SFセミナー2005レポート その2

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 3コマ目は「SFファンの引越し」。本やら映像関係やらで、SFファンはとにかくモノ持ちが多い。そんな人々の引越しの苦労やノウハウを教えていただきました。会場は、爆笑につぐ爆笑。SFセミナーとしては異色の企画でしたが、大変面白うございました。出演は舞台左から風野春樹氏、門倉純一氏、大野修一氏、司会の牧眞司氏。

 ・大野氏…去年のゴールデンウィークに引越し。「1年経ってまだあれか(笑)!」>牧氏
 築35年で、取り壊しが決定したので出て行くことに。自分が一番最後までいたので、隣部屋が空いていたため、そこに荷物を出すことができたためにやっと引越しができた(笑)>自室に荷物を詰めるスペースなし。流しの中にも本が入ってたし、冷蔵庫の前にも本があって、扉を開けることもできず。「中身わかんない。入ってたかなあ…」間取りは6畳、8畳、キッチン4畳半。引越し先は6畳、4畳半×3、キッチン3畳。

・門倉氏…98年に引越し。SFファン&作家の奥さんと結婚したが、とにかくLD,ビデオ、レコードがいっぱいで、「普通に暮らすスペースが欲しい」と言われて転居。以前は97ヘーベー。地下室を作ろうと思い、基礎が地下の住宅を探した。新居は57ヘーベーで、地下室と1Fと2Fがある。地下が書庫&AVルーム、1Fと2Fは普通の住まい。友人が来ると「まだ(本)置けるじゃん」といわれる(笑)。年間で70〜100枚くらいCDは購入。

・風野氏…今年の2月に引越し。前のマンションは70ヘーベー。全ての部屋が本でいっぱいで、妻の両親が以前は和室に泊めていたけど、そこもいっぱいで泊められなくなってきて、これはマズイ、と。良好な関係キープのために引っ越した。新居は一戸建て、2倍くらいの広さ。14畳の本部屋があって、「ここから一切本を出してはいけない」と奥さんに言い渡されている(笑)。可動式の棚(手動、ハンドル式は高かったので)を7本入れた。

 ここから、スライドで間取りや実際の部屋の写真を見せつつトーク。

 ・大野氏…部屋の間取り図がアップ。次に、ここにどう本が入っていたかをアップ(会場大爆笑)。ちょ、ちょっと!空間がないよ!地震があったら間違いなくオダブツですよこれは!大野氏いわく「きっちり積めばね、崩れないんですよ(笑)」そういうもんですか!?これじゃどこにどの本があるかわかんないでしょう!「カンでわかりますよ。多分あのへん、とか」。次にSFセミナースタッフが先日手伝いに行った写真をアップ。また爆笑。廊下も部屋も、とにかくぎっちり段ボールだらけ!!新居の一部屋は、本の入った段ボールだけで床から背の高さくらいまで一面びっちり。全部で230箱くらいだったとか。まずは本棚を買わないと、というのでいったん廊下などに入れた段ボールをまた外に出して、本棚を購入して部屋のあちこちに置き、それから棚詰めしたそう。しかしすでに寝室にも床に積まれた本が…(笑)。しかもまだ100〜150箱くらいは4畳半の一室にそのままになっており、さらに会社の机まわりに10箱くらい本があるそう。

・門倉氏…引越し屋さんをして「史上最大の作戦」と言わしめたそう(笑)。見積もりによると、3人家族4件分くらいの量だった。あいにくちょうどそのとき自分は入院してしまったので、すべて引越し屋さんと奥さん任せ。まず水抜きのために地下のコンクリートの上にすのこを敷き、段ボールを入れた。いったんその段ボールを業者に預け、ホームシアターを制作。これが実に素晴らしかったです。画面はほぼ成人男性の身長くらい。音響機器もすごく凝ってました。金持ちだ…。電気を食うので、地下に電気のブレーカーが3つあるそう。ここにレコードとCDが各2000枚、LDが900枚ほど収納。大変だったのは水抜き。1年かかった。でもおかげで非常に快適。

・風野氏…コクヨの業務用稼動書棚を買い、これを入れたいといってあちこちの業者に図面を書いてもらった。本部屋を2Fに設置する業者もいて、わかってないなあとそこはやめた。結局、1Fの床にコンクリートを補強するという図面を書いてくれた業者が一番わかってるな、と思ってそこに頼んだ。ここで新居の写真アップ。キ、キレイ!!!美しい!!!本棚と本が、実に整然と並んでおりました。いいなあ〜。壁に作りつけの文庫棚は、2列に入っており、奥の本は下にビデオテープを敷いて高さを出し、背表紙が少し見えるようになっている。「全ての背表紙を見るのが夢だったんですが、見果てぬ夢に終わりました(笑)」
引越し屋さんに段ボールを置いてきてもらったんだけど、大きいのと小さいのがあり、大きいのは本を詰めると、とてもひとりじゃ持ち上げられない重さになってしまうので、小さいのを100箱もらった。

 (だいたい、引越し屋は本に関してはまったく見積もりが甘い!業者も全然わかってない。「僕は”この箱のサイズは切れました」って言われた。リサイクル箱はタダって言われたのでそれを使った」>大野氏。)

 以前の引越しでは、トラック2台を借りたけど全然運べなくて、何度もピストン輸送。段ボールも足りなくて、運んでは出してその箱をまた持っていく、を繰り返し。見積もりでは見えないところにいっぱい本があったので、ベッドの下や靴箱を開けては引越し屋さんが「ああ、こんなところにも…」と絶望的な顔をしていた(会場爆笑)。

 稼動書棚のレールは床に埋め込んである。これを入れるってことで、設計をしてもらった。一式100万ほど。最大限に本を入れるには、この方式はいい。むしろリーズナブル。少々空間があるけど、「もっと狭くてもよかった」(会場爆笑)。そしたらもっと本が入れられたのに。牧氏「あと4,5年でいっぱいになっちゃうんじゃないの?」
風野氏「まあそのときはそのときで(笑)」

・牧氏…数年前に引越しをしてその時に本部屋を設置したが、また足りなくなって最近増築(会場笑)。高さ2800の天井までの移動書棚を設置。

・大野氏の爆笑発言多数。
 「パンクしてないっすよ、まだ歩けるもん」「時々実家に送りつけてる、そのために親には長生きしてもらわないと」(ここで牧氏「僕なんかお袋いなきゃまだ本が置けるのに、と思う」と鬼の発言(爆))
 「僕は全然コレクターじゃないけど、どんどん買っちゃうの。もう病気。脳みその一部みたいなカンジ」(ここで牧氏「でも上下巻とかバラバラじゃん」門倉氏「僕は時々詰め替えなおすよ、整理する」)
 「どうせ持ってる本全部、一生かかったって読めないですよ!一期一会ですよ!引越し前まではどこに何があるかうっすらわかってたけど、今はもう全然わかんない。記憶喪失みたいなもん」

・牧氏「SFファンの引越しには、門倉さんや風野さんのような計画性か、もしくは本人がダメでも知り合いが見るに見かねて手伝ってくれる大野さんのようなカリスマ性が必要かも。ただし、友人を頼みにするのは要注意。途中でヘバる可能性あり。ヘタに本好きだと貴重本を持っていかれる可能性があるので、体力があって、本に興味がない友人が最適(笑)。引越し屋さんだと帯が切られる可能性あり。ただ、プロだからあとくされなく、最後まできっちりやってくれる長所あり」
 「引越し屋さんは見積もりの人と実際に運んでくれる人が違うので、見積もりが甘いと「誰が見積もり取ったんだ!!」と運ぶ人が怒ってることが(笑)帯3冊くらい破かれてカッとしたけど、あっちのほうがはるかにカッとしてると思う(笑)」大野氏「僕は段ボールに鉄板入ってんじゃないの?って言われた(笑)」

・値段は時期によっても違うので要注意。牧氏は梅雨入りの頃だったので安かった。25万〜50万。風野氏は40万くらい。

 とにかく、出演者の皆様のケタ違いの本の量にただただ驚愕でありました。うちなんて、これに比べたら全然本ないです(笑)。ええ。そして、お金持ちってうらやましい…と思いました。あっぱれ!


 最後のコマは「鈴木いづみRETURNS」。出演は舞台左から森奈津子氏、高橋源一郎氏、司会の大森望氏。

  来年が没後20年になるという今、再度SF作家という視点から鈴木いづみを見直そう、という企画。知らないことだらけだったので、非常に勉強になりました。

大森氏「(会場の)この中で、鈴木いづみをこの企画の前から知ってた人」(けっこう手があがる)

高橋氏「おお、すごいね。純文じゃこうはいかないよ。レベル高いね」

大森氏「高橋さんはSFセミナーに1989年に来たことあるんですよね。「高橋源一郎、SFを語る」というテーマで」

高橋氏「覚えてない…記憶なくて…」

大森氏「この中で、その時のセミナーに来たことある人」(ごく小数)「おお、新陳代謝があるってことですね!(笑)」

高橋氏「いいなあ。僕なんて野間宏の会に行くと、平均年齢60歳以上で、毎年数が減っていくの(笑)」

大森氏「で、鈴木いづみなんですが、没後20年になろうというのに選集が12冊も出てる!僕の中では、ディックとスタージョンと鈴木いづみ、っていうくらいで。今回高橋さんに声をかけたら、「鈴木いづみでSF?ああ、そういやSF作家ですもんね」という認識。森さんは以前京フェスで牧野修さんと「SFとエロ」について語ったくらいだから、もう怖いものないですね!(笑)」

高橋氏「僕は80年代のどこかで、まず鈴木いづみの名前を聞いたのね。伝説のサックス奏者の奥さんとして、だったと思う。すごく変わったもの書いてる、っていうアンダーグラウンド伝説があって。で、小説を読んで”70年代のエッセンスみたいな人だな”と思った。そのときはSF読んでなかったのね。そのあと解説書くことになってSFも全部読んで、”もうちょっとよく読んどくべきだった!”とすごく反省した。先に『ハートに火をつけて!』とか自伝をメインに読んで、SFはあとから読んだんだけど、逆にすべきだった!」

「今回、これに出るんで全部再読したんだけど、前読んだときよりおもしろかったね。これこそSFじゃないか!と。オーソドックスなSF。SFのガジェットの使い方って難しいんですよ、ロケットとかね。SFはガジェットを使うべきだと思うんですよ。だけど『恋のサイケデリック!』なんてSFガジェット一切入ってないのに、SFを読んだ気になる。60年代のファッションやなんかが、パラレルワールドに見えるのね。田中康夫の『なんとなく、クリスタル』に似てる。あれってSF読んでる気がする。これを読むと、誰にでもSFは書けるのかも!という気になる。実際は書けないんだけど。つまらない現代を、つまらなく書くのが田中康夫で、面白く書くのが鈴木いづみ」

大森氏「いづみは、何の脈絡もなく、現実が書割のようにバラバラに壊れるんですよね。このへんがスタージョンやディックっぽい。長篇はSF以外が多いけど、短編はSFのほうが出来がいい」

森氏「私は今まで立ち読みでしかいずみを読んだことがなくて、高校の頃ダイエーの2階でハヤカワ文庫の『恋のサイケデリック!』を立ち読みしたんですが、グループサウンズがわからなくてダメだ、と思って他の文庫を買ったらそのうち絶版になってしまって」

大森氏「この人のって、普通に読むと、頭おかしい人の話なんだよね。電波な人。純文だと暗くなるけど、SFだとそこでホントに宇宙人が迎えに来ちゃう(笑)。ティプトリーにもそういう話があるけど、嘘の救済を用意することが一種の救いになってて、読むほうもつらくなく読めるんだよね」

高橋氏「暗い話多いよね。明るい編と暗い編があるけど、僕は暗い編が好き。文章が翻訳のヘタなやつみたいなの。わざとなのか、精神状態のせいかわかんないけど、言葉に実感がないのね。翻訳言葉をそのまましゃべらされてるみたい」

森氏「私は「夜のピクニック」が好きです。読んでて笑っちゃいました」

大森氏「あれは最もジャンルSFに近い小説だよね。『地球人のお荷物』っていうユーモアSFみたいなんだけど、ああいうかわいい話にはならない」

高橋氏「書割のカンジがあるよね。この裏には何もない。70年代前半からの曲やタレントが出てくるんだけど、今でも出てる人もいる(いかりや長介とか)。でも同世代感覚が全くない!彼女が好きな映画とか音楽とか、みんな自分と同じなのに。こういうのって、男が使うとセンチメンタルな感じになっちゃうんだけど、いづみが書くと、僕が聴いた曲じゃないみたいに思えるんだよね」

森氏「私は昔たのきんが大嫌いで、テレビに出てると消しちゃったりその場を離れちゃうくらい嫌いだったんですけど、いづみが書いたものを読むと面白いんですよね。ヘタとか言いながら、面白がってる。「あー、気づかなかったよ」みたいな」

大森氏「彼女は80年代になってから、「GSおたくになろう」と思ってレコード集めたりしてたみたい。ホントには好きでないような気がする」

高橋氏「「ペパーミント・ラブストーリー」っていう、8歳の少年と28歳の女性の恋愛ものがあるんだけど、こういうのも女性性をSFで書こうとしてるのね」

大森氏「笙野頼子は鈴木いづみの「女と女の世の中」のリメイクだ、ってどっかで読んで「なるほど!」と思った」

高橋氏「そうそう!まさか二人が同じ軸にいるとはね!正反対に見えるのに。笙野頼子もある意味SFだしね」

大森氏「女流文学的には、いづみの位置づけはどんな感じなんですか?」

高橋氏「ない!文学史に彼女のページはないの。「あの人はSFだから」って言われる。ああいう派手なファッションの人は、純文じゃないのよ。ああいうのが認められるようになったのは山田詠美以降ね。鈴木いづみは早かったんだよね。「早すぎた80年代作家」と呼びたい。70年代の重苦しいのをがらっと変える、というのをやった。この書き方で、80年代でデビューしてたら、とんでもないことになってたかもね」

森氏「性的にも逸脱してたし。まだ早かったんですね」

大森氏「露出がものすごく多かったんですね。AV女優、ヌード写真など。11PMで眉村卓と会ったのが縁で、SFを書けと言われて書いてもってって、それがSFマガジンに載ったんですよ。11PMに出なければ、SF作家としての鈴木いづみはいなかったかもしれない(笑)」

高橋氏「岡崎京子にも似てるよね。出てくる少女像が。資本主義がガジェットで、全身にまとうそのスピード感とか。そのスピードのあまり、現実に激突してしまう。岡崎京子の『うたかたの日々』の漫画化なんて前人未到ですよ。すごかった!ボリス・ヴィアンと岡崎京子にあんなに親和性があるとはね。で、これがそのまんま、いづみになっちゃう。この3人はすごい似てるよね。ヴィアンもある意味SFだし。無駄なSF設定とか使ってるじゃない。半人半ロボット、みたいな。いづみは何にでも似ちゃうわけ。まねてるわけじゃないんだけど」

大森氏「午前の部でやってた、桜庭一樹もいづみに似てませんか。今、若い子は桜庭一樹に衝撃を受けてる。カッティングエッジな部分を、今読んでもいづみは持ってる。痛々しさや、ふてぶてしさや。いづみとその夫の生活が『エンドレス・ワルツ』という小説に書かれて、映画化されたんですよ。SF作家でそんな人、他にいなかった」

高橋氏「純文の作家って、ひどい人ってイメージなんですよ。家族を犠牲にし、ボロボロになって。吉行淳之介なんてなんの役にも立ちませんよ!でもSF作家はいい人が多いというイメージ」

大森氏「破滅型作家がいませんよね」

高橋氏「僕もSF作家のようになりたい。何よりも家庭を大事に!昔、純文作家って明け方まで飲んでるのが普通だったでしょ。SF作家って、そういう人いないよね」

森氏「いづみの本読んでると、つい私生活と結びつけちゃうんですよね。匿名にしてあるけど、これはあの人だろうってのがわかっちゃって。けどそれって、いづみにとってどうなのかなー、と」

大森氏「あまり違いがないよね(笑)」

高橋氏「書きたいことがあるタイプの作家だよね。だからSFでも何でもかまわないんだよ。希薄な現実に対面して、恋愛にも音楽にも現実感がない。小説書かなきゃ、ただの面白い女の人だったんだろうね。彼女には、それがフィクションでも、現実でも、どっちでもいいんだよ。区別がないの。現実もフィクション、みたいな感じ。作品によってはメタフィクションだよね。ノスタルジーじゃないんだよ、瞬間冷凍されてるの。30年前のガジェット出ほうだいで、しかも今読んで面白い。こういうタイプの人っていなかったよね」

大森氏「大原まり子が継ぐかな、と思ったけどそこまでには至らなかった」

高橋氏「このスピードでいったら、カーブ曲がりきれなくて事故起こすよね」

森氏「私、フェミニズム小説とか読んでると、いかにもフェミニズムをお勉強して書きました、みたいな女性作家の作品があるんですよね。つまんないなーって。でもいづみは勉強した感じじゃない」

高橋氏「この人のSF読んでると、SF書きたくなりますよ!これ以上の作品を書きたいな、ってのありますよ!こういうやり方でSF書いたらいいなと思った。書きたいと思わせる作家だね」

大森氏「じゃあこれからまた高橋さんはSF作家として作品を書いてください(笑)」

 非常に熱い対談になりました。鈴木いづみを読んでみたい!と思わせる説得力じゅうぶんでした。


 本会は以上、午後4時半に終了。このあとの合宿には、私は家庭の事情で不参加(泣)。うう、来年こそは!

 ちなみにお昼休みには『神狩り2』発売を記念して、山田正紀サイン会が開催されてた模様。私はディーラーでSF大会の申し込みと、東京創元社のピンバッチを2種類購入。

 大変充実した内容のセミナーで、桜庭一樹も鈴木いづみも未読という勉強不足で肩身の狭かった私でもじゅうぶん楽しむことができました。スタッフの皆様、ありがとうございました。お疲れ様でした。また来年もどうぞよろしく!

(なお、レポの間違いなどのツッコミがあれば、なんなりとお知らせくだされば幸いです。 05.5.6 安田ママ)