AD物語II 第11話 「ファースト・コンタクト」



〜柿島伸次のオールナイトニッポンの想い出〜
 今、これを読んでる(かもしれない)、  「トレンドリーダー」なんて呼ばれてる、あなた。  「ガゼラブミラビ」ってお菓子、知ってますか?  え? 知らない?  困るな〜。  そんなんで、時代のトレンドリーダーなんて言われちゃあ。  ・・・ていうか、トレンドリーダーって?  最近それと同じくらいよくわかんない職業が「メディアコーディネーター」ね。  「メディアコーディネーター」って、いったい何? みたいな。  「メディア」にしてみれば、  『「コーディネート」されたくねーよ。』・・・的な。  ま、それはいいとして。  「メディアコーディネーター」の話じゃないんです。今回は。  ていうか、「メディアコーディネーター」の方、ごめんなさい。  もしこれ読んでたら。  いや、「メディア」を「コーディネート」するぐらいの人は、  「残酷宣言」読んでないとマズイでしょ、やっぱり。  だから!  今回は「メディアコーディネーター」の話じゃないんだって!
 「橘いずみのオールナイトニッポン(以下、ANN)」のあとに、  金曜2部で始まったのは、「柿島伸次のANN」。  覚えてる人、いますか?  あ、いませんか。  そうですか。  いいんです。いいんです。  えー、この「柿島伸次のANN」は、  「橘いずみのANN」と全く同じスタッフでした。  このように、番組が変わっても、スタッフが変わらないっていうことは、  非常に珍しいことなんですね。  ADや、ミキサーのように、金曜2部なら金曜2部の「枠」についてる人は、  番組が終わってもそのまま、その「枠」にスタッフとして残るんですが、  ディレクターや、放送作家は「枠」についているわけではなく、  「番組」についているので、番組終了とともに、  その「枠」からいなくなってしまうのが普通です。  この「柿島伸次のANN」の場合、「橘いずみのANN」の時と、  唯一、変わったところと言えば、  なんと、「見習い放送作家」だった鈴木くんが、  メインの放送作家になったことでしょうか。  え? じゃあ、「橘いずみのANN」で、メイン作家をやっていた、  「日本で1番意地悪」の称号を持つ、稲庭さんはどうなったのかって?  大丈夫。  「スーパーバイザー」という名前で、  メインの放送作家の上の座に、君臨してましたから。  ああ業界の限りないヒエラルキー。  「鈴木くんのポジション、あんまり変わってないんじゃん。」  ・・・と思ったあなた。  正解。
 さて、話は冒頭に戻ります。  この「柿島伸次のANN」では、  「世の中を動かしてみよう!!」  ・・・ということで、  「新しいデザート作り」  ・・・にチャレンジすることになったのです。  世間ではちょうど、ナタデココのブームが終わり、  ティラミスが「ポスト・ナタデココ」のポジションをねらってて、  パンナコッタが、次期主力デザートか・・・?  なんて、いわれてた頃です。  どこのお菓子メーカーも、女子大生や、OLにうける、  ちょっと小洒落たデザートを開発するのに躍起になってました。  最近でも、やれベルギーワッフルだ、クイニーアマンだ、  ・・・と、この市場は、常に大にぎわい。  すなわち、これ、一発当てれば、  億万長者。  時代のトレンドリーダーたるANN(笑)が、  これにイッチョカミしないわけには参りません。  まかりまちがって、ANNから大ヒットのデザートが出た日にゃあ、  一夜で御殿が建つのも、夢じゃありませんぜ。  さあ、ANNスタッフは、頭をひねって新しいデザートを考え出すことになります。  味は?  形は?  値段は?  名前は?  そして・・・・だれが開発するの?
 「ねえねえ、今、ラジオを聴いているみんな。   俺、こないだすごいお菓子を食べちゃったんだよね。   あんなすごい、お菓子初めて食ったよ。   ティラミス? パンナコッタ?   目じゃないね。   あんなの子供のお菓子。   俺が食ったのは、まさに、大人のお菓子だね。   味はね、こう、甘いというか、辛いというか。   色は、白いというか、黒いというか。   名前?   名前は・・・・『ガゼラブミラビ』!!」  会議の席上で、何となく笑い話的にはじまちゃった企画だから、  本番の時には、お菓子の具体的な概略なんか、全く決まってません。  パーソナリティの柿島伸次さんは、自分の思うがまま、勝手に、  「新しいお菓子」の味や形を、本番中に決めていきます。  ・・・に、しても、ナウなお菓子の名前に、  ガゼラブミラビは、ねえだろ。
 さあ、スタッフは、大わらわです。  言っちゃったことはやらなきゃいけません。  我々はこの未知のお菓子「ガゼラブミラビ」を作ってくれる人を探し始めたのです。  運良く、渋谷の「セブンスフロア」という、レストランのシェフが、  この「ガゼラブミラビ」の開発を手伝ってくれることになりました。  大人のお菓子で、  味は、甘いというか、辛いというか。  色が、白いというか、黒いというか。  そんなお菓子、作れんの?  マジで。  「コバヤシぃ。」  「はーい。何でございましょ?」  「今から、渋谷行って来てくれ。」  「へ?」  「タクシー使ってもいいから、本番までに戻ってこい。」  「??」  「『ガゼラブミラビ』の試作品が、できたんだってよ。」  「おお!!」
 渋谷の道玄坂の途中から、ちょっと横道にはいると、  そこには、大きなラブホテル街があります。  その中ほどに、「オンエア・イースト」「オンエア・ウェスト」という、  2つのライブハウスがあるんですな。  デビューしたてのアーティストなんかがよくライブやるとこなんだけどね。  「セブンスフロア」っていうレストランは、  その「オンエア・ウェスト」のビルの7Fにあるんです。    店の中に入っていくと、ふとっちょで髭面の怖そうなおっちゃんが、  ボクを待ちかまえています。  「あの〜。」 「あ゛?」  「あ、えーと、あのぉ、ニッポン放送から、来たんですけどぉ。「ん゛?」  「あ、あの、なんだっけ。『ガゼラブミラビ』をとりに・・・。」  「おお。ガゼラブミラビな。」  なんか、ふとっちょで髭面の怖そうなおっちゃんが、  「ガゼラブミラビ」とか言ってると、なんか笑っちゃいます。  柿島伸次、「ガゼラブミラビ」ってネーミング、ナーイス。  なんて、思っちゃったりして。
 「うーん。」  「・・・。」  「どうなんすかねぇ。」  「こーゆーの、流行りますかねぇ。」  おっちゃんから託された「ガゼラブミラビ」をスタッフ全員で試食。  タッパを開けた瞬間、みんなが凍った。。  スプーンで一口食ったとたん、みんなが頭をひねった。    本体はチョコレートムースで、黒い色。  その上に生クリームがかかっているから、白い色。  チョコレートムースだから、味は当然、砂糖ベースなのだが、  ブランデーを大量に使っているらしく、かなり辛い。  大人のお菓子で、  味は、甘いというか、辛いというか。  色が、白いというか、黒いというか。  この命題は、見事にクリアしている。  だがしかし。  見た目はグロいし、酒の味もきつめで、  どーも、「一般受け」しそうではない。  「玄人好み」だな。これは。
 数回のマイナーチェンジののち、  「ガゼラブミラビ」は「セブンスフロア」で、  ¥700円で売り出されました。  「Hanako」なんかでも、「新しいデザート」ってことで、  取り上げられたりしたようですが、  最後まで「玄人好み」な点が、改良されなかったため(?)、  大ブレイクするお菓子には、なりえませんでした。  ああ億万長者の夢、破れる!  今でも、「セブンスフロア」のメニューに、  「ガゼラブミラビ」って、のってんのかなぁ。  ボクは「セブンスフロア」に確かめに行く勇気がありません。  何故かって?  「ガゼラブミラビ」の試作品が入っていた「タッパ」を、  5年以上経った今でも、お店に返しにいってないからです(笑)。
続く  1998/05/27

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