AD物語II 第30話 「ビバ・マリア」
〜「中居正広・SOME GIRL' SMAP」の想い出〜
想い出も何も、98年12月現在、まだ放送されている番組です。
毎週土曜日23時からオンエアの「完パケ番組」です。
いや、しかし、中居クンとのつきあいも長いですな。
いやいや、けしてシャレなどではなく。
初めてあったのが93年の秋だったと思うから・・・。
うわ。
もう5年越しのつきあいなんだ。
ADになってから、半分は中居クンと一緒にいるんだ。
「SOME GIRL' SMAP」は想い出にするには早すぎる。
・・・というわけで、今回は、
SMAPのリーダー・中居正広クンとの想い出話。
・
そう、あれは・・・、
まだ「中居正広のオールナイトニッポン(以下、ANN)」が放送されていた頃。
午前3時で、ANNの放送が終わった後、僕らには重大な任務が待っていたのです。
それは何かと問われたならば!
中居くんを無事に帰すこと。
・
有楽町時代のニッポン放送は、玄関を出入りするタレントさんを、
わりと間近で見ることができたんですな。
・・・なもんですから、結構、玄関前にファンの子たちが待ってたわけよ。
特に中居くんがANNを担当していた月曜日は、
「TOKIO」の番組の録音なんかもあったりして、
もう、玄関前には、「SMAP」のファンと「TOKIO」のファンが入り乱れて、
収拾のつかない無法地帯になっちゃってました。
で、当の中居クンは、そんな中、
歩いてニッポン放送に来ちゃったりするもんですから、
もう、玄関前はパニックなんてもんじゃありません。
アマゾン川に牛を放り入れるより、
なお残酷な風景が展開されます。
「ジャニーズ」のファンクラブに入っている娘たちにはきっちりとしたルールがあって、
タレントさんが道を通る際には、びしっと整列してお出迎えをなさるのが基本なのですが、
そんなの知らぬ存ぜぬの娘もいらっしゃるわけです。
「ぎゃあ!」
「なーかーいーくーん!」
「てがみよんでー!」
「なーかーいーくーん!」
「これたべてー!」
「ぎゃあ!」
ニッポン放送8階の会議室にいると、
22時くらいになると必ずこんな声が聞こえてきました。
「あー、中居、来たみたいだねぇ。」
「さ、お仕事しますか。」
「そーだねー。」
「よいしょっと。」
こうして僕らのお仕事が始まります。
1階の玄関に向かうと、案の定、中居クンが両手いっぱいに、
手紙やら、ぬいぐるみやら、お菓子やら、タバコやらを抱えて、
右往左往しています。
「ぎゃあ!」
「なーかーいーくーん!」
「てがみよんでー!」
「なーかーいーくーん!」
「これたべてー!」
「ぎゃあ!」
相も変わらず、ファンの娘達の
ピラニア攻撃が続いています。
「はい、道あけてね!」
「はい、そこまでー!」
ボクや若いライターがファンを押しのけ、
中居クンのために道を作ります。
かわいそうですが、中居クンにケガなんぞされた日にゃ、
かわいそうな目にあうのはボクらです。
・・・だがしかし、そこは多勢に無勢。
ファンの娘たちは、ボクらが勢いで造った「道」を、
いとも簡単に押し返してきます。
「ぎゃあ!」
「なーかーいーくーん!」
「てがみよんでー!」
「なーかーいーくーん!」
「これたべてー!」
「ぎゃあ!」
「こんな細い娘のどこからこんな力が・・・、」
と、感心してしまうくらいに強い力で押し返してくるのです。
ファンの力とは恐ろしいモノです。
ま、中には、
「なるほどこの娘なら力があってもおかしかない。」
ってな娘もいるんだけど・・・。
中居クンを守りつつ、ほうほうの体でその場を逃げ出し、
なんとかニッポン放送内に入り、エレベーターに乗る頃には、
肩で「ハァハァ」息してたもんです。
・
・・・とまあ、中居クンがニッポン放送に入る分には、
この程度で済むからいいんですが、
そうはいかないのが帰りです。
何が大変かって?
中居クンの乗ったタクシーが尾行されるのが怖いんです!
午前3時。
ニッポン放送の前には、ズラッとタクシーが並びます。
その車には、それぞれファンが乗り込み、
中居クンが帰るのを、今や遅しと待ちかまえています。
「えー、本日、出待ちのタクシーは、10台ほどです。」
「うーん、今日は一段と多いな。」
「あー、冬休みに入ったからでしょう。」
「なるほど。」
「来週からはもっと増えることが予想されます。」
玄関前に偵察に行ったレコード会社の人からの報告を受けると、
我々は、中居帰宅審議会を開くのです。
「深夜3時にいい大人が、下らないことで会議を開くな!」
という無かれ。
ボクらはまさに真剣です。
本気と書いて、マジと読む!
「じゃ、レコード会社関係の方は、ファンの整理で。」
「AD、ライターは、タクシーを止めるということで。」
「了解!」「了解!」
「了解!」「了解!」
「フォースのともにあらんことを!」
・
「ぎゃあ!」
「なーかーいーくーん!」
「おつかれさまー!」
「ぎゃあ!」
「なーかーいーくーん!」
「おつかれさまー!」
中居クンがニッポン放送に入ったときと同じことが、
ここで再び繰り返されます。
玄関前に群がったファンの娘達を押しのけ、
玄関から中居クンの乗るタクシーのドアまでの道を確保。
「よっしゃ、中居! 行け!」
合図とともに、中居クンが小走りにタクシーに乗り込みます!
中居クン、タクシーに乗る!
タクシーのドア、素早く閉まる!
タクシー、走り出す!
ここまではOK!
ここでスタッフは2班に分かれます。
中居クンの乗ったタクシーを走って追いかけるファンの娘を、止めるチーム。
「オラ! 走るんじゃねぇよ!」
「車道出んなよ! 車、来るぞ!」
怒号が飛び交います。
もう1チームは、まさに命がけ。
中居クンの乗ったタクシーを追いかけようと、
自分たちもタクシーに乗り込んでいる娘達を止めなくちゃいけません。
どうやって止めるのかって?
自分の身体を張って止めるんです!
なーに、大したことありゃ、しません。
タクシーの前に立って、動けないようにするんです。
「おい! あの1台行ったぞ!」
オイオイ、タクシーだけじゃなくて、自分たちの車を用意してるヤツがいるよ。
困ったもんだねぇ。
「うおおおおりゃあぁ!」
ライターの1人が車の前に飛び込んでいきます。
いくらラグビー部だったとはいえ、
車にタックルするのはどうかと・・・。
ま、これもお仕事のうち。ギャラの分は働かないとね。
・
「さ、あらかた、OKかな?」
「いや・・・・。」
「ん?」
「1台、くっついてっちゃったのがいるらしいぞ?」
「タクシー?」
「ああ。」
「なんで!」
「交差点の向こう側で中居のタクシーが来るのを待ってたらしい。死角だった。」
「ありゃりゃ、奴らも頭、使うねぇ。」
「どうする?」
「どうするったって。ついてっちゃったもん、しょうがないでしょ。」
「追いかけよう!」
「はあ?」
「中居の家までついてっちゃったらマズイよ。」
「うーん・・・。」
「まだ、間に合うって!」
ニッポン放送の前に停めておいたボクの車を緊急起動し、
中居クンの車を追いかけることに。
たーいへんなことになっちゃったなー。
・
高速に乗って、かなりなスピードで走りましたが、
中居クンの乗ったタクシーは見あたりません。
仕方なく、中居クンの家に先回りし、
様子を見ることにしました。
「うーん、まだ中居帰ってきてないみたいね。」
「大丈夫かな・・・。」
「途中で襲われてたり・・・」
「するか!」
「途中でさらわれてたり・・・」
「するか!」
「途中で犯されてたり・・・」
「するか!」
「途中で・・・あ!」
「何? ・・・あ! 中居だ!」
タッタッタッタッタ。
向こうから歩いてくる中居クンの元に走っていきます!
サッと身構える中居クン。
「?」
「?」
「?」
「ああ、ビックリしたぁ!」
中居クンが安堵のため息とともに、そう叫びました。
「どしたの?」
「また、ヤツらが追いかけてきたのかと思って。」
「そーだよ!追いかけてったヤツらどーした?」
「うん? タクシーの運ちゃんがまいてくれた。」
「はあ?」
どーやら、タクシーのドライバーさんは、
車が尾行しているのに気づき、
高速をいったん降り、尾行をまいたのを確認してから、
中居クンを家に送り届けたようです。
さすが、プロ!
「ところで、小林クン達、なんで、俺んちの前にいるの?」
へなへな〜。
・
教訓。
ファンあっての芸能人ですが、
無理な追っかけ、強引な追っかけは、
大変危険です。
節度ある行動をしましょう。
戻る