「機動警察パトレイバ− THE MOVIE 3」/「ミニパト」

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 総監督:高山文彦 監督:遠藤卓司

 脚本:とり・みき 原案:ゆうきまさみ

 音楽:川井憲次

 スーパーバイザー:出渕裕

 声の出演:綿引勝彦、平田広明、田中敦子、大林隆之介、富永みーな、古川登志夫







 今回は思うところあって 映画の感想と共にアニメーションの原体験も振り返ってみました。





 「アニメーションとの出会い」



 唐突だが、鉄腕アトムが来年(2003年)4月7日に誕生する事になっているらしいが現実は どうだろうか?
 先日のROBODEX(ロボットの祭典)を見てもまだ二足歩行がやっとの状態。
 自分で考え、行動し、ましてやアトムの様に感情を持つなど夢のまた夢である。
 そんな夢の存在、鉄腕アトムがTVアニメーションとしてお茶の間に登場して(1963.1.1)今年で39年。誕生年である来年は40年が経とうとしている。
 国産TVアニメ第1号がこの「鉄腕アニメ」であることを考えれば日本アニメーションの歴史は そのままロボットアニメーションの歴史と言えるのではないだろうか。
 個人的な話で恐縮だが 私が子供の頃、TVアニメーションでロボットは花形だった。
 「マジンガーZ」「グレートマジンガー」「UFOロボグレンダイザー」「ゲッター・ロボ」「勇者ライディーン」「コンバトラーV」..... 有名、無名 挙げたらキリがない。
 またこれらアニメの影響か 戦隊物や「大鉄人17」「キョーダイン」などの特撮実写物にも巨大ロボットが登場し 当時の子供達を熱狂させていたのだ。
 だが、それはあまりの荒唐無稽、子供っぽさ。
 小学校も高学年になれば さすがにこれらロボットアニメに対して熱は冷めていった。
 そんな時、降って沸いたのが あの「宇宙戦艦ヤマト」ブーム。
 波動砲やワープ航法、反射砲などSFや科学考証に則った武器、放射能汚染された地球を救う為に17万8千光年に渡る長旅を行うという 今で言えばロードムービーとそれに加味されたミステリー性...なにから何まで 勧善懲悪的で判りやすかった今までのアニメーションとは一線を画し このヤマトブームの波に自分も飲み込まれていったのは言うまでもない。
 その後は「宇宙戦艦ヤマト」と同じ松本零士作品「銀河鉄道999」シリーズや「キャプテン・ハーロック」などがヤマトで芽生えたSF的知的好奇心を満たしてくれたのだが、その好奇心が次に意外なもので満たされることになるとは予想だにしなかった。
 それはモビルスーツというロボットが活躍する、そう「機動戦士ガンダム」。いわゆるファーストガンダムである。
 あれだけ単純明快で 低年齢向けと思われたロボットアニメの印象がこの作品で一変する。
 モビルスーツというロボット兵器(?)、スペースコロニー構想、核兵器、陰謀、暗殺、独裁政治 そして戦争。
 どれをとってもアニメーションにおけるテーマとしては新鮮だった。確かに個別のテーマとしては SF小説の世界では使い古されたものかもしれなかったが現にモビルスーツという発想は ロバート・A・ハインラインの「宇宙の戦士」(後に映画化)で取り上げられていることでもあるし、スペース・コロニー構想に至ってはNASAなどでプロジェクトは進行中である(?)はずだが、これらのテーマを 子供が見る時間帯(土曜の夕方)、毎週一回放送するようなアニメーションで表現したことが驚くべき事だったのだ。
 そして当時の自分にとっては 日本史や社会の授業において時間不足により ろくにフォローされることのない第二次世界大戦、朝鮮戦争、ベトナム戦争よりましてやイスラエルとアラブ諸国の戦争(中東戦争)、紛争などよりも 「戦争」というものがずっとリアルだった
 時代的に言えば 旧ソ連軍によるアフガニスタン侵攻などもあったはずなのだがそんな現実の戦争よりも 架空の、それも2次元のアニメーション上で起こっていた戦争の方がずっと心に響いたのは 平和ボケしている証拠だったのだろう。
 ガンダムはその後「Z ガンダム」「ZZ ガンダム」と今日まで続いていくことになるのだが、やはりファーストガンダムを超えるほどの魅力もなく それと同時にアニメよりも音楽や他の事に自分の興味が移っていったことで次第にアニメを見る機会も無くなっていった。


 それから幾年月。

 なんとか人並みに社会人という立場になってからも 映画や小説(SF、ミステリー等)は自分にとって感性を磨く上で重要なファクターであったが、アニメと言えばガンダムやヤマト、999など仲間内などで昔を懐かしむ題材でしかなかった。
 だが偶然か必然か 当時の職場はアニメに詳しい先輩、後輩、同僚が多くその間で盛り上がっていたのが この「機動警察パトレイバー」だったのだ。






 「機動警察パトレイバー」



 レイバー。それは産業用に開発されたロボットの総称である。建設、土木の分野に広く普及したがレイバーによる犯罪も急増。警視庁は特殊車両2課 「パトロールレイバー中隊」を新設してこれに対抗した。通称「パトレイバー」の誕生である。」(新OVAのイントロナレーションより)



 こんなナレーションで始まる「機動警察パトレイバー」は 1988年から1994年にかけて コミック、新旧オリジナルビデオシリーズ、TV版、2作の劇場版アニメーションと共に ゲーム、小説、CDへと当時はまだ珍しかったメディアミックス展開を成し遂げたSFロボットアニメーションである。 pic
 この作品を企画、立案したのは 漫画家 ゆうきまさみメカデザイナーの出渕裕キャラデザインの高田明美脚本家の伊藤和典、そして演出、監督の押井守らによる「HEADGEAR」の面々。
 特車2課という 落ちこぼれ警察官とその整備班の仲間が織りなすコミカルに、そして時にはシリアスに描き出す人間模様 プラス ロボットアニメーション王道のアクション( 黒いレイバー”グリフォン”との対決 )、ミステリー、ラブストーリー、パロディ.....となんでありの展開はあの当時としては斬新であった。
 特に二本の劇場版は実写でも成し遂げられないほどのリアルさで観客を圧倒、監督の押井守の名はアニメーションばかりでなく日本映画界、はたまた海外まで演出力の高さで名をとどろかせた。

 1作目 (1989年公開)では近未来の東京を舞台に、バビロン・プロジェクトと呼ばれる大規模な東京湾改造計画に工業用ロボットであるレイバーのOS(オペレーションシステム)に仕掛けられたコンピュータウイルスとの攻防を描き、2作目(1992年公開)は2002年、同じく東京を舞台に戦争をシュミレートしたテロリストとの戦いをハードに描いている。
 そしてこの映画版で最も驚かされることは両作品とも80年代末、90年代始めという時代に制作されながらも 現代の日本を予見したかのような描写である。
 コンピュータウイルスに関しては 今や一般のパソコンユーザーでさえ馴染みの話だが、当時は実体さえも理解され難かったと思われ、それにWindowsさえ登場していなかった時代(92年頃ならかろうじて3.1は登場していたか)にOSという概念を持ち込んだ先見性は驚嘆に値する。
 また戦争を首都”東京”にシュミレートした2作目は制作当時、話題になっていたPKO問題を絡め 自衛隊の存在の意味、紛争と戦争の犠牲に成り立つ一部先進国の「血みどろの繁栄」と欺瞞に満ちた かりそめの平和は何なのか?とアニメーションとは思えない深淵なテーマを扱っている点は 驚きを通り越して恐怖さえ感じるほどだ。
 それは 映画本編における気球船による毒ガス噴射というテロリズム(これは トマス・ハリスの「ブラック・サンデー」あたりを参考にしている?)描写が その後のオウム真理教による「地下鉄サリン事件」を予感させるものであった。というのもこの映画が他のアニメーション作品と一線を画していたのかもしれない。




 「機動警察パトレイバ− THE MOVIE 3」



 それから約10年。
 21世紀を迎え、時代は正に「パトレイバー」の設定と同じ2002年。
 以前から噂されていた3作目の劇場版が完成した。
 しかし、今回は前2作の押井監督の参加はなく、メカデザインの出渕氏が中心となり企画を推し進めゆうき氏の原作「廃棄物13号」を元に漫画家・小説家のとり・みきが脚色。今までにないパトレイバーを提示している。



 時代設定は ”昭和75年!” 。 
 (パトレイバー世界では物語の根幹を成す)東京湾岸開発「バビロン・プロジェクト」が進む一帯では工業用レイバーを標的とした襲撃事件が続発。警視庁城南署の刑事・久住(声:綿引勝彦)、秦(声:平田弘明)は捜査を開始するが 原型を留めない4人目の犠牲者が出ても何の手がかりも見つけられなかった。 pic
 そんな時、秦は偶然、出会った美しき謎の女性、峠冴子の不思議な魅力に戸惑いながらも惹かれていってしまう。
 警戒中に発生した5軒目の襲撃事件は水中で作業中のレイバーが標的だったが その破損したレイバーが機外撮影した映像には 巨大な魚のヒレのようなものが映っていたのだ。
 それを確認した久住・秦は 襲撃事件と時を同じくして発生した米国輸送機墜落事件に着目する。墜落した輸送機のコンテナの納入先のヘルメスを捜査するものの実体の無いダミー会社であり、久住はこれを受け独自に捜査を続け、そこに米軍の影を感じたのだった。
 しかし、第5の襲撃事件は思わぬところで発生する。湾岸にあるクラブ近くの駐車場の車中から発見される血みどろの死体。
 襲撃現場に急ぐ久住と秦は途中で現場のクラブ近くの備蓄基地から緊急連絡が入り そちらに急行するが.....
 そこで久住と秦が目にした物は 驚くべき生物だった。襲いかかるその怪物から必死に逃げる久住と秦。
 襲撃事件の犯人はこの得体のしれない生物なのか? はたして.....戦いはまだ始まったばかりである。



 前2作が脚本家、伊藤和典氏や押井監督による全くのオリジナルであったのに対し、今回は原作を元にしているものの 原作にはない久住、秦両刑事を登場させ なかなか骨太の刑事ドラマに仕上がったと思う。とり氏などは脚色にあたり「砂の器」「野良犬」等の刑事物映画をイメージしたらしいが なるほど聞き込みなどの地味な捜査課程の描写は前述の映画を彷彿とさせる。
 ただ私の耳にも実際、観客の「これは かなりの問題作」という声が入ってきたように以前の押井版パトレイバーのイメージを期待したものには拍子抜けだったのは仕方ないだろう。
 だが、押井監督参加なしで あの自衛隊や国家などが登場しリアルな世界を構築していく路線は無理があるだろうし、そのような状況でのストーリーはもうやり尽くされていると思える。
 だから あえて原作物を選び、かつテロや戦争よりはずっとファンタジックな存在、”怪獣”をメインテーマに据え 違う視点からリアルに描いたのは これはこれで私の中では 全くOKなのであった。

 また望むならば 現実の世界に「ガメラ」という怪獣を無理なく溶け込ませる事に成功した金子修介監督あたりに実写化してもらいたいと思ったりするのだがそれは無理というものだろうか。





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