一拍おいて、待合室はどっと爆笑の渦につつまれた。
「キャハハハハハハ! やだ佐藤、それ、すっごい
 おもしろいよー!」
「ワハハハハハ、なんだよ、佐藤のやつ!
 撃たれたんじゃねーの?」
看護婦が必死に制するのも聞かず、患者たちの弾けるような笑い声が
待合室を突き抜けて響きわたった。


「デス、デス。ク、クリムゾン。あおおう、えげは。
 ごおお、ぐほ、きや、きいぇあ! きゆう、むあむ!
 おがあ、おげへ! おぐむ、おごお、おおむ、うむうむ!
 オーノー、オーノー、オーノー! オーノー!!
 オーノーオーノーオーノーオーノーオーノーオーのー
 おーのーおーのーおーのーおーのーおーのーおーのー
 おーのーおーのーおーのーおーのー…」


患者の笑い声が、徐々に立ち消えていく。
佐藤さんは、まるで壊れたCDプレイヤーのように
「おーのー」という単語を連発し続けていた。
今や誰の目にも、佐藤さんが尋常でないのは明らかだった。


「きゃああああああああっ!」
その時、寂然とした待合室の空気を引き裂くように
女患者の悲鳴がこだました。
患者たちは息を飲んで見ていた。
佐藤さんの肉体が、ばりばりと変化し、
全身が真っ青の化物になった、その光景を…。


呆然と見ていた看護婦がはっと我に帰り、慌てて佐藤さんに駆け寄った。
看護婦はすぐに佐藤さんの体を抑え込んだが、もう既に彼の全身は
青鬼のような真っ青な怪物と化していた。
不気味な静寂の中、患者たちは異様な緊張に包まれていた。


看護婦に抑えられた真っ青の佐藤さんは、そのあとすぐに、
二人の男子患者の手を借りて隔離病棟へと連れていかれた。


佐藤さん達が待合室を後にすると、再びざわめきが起こり、
患者たちは緊張の糸が切れたように騒ぎ始めた。
なんの前触れもなく、突然、肉体に異常をきたした彼を、
彼らは口々に気味悪がった。
でも俺は…、俺は不思議と、彼に言いようのない親近感を抱くのだった。
…そう、彼はもうすぐ俺が行くはずだったKOTの世界へ、
ほんの少しだけ先に足を踏み入れてしまった
…ただそれだけのことかも知れないのだ。


西日の差し込む診察室で真っ赤な夕日を見つめていた俺は、
ゆっくりと、ゆっくりと、突き動かされるものを感じていた。




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