AD物語II 第36話 「やさしさサヨナラ」



 <第27話より続く>  1996年、秋に始まった驚異のアニラジ番組、  「スーパーアニメガヒットTOP10」。  従来のアニラジでは考えられないような内容で毎回リスナーのド肝を抜き、  アニラジ界の王者として君臨した番組も、  盛者必衰の慣わしのごとく、  1998年春、その使命を終えようとしていました。
AD物語第弐部 最終話
 「スーパーアニメガヒットTOP10」の最終回は、  1998年3月27日(金)と決定。  しかし、それは、最終回の前週、  つまり、3月20日(金)の放送まで秘密にすることとなりました。  これは、チーフディレクターの神田さんの、  「リスナーにこれ以上無い驚きをあたえて終わるのが、カッコイイと思うんだよね。」  ・・・という、演出意図によるものだったのです。  ところが。  その神田さん、同時期に担当していた「福山雅治のオールナイトニッポン」が、  ニューヨークからの放送となるため、急遽、アメリカに飛ぶことになってしまいました。  ああ、切なひ、サラリーマン。  この一大事に急遽投入となったのが、  アニメガのセカンドディレクター、田所クン。  そう、あの、国民栄誉賞の親父の息子です。
<参考資料>

            ↑
 記念の「コインチョコレート」をもらう田所クン。
 「血」というものは実に恐ろしいもので、  どーやら、競走馬だけではなく、人間にも血統というものがあるのは確かなようです。  現に親父がフリーのイラストレーターだったボクは、やっぱりフリーで仕事をしてたりしますし。  田所ディレクターは、父親の「笑い」に関する「血」を色濃く受け継いでいます。  それは「天才」などというありふれた言葉では表現できません。  どっちかっつーと、キチガイの部類です。  どうやら気性難の性質まで受け継いじゃったようです(笑)。  キチガイ演出をさせたら、ラジオ業界でヤツの右に出るものはおそらくいないでしょう。  神田さんは、ヤツがキチガイだと理解した上で、田所クンに、 「アニメガを壊せ。」  ・・・と指示を出し、単身渡米したのでございます。  さあ、神田さんから、「免罪符」をもらった田所クン。  最終回直前のアニメガを文字通り「ぶち壊す」ために、  あれこれ演出プランを立て始めます・・・。
 「・・・はあ?!」  「ですからぁ、『残酷シリーズ』もう残ってない?」  「何に使うの?」  「今度のアニメガで流す!」  「そう言われてもなあ・・・。」  「無い?」  「あー・・・無いことはないけど・・・。」  「じゃ、それ流そう。決定。そーゆーことー。」  「いや、お蔵入りになっちゃったヤツだよ。神田さんが『流しちゃダメだ』って。」  「ああ、『The END of EVANGELION』ね。」  「そう。それに、あれ、流すにしても、6分以上あるよ。」  「え?! そりゃ、ダメ。」  「・・・だろ?」  「『残酷32グラム』は?」  「あー・・・あれは去年の年末にQR(文化放送)で流れちゃった。」  「あ、そう。それもダメだ。」  「・・・だろ?」  「そうかぁ、流せる『残酷シリーズ』ないのかぁ。」  「・・・そうだね。」  「んじゃ、新しいの作って。」  「はあ?!」  「新しいの作ろう。作ろう、作ろう。」  「いや、作ろう・・・って。」  「よろしくぅ。」  「・・・。」  田所クンは、そのまま席を立って制作デスクの方に行っちゃいました。  ・・・どーすんだよー。  残酷シリーズ、作るったって、アイデアないぜ。  田所クンは、ボクが作っていた『残酷シリーズ』が大のお気に入りだったらしく、  最終回直前のアニメガでそれを流したい、と言いだしたのです。  この時点ですでに、アニメガの最終回直前の放送は、  アニメガの謎・徹底解剖スペシャル  ・・・と、題され、1年半に渡って放送してきたアニメガの  集大成となることが決まっていました。  その内容は、  ◎「デカパンズ」なるディレクターによるショートコントの復活。  ◎アニメガちゃんメンバーズカードを使った抽選会。  ◎番組ゆかりの方々からのコメント。  ◎1票しかリクエストの来ていない曲の紹介。  ◎メガメガ罰金箱の行方。  ◎コスプレの行方。  ・・・などであります。その中に、  ◎「残酷シリーズ」の新作放送。  ・・・というのも含まれていました。  とはいっても、「残酷シリーズ」は、作るのに非常に時間がかかるのと、  アイデアのひねり出しに精神的苦痛を伴うため、  そんなに量産できるものではありません。  お蔵入りになっている作品があるにはあるんですが、  それらは、お蔵入りになっちゃうだけあって、  内容的に面白くないか、オンエア上問題のある内容のモノだったりするので、  とても封印を解除できるものではありません。  さあ、困った。どうしよう。
 とりあえず、期待してくれている田所クンのために、新作を作ることを決意。  ニッポン放送のCDルームにこもって、  岩男潤子さんに関するシングル・アルバム、  ニッポン放送にあるすべてのCDを引っぱり出しました。  まず最初に思いついたのは、  アニメガのオープニングテーマである、  「TM Revolution」の「ミッドナイト・ウォリアーズ」を、  岩ちゃんの曲をつなぎ合わせて作れないか・・・というモノでした。  「ミッドナイト・ウォリアーズ」の歌詞と、  岩ちゃんの全曲の歌詞カードをくらべっこすること1時間半。  このアイデアは見事ボツとなりました。  到底実現不可能。  次に思いついたのが、  岩ちゃんの名曲「手のひらの宇宙」を歌詞そのままに、  岩ちゃんの他の曲をつなぎ合わせて作れないか・・・というモノでした。  こちらは「ミッドナイト・ウォリアーズ」とは違い、  やろうと思えばできそうだったのですが、やはりボツにしました。  ・・・というのも、  「いろんな曲を寄せ集めて、ある曲の歌詞と同じにする。」  ・・・という手法は、過去の残酷シリーズ、  「もっと残酷な天使のテーゼ」「残酷32グラム」で、すでに使ってしまっており、  取り立てて目新しい点がないことが最大の原因でした。    新しい『残酷シリーズ』を作る以上、  今までにないセールスポイントが無きゃ、ダメです。  さあ、困ったどうしよう。  放送日時は、容赦なく近づいてきます。  ああ、困った、困った。  時間がないよー!  アイデア出ないよー!    そんな折り、福山雅治のオールナイトニッポンの棚を整理していると、  1本のオープンテープが発掘されました。  そのテープの箱には、大きく、 「君 / 福山雅治」  ・・・と書かれています。  それを見た瞬間、ボクの頭の中を青いイナヅマが走りました。  SMAPじゃありません。  巨人の往年の1番バッター松本でもありません。  これだ!  そうだ、そうだよ。これがあったじゃないか。    ご存じの方もいらっしゃるかとは思いますが、  福山雅治さんの持ち歌に「君」という曲はありません。  この「君」というのは、「残酷シリーズ」よりも、遙か遙か昔に作られた、  いわば「残酷シリーズ」のプロトタイプです。  光明寺博士によって「キカイダー」より早く作られていたにもかかわらず、  仁王像の中に隠されていた「キカイダー01」みたいなもんですな。  ある日、福山さんのオールナイトニッポンに届いた1枚のハガキ。  それには、こう記されていました。 「福山さんの歌詞って『君』ってフレーズが多いですね。」  このハガキをもとに、  福山さんの曲の中からすべての「君」というフレーズを抜き出し、  つなぎ合わせたのが、この作品なのです。  残念ながら、当時の担当マネージャーさんの許可が得られず、  (福山の曲を勝手に編集して流すとはなにごとだ!・・・ってことだったのかな?)  お蔵入りになってしまった「悲劇の作品」でもあります。  これの岩ちゃんバージョン作ればいいんじゃないか。  すぐさま、CDルームに向かい、  もう一度岩ちゃんの曲の歌詞カードをチェック。  あるじゃん、あるじゃん、イヤってほどあるよ。 「あなた」  ・・・ってフレーズが!!  こうして生まれたのが、  残酷シリーズ作品第拾壱番「あなた」です。
 アニメガの最終回直前放送は、神田さんの目論見通り、  「ブチ壊れた放送」になりました。  田所ディレクターは、  「これまでの『アニメガ』って何だったんだ。」  ・・・と、思っちゃうくらい、番組をブチ壊してくれました。  今でも岩ちゃんが、  「あの放送は面白かったですね。」  ・・・と言うくらい、メチャメチャな放送だったのです(笑)。  さあ、残すところ、あと1回。  準備はすべて整いました。  盛大に盛り上げて、笑って、泣いて、「アニメガ」とお別れしようじゃないか!  そんな折り、不意に編成局編成部から、  「アニメガ存続」の報が届くのです。
 「アニメガ続くらしいよ。」  「ふえ。」  「なんか、日曜日の夜に30分の完パケで。」  「なにそれ。」  「いや、まだ、企画書の段階らしいんだけど。」  「ふうん。」  ふってわいた話とはこういうことを言うのでしょう。  アニメガが続くなら是非とも続けたい。  その番組にADとしてつけるなら、何があってもついてみたい。  そう思うのはわがままなんでしょうか。  しかし・・・・。  おそらく、新アニメガは、「神田さん体制」のままということはあり得ないでしょう。  きっと別のチーフディレクターになるに違いありません。  新番組は、新しいスタッフで・・・ということになるんでしょう。  現行スタッフは、やはり、3月27日の放送で解散・・・か。  アメリカから帰国した神田D、田所D、西尾社長、そして岩男潤子さん・・・・・、  この4人による緊急会議が開かれました。  その席で、新アニメガをやるにあたっての、  岩ちゃんのメリット・デメリットが、分析されたようです。  こうして、岩男さんが新アニメガに参加することが正式に決定。  ここに至り、  新アニメガの体制について、  男・神田比呂志氏は、編成部に2つの条件を出したのです。  まずひとつ。  現状のアニメガのスタッフを使うな。  特にアニメガという番組に強い味付けをしていた、  ライターの天野クンと、ADのボクは、  新アニメガへの参加厳禁(笑)のお達しが。  そして、もうひとつ。  アニメガの名前を使うな。  アニメガの名前は、現行スタッフのプライドである、と。  それは、何人たりとも侵すことのならぬ聖域である、と。  その番組名を他で使うことは断じて許さん・・・と。  実はこの段階で、すでに編成部は、新アニメガのことを発表しちゃってました。  そう、インターネット上のニッポン放送のホームページの番組欄です。  そこには大きく、 「スーパーアニメガシアター」  ・・・と書かれていました。  結局、その後に発行された正式な番組表で、新アニメガの名前は、 「スーパーアニガメシアター」  ・・・と、変更されたのです。  そして、その番組に、旧アニメガスタッフが就くことは・・・ありませんでした。
 3月27日(金)  いつもと同じように、ニッポン放送23階のロビーに集合。  いつもと同じように、バカ話をしながらお弁当食って、  いつもと同じように、放送開始。  いつもと同じように、楽しい放送で。
     
 おそらく、その場にいた全員が、 「ホントに最終回かよ。」  ・・・という気持ちでいたことでしょう。  放送終了後に、ロビーで、全員集合の記念撮影。
 みんなニコニコ顔。  でも、もう、来週のこの時間にはみんなバラバラ。  おそらく2度と集まることのない、最高の仲間。  いい番組だったよね。  アニラジ界最高の伝説の番組を作った・・・って、  胸を張って別れましょう。  アニメガ、サヨナラ。
「AD物語」第弐部 おしまい 1999/01/31
 特報      戻る