2000年5月2日
近年、上野駅は随分と姿を変えている。いつのまにか新幹線地下ホームに到着した乗客を3階コンコースへと運んでいたエスカレータは在来線用に転用され、元地平18番ホームは自由通路となっていた。特急専用ホームからは、1時間に2〜3本出るだけで、1時間に8本も発着していた往時を知っているものとしては、この変わり様にはビックリする。
その中で13番線ホームは昔ながらの薄暗い雰囲気が漂っていている。もっとも、改装されて小綺麗になってはいるが・・・。
このホームは北海道や東北・北陸方面への寝台特急専用のホームとなっていて、16時を過ぎると賑やかになる。まもなく、「カシオペア」の入線である。
世の中は、ゴールデンウィークの真っ最中であるが、今日は連休はざまの平日でもある影響か、はたまた有珠山噴火による影響か、カメラを構えた人の姿も少なく乗客も思ったより少なかった。おかげで客車をバックにした記念撮影もゆっくりと落ち着いてできた。
さて、今回私が乗車するのは全室A個室寝台を誇る「カシオペア」の中で、もっともグレードが高い「カシオペアスイート」である。「カシオペアスイート」は、1階が寝室、2階が座席の”メゾネットタイプ”が基本となっているが、1号車の車端部にある1号室は平屋の展望室で、数ある個室の中でもっとも羨望のまなざしを浴びる部屋となっている。
今回手に入れたチケットは、残念ながら展望タイプではなかったが、8室しかないスイートの1室が運良くゲットできたのであった(^^)v
ちなみに、カシオペアの個室には3タイプあり、一番グレードの高いものから、「カシオペアスイート(57,280円)」「カシオペアデラックス(40,660円)」「カシオペアツイン(33,000円)」となる。[カッコ内は上野−札幌間の特急・寝台料金(1〜2名利用時),他に乗車券も必要です。]
各部屋にはTV、BGM装置、サニタリーが備えられているが、「カシオペアスイート」、「カシオペアデラックス」にはクローゼットとシャワールームも設置されているのである。
参考:JR東日本・カシオペアのホームページ
スイートの個室が並ぶ1号車の乗降口で、警備員が厳重に乗客をチェックしていた。発車前を狙い、切符を持たないのに部屋をのぞき込むマニアが多いのだろう。困ったことである。
切符を見せてようやく1号車2号室の乗客となる。隣の1号室の乗客が気になったが、ほどなく中年のカップルが乗車して来た。3号室の老夫婦と一緒のグループのようだが、年寄りに階段の上り下りをさせて、自分達は展望室でお楽しみ・・・と云うことらしい。
マルスがどういう仕組みになっているか知らないが、その間に我々が割り込んだようだ。これもマルスのイタズラであろう(苦笑)
荷物を部屋に置き、ドアの電子ロックを確認する。以前、「あけぼの」のB個室寝台に乗車したとき、機構的にはドアを閉める事が出来たものの、解除する電子ロックが故障して部屋替えとなった経験もあるので、この確認作業は欠かせない。 確認したところ、一発で動作したので大丈夫なようだ。
あっという間に発車時刻となり、カシオペア号は静かに動き出した。これから札幌で16時間に及ぶ長旅となる。隣の14番ホームでは、カシオペアを撮影しようとする人を何人かみかけたが、ちょうど普通列車の到着と重なった。上野駅構内でのカシオペアの撮影はなかなか難しいものがある。
上野発の東北特急は東北新幹線開業以前はよく乗車したが、最近はほとんどない。当時と比べると、大宮までの沿線風景は変わらない気もするが、すれ違う列車はだいぶ変わった。また、大宮操車場跡は、さいたま新都心として新しい町づくりの真っ最中である。
カシオペアスイート1階 |
走行位置を表示するカーナビ
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室内シャワールーム
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洗面台 |
12号車ラウンジ
今日の牽引機EF81−79
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食堂車内部
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少し、室内を見てみよう。カシオペアスイートは、上下2階構造となっており階段を下りた1階には、ビジネスホテルの部屋のようにシングルベッドが2つ平行に並べられている。ベッドの間には、スタンドと時計、ラジオ機器が置かれている。階段下の機器室の一角にはクローゼットが配置されている。
2階は居住空間となっており、サニタリーとシャワールームが設置されている。1階の空間と比べると、狭苦しいが眺めはすこぶる良い。
なお、2階の座席は折り畳むとベッドにもなるそうで、スイートは最大3人での利用が可能である。そのため、洗面道具が入ったアメニティグッツも3人分用意されている。
そのおかげで、使わない寝具、テーブルが本来乗客の荷物置き場となる箇所に置かれており、荷物を置くスペースがほとんど無かったのには閉口した。こういうモノをしまうスペースは是非欲しいところである。
カシオペアご自慢のAVシステムは、車内FMオーディオ放送、ビデオ放送の他に、BS放送の受信が可能である。テーブルには番組表も置いているがBS放送の映りは移動しているのでやむをえないがあまり良くない。じっと見ていると気分が悪くなりそうである。
チャンネルを切り替えると、カーナビゲーションの画面になった。現在の走行位置が一目でわかるので、なかなかの優れものである。ただし、車用のものをそのまま載せたらしく、地図上では線路の上を走っているのに、文字の表示は国道4号線や一般道を走行していることになっていた。また、目的地までの距離が600キロとなっいる。札幌までの距離にしては、直線でも随分少ない。あとで確認すると青森に設定されていたようである。 折角のハイテク設備が台無しである。こういう設備はちゃんとメンテナンスして欲しいものである(苦笑)
あと、入り口脇には、車内販売員が近づいてきたときに点灯するお知らせ灯があった。「ポン!」と云う音のあと、車内販売員の売り声が聞こえてくるので、車内販売を利用したいときは便利である。カシオペアグッツも声をかければ部屋まで運んでくれるので、何度が所望してしまった(笑)
続いてサニタリーを紹介しよう。ドアを開けると目の前にトイレがあり、右手がシャワー室。左手に洗面台がある。洗面台は壁から引き出す収納方式で、引き出すとトイレの上を覆う形となる。トイレと洗面台の同時使用は構造的に無理である。同時に使うことはまずありえないだろうが、いちいち洗面台を引き出すのも面倒である。
シャワールームとトイレは高さ10cmほどの床の仕切りとカーテン1枚で仕切られている。お湯が飛び散らないかと思ったが、実際に使ってみると床に防水仕切りを越えるお湯はなく、うまく機能していた。この仕組みを考え出した人はなかなかのアイデアマンである。お湯の使用時間は総計18分。個室を3人(6分/人)で利用した場合にあわせて使用可能時間が設定することを想定しているようで、2人利用では多すぎる時間であった。
最後に、テーブルの上を見れば、案内パンフレットと、ウエルカムドリンクが置かれていた。ドリンクは水割りとワインである。あとで、コーヒーのサービスもあるが、水割りとワインはカシオペアスイートの乗客だけが受けることが出来る粋なサービスである。
車輌にしめる個室の占有率で占めると、1999年11月に乗車したオーストラリアの豪華列車「グレート・サウス・パシフィックス・エクスプレス(GSPE)」のキャビンとほぼ同等であると思われる。あちらも、1両に4部屋の配置であった。延べ床面積は明らかにカシオペアの方が広いが、2階建て構造のため、多少上下方向に圧迫感がある。また、いろいろと機器を詰め込んでいる影響もあるかもしれない。ただし、2階からの眺めはさすがに良い。
上野を発車してすぐ、女性乗務員によるウエルカムドリンク(ソフトドリンク)のオーダがあり、大宮を発車してまもなく届けられた。各部屋を回って注文を取り届けるので、すべての部屋に配り終えるのは時間がかかる。カシオペアツインの乗客にお詫びの車内放送もあったので、グリーン車のドリンクサービスとはかなり様相も違う。素早いサービスが受けられるのは、高い料金を支払っているカシオペアスイートならではの特権であろう。
大宮を発車した時点で車内を一回りしてみる。途中、何カ所かに自動販売機が設置されている。販売しているドリンクをチェックすると、北海道限定ビール「クラシック」も販売していた。JR北海道の列車では、「クラシック」を発売している自動販売機を見かけるが、JR東日本の車輌では初めてである。これは、是非とも飲まなければ・・・(笑)
個室の方は、1ヶ月前の発売日に全室売り切れたことを確認していたが、キャンセルが出たらしく、上野駅13番線の五つ星広場には5室空きがあると表示されていた。発車間際に五つ星広場で空室情報を見ても、実際に乗車するのは厳しそうだが、衝動的な飛び乗りを期待しての事なのであろうか?
一巡してみたところ5室の空きどころか50%も埋まっていない状況であった。もっとも利用が多いのは上野、大宮だと思っていただけに意外である。この後、宇都宮、郡山、福島、仙台、一関、盛岡と停車するが、満室になるほど利用客があるとも思えないのだが・・・。途中からツアー客でも乗ってくるのだろうか?
ようやくたどり着いた先頭12号車のラウンジには4人の利用客がいたが、まもなく出ていったので、貸し切りとなる。ソファーに座りゆっくりとくつろぎながら、本日の機関車を確認する。カシオペア専用機の1機、EF81−79が任務に就いていた。このような角度で機関車を観察する機会はなかなか無い。
本格デビューを控えたE231系近郊型が待避している小金井を過ぎるとまもなく第一回目のディナータイムである。食堂車は3号車にあり、我々の1号車から近い。案内された席は山側の2人席であった。山側の1階は通路となっているので、一段高いところが座席となっている。
コース料理はすでに注文済みだったので、ドリンクはカシオペアオリジナルのカシオペアワインの白を注文する。値段は1本2,000円。ドリンクはコース料理には含まれていない。
部屋にもワインが置かれていたが、あちらは変哲のないワインであった。どうせなら、カシオペアにちなんだワインの方がよい。ただし、山側の座席は一段高くなっていて重心が高いから体の安定性が悪く、グラスにワインをつぐとき、列車の揺れが非常に気になった。座席が高すぎるのも良くないものである(笑)
日頃は、とても食べられないフランス料理に舌鼓をうち、贅沢な時間を過ごす。座席は26席あるが、ほぼ埋まっていた。見回したところカップルが多いが、グループ客や子連れ客もいる。さすがに、独り者は居ないようである(^_^;;
本日のメニューは以下の通りである。
1.北海の幸取り合わせ 美食家風サラダ
2.雲丹の冷製クリームスープ 〜流氷仕立て〜
3.十勝牛ヒレ肉のソテー トリュフソース(肉料理)
タラバ蟹と大鮪のオーブン焼き 乾燥トマトソース(魚料理)
4.フルーツのパイ飾りバニラアイス添え 〜北海道の大地に乗せて〜
5.パン、コーヒー
6.チーズ取り合わせ
 北海の幸取り合わせ 美食家風サラダ |  雲丹の冷製クリームスープ 〜流氷仕立て〜 |
 十勝牛ヒレ肉のソテー トリュフソース (肉料理) |  タラバ蟹と大鮪のオーブン焼き 乾燥トマトソース (魚料理) |
 フルーツのパイ飾りバニラアイス添え 〜北海道の大地に乗せて〜 |  パン&チーズ |
ワインに酔うと列車の揺れも気にならなくなり、おなかも満腹となる。気がつくともう19時であった。次のディナータイムの準備も始まるので、これにて退散する。既に日も暮れ、列車は白河を過ぎ、郡山へ向かって順調に走行していた。
「カシオペア」号は、郡山、福島と停車し21時前に仙台に到着した。外はいつのまにか雨模様となっていたが、ここで知人のお出迎えを受ける。わずか2分の対面であったが、しばし歓談する。
仙台を発車したあと、クラシックビールの買い出しを兼ねて車内をまた一巡してみる。大宮発車時点では空室が目立った個室であるがほぼ埋まっていた。いったいどこから乗車してきたのだろうか?
一ノ関に停車した後、列車は北上を続け、つい先日に復旧したばかりの胆沢川橋梁に差しかかる。部屋のカーナビで先に橋があることが手に取るようにわかるのである(^^)
列車はだんだん速度を落とし約20km/h程度の速度で橋を渡る。夜なので橋脚が傾いた様子は見えないが、複線の鉄橋を傾かせるとは自然の威力は凄い。橋を渡りきると列車は何事も無かったように加速し、北上を続けた。
盛岡では、東北特急が輝いていた往年の姿を彷彿させる583系使用の「はくつる82号」と離合する。急行「きたぐに」を除いて、定期運用から離脱、波動用車輌として生きながらえているが、いつまでも頑張ってもらいたいモノである。盛岡を過ぎるといつの間にか夢の中であった・・・・