AD物語II 第19話 「バースト・ポイント」



〜 「職業病」のお話 〜
 「職業病」って、あるじゃないですか。  ま、有名なのは、  チェーンソーなんかを使って仕事する人の手先が白くなってしびれる「白蝋病」とか、  炭坑で働く人の肺が、粉塵におかされる「塵肺(じんぱい)」とか、  キーパンチャーの人がなる「肩こり」や「腱鞘炎」ね。  ・・・・ま、あげてったら、枚挙にいとまがありません。  現代は、みんな無理して働いちゃってます。  「職業病が無い職業」を探すほうが難しいかもしれません。  もちろん、ラジオ局で働くADにも「職業病」は存在します。  前話に登場した、  「1KHzの音だけが体にしみついている」  ・・・というのも、「職業病」の一種かもしれませんが、  今回お話するのは、それよりもう少し、  重大で深刻な「職業病」です。
 その「病気」は、僕のまったく知らないところで、  ゆっくりと、しかし確実に、僕の体をむしばんでいました。  僕がその「病気」に気付いたときには、もう手遅れでした。  そう、あの日、母親と「ケーヨーホームセンター」に行った日。  それが、はじめて自覚症状が現れた日です・・・・。
 「ええと。マジックリン買ったし、蛍光灯買ったし、あとは?」  「カーテンレール。」  「は? カーテンレール?」  「お勝手の窓、カーテンが無いでしょ。」  「うん。」  「朝、ご飯作ってて、お日様まぶしいのよ。」  「あ、そ。で、どのくらいの長さありゃいいの?」  「さっき、はかってきたら、1メートル半あればピッタリ。」  「ふうん。じゃ、これでいいね。」  「え?」  「1メートル半でしょ? これでいいじゃん。」  「・・・あんた、何、言ってんの?」  「あん?」  「ぜんぜん短いわよ。これじゃ。」  「1メートル半なんでしょ?」  「うん。」  「じゃあ、これでいいじゃん。」  「・・・これ、90センチじゃないの。」  「あー、じれってぇな。」  「?」  「1メートル半だったら、90センチの買ってきゃいいだろ。」  「・・・なんで?」  「バッカじゃねぇの? 算数もできねぇのかよ。」  「あんたがね。」  「・・・。」  あっ!  病状がここまで進行していたとは。  さすがの僕も、ビックリです。  そう、僕のかかっていた病気とは、  60進病・・・だったのです!!
 日頃、放送局にいると、  10進法の計算より60進法の計算をすることの方がずっと多いんです。  つまり、時間計算です。  「1分40秒のCMと、3分25秒の曲、トータルでいくら?」  ・・・みたいな、ね。  1分半=90秒  ・・・なんてのが頭ん中に常にあるもんだから、  1メートル半=90センチ  ・・・だと思い込んじゃうんですよ。  もー、最悪の職業病。  ああ、はずかし。
続く  1998/08/08

戻る