AD物語II 第25話 「ヴァージン・ロード」



〜 「結婚披露宴」のお話 〜
 20歳代も後半なってくると、結構、結婚式のお誘いがあったりします。  友達の結婚式だと、  礼服がきつくなっちゃってるのと、  礼金が痛いのをのぞけば、  ゆっくりご飯食べちゃったりなんかして、  スピーチを頼まれてない限りは、ノンビリしたもんです。  ところが、ニッポン放送に出入りしている人の結婚式ともなると、  こうはいきません。  そりゃもう、大騒ぎ。  結婚式の1ヶ月も前からてんやわんやですわな。
 「○○ディレクターの結婚式があるんだけど・・・。」  「ああ、聞いてますよ。」  「その日、あいてる?」  「んーと・・・。大丈夫ッスね。」  「じゃ、よろしく。」  「は?」  「スタッフに名前入れとくから。」  「ふえ?」  「披露宴の。」  「あー・・・・そーですか・・・。」  スタッフ?  結婚披露宴の?  なにそれ。  招待客・・・じゃなくて?  「場所は原宿。披露宴は18時から。スタッフは朝10時集合。ヨロシク。」  「なんですって?」  朝・・・10時集合??  夕方からのパーティに、朝10時集合??  なんじゃそりゃ?  それからの1ヶ月、結婚式のしおり(!)作りや、  結婚式で使う音素材を作ったり・・・と。
 そして・・・結婚式当日、朝。  まだ人もまばらな原宿に、続々と人が集まってきます。  おいおい、これみんな今日の披露宴のスタッフかよ。  「おはようございます! 今日はよろしくお願いします。」  「おはようございます!」  「よろしくお願いします。」  福山雅治さんらが所属する事務所「アミューズ」の太田さんが、  現場を仕切り始めました。  会場のロックがはずされ、ドアが開きます。  ・・・・・ガチャ。ギギギギ。  な、なんだよ、これ。  下手なライブハウスより、デカイじゃねぇかよ。  ていうか、ここ、イベントホールだよ。  ここで、やるの?  結婚披露宴?  「アミューズ」もとんでもない小屋を押さえたねぇ。  「えー。まもなく、楽器車が到着します。お手すきの方、玄関前に集合!!」  ・・・楽器車?  訳のわからんまま、太田さんの指示に従い、ホールの玄関に。  「お、来た来た。」  爆音を轟かせてやって来たのは・・・。  アミューズのアーティストがライブやるときに楽器運ぶトレーラーじゃないの!  何をおっぱじめる気なの?  トレーラーの後部デッキの扉が開き、  中からドラムセット、ギターアンプ、ベースアンプと次々に機材がおろされます。  ・・・結婚披露宴だよね? 今日やるの。  当たり前のことを自問自答。  「舞台、持ち上げてくださーい!」  「ステージが組みあがったら、すぐサウンドチェックに入ります!」  「タレントさんまもなく入ります!」  「ステージのセットアップ、急げよ!」  ・・・やっぱり、結婚披露宴じゃないのかな?  「ジュンくん、おはよう!」  「? ・・・あ、おはようございます!」  福山雅治さんだ。  おや、そのとなりには、泉谷しげるさんも。  「シャ乱Qのメンバー入りました!」  「はーい。じゃ、順番にリハに入って!」  「音声再生チームは?」  「・・・あ、ボクです。サウンドマン・小林です。」  「あ、よろしく。じゃ、コントロールルーム案内するから。」  「あ、はい。」  会場の2階にあるコントロールルームに行くと、  すでにサウンドマンのミキサー、松田さんがスタンバっている。  「小林、遅いよ。」  「はぁ、すんません。」  「CD使ったりするんでしょ?」  「ああ、はい。会場に流すBGMなんかで。」  「うん。チェックしちゃおう。」  「あ、はい。」  この辺で頭を切り換えた。  今日のは結婚披露宴じゃないな。  イベントだ。  お客さんがリスナーじゃないってだけで、  イベントだよ。こりゃ。  「お花屋さんが、お花持ってきてるんですけど。」  「はーい、お手すきの方、届いたお花、並べて。」  どーゆうわけか、お手すきのボクは今度は「お花並べ」。  お花屋さんは、後から後からスタンド花を搬入してきます。  50や100じゃすまない数の花だ。  しかも、どの花にも有名なタレントさんの名前が入ってます。  「小泉今日子」「中山美穂」「内田有紀」・・・・・。  今日、ステージに立つタレントさんも、  「福山雅治」「泉谷しげる」「坂崎幸之助」「大槻ケンヂ」「シャ乱Q」・・・。  すごいね。
 夕方。準備はすべて整った。  「はーい、客入れでーす! 客入れBGM出してくださーい!」  客入れ・・・って。いや、確かにお客さんなんだけど。  だーれも、結婚披露宴だと思ってないでしょ。  すっかりイベントのお祭り気分でしょ。  コントロールルームの全員がインカム(ディレクターの指示を受けるレシーバー)をつける。  世界のどこにスタッフが業務用のインカムをつける結婚式があるんだよ。  いや、タレントさんの結婚式ならあるかもしれないけど・・・。  こーして、前代未聞の驚異のイベントが始まりました。  シャ乱Qのライブはあるわ、  嘉門達夫さんの歌はあるわ、  大槻ケンヂのスピーチはあるわ、  ユーミンのお祝いコメントはあるわ、  電撃ネットワークのパフォーマンスはあるわ、  福山・泉谷・坂崎3氏によるユニット結成ライブはあるわ。  これだけのメンバーがそろったら、  5千・・・いや、1万人は入るイベントができるよ。
 イベント好きな人たちが集まって作り上げた結婚披露宴です。  こーなっちゃうのは仕方ないところなんでしょうが、  ニッポン放送には、いにしえからの言い伝えがありまして。  それは・・・・・、  派手な結婚式をした夫婦は別れる。  ・・・というものです。  事実、このディレクターさんは、わずか半年後に、離婚。
続く  1998/09/14

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