AD物語II 



〜閑話休題(インターミッション)2〜
 「小林ぃ。渋谷の『WINS』って、こっちでいいのか?」  「はぁ? 古谷さんの方が、ボクより、詳しいんじゃないですか?」  「俺ぁ、千葉の田舎もんだからぁ、わかんねぇんだよ。」  「ボクだってそうですよ。」  訳の分からない自慢をしあう田舎モノ2人組。  1998年2月14日(土)。  音楽家「山本はるきち」さんと、声優「岩男潤子」さんの結婚式当日。  東京は渋谷の上空に広がる青空はどこまでも澄み渡り、  2月とは思えない暖かい風が街を吹き抜けていた。  なれないスーツで、ちょっと小走り気味に歩くと、  汗だくだく。  え?  なんで、小走り気味に歩く必要があるのかって?  結婚式会場が見つからねぇから!
 へとへとになりながら、結婚式会場に着。  時刻は4時50分。  式は5時からだから、何とか間に合った感じ。  アニメガスタッフは、会場の入り口に4時45分集合の約束だ。  あ、スーツやジャケットの似合わない「売れない芸人」みたいな集団がいるぞ。  渋谷には、腐れチンピラみたいなのが多いからなあ。  下手に喧嘩なんか売られないように気をつけなきゃ。  目ぇ、あわせないようにしよっと。  「ジュンさん、おはようございます!」  「おはようございます! 遅いじゃないっすか。」  「は?」  腐れチンピラが馴れ馴れしく声をかけてくる。  よく見たら、アニメガの作家の天野君とバイトの山本君だった。  で、その横で、コート姿でボーッと立っている、一見「変態野郎」が、  若手ディレクターのイチローちゃん。 「みんな、正装似合わねぇなあ。」  毒舌ライターの小林さんも登場だ。  言っとくが、あなたのスーツ姿も似合ってないぞ。  「・・・で、これだけ?」  「はぁ。」  「昨日集めたご祝儀の袋、誰が持ってるんだっけ?」  「神田さんっす。」  「ああ。で、神田さんは?」  「来てないっすね。」  「バカ! 見りゃわかんだよ。連絡したのかよ。」  若手ディレクター・イチローちゃん、早くも「バカ」呼ばわりです。  「神田さんいないと、会場に入れないじゃん。」  「いや、それが神田さん、こないだ携帯電話なくしたらしくて・・・。」  「連絡とれないの?」  「はあ。」  「・・・・。」  「田所クンは?」  「あ、連絡してみます。」  ピッ・ポッ・パッ。  「あ、田所さんスか? 今、どこっスか?」 『目の前。』  キキッー!  東京無線のタクシーが目の前に停まり、中から登場の田所D。  親父が国民栄誉賞とった際に、記者会見してた時の格好で登場だ。  しっかし、相変わらず、集合の悪いアニメガスタッフ。  そんな我々の目の前に、ひときわ怪しい集団登場。  おたささ、三河屋さん、王様・・・。  『少コミナイト』スタッフ。通称『ぐ組』だ。  さすがに、お揃いのウィンドブレイカーでの参上ではなかったが、  きっちり頭数をそろえて登場してくるところはお見事だ。  それにひきかえ・・・、  「こっちは、隊長がいないんですからねぇ。」  「神田さんは、隊長って言うより、団長だな。」  「ってことは、我々は、『大門軍団』って感じですか。」  「あ、懐かしいねえ、それ。」  「西部警察だ。」  「・・・神田さんと連絡とれました!」  「・・・何、大門くんと?」  「で、何だって?」  「スーツ買ってて、遅れてるみたいです!」 「こまるよ、大門くん。」  20代後半のヤツにしか通じないようなギャグを、  タレントさんの結婚式会場の入り口で叫ぶアニメガスタッフ。  そして、結婚式当日にスーツ買ってて遅刻してる番組チーフディレクター。  早くも場には、怪しい空気が漂い始めている。
 とりあえず受付をすまし、  ロビーにおいてあるソファでくっちゃべったり、  ドレスアップした松澤由美を見つけてからかってみたりして、  神田チーフを待つアニメガスタッフ。  すっかり、自分の家にいるようにダラダラしている。  それを白ーい目で見ていく来賓の方々。  「なにやってんの?」  フィリピンに若い女を売り飛ばそうとするヤクザの姿がそこにあった。  一瞬、結婚式会場のロビーが、成田空港の「裏側」って感じになった。  「何だ土井さんじゃないですか。」  アニメガ・少コミ、唯一の共通スタッフ、ライターの土井さんだった。  「き・・・今日もアロハシャツですか。」  「何言ってんの。アロハは、正装だよ。」  「は・・・はあ、それはそうなんですが。」  ふと、横を見ると、ドレスアップした声優・麻績村マユコちゃんが立っている。  あ、それで『フィリピンに若い女を売り飛ばそうとするヤクザ』の風景に見えたのか。
 そんなこんなで、神田ディレクターも無事に合流。  一同は、ついに、結婚式会場に足を踏み入れた! 「なんじゃ、こりゃ。」  そこには・・・、 「杉山清貴&オメガトライブ」な風景が横たわっていた。  ひょうたん型のプールに、ヤシの木。  その前にバンドセットが組まれている。  ソファベッドに、ワイングラス。  タキシード姿の司会者。  あれ?  荘口さんじゃん。  「おそかったじゃないですか。」  「そーぐちさん、かっこわるー。」  「あんたらもな。」  「しっかし、なんすか、これ。」  「ね。予想以上の結婚式会場。」  「ていうか『オメガトライブ』だし。」  「はっはっはっは。すごいね。」  「土井さん、やっぱり、アロハでしたか。」  土井さん・・・。あなたの格好だけ、会場にびったりマッチしてるぜ。  乾杯!
 『えー。たいへん長らくお待たせいたしました。新郎新婦の入場です。』  ゆっくりと流れるBGM。  会場の右手奥のスポットライトが当たったドアから登場の新郎新婦。  おー。  きれーだー。  純白のウェディングドレスが・・・な。  岩ちゃんがそれを着てるっつーのが、どーもリアル感がないですな。  どっちかってーと、コント、コント。
 『それでは、今回は人前式ということで、立会人代表ご挨拶を・・・』  あー、結婚式ってこういうのがかったりーよなー。  ていうか、立食パーティだからつれー。  ちゃっちゃと、バイキング始まんねーかなー。  ・・・と、アニメガスタッフは誰もが思っていたらしく、  立会人代表挨拶のさなか、  「あーあー、わかったわかった。」  「挨拶、なげーんだよ。」  「小林ぃ、挨拶、編集してやれ。」  ・・・などと、ぼそぼそつぶやいている。  まことにもってお行儀が悪い。  『それでは、新郎新婦の結婚の誓いです。』  「あーあー、わかったわかった。」  「はやく、メシ。」  「小林ぃ、編集してやれ。」  『お二人の結婚に賛同される方、どうぞ大きな拍手を!』  「あーあー、わかったわかった。」  「はやく、メシ。」  「誰が賛同するかっつーの。」  『それでは、お二人の愛のキッスを!』 「んだと、コラ。」 「はやく、メシ。」 「小林ぃ、はるきち殺してこい。」  最悪を絵に描いたようなアニメガスタッフ。
 『それでは、お料理を心ゆくまでお楽しみくださいませ。』  「待ってました。」  よーやく、メシの時間が来た。  天野クン、山本クン、イチローちゃんらの、アニメガの「若い衆」がすかさず走る。  我々のテーブルは、新郎新婦に比較的近い、前の方のテーブルだったのだが、  「ここじゃ、落ち着いて食えん!」  ・・・と、会場の隅っこの方の、イスがおいてあるテーブルを確保。  「以後、ここをアニメガの領地といたします。」  ・・・と、アニメガ独立宣言を発布。  「若い衆」に次から次へと料理を運ばせる。  チラリと少コミスタッフの方を見ると、  会場の真ん中の方で、いろんな声優さんや業界関係者に挨拶をしている。  ・・・大変ね。  もともと、声優業界・アニメ業界と縁の薄いアニメガスタッフはそんなことはおかまいなし。  いかにして、ご祝儀分を料理で回収するかが興味の的だ。  「赤ワイン、うまいぜ。」  「これ、キャビアっすよね。」  「寿司、久しぶりに食った。」  「この『ちまき』みたいの、ジュンさん食いました?」  「田所クン、ビール、まだある?」  おまえら、欠食児童か。  往々にしてこういう連中は、バイキングというモノに慣れていないので、  バクバク食っちゃうと、すぐにお腹いっぱいになっちゃうものである。  「ああー。もう食えねぇ。」  「布団、敷いて。布団。」  「ねむてー。」  ホントに、本能のままに生きている集団である。  式はこれから佳境に入ってくるのに、アニメガスタッフはもうヘロヘロだ。  酔っぱらってるもんだから、知りあいを見つけたりすると、片っ端にからかい始める。  「芝原(チヤコ)、てめー、頭がモップみてぇだぞ!」  「長沢(美樹)ぁ、ちっとこっち来い。こっち!」  「松澤ぁ、パンツ見せろ、パンツ!」  もーだめだ。頼む。全員、死んでくれ。
 『それでは、「おたっきぃ佐々木」さま、ご挨拶を。』  おおー、このあと、神田チーフDの挨拶だ。  ところが・・・。  おたささが、アニメガでも考えていた「プールに飛び込む」という演出を使ってしまった。  ヤバイ。  ネタ、かぶっとるやんけ。  二番煎じはかっこわるいやんけ。  なんとかせにゃ。  QRには負けてらんねぇ。  うーん。うーん。うーん。  あれ? このプール、真ん中に噴水がついてるじゃん。  早速、結婚式場のマネージャーに相談に行く。  バタバタバタバタ・・・  どーやら、小学生の時に、 「プールサイドは走るな!」  ・・・という教育を受けてこなかった連中のよーだ。  「え? それ、ホントにやるんですか?」  「ムリですか?」  「いや、できますけど・・・。」  「お願いしまーす。」  「はあ。」  「あ、神田さんの挨拶始まっちゃう。」  バタバタバタバタ・・・  再び、プールサイドを走って戻る。  『・・・ということで、はるきちさん、岩ちゃんの結婚を祝して、万歳三唱をしたいと思います。』  バンザーイ、バンザーイ、バンザーイ。  神田さんの万歳三唱にあわせ、プールに飛び込むイチローちゃん。  噴水のところまで泳いでいくと、  先ほどの打ち合わせどーり、噴水が力一杯吹きあがる。  今だ。イチローちゃん、そこで「マッスルポーズ」を決めろ!  あれ?  ・・・やんないよ。  ・・・照れてやがんな。  あとで、説教。
 こーして、式もクライマックス。  非常に珍しいことではあるが、新郎新婦が歌のご披露。  はるきちさんが「LOOK」時代の名曲「夢の子供」を熱唱。  岩ちゃんが「ずっとあなたを探してた」を熱唱。  もちろんこのころにはアニメガスタッフは疲れ果てて、  壁際でぐったりしていたのは言うまでもない。
 式はつつがなく、終了。  新郎新婦の退場。  お客さんは左右に分かれ、1本の道を作ると、  本物の花を手のひらいっぱいに渡された。  新郎新婦が歩いてくると、その花が宙に舞う。  うーん、いい演出だねえ。  「いいか、はるきちがここ通るとき、ぇ、ねらって投げろ。。」  だから。そーゆーこと言うなっつーの。アニメガ。
 以上が「山本はるきち・岩男潤子結婚式」、  またの名を「アニメガスタッフ大顰蹙(ひんしゅく)パーティ」の、  全貌です。  ちなみに、このあと、  2次会の会場でも、アニメガスタッフの大暴れがあったことは言うまでもありません。  最後になりましたが、  はるきちさん、岩ちゃん、  ホントに結婚おめでとうございます。  ボクが結婚するときには、アニメガスタッフ、絶対に呼びません(笑)。  なお、今回のお二人の結婚式の模様は、  各種マスコミ関係者が、スチールあるいはデジタルのカメラで撮影してはいるのですが、  あくまでもプライベートでの出来事ですので、それが、出回ることはないと思います。  仮に、これらの写真が出回っていた場合、我々は、それを叩きつぶさなきゃいけないので、  ご一報ください。  ちなみに、今回のこのお話も、はたして公開していいもんやらわるいもんやら、というかんじです。  ある日、突然このページがなくなっていても、気にしないでください。
 続く  1998/02/19

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