の周囲に、突然わけのわからない人間や組織が現れ、彼を巻き込んでゆく。最初は何が目的で彼に近づくのかもわからなかったのが、だんだんと霧が晴れるように事態の全貌が明らかになってくる。
話のもっていく方向、主人公の性格、このあたりは前作とかなり似通っている。にしては、あのインパクトには欠ける。なんだか、著者が話の作り方に無理をしてるような気がしてしまうのだ。
前作の根底には、ある女性の深い愛がずっと地下水のようにこんこんと流れているのだが、今回の話には、主人公の、自殺した妻への愛が深く貫かれている。彼は、周りの人々が目の色を変えて探す、高価な名画のことなど、全く興味がない。金によって動く人間ではないのだ。だが、謎のままである妻の自殺の原因を知るためには、どんなこともいとわない。
ラストまで読んで、やっとわかった。この話は、名画発見という事件に隠された、ちょっと世間からはずれたある男の、静かで深い愛の物語だったのだ。ラストの締め方に、ぐっときた。
『名探偵に薔薇を』☆☆☆(城平 京、創元推理文庫)
これは、第8回鮎川哲也賞の最終候補になった作品の、全面改稿オリジナル版である。「メルヘン小人地獄」と、「毒杯パズル」の二部構成からなる、本格ミステリ。
第一部は、マザーグースのようなブラックな童話の通りの殺人が起き、それを名探偵が解決するという話。なんだかグロくて、気味悪い味のする、でも読まずにはいられないといった話であった。
名探偵として登場する、瀬川みゆきという女性キャラが独特である。氷のように、自ら感情を凍りつかせた女。非常に聡明なのだが、そのために過去に深い傷を負い、すべての幸せを自ら遠ざけて、ひたすら真相を解明する名探偵であろうとしている。
第二部のテーマは、ほとんど彼女の名探偵であるがゆえの苦悩なのだ。読み進むうちに、どんどん話が深く重くなっていく感がある。
ただの謎解きではなく、人間の良心や罪、真実とはなにかというものにまで言及した、なかなか深いミステリだった。
『パイナップルヘッド』☆☆☆(吉本ばなな、幻冬舎文庫)
雑誌「anan」の巻末に、94〜95年ごろ掲載されていたエッセイの文庫化。彼女の、なんてことない日常をつづったエッセイなのだが、べらぼうに面白い。何度、この本を読みながら、深夜ひとりで笑い声をあげたことか!
彼女の生活は、明るく、元気で、どこかエキセントリックでパワフルである。
なにげない日々の暮らしの中の、小さな感動、幸せ、怒り。友人たちのこと(類は友を呼ぶということわざの通りに、ユニークな友人ばかり登場する)。時には恋愛や死についての深遠な考えもつづられている。
そのいちばん奥にあるのは、彼女自身の、前向きな生きる姿勢である。自分の信じるものに向かって、まっすぐに進んでいこうという、強い気持ちである。小説にしても、エッセイにしても、彼女のここに私は惹かれているのだと思う。
自分の日常がつまらないとお思いの方、一読あれ!あなたの周りにだって、面白いことはたくさんあるということに気がつくだろう。
『ひみつの階段@、A』(紺野キタ、偕成社)
偕成社の季刊コミック「コミックFantasy」に連載されてるものの単行本化。女子高の寄宿舎を舞台にした、ファンタジーである。
面白いなと思ったのは、この舞台である古い学校の建物そのものが夢を見る、という設定。ないはずの階段がある日ふっと現れ、そこでコケている子を助けるのだが、あれ?ここに階段なんてあったっけ?と思ったときにはその子はいない。これは、幽霊ではなく、学校の建物が見せる夢なのだ。
「ゲイルズバーグの春を愛す」という本の、古い街が夢を見て、人々に幻影を見せるという話を思い出す。ファンタジックで、ノスタルジックな雰囲気がとてもいい。
私も昔、憧れました。こういう、女子高の寄宿舎生活。いまどき、このマンガのような女子高生達がいるのか?という話は置いといて、この年代特有の半分現実、半分夢の中を生きているような彼女たちの気持ちがふんわりと書かれていて、心地よく浸れた。
1巻後半の、読み切り短篇傑作の「パルス」は、短い詩のような仕上がりで、特に私の好きな一篇。
この作家は、好き嫌いがものすごくハッキリ分かれると思う。好きな人はそれこそ全作品読んでるだろうが、興味ない方は1作も手にしていないだろう。でもいいの!
強引な発行人の趣味により、今回は彼女を取り上げました。Part1としているのは、95年秋以降に発刊されたものを読んでないため。そちらはまたいつか特集します。
さて、長野まゆみの作品はとにかく一種独自のファンタジー世界である。いくつかのキーワードごとに解説していこうと思う。
☆少年
まず彼女の作品の特徴として真っ先に挙げられるのは、これだろう。10代の少女の夢の中に出てくるような、美しくてファンタジックな少年たちだけしか登場しないのだ。1歩間違うと耽美の世界なのだが、そちら方面ではなく、もっと禁欲的である。夢だけ食べて生きているような、おとぎ話の世界の住人たちなのだ。
☆天体
河出文庫の、長野まゆみの棚をご覧頂けば一目瞭然なのだが、彼女の作品は天体を題材にとったものが非常に多い。星、月、銀河、ロケット、エトセトラ。
もろSFだというものもあれば、SFとファンタジーの境目すれすれのようなものもある。これも、彼女の雰囲気作りに大きく影響している。
天体とは多少ずれるが、美しい鉱石の名前もよく登場する。
☆食べ物
作品に登場する、飲み物やお菓子の美しくておいしそうなこと!女の子だったら憧れずにはいられないだろう。蜂蜜パン、シトロン・プレッセ(檸檬水)、氷砂糖、苔桃のジャム、薄荷いりのライムネード!ああ、よだれが出そう。
☆漢字
「天鵞絨」を「びろうど」「吠瑠璃」を「サファイヤ」と読ませるなど、宮沢賢治を彷彿とさせる、著者独特の漢字の使い方が随所に見られる。文字の持つイメージを自在に操っているといおうか。少年たちの名前もいい。蜜蜂、水蓮、
銅貨、葡萄丸、百合彦…。このセンスには、まいった。
次は、お勧め作品のご紹介。
★『少年アリス』(河出文庫)
文藝賞を受賞した、著者のデビュー作。しょっぱなから、もう確固たるファンタジー世界を築いている。
彼女らしさが一番よく出ている作品ではないだろうか。入門書としてお勧め。
★『夜間飛行』(河出文庫)
私のベスト1の作品。
ミシェルとプラチナの二人の少年は、ハルシオン旅行社の特別遊覧飛行に参加する。時代遅れのプロペラ機は、海を越え、南国のホテルに到着する。そこで出会った老紳士を追いかけ、彼等のファンタジックな旅が始まる…。
これを読むたび、ああ、この本の中に入ってしまいたい!と思う。
★『天体議会』(河出文庫)
銅貨と水蓮は、ある日いきつけの鉱石倶楽部という店(鉱石の標本などがあるほか、お茶も飲める!なんと素敵な店だろう)で、不思議な少年と出会う。まるで自動人形のようなのだ。
「天体議会」と名づけられた、天体観測の集会のエピソードなど、宇宙のイメージが硬質な雰囲気を醸し出している。星好きにはたまらない一篇。
プロローグととれる『三日月少年漂流記』と合わせてお読み頂きたい。これもいいよ〜。
★『魚たちの離宮』『夜啼く鳥は夢を見た』(共に河出文庫)
ちょっとホラーテイストのお話。
★『螺子式少年』(河出文庫)
「レプリカ・キット」と読む。 野茨はある日、離れて暮らす母の作った、自分のレプリカらしい少年と出くわす。果たして本物はどちら?近未来ファンタジー。
★『聖月夜』(河出文庫)
ぜひクリスマスに読んで欲しい、珠玉の短篇集。プレゼントにも!
青柳ういろうは、文庫界における講談社文庫に匹敵する名声を、お菓子業界で獲得しているらしい。そりゃあ、いくら何でも大げさじゃない!?というわけで、行ってきたぞSF大会「CAPRICON1」!
SF初心者のぼくは(ウソつけ!:発行人注)、大会参加は昨年の「あきこん」に続いて二度目。その時はちょっと遅刻したので、オープニングから観れてうれしいな。映像も結構凝っててイイ感じ。さあこの後、いざ大会に突入〜!なんだけど、企画は20以上の会場で同時進行だから、紹介できるのは大会の極々一部にすぎないことをお忘れなく。
さて、ぼくが向かったのはやっぱりというか「SFセミナー名古屋出張版」の部屋である。ここは活字系の人たちの、ベースキャンプとなっていましたね。まずは「メイキング・オブ・SFオンライン」からスタート。97年2月始動の月刊SFwebマガジンを始めたきっかけ・トピックから、作成の舞台裏まで聞けたぞ。
引き続いて「辺境の電脳たち〜SF大会篇」では、大森望・水玉螢之丞のレギュラーコンビに堺三保も参加。最近のコンピュータが登場するSFをネタに、爆笑トークが繰り広げられた。読んでなくても大丈夫さっ。まあこんな具合で企画が目白押しだから、当然食事に抜けるなんてもったいなくて困りもんです。
お次は会場を移動して、「SFハンマープライス」だ。自分の欲しいのが出なくても、やっぱ面白いんだよね。自動的に観に行ってしまう。手塚漫画とか出品。他に印象に残ったのでは、十数年前の雑誌のフロクを落札した人とか。そして「ディーラーズルーム」を一回り。〈宇宙塵〉のバックナンバーなどを購入。これで〈宇宙塵〉は半分揃いまでこぎつけました。
「SFセミナー」に戻って「ライブ・スキャナー&ライブ・海外SF取扱説明書」へ。これは、翻訳者・解説者などの方々が、注目作家の次回翻訳作から絶対に日本語にならないであろう作品まで、海外SFの息吹き?を伝えるおなじみ企画。怪作の話の方が面白いのは、致し方あるまい(笑)。
ということで1日目を終わり、夕食の後、創元SF文庫編集者小浜徹也さんの好意に甘えて、翻訳家古沢嘉通さんの星雲賞残念会にお邪魔させていただきました。これ、古沢訳のイアン・マクドナルド『火星夜想曲』受賞宴会になるはずだったのですが…。逃すなんて、ホント、誰もが驚いた。賞なんてわからんもんです。会場になった古沢さんのスイートルームには、海外SF関係を中心に25人程。結局夜中の二時過ぎまでワイワイやってました。ありがとうございます。
SF大会2日目は「SFマガジンはこう作られる」からスタート。塩澤編集長はやり手ですね。質問にも実に丁寧に答えていました。
続いての「パルプマガジンとジャンルSFの成立」では、牧眞司によるパルプ時代のアメリカSF研究が披露されました。「架空遠近法・ライブ版ー田中光SF画を語る」では、最近進境著しいSF画家、田中光によるレクチャー&インタビューが。
そしてやっぱり「SFハンマープライス」(笑)。天野嘉孝リトグラフが、ハンマープライス史上最高値を樹立し13万で落札。あとは次回作に登場する権利とか。ぼくも遂に!動いて、人間大学講師野田昌宏の近刊『SFを極めろ!この50冊』(早川書房)の原稿とサインを、ジャンケンにもつれ込みながらも落札しました!原稿上がってから後日郵送とのこと。
「SFアートギャラリー」を急ぎ足で見たら、ああ、もうエンディングです。星雲賞を始めとする各賞の授与・スピーチ等々。ネタも豊富で楽しかったっス。運営スタッフの皆さん、本当におつかれさまでした。解散後は、〈宇宙塵〉主宰・翻訳家柴野拓美ご夫妻と牧眞司ご夫妻に、きしめんをごちそうになりました。うまかったー。
さあ、次は長野だ、来年も行きたくなってきたぞ。ってもう受付済ませちゃったし(笑)。行くゼィ!
どうもwebの世界には、SFものが多いようである。近頃、私も洗脳されつつあって、ちょっとヤバイ。でも、新たな本の世界の扉を開いた感じは悪くない。(安田ママ)