SFセミナー2005レポート その1

 2005年5月3日(火)、東京・御茶ノ水の全電通労働会館ホールにて、SFセミナー2005が開催されました。当日は晴れてよい天気。10時開場、10時45分開演。

 :以下のレポは、すべて私の手書きメモから起こしたもので、発言をテープにとったりは一切してません。あくまで自分の記憶から書いてますので、確実にこのとおりにしゃべったというわけではありません。まあこんな感じでした、という程度に会場の雰囲気だけ受け取めてくだされば幸いです。

「正しいライトノベルの作り方?−疾走する作家、桜庭一樹のスタイル」

「異色作家を語る」

「SFファンの引越し」

「鈴木いづみRETURNS」


 1コマ目は「正しいライトノベルの作り方?−疾走する作家、桜庭一樹のスタイル」と題して、ラノベ作家である桜庭一樹氏とその編集者であるスペース・K氏のインタビュー。出演は他に三村美衣氏、司会はタカアキラ ウ氏。

 まず幕が上がるや、驚きのあまり叫びそうになってしまいました。さ、桜庭さんて女性だったの!?しかもちっちゃくてかわいくて、超キュート!ハチクロのはぐちゃんみたい!最初は緊張のせいか、口数も少なめで声も小さかったけど、話してるうちにだんだん慣れてきたのか、あれこれよく話してくださいました。

 現在の桜庭さんにいたるまでの、デビューやその後の過程を追っていくという形で話が進められました。(ネットのほうぼうで絶賛されてるのは目にしてましたが、私は未読なので、間違ったこと書いてたら指摘してくださいませ。)

・1999年、ファミ通文庫の第一回新人賞佳作でデビュー。同時期にデビューした方に神野オキナがいる。聞いた話だと、自分(桜庭さん)の作品は選考のときに中村うさぎが誉めてくれたとか。

・ラノべは作家を編集が自分のレーベルに囲い込みしがちなんだけど、ファミ通文庫は当時あまり本が出てなかった。その当時の担当さんはすぐ別会社に行ってしまい、それで他の出版社を紹介してくれた。「飲んでてー、そういう話になることが多いです(笑)」作家や編集さんのつながりの中で、仕事が来ることが多い。

・スペース・Kさんは新卒で富士見に入って、初めてラノベの編集をすることに。作家との雑談から、相手の興味あるものを拾ってまとめていって、「じゃあ次はこんなことをやろう」というふうに話がまとまることが多い。桜庭さんは、お会いする前の情報では「縄文文化に詳しい女性作家」と聞いていた(会場爆笑)。普通は共通の趣味から話をふっていくんだけど(「今週のデスノート、死んじゃったねえー!」とか)、土器か…。最初に「最近の土器どうですか」とか話をふって、寒い打ち合わせに(笑)。

・編集さんにもそれぞれいろんなやり方があって、編集がほとんど話作って作家にポンと投げる人もいる。Kさんはそういうやり方でなく、作家のいいところをうまく引き出してくれる。桜庭さんいわく、「”クドウマジック”と呼ばれています(笑)」。

・桜庭さんは自分で企画をいくつか持っていったんだけど、その中に本当に縄文ミステリがあった。科学がない時代という設定でミステリをやってみたかった。その当時、富士見ミステリー文庫はレーベルができたばかりで、方向を探っていたところで、当時はいろいろ混ぜちゃえ〜というカンジだった。『GOSICK』はそのレーベルの顔を作ったといえるかも。最初はこれも魔法オッケーな世界で首が取り替えられる、とかいう設定だった。今じゃよく覚えてないけど。桜庭さんがミステリーがとても好きだったので、あれこれやってるうちにミステリーに寄ってきた。

・富士見ミステリー文庫のリニューアルの時に『GOSICK』1巻目が出た。そもそも、このレーベルは、少年漫画の影響を強く受けていて、戦いやアクションが不可欠だった。ミステリー文庫と銘打っておきながらどんどんミステリーから離れていって、とにかく試行錯誤していた。そういういろんなものがある中で、ロジカルミステリが入ってると目立つかな、と。

・三村さん「富士見ファンタジア文庫から分離してミステリー文庫を作ったのは?やっぱり幅を広げようとして?」
 Kさん「女性読者を獲得したかったのと、低年齢向きを攻めていこうと思ったから」
 桜庭さん「ファンタジアとミステリーとどっちでやりたい?と最初に聞かれて「ミステリーで!!!」と答えた」

・『推定少女』はいろんな要素をいれたんだけど、真ん中に謎をいれて書いた。恋愛要素を入れることになって「う〜ん、恋愛か〜」と思ったけど、「そうだ!恋愛を謎ととらえて書けば書ける!」と思った。『AD2015』はパラレルワールドを舞台にして、ファンタジーなどの世界設定の上にミステリーを書いた。油断してると、ラノベっぽくないものになっちゃうので、気をつけてる。

・『赤×ピンク』は六本木の廃校で地下プロレス(ドロレス)をやってる女の子たちの話なんだけど、女の子の心情描写に思わずドキッとする。「ファミ通でいいのか、こんな話!?」と思った>三村さん。これは新人賞出身作家を集めて出す時に書いたもの。最初は男の子を主役にして、彼をとりまく女の子たちの話にするつもりが、書いてたらこうなっちゃった。断られるだろうと思って送ったら「面白いけど会議通してみる」と編集さんに言われて、後日「通った」と言われて冗談かと思った。「誰も反対はしなかった、こういうことは珍しい」と。

・三村さん「どちらかといえば、『赤×ピンク』って女の子向けの小説ですよね。男の子が読むとキツイんじゃない?」
 タカアキラさん「びっくりした。ファミ通文庫って、すごいの投げてくるなーと思った。装丁は高橋しんで、帯取ると女の子がグローブつけてて、あれ?と思った」
 桜庭さん「最初はあまり売れなかったんですよ。平台で、他の作家ばかりバーッと売れててへこんでて、テトリス?みたいな。もう死ぬしかないと思った(会場爆笑)。今年になって、『GOSICK』のあおりを受けて、最初の頃出してた本がアマゾンのマーケットプレイスなんかで高値になって」
 三村さん「今そろばんはじいちゃった!(笑)」

・『赤×ピンク』は本屋じゃ売れなかったけど、作家さんや編集の方には「よかったよ」とよく言われる。少年少女でなく、むしろ大人が読むものかもしれない。(「確かに、文芸誌に載っててもおかしくないと思う」>三村さん)売れなくて顔に縦線入ってたら、「レーベルとしては幅が入って、意味があったと思います」といわれた。自分でも仕事の幅が広がった。で、こういう引き出しがあるなら、とKさんがすすめたのが『GOSICK』。

・ああ、こういう一般小説に近いの、やっていいんだ、と思った>Kさん。作ってて面白いのは確か。これをミドルティーンがどう受け止めてくれるか興味ある。ファンレター見てても、素直に読んで書いてきてる子が多い。

・「ドラゴンカップ」っていう、読者に選ばせて作家を競わせる、小説のM1グランプリみたいなのがあって、これで「せーの」でいろんな作家の短編が載るんだけど、『GOSICK』はその短編のひとつとして書いた。「出る?」「うん!」「じゃあ今すぐ書いて!」って言われて、1時間半で企画書いた。今から空手に行くところだったのに〜。

・雑誌の部内編集会議ってのがあって、そこで編集者が自分の担当作家の企画をプレゼンして、短編を書かせて、さらにひともみして長篇書き下ろし、で本が出る、というだいたい10ヶ月くらいかかるしくみになってる。

・結局、『GOSICK』は最初に出した企画と全然違うものになった(笑)。最初はKさんはツインピークスが大好きなので、小説でそれをやりたかった。終わり方がすごいヒキで、次回はそのネタ一切拾わないで始まるという。伏線は拾わない(笑)。でも桜庭さんは伏線拾うの大好きなので、「そりゃないだろ」と思った。

・いつも女の子視点だったので、今回少年を主人公にした話が自分に書けるのかすごく不安だったけど、でも書き始めたらノリはじめて、幅が広がって自信にもなった。それまで女の子2人組というのが多かったんだけど、考えてみたらそれまでの担当が女性だったせいかもしれない。「ふたりで頑張ろうね!」みたいな。

・作家と編集というのは、確かに共同作業の部分がある。特にラノベはマンガのつくりかた(ジャンプとか)に近いかも。担当と打ち合わせしながら、キャッチボールしながら決めていく。今、ラノベと単行本とコミック原作やってるけど、みんな違う。今度、東京創元社から「ミステリフロンティア」のシリーズのひとつとして単行本を出すんだけど、創元さんは「何が書きたいの?」って聞いてきた。
三村さん「それって本格ミステリ?」桜庭さん「ううん!」(会場爆笑)「『砂糖菓子〜』が一番近いカンジ」

・『砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない』はラノベをすごく意識して作った。
 三村さん「これはつらくて悲しい話。楽しいことはひとつもない!読んでて楽しいんだけど。児童虐待モノ」
 Kさん「これはすごい!いいから出しちまえ」と。
 桜庭さん「これもどうかなあと思ったけど、わりとスムーズに出た。気をつけたのは、「大人の視点を出さない」ということ、「お約束を入れない」ということ。これは必ず読んでるだろう、という古典なんかを入れない。まだ読書経験の浅い、年齢の低い子が読んでもわかるように、と。逆に創元の「ミステリフロンティア」は大人の視点を出して大人が入り込むための装置をつくって、お約束も入れた。

・三村さん「SFも読むんですか?ここ(会場)の人たちは、自分の知ってる本の話が出ると喜ぶので(笑)」
 桜庭さん「ティプトリーとか、神林さんが大好き。『七胴落とし』大好き!『完璧な涙』とか『ライトジーンの遺産』とかも。最近のSFだと『神様のパズル』がよかった。宇宙の話からだんだん世界が小さくなってきて、最後きみとぼくの話で終わるっていうのが。あとは思春期的なものが入ったものが好きみたい。『キリンヤガ』が大好きで、『GOSICK』の2巻でちょっと使ったんですよ。ほかに好きなのはデニス・ダンヴァースの『天界を翔ける夢』(ハヤカワ文庫)とか」

・今後の予定は、今月5月20日に新シリーズ『荒野の恋』の第一部が出ます。ファミ通文庫。3部作の予定で、次は秋か冬。
7月に『GOSICK』の短編集が出ます。ドラゴン・カップで書いたもの。本編の前の話なんで、ここからでも読めます!
9月に東京創元社から「ミステリフロンティア」のシリーズとして書き下ろしが出ます。タイトル未定。


 お昼休憩をはさんで、2コマ目は「異色作家を語る」。出演は舞台向かって右から牧眞司氏、浅暮三文氏、中村融氏、司会のダイジマン。異色作家とは何か、という説明から始まって、お三方のオススメ作品を紹介していただきました。それぞれの偏愛する異色作家短篇集20冊、として印刷物が配布され、それをもとにお話が進められました。

・異色作家、というくくりは日本独特。そもそもは1960年に早川書房が『異色作家短編集』を刊行したのがはじまり。ロアルド・ダールやスタンリー・エリンなど、ミステリ作家の中でちょっと変わってる人たちを集めて、ミステリの行き詰まりを打破するために、ファンタジーやSFのファンの方々にも楽しめるようなシリーズを作った。シリーズは全18冊にまで及んだ(今でも『新版・異色作家短編集』のほうは発売中)。そもそも、「異色」とはミステリとかSFとかいうジャンル意識があって初めて出てくるもの。そこからはずれたものだから。

・日本人はもともと、わりと異色系の作家が好き。サキとか。乱歩なんかも早いうちから「奇妙な味」というものに注目していたし、日本ミステリ読者の中でこういうのが好きな人はもともと多かった。フレデリック・ブラウンなども人気があったし。今でも読者がいる。少ないけど。

・最近、晶文社がミステリ系の異色作家を出してるけど、河出の奇想コレクションは昔の青心社のSFシリーズに似てる気がする。

・中村氏はぶっちゃけ、テリー・ビッスンを作りたかった。「僕がやるからSFになっちゃった」>中村氏。僕がやるからには、SFど真ん中はやめよう、宇宙が舞台とかのわかりやすいSFじゃなく、地続きの現実から始まるSFを扱おうと思った。本当は文庫でSF作家の短編集を作りたかったんだけど、出版社の意向でダメだった。だから仕方なく、ハミルトン(『フェッセンデンの宇宙』)を入れた。これは僕の汚点(会場、笑)

・中村氏「中学時代から悪魔に興味があって、『悪魔物語』(ミハイル・ブルガーコフ、集英社)というのを読んだら、これがすごくヘンな話で、それで異色作家が好きになった。

・浅暮氏「昔、ヘルマン・ヘッセを読んで、肌に合わなくて挫折した。ファラデーのロウソクの科学もあかんかった。小学生の頃。で、ハヤカワの異色作家読んだらこれは面白かった。ジェイムズ・サーバーが大好き(今日のTシャツもサーバーTシャツ。初めておろした(笑)。)思いいれがある。異色に欠かせないのは「笑い」だと思うのね。奇妙な笑い。今でいうたら『1人の男が飛行機から飛び降りる』あたりにいく流れ。

・異色作家に「ブラックな笑い」というのはある。ディッシュとか。黒い笑い。サーバーは諧謔味がある。シニカルな笑い。バーセルミも諧謔味。「バーセルミは赤塚不二夫だと思ってる。天才バカボンが大暴れしてるみたい」>牧氏。

・レムは、笑うのに高度な教養が必要。『虚数』とか。普通の笑いがあまり面白くないのが難点。「笑い」って実はすごく難しい。カフカなんて純文として扱われてるけど、こんなのカフカの友人なんかはゲラゲラ笑って読んでたわけで。カフカって、今、あまりにも読まれてなくてびっくりした>中村氏

・牧氏「もともとSFファンで、真面目な子供だったので、いかにもSFなSFを真面目に読むんだけど、すぐに飽きちゃう。ハインラインとか、2,3冊で飽きる。で、ブラッドベリやブラウンのほうが飽きないのね。ミステリも、クイーンなんかも飽きる。チェスタトンのほうがいい。どうも自分は、どんなジャンルでも、ど真ん中、本格じゃないほうが好きみたいだと気がついてきて、どんどん興味がそれていった。そうすると面白い作家が掘り起こされてくる。異色作家は、読むまで何が出てくるかわからないのが魅力。本格はだいたい方向がわかっちゃうけど」

・中村氏のオススメ…エリック・マコーマック『隠し部屋を査察して』、イアン・マキューアン『最初の恋、最後の儀式』、ヴィクトル・ペレーヴィン『眠れ』。イアン・マキューアンは数学SFなので、SFファンならぜひ!『眠れ』は、ロシアのペレストロイカを描いたもの。これを読んで初めて、政治的にじゃなくて民衆の実感としてのペレストロイカがわかった。ハインラインの『輪廻の蛇』は、名前かくして読むとブラッドベリみたい。カーニバルとか出てくるし。カポーティもそんな感じ。ブラッドベリが最初に雑誌に投稿してきたとき、雑誌の方向と全然違うので、載せるかどうか悩んだことがあったんだけど、そのときに一読して「絶対載せろ」と言いはったのがカポーティだったそう。

・浅暮氏のオススメ…ジョン・スラデック『スラデック言語遊戯短篇集』、ジュリアン・バーンズ『10 1/2章で書かれた世界の歴史』。スラデックは、記号や絵が入ってる話が好きだから。原稿少なくてすむでしょ(笑)。ジュリアン・バーンズは、白水社uブックスがけっこう好きなのね。これはキクイムシが密航するその手記。虫が「ノアの方舟のノアはとんでもないヤツだった」って書いてるの。ウディ・アレンは都市の笑いね。ワニの話とかおもろいんやで。スリッパの話とか。

・ここで中村氏が爆弾発言。「誰もテリー・ビッスンをわかってない!100人中、1人か2人しかわかってない。『ふたりジャネット』の感想をネットなんかでよんでもうがっかりした。もう紹介しない!一度だけ言いますよ、「ふたりジャネット」はお母さんの願望が外に出てるだけの話なんですよ!この人の小説は全部そうなんですよ!」浅暮氏「…わかりませんでした(笑)」

・牧氏のオススメ…レオノーラ・キャリントン『恐怖の館』、モーリス・ルヴェル『夜鳥』。僕はむしろ洗練されてない、ざらざらした味のある小説が好き。アメリカはマーケットやジャンル内の事情で、どんどん洗練化・標準化されていっちゃう傾向にある。最近だとケリー・リンクとか。だからヨーロッパ系のほうが好き。『夜鳥』なんかは実も蓋もない残酷な話なんだけど、いい。ミルハウザーはアメリカだけど好き。カポーティから始まる、ひとつの流れの完成形。その中にある、もやもやした毒がいい。ブラッドベリはわかりやすくてインパクト強い。スタージョンはロジックの異色性がいい。

・今後の刊行予定は、奇想コレクションが全12冊出る予定。あと3冊くらい増えるかも。今言えるのはそれだけ。外国のOK待ちなので、まだ作家名も言えない。このシリーズ、海外モノにしては非常に成績がよくて(とはいえ4ケタ)、全部重版がかかってる。スタージョンとビッスンは3刷りまでいってる。浅暮氏「ビッスンもまた訳してほしいよねー」(会場、拍手)。

(レポの間違いなどのツッコミがあればお知らせくだされば幸いです。 05.5.5 安田ママ)

その2へ