第弐拾話 AD物語〜16〜

 放送局の人間で、まともな健康体の人は、本当に少ないです。
 みんな体のどこかに病気を抱えています。
 
 そりゃそうですな。
 毎日浴びるほど、酒を飲んで、
 タバコをパカパカ吸って、
 で、しっちゃかめっちゃかの時間に暮らしてるんですから、
 お天道様が許すはずがありません。

 放送局の人間に、大人気の病気は、なんといっても、
 痛風です。
 圧倒的な人気を誇っています。
 ザ・ベストテン、12週連続1位の
「ルビーの指輪」もびっくりです。
 原因のほとんどが、ビールの飲み過ぎでしょう。
 
 オールナイトニッポンが終わって、深夜3時半。決まり文句は、
 「ちょっと、ビール飲みに行く?」
 ・・・です。
 往々にして「ちょっと」で済んだためしがありません。
 六本木に移動して、実際に飲み始めるのが午前4時。
 新聞屋さんが配達を始める頃、飲み始めるんですから、正気の沙汰じゃありません。
 ビールのおつまみにしたって、
 手羽先や、ピリ辛レバー、カマンベールもんじゃ、カツオのたたき、カレーイカゲソ揚げ・・・、
 寝る直前に食べちゃいけないようなモノばっかりです。

 飲み終わって、さあ、家に帰ろう、っていうのが朝7時くらい。
 ひどいと、朝9時〜10時になっちゃってることもあります。
 世間のお父さん達が会社のデスクにつこうかってぇ時間に、
 六本木のど真ん中で真っ赤な顔してタクシーをつかまえようとしてるなんて、
 やっぱり、どっか狂ってる仕事です。

 ま、こういうことを5〜6年やってるディレクター連中は、
 まず、痛風の予備軍になっちゃってますね。
 半年に1回行われる「健康診断」の「尿酸値」の項目で、
 ビックリするような数値をたたき出してくれます。
 俗にいう「E判定」というヤツで、3ヶ月後に再検査です。

 この痛風予備軍の人たちには、例外なく、
 「食事制限」のお達しがきます。
 「卵、イカ、エビ、カニ、ビール、乳製品、焼き肉なんかを食べちゃダメー!」
 ってヤツです。

 ここで、人間の性格というモノが出ます。
 割とマジメな人は、きちんと食事に気をつけ、お医者さんに言われたことを守ります。
 一方、「もともと命は使い捨て」と考えちゃってるような人は、
 「今日、番組終わったあと、カルビ、焼きにいっちゃう?」
 ・・・を繰り返してます。
 言うまでもないことですが、この業界、後者に当てはまる人の方が、
 圧倒的に多いです。
 「健康診断」のたびに「尿酸値」の値が「ハイスコア更新」状態です。


 ・・・と、ここまでは、純正社員、及び、「サウンドマン」のような
 プロダクションに勤める人たちの話。
 僕らフリーの人間は、健康面に関して、彼らと全く違う点があります。
 それは、
 強制的な健康診断がない!
 ということです。
 そうなんです。フリーは「自分の体を自分で守らなきゃいけない」んですよ。
 でもね、よく言うでしょ?
 「病院に行くと病気にされる」って。
 僕もずっとそう思ってた人間だったんですよ。
 だから、大学を卒業したあとも、「健康保険」ってもんに入ってなかったんですよ。
 1年に1回、病院に行くか行かないかなのに、「保険」に金なんか払えるか・・・ってね。

 ところが、やっぱり、いいかげんな生活をしてると、ツケは回ってくるもんです。
 しかも、わりと早く。

 大学を卒業して、半年ほどたった、1993年・秋のこと。
 木曜日の深夜、オールナイトニッポンをやってる頃、
 妙に腰の辺りが重っ苦しいなぁ、と思ってたんですが、
 その翌日から、激しい腹痛に変わりまして、
 日曜日には、もう歩くたんびに、脇っ腹がキリキリと痛むんですわ。
 今までに味わったことのない、イヤ〜な痛みです。
 どんなに健康に気を使わないボクでも、こりゃヤバイ、と思い始めてました。

 それでも、仕事場には行かなくちゃいけません。
 「ガバッといただきベスト30」のスタジオに這うようにしてむかったのですが、
 番組開始1時間前には、「痛み」と「あぶら汗」で、もう1歩も動けません。
 いたしかたなく、番組担当の女性ディレクターに付き添われ、
 近くの救急病院に向かい、尿検査と血液検査を受けると、
 尿管結石の疑い有り!
 ・・・と診断されちゃいました。
 そんなに、アブラっこいもの、食ったかなあ。

 幸い、その時は、2時間くらい点滴をうって、痛みはおさまっちゃったんですが、
 あれから、4年、いまだに、
 石、出てこないんだよなあ。

 あ、そうそう、この事件のあと、ボクが「健康保険」に加入したのは言うまでもありません。

続く  1997/06/12

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