9月 D2−ダサコニスト宣言−

  走りだしたそれは…、ムーヴメントの初期段階に特有の…、そう、荒ぶる昂揚感と蒸せ返る熱気に彩られ…、たくましい姿を現した。SF界の常識を破る年2回開催コンヴェンション、“D2”こと「ダサコン2」となって!

 いや、正確を期すなら、ダサコンは自らの独自性と存在意義を求め、「SF」から巣立っていく決断を下した。バックボーンにはSFが、もちろん、ある。だが、さらに貪欲に、未知なる活動領域を求め、突き進もうとしているのだ…。

 99年8月28日、やって来たゾ水道橋に。両手に荷物でえらく重い〜。なんか、いつもダサコンはこうなんだよなあ(笑)。放出用の本は減らしたんだけど、敗因は渋谷東急の古本市(笑)。で、てくてく歩いて行くと、おや?あれは谷田貝さん率いるプレDASACONチームでは? すかさず合流。メンバーはカワカミさんや浅暮さんなど11人。いわくありげな中華料理店で、夜に備え燃料補給をする。

 受付後、会場入りすると、早くもディーラーズのセッティングがされていて、コンヴェンションらしい雰囲気。本格的だね。

 まずはu-ki総統の開会の辞、「ダサコニスト宣言」が高らかに成され(笑)、いきなり東雅夫×寮美千子対談へ。自然とインタビュアーの役を買って出るあたりに、東さんの編集者としてのプロデューサー的手腕を垣間見る。寮さんは、まさに言葉の尽きせぬ泉。自身にとっての創作とは、溢れるイメージをいかにぶれ無く言語に変換するかである、という「翻訳論」を開陳する。これを天職と呼ぶのか。

 乾杯後、東さんからサインを頂きお話をする。その他には倉阪鬼一郎さんと浅暮三文さんからも。ありがとうございます〜! しかし寮さんのサインの列は、一向に減る気配がない。よく見ると、ひとりひとりとじ〜っっくり話し込んでいるのであった(笑)。恐るべし寮美千子。明け方に隙を見て頂いたサインは、決めセリフを添えた非常に丁寧なもので感動しました。

 この後の架空書評勝負決戦投票では、ノミネートされた書評がぼくの印象に残ったもの揃いでニヤリ。栄えある優勝者のお給仕犬さん、こんぐらっちゅれーしょん! ちなみにこの架空書評勝負、ダサコンならではの好企画として、高く高く評価しておきたい。

 そして怒濤のオークションに突入。一部に「銀通コンビ仲間割れか?」と囁かれる顛末もあったが、(笑)、名勝負を演出できたので全くもって満足である。でも「敵に廻すと危険なタイプ」との認識を強くしたとだけ打ち明けておこう(笑)。

 突発企画、u-kivs鈴木力の『もてない男』論争は、ギャラリーを巻き込み白熱。カオス的度合を深めていった(ホントか?)。

 そして、謎のカードゲーム「書棚の帝国」が、遂に秘密のヴェールを脱ぐ! 各プレイヤーのSF者としてのソウルに合わせ、いかに強いコレクションを構築するかを競うのだが、とにかくカードの仕上がりが見事。製作スタッフは、「数回のテストプレイを経ただけで、改善の余地あり」と謙遜するが、多少のバランスの問題を抜きにすれば、出来映えが良いにも程がある(笑)。や、マジでそんくらい優れてました。そのイベントカードに登場できたことは光栄っス。

 ファンダム・アトラス作成で俄然注目を集めたのが田中香織さん。わるものモードの大森望、森太郎、林哲矢3人の誘導よろしく、次々明かされるパラレル・ワールドの水先案内『地獄の新地図』(笑)。SF界は偉大な才能を入手した!

 で、田中さんが納得の2代目ださこん大将ゲット。次回、ダサコンは移動型コンヴェンションへと変貌を遂げるやいかに? 乞うご期待!

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8月 SF林間学校「やねこん」

大自然にそびえるリゾートホテル、「ホテルグリーンプラザ白馬」貸し切り占拠!っつーか隔離(笑)!!その巨大魔窟と化した2日間に、SFびとは世紀末の楽園を見るか?

 SF大会で完全合宿なんて、今や規模が規模だけにそうは無い。だから待ってたゼ、「やねこん」!

 プログラムを見て気付いたこと。通常だと1日目・2日目のスケジュールが組まれる所を、合宿ってことは2日間とはいえ、夕方から朝に渡るひとつのタイム・テーブルしかない。それぞれの企画も小部屋で行われたし、とてもこじんまりとした印象。そうだ、極端なこと言えばこの感覚、SFセミナー合宿の拡大版という感じ。ま、ド派手じゃないけど、ぼくとしては密度の高い時を過ごせました。

 異例の受付早期締切りによって、リピーター以外の参加が困難になるという弊害もあったが、食事を含め移動に時間を取られる心配が無く、一体となって満喫できるSF大会というのは悪くない。

 それじゃあ、ぼくが参加した企画を辿ってみよう! あ、今年もベースキャンプは『SFセミナーオールナイト』だからね。まずはその1コマ目、「『日本SF論争史』出版予告プロモーションスピーチ」からスタート。10月に勁草書房より刊行予定の同書を踏まえ、編者の巽孝之がSF論争の歴史を概括した(聞き手/小谷真理)。収録された21篇は、それぞれ時代を代表する論客の優れたSF論であり、その意味で本書は、歴史的背景を視野に納めながら「SF」を理解・再考する作業の基本ツールとなろう。刮目して待て!

 続く「『グリンプス』を聴く」(DJ/小川隆、SE/浜田玲)では、ビデオを活用しながら60年代ロックの紹介。いろんな手を使って、ドラッグ(LSD)のアナグラムを取り入れていたこととか、面白い話が聞けました。

 途中で抜けて夕食ののち、「祝 野田昌宏さんペンネーム30周年―SF美術館から人間大学まで―」(ゲスト/野田昌宏、司会/牧眞司)に行く。野田さんのSFに対する純粋な情熱に触れるだけで、聞く価値があるというもの。毎度のことだが四方山話に花が咲く!

 セミナー部屋に戻って「SFコレクターのつくり方」へ。北原尚彦・日下三蔵・牧眞司という、ご存じ「ほんとひみつ」のレギュラー陣が織り成す古本魔境の冒険譚! 但し問題は、ぼくが司会を仰せつかっていることだ!! 牧さんがお声を掛けて下さったのだが、さてどうなることやら…。途中で「これはキミを鍛えるための企画なんだから(笑)」というウラの意図が明らかに。なぬっ!おいドン知らんかったバイ。ンならハラ括るタイ。どすこいドスコ〜イ!(>誰?)

 でも、そうと分かればかえって気が楽。気負う必要ないじゃん。お客さんも含めて(ここ重要)ガンガンしゃべる方ばかりなので助かりました。むしろ話題を取り戻さねばならないんだけど、本筋と異なるウンチク(暴走とも言う)を、ぼくが「へえ〜」とか一番感心しながら聞いてるようじゃいけません(笑)。楽しんだモン勝ち!?

 しかし皆さん、とにかくマメ。日下さんはドシャ降り(!)なのに、途中で漁ったダンボール箱ぎっしりの古本を抱えて会場入りしたし、それを聞いたギャラリーは、「もうダメじゃん」と落胆の声を響かせるし(笑)。そして北原さんと牧さんは、毎週の古書展でしばしば顔を合わすらしいし(笑)。地道な積重ねがモノを言うのですね。

 ツボを突かれたのが、牧さんの「まず〈SFマガジン〉と銀背(ハヤカワ・SF・シリーズ)を全部揃える」発言。曰く、「コレクターうんぬんと言う以前に、ファンとしてごくごく当然の行為とぼくは思った」そうです(注 中学生の頃か?)。良い子のみんなは決してマネしちゃダメだよ(笑)。あ、でも「そのうち…」とか思ってるぼくは、もはやフツーの人ではないのか? それにしても、これが前提条件とはハードルが高い…。

 まあこんな風に、まったりと濃い仕上がりに。出演者の方々には逆にフォローを頂いていた感もあったけど、よい経験をしました。またの機会では…ってヤル気か!?

 なお、この時の模様をアップした、〈SFオンライン〉7月26日号(29号)掲載の牧眞司「自己中心的やねこんレポート」、および林哲矢@不純粋科学研究所の大会レポートを参考にどうぞ。特に林さんには、その好意的なレポートに感謝感謝であります。

 終了直後、三村美衣さんに「あんた、この人知らなきゃダメだよ」と、客席で一際異彩を放っていた若尾天星さんを紹介してもらう。各種大会でオークショニアを20年やっていて、「牧眞司は高校生の頃に、凄い迫力でかぶりつきにいたのを覚えている」と言うのだから年季が違う。スゲー濃い。また、梶田俊哉さんには各種文庫の絶版リストを頂いちゃいました。

 急いで「ライブ版SFスキャナー」へ。間に合ったのは第2部、初心者のためのSF翻訳Q&Aの途中から(司会/小浜徹也)。翻訳家・編集者交えての座談会で、カタカナ表記の語尾処理についてとか、少し突っ込んだ話も出てましたね。

 同じ部屋で続いて行われた「SFクイズとビンゴの部屋」では、プロの方が解答者として前に出ている形式。山岸真と大森望が2強か。大森さんはさすが「ださこん大将」(笑)。でもクイズはやっぱり山岸さんが強かったのだ。驚異的。ビンゴでは解答者の持ち寄った景品、中でも大森さんのクラークサイン本(スリランカ土産)に注目が集まったが、ぼくは全然ダメ。ていうか最後までリーチ止りじゃ、惜しくも何ともないジャン(笑)。

 また駆け足で「真夜中のオークション」に途中から。凄い熱気に包まれた会場の主、オークショニアはもちろん若尾天星。その見事な芸を観るだけで、ぼくは何も落とさず。意外に堅実派なのだ(笑)。

 セミナー部屋に戻ると、最終企画の「どっぷりSF絵の話をしましょう」(主催/牧紀子)に腰を落ち着ける。SFイラストのトレーディングカードを肴に、ワイワイする企画。しかし聞けば聞くほど泥沼な世界かも(笑)。とっても奇麗だし、みんな楽しそうなんだけど、ハマッたらマジやばいな、きっと。と言いつつ、田中光イラストの3枚組特製オリジナルカードを頂いた上に、すかさず(笑)サインをお願いする、しっかり者のぼくなのでした。ウラヤマシイだろ〜。

 おお、なんか空が明るくなってきた! 寝て起きて食ったらもうエンディングだよ〜、という濃密な(しかもこの隙間に、ディーラーズで柴野ご夫妻と水鏡子師匠にご挨拶)空間が「やねこん」の正体だ!

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7月 2大シリーズ完結!

本というシロモノを多少なりとも意識的に集め出したら、気になるのは、うかうかしてるとすぐに手に入らなくなること。いや、入手不可になろうが、それがあえて見送ったもの(かなりの割合で存在する)なら別にいいのだ。問題は、同時代で出版されながら、それに気付かないまま消えてしまう場合。これは恐怖以外の何物でもないね。

 そこで今回は、皆さんのアンテナに引っかかり難い(と思われる)シリーズをご紹介する。その名も『恐怖と怪奇名作集』全10巻だ!

 

オーガスト・ダーレス他 ロッド・サーリング他 ジェローム・ビクスビー他
W・W・ジェイコブズ他 レイ・ブラッドベリ他 ロバート・ブロック他
シルヴァーバーグ他 ヘンリー・カットナー他
ベン・ヘクト他 フリッツ・ライバー他

 聞いたこと無くとも無理はない。出版社は岩崎書店だから、児童書なのです。でも、じゃあオレいいや、と判断するにはまだ早い。まあ見てくださいよ。素晴らしく正統派の、怪奇小説アンソロジーに仕上がっているのだ、これが。

 各巻3〜4篇収録の全36作品。構成としては、いわゆる文豪の作品(キップリング、ディケンズ、ロレンス他)や怪奇小説の古典(ストーカー、ホジスン、ブラックウッド他)を始め、〈ウィアード・テールズ〉作品(ダーレス、ラヴクラフト、ブラッドベリ他)はもちろん、テレビシリーズ『ミステリーゾーン』(『トワイライトゾーン』)の原作(サーリング、マシスン)ばかりか、知る人ぞ知るマイナー作家の佳作まで、バランスの良い精選集として見逃せまい。

 選択から翻訳まで、一貫して矢野浩三郎が手掛けているという点でも、なかなかポイント高いぞ。巻ごとでテーマ・アンソロジーとしても読め、ジュヴナイルながらも、これだけアンソロジー・ピースが並ぶとちょっとした壮観である。

 気になる翻訳なのだが、いくつか既訳と比較してみた範囲では省略などは特に見受けられず、完訳と言って差し支えないものであった。また、以前の矢野浩三郎訳であったカール・ジャコビ「黒の告知」(『黒い黙示録』収録 国書刊行会87年)と、第8巻『吸血鬼』収録の同短篇の比較でも、漢字や言い回しなどで対象年齢層に配慮したと思われる形跡がうかがえるが、逆に言えば、だいぶ手直ししてるってこと。かなり気合の入った仕事振りと、ぼくは見た。

 そうそう、刊行ペースも気合入ってたね。こういう児童書のシリーズ物は図書館需要が最大のターゲットなので、まず春に完結することが絶対条件となる。そこから逆算して、1巻目の奥付が98年6月30日。月イチで4月には完結の予定でした。ところが第3巻で早くも一月遅れとなり、第5巻が2月15日。こりゃあ、取り返しが付かんわィ、と思ってたら、その後の快進撃がスゴかった! 6巻目から順に、4月25日、4月15日、4月20日、4月25日、4月30日!! 一体、本の製作でこんな離れ業、可能なのか? 第6巻と第9巻の奥付が一緒なのはご愛嬌。ちゃんと巻を追って発売されてたから、時空を歪めて奥付を遡らしてしまう程、現場は修羅場だったことが想像出来よう(笑)。名高い作品ながらも、今新刊で読むためにはこのシリーズしかない!というのも多数収録された『恐怖と怪奇名作集』。大型書店でも揃えてる所はマズ無いから、迷わず注文しよう!

 続いては、気合の入っていない刊行ペースで、やっと6月に完結した…なんてウソです嘘ですゴメンナサイ! とにかく出版されたという事実だけで、もう何も言いますまい。ぼくはそれだけで、純粋に嬉しい。その叢書の名は《魔法の本棚》(全6巻 国書刊行会)。掉尾を飾るは、アレクサンドル・グリーン『消えた太陽』(沼野充義・岩本和久訳)。

 この、待ち望まれた最終配本にこぎ着ける迄の道程は、決して平坦ではなかった。イキオイでまた奥付を確認してしまおう(笑)。第1回配本、A・E・コッパード『郵便局と蛇』(西崎憲訳)が96年6月20日で、以後隔月にて刊行される予定であった。ヨナス・リー『漁師とドラウグ』(中野善夫訳)、H・R・ウエイクフィールド『赤い館』(倉阪鬼一郎・鈴木克昌・西崎憲訳)までは順調だったが、第4回配本リチャード・ミドルトン『幽霊船』(南條竹則訳)が97年4月25日、第5回ロバート・エイクマン『奥の部屋』(今本渉訳)は97年9月20日。そしてズルズルと延びてしまっていた、待望の最終巻『消えた太陽』が99年6月25日。3年に渡った大団円である。

 ご覧の通り、少数の人々に愛されて来た作家たちゆえ、本邦初訳多数収録にして本邦初単行本、あるいは初作品集ばかりである。失礼ながらも、冒険を伴う意欲的事業だというのは想像に難くない。

 しかしそれ以上に特筆すべきは、この叢書の「書物」としての美しさだ。内緒だけど予告の段階では買うつもりが無かった。でも初めて現物を目にした時…。かつてこれほど秘密めいた本があっただろうか。華奢な造りの函に、ちょっと擦れただけで霞んでしまう帯を纏い、脆く儚く、それゆえ虜にして離さない魔力がいや増すばかり。ハッキリ言って、一目惚れ。手にする度にその美しさを堪能し、喜びと、ある種エクスタシーに似たものさえ感じるのだ。「…前から心配だったけど、アイツは思った通り(以上に)ヤバイらしい」と避けられたって、かまうもんか!

 長文の解説は作家論としても充実、書誌も完備して言うことなし! 装幀者妹尾浩也、編集者藤原義也、辛抱強く完結させた国書刊行会と支えた読者たち、皆に感謝しよう。

 「怪奇と幻想、人生の神秘とロマンス、失われた物語の愉悦と興奮を喚びもどす、書斎の冒険者のための夢の文学館。」(内容見本の惹句)という言葉に相応しい、まさに魔法の香りのする書物である。

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