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11月11日
『ペリペティアの福音』は上巻まで読了。『カムナビ』は第1部まで読了。

ついにFA選手の交渉が解禁となった。わが横浜からは、野村、佐々木、石井琢、進藤、中根の5選手がFA宣言、うち石井琢、中根が再契約、野村も再契約予定となっている。佐々木が出て行くのは規定路線だし、進藤が出ていってもチーム打率は落ちないので、この状況はまずまずと言ったところ。とにかく、ローズと石井琢を残留させただけでも勝利といえるだろう。獲得選手の方は、江藤が好感触、FA外では小宮山が良い感じと、こちらもよさげな状況。最良の場合、石井琢(遊)、波留(中)、鈴木尚(左)、ローズ(二)、江藤(三)、駒田(一)、佐伯(右)、谷繁(捕)という洒落にならないオーダーに、斎藤隆、川村、野村、三浦、小宮山とまともな先発5枚で野球が出来るわけで、矢野、横山さえしっかりしてくれれば優勝争いに敗れての2位も夢じゃない状況だ。結局、コミーはメッツ、江藤は読売なんて落ちじゃねえかという気もしなくも無いが。

他チームの補強も気になるが、やはり最も注目すべきは工藤の去就だろう。99%読売という雰囲気ではあるが、ここは一発中日入りしては貰えないだろうか。工藤、野口、山本昌、小池、今中という左5枚のローテはぜひ見てみたい。< 川上と武田はどうすんだ

11月12日
サンケイスポーツのスッパ抜き記事を見て愕然。小宮山が読売入団だぁ?この時期の新聞報道ほど当てにならないものはないので、頭から信じる気はないが、気になるのは確か。真偽のほどは週明けまでわからないようだが、ぜひとも嘘であって欲しいところだ。

近所の書店で、ハルキ文庫の山を見る。SF伝奇フェアだけあって、ほぼ全部SF。こうやってどうでもいい本まで復刊されることは、SFの復活を印象づけるという点では素晴らしい事だと思うが、こう一度に出るのはやはり問題ではなかろうか。月に5冊にしておけば間違えて全部買うかもしれないのに。これだけ一度に出ると、さすがに普通の人は買い揃えるのを諦めるだろう。なんか、往年の角川焼畑商法を見るようで、先行きが不安。

会社帰りに早稲田でカレー。当然、アユミブックスによる、ってこないだ後悔したばかりのような。なんとかソフトカバーのエッセイ集には手を出さずにすんだが、マンガ2冊に文庫2冊も買ってしまっちゃあ同じ事だよな。というわけで、大石まさる『空からこぼれた物語』(ヤングキングコミックス)、黒田硫黄『大王』(CUE COMICS)、阿刀田高『詭弁の話術』(角川文庫)、他1冊を購入。他1冊の名は恥ずかしくて書けるようなものではない。

帰りがけに、『詭弁の話術』を読む。『恐怖コレクション』あたりのセンスの良いエッセイを期待していたのだが、かなり駄目だった。やはり、もとがKKベストセラーズでは仕方が無いのか。

11月13日
何かの間違いで目が覚めてしまったので「サイボーグクロちゃん」を見る。なんか、淡々と面白いような気がするがどうだろう。

そうこうするうちに本屋が開く時間になったので、近所の書泉に行き、富沢ひとし『エイリアン9』3巻(ヤングチャンピオンコミックス)、小林めぐみ『ねこたま』(富士見ファンタジア文庫)を購入。ついでにモン・コレ黄金樹1箱も購入。いや、買ってすぐ後悔したのだが。

スポーツ紙で、小宮山が昨日のサンスポの報道を否定するのを読んだりしながら、買ってきたものを消費する。
モンコレはまあそんな感じ。バハムート、カッシェ、バレンタインが手に入ったんで、そう悪いものではなかったのだろう。いつのまにか2刷りになっていたのは残念だが、僕はコレクターでは無いので問題はないのだ。しかし、超レアがコンプリートになってもまだ出ないレア(守備部隊の騎士団長)というのはなんなんだ。
大石まさる『空からこぼれた物語』は絵柄の通りの、穏やかな作品集。あと一歩のところでまとまってしまっている印象はあるが、悪くはない。でも、この方向だと大化けはしないかなあ。
黒田硫黄『大王』はイマイチというかなんというか。「象の散歩」に見えるセンスは決して嫌いではないのだが、どうにも絵柄が肌に合わなくて。自分のマンガ絵に対する了見の狭さを嘆くばかりだな。
富沢ひとし『エイリアン9』は期待通り。実に嫌な展開を過不足無く描き、完璧に物語をまとめている。欲を言えば、髪形以外で、キャラを描き分けて欲しかったところだが。

さらに梅原克文『カムナビ』(角川書店)も読み終える。なんだ、言われているほど酷くないじゃん。確かに、期待して読み始めたり、金払って読んでいたり、人に薦められて読んでいたりしたら、腹を立てた可能性は高いけど、志茂田景樹を比較対象とするほどの覚悟を決めて、人から借りて読む分には腹を立てるほどのことは無い。SF右翼の人の反カムナビキャンペーンって、読者に覚悟をさせる事によって「言われているよりは面白い」という感情を抱かせる効果しか挙げてないのでは。
確かに、正面切って褒める気になる代物ではない。文体がどうこうという作品ではないにしても、この文章の出来は余りにも酷い。比喩のセンスの無さや、蘊蓄の冗長さは最低だ。キャラ立てもさして上手いとはいえず、特に主人公の魅力の無さは目を覆わんばかりのものがある。全体に、完成度が高い作品とは言い難い。
しかし、少なくとも先を読ませる引きと、驚天動地の真相だけは用意されている。だったら、それで充分じゃないか?あくまでハイパー・ホラーなんだし。少なくとも、ベッカー『リンク』よりは展開の意外性の分だけマシ。これに怒るというのはいくらなんでも多くを期待し過ぎでは。
特に、「「驚天動地の真相」が科学史的事実に反している」という論点はよくわからない。そんなもの作品全体にちりばめられた嘘の数々や脇の甘さに比べれば些細な事実ではなかろうか。仮にテーマの中心でだけは嘘を言ってはいけないという立場を取るにしても、多くのSFで進化について嘘を言っている事に比べればさほど大きな罪とも思えない。
だいたい、この作品はSFである前に古代史物なんだから、「オルバースのパラドックスは解決済みのはず」なんて言う前に、「草薙剣は壇の浦に沈んだはずだろう」ってところで突っ込んで欲しいところである。
あるいは「三種の神器の崇りって、八尺瓊勾玉があるのは皇居って書いてるやんか」とか。真偽の別よりは、こういった作品内論理の破綻に突っ込む方が、「まだ」本質的なんじゃないかなあ。その意味では、「その説明では、(作品内の定義での)オルバースのパラドックスの解決とは言えんだろう」という突っ込みは理解の範囲内。まあ、それにしたって、胡桃沢耕史にミステリとして突っ込むような空しさを感じますが。正面切って非難する価値はないよ、これ。

最後に、僕のこの本に対する評価は下の上。下巻の残り半分でバランスを崩しさえしなければ、新書のアクション物としては合格点だったのでは。いや、それがノベルズではなくハードカバーで出てしまった事が最大の問題点だと思うんですが。

11月14日
昼前に起きてしまったので、しばし考えた末、東洋大の学園祭を見に行く事にする。朝霞の会場までは、1時間〜1時間半。もっと地の果てにあるのかと思っていたのでやや拍子抜け。なんだ春日井より近いんじゃん(名古屋人限定の説明)。

なんとか会場について知人に挨拶をしようとした瞬間、某嬢に「なんで来たんですか」と詰問されてしまったことである。以前会ったときには「時間があったら来て下さい」と言っていたのにあれが社交辞令だったとは。とかく、人の世の付き合いというのは難しい。

(注)「"ネットの人"が来たら負け」という賭けをしていたらしい。挨拶代わりに詰問された後は歓迎して頂いた事を、某嬢の名誉のため付け加えておこう。

詰問されても来てしまったものは仕方が無いので、冷たい視線を浴びつつ知人に挨拶をしたり、古本を見てまわったりする。「その五巻だけというのはどうしろというのだ」ってな本も散見されるが、全体的には思ったより質が高い。教室半分が完全に埋まる量があるというだけでも驚きだ。これで最終日というのだから、初日はどれほどの状態だったのか。来年は、有給をとって金曜日に行くしかないな。< おい
とりあえず、安田均『夢幻年代記』とよしもとよしとも『Greatest Hits+3』を購入。下手に読み始めると懐かしさに凍りつきかねないので、あえてその場では読まないようにする。

その後、東洋大SF研現役最年長(ウソ含む)、鈴木力氏に案内して頂きSF研の部室を訪問する。東洋大SF研の部室は、空間を広く使い、よく整理された部室であった。このような洗練された環境があるからこそ、東洋大独特のスタイリッシュなゴシップが生まれてくるのであろう。環境というのは重要だね。

どうも、「部室」とか「ボックス」とかいう言葉がいけなかったのか、不用意にもその場で和んでしまい、鈴木さんや、藤崎さん、大熊君、小菅君、蔭山さんなど、OB(G)諸氏と、アニメだのオモチャだの近況だの学校の様子だの某嬢だのSFだのの話をするうちに学祭が終わる時間となってしまった。
常識ある人間ならこの時点で帰るのであろうが、不用意な人間なので、ついつい打ち上げに参加する事にしてしまうのであった。今思い返すと我ながら本当に不用意だな。

打ち上げの前に、閉店後に行われた売れ残りの競りを見物する。
これは、各自が売れ残りから好きなだけ本を選び、それを競りにかけるというもの。運がよければ底値の10円で競り落とせるとはいえ、自分が選んだからといってすぐに手に入るわけではないというところがポイント。多くの本が10円で落ちていく中、「なぜそれが」というような本が勢いで高騰したりして結構面白かった。
さすがに競りに参加するわけにも行かないので漠然と会場内を見渡していると、黙々と本を積み上げている某嬢がいた。どうやら競りにかける本を選んでいるらしい。選ぶといってもすでに数10冊におよぼうかという量、そんなに落とせるのかと訊ねてみると、「10円で手に入れば嬉しいじゃないですか」という答えが返ってきた。どうやら、競る気はさらさら無いらしい。システムの矛盾を突いた恐ろしい行動である。そのスタンスがあまりに素晴らしかったので、もう数冊積むのに貢献させて頂く。
やがて打ち上げ開始の時刻が迫ってきた。「競りに参加しない方は早めに打ち上げ会場の方に移動して下さい」の声がかかり、競りの場からはほとんど人がいなくなる。しかし、この時点で競りの対象として残っていた本が、すべて某嬢が選んだものであるという事実と、移動の呼び掛けを行ったのが某嬢であるという事実の間になんらかの因果関係を見てしまうのは、陰謀論に傾き過ぎているだろうか。そんなわけで、某嬢が選んだ本の競りは競争相手がほとんどいない中行われた。結局、某嬢は、一部の本を司会や会計の担当者に奪われたものの、予定通り数10冊の本を数百円で手に入れたようだ。作戦勝ちというべきか、権力の乱用というべきか。

面白い見世物を拝ませて頂いた後は、駅前の飲み屋で打ち上げ。若干のOBも含めると、40人にも及ぼうかという大人数の参加する実に正しい学生の飲み会であった。活気があって羨ましい事である。会場ではさまざまな会話が交わされていたが、中では、白地図片手に現役大学生の地理能力を確認してまわっていた鈴木力氏の姿が印象的であった。彼の調査によると、大学生の学力崩壊は事実らしい。そりゃまあ確かに、日本の県名を答えろと言われて「オーストラリア」というのはあまり健全な状態では無いよな(一部誇張有り)。

午後10時半、2次会に行こうとする学生(無謀な社会人含む)と別れ、鈴木力氏とともに、尾張と三河の積年の争いなどについて語りながら帰宅する。

11月15日
とある理由で、ボーナスは大幅減額なんじゃないかと不安が募る今日このごろ。みなさま、いかがお過ごしでしょうか(意味不明)。

喜ばしい事に、小宮山が「国内なら横浜」と明言してくれた。あとはメッツがどう出るか、というところではあるが、少なくとも読売で飼い殺しだの、中日で中継ぎだのという事はなくなったわけだ。めでたい。あとは、江藤だな。

昨日、東洋大の古本市で買った安田均『夢幻年代記』(Login Books)を読み耽る。懐かしすぎ。第1回が、84年3月、Ultima IIIってんだから、それは卑怯というものだろう。いやもう、KaratekaだのPhantasieだのOgreだのZorkだの夢のように懐かしい単語が並んでいる。だいたい、「安田均のアメリカ・ゲーム事情」というタイトル自体懐かしすぎるよな。鹿野司の「オール・ザット・ウルトラ科学」、火浦、神林、川又、大場あたりが次々登場した「ファーストフォワード」、「ファミコン通信」に「MSX通信」、「べーしっ君」に「ヤマログ」。LOGiNか、何もかも、皆、懐かしい。……やめよう、あまりにも懐古的だ……。

11月16日
プロ野球関連で次々と嬉しいニュースが飛び込んでくる。まずは、千葉ロッテ、ウォーレンが残留を決めた。また、韓国野球委員会が鄭の移籍を認めない方針を打ち出した。これで、読売移籍を噂されていた2投手が、ともに来期読売に「来ない」ことが決まったわけだ(鄭はまだわからんが)。確かに、河本&工藤だけでも十二分に怖いので、気休め程度の話ではあるが、一時噂された、「河本、工藤、小宮山、ウォーレン、鄭、メイ、佐々木を全部(+江藤、緒方、石井琢から一人)」なんて状態に比べれば圧倒的にマシな状況。工藤、河本だけで済んでくれるのなら、なんとかペナントに興味が持てるだろう。あとは君に来てもらうだけだよ、江藤。

しかし、あれですね。大阪近鉄の元エース小池が中日、オリックスの元エース星野が阪神、千葉ロッテの元エース小宮山が横浜、福岡ダイエーの現役エース工藤が読売なんてことになるとは、なんか呆然としてしまいますね。いや、決まってるのは中日の小池だけだけど。
こうなればヤクルト、広島にも頑張って頂かないと。ヤクルトは芝草、広島は豊田とかどうだ。< 無理です

11月17日
ふと気になってWebを検索してみて愕然。壇ノ浦に沈んだのはレプリカの方だったのか。なんでも、八咫鏡は伊勢神宮、草薙剣は熱田神宮に祀られているんで、宮中には崇神天皇のときに作られた儀式用のレプリカ(よくわからんが霊的には等価なんだそうな)があるらしい。で、安徳天皇が持ち歩いていたのは、このレプリカだというんだな。確かに、平氏の都落ちの時点では、近江以東は源氏勢力下なんだから、伊勢の鏡はともかく、熱田の剣を持ち出したというのは無理がありますね。

しかし、レプリカ説が正しいとすると、『カムナビ』に関する先日の議論は破綻してしまう。「クリティカルな部分の歴史的間違いだけで断罪する歴史の人がいないように、クリティカルな部分の科学的間違いだけで断罪する必要はないでしょう。」という論法は、撤回せざるを得ない。でも、しかし、「クリティカルな部分の科学的間違いだけで断罪する必要はない」って部分は変えるつもりはない。もっと上手くやる方法はいくらでもあったと思うが、それだけで断罪されねばならぬほどの問題とは思えないのだ。『竜の卵』だの、『重力の使命』だのといった、科学的事実からの演繹だけでどれほど奇妙な世界が作れるかをテーマとした作品とは、興味の方向が全く違うのだから。明石散人に「君の科学は間違ってるよ」って言ったって仕方がないでしょ?

11月18日
秋山完『ペリペティアの福音』(ソノラマ文庫)読了。なるほど、これはすごい。

銀河を股にかける正義の葬式屋と悪の医療法人の大激闘というとっぴょうしもないメインストーリーもさることながら、12重人格のヒロインの出自や、宇宙船を卓越した視力と空間任知力を武器に"手動で"動かしてしまう舳先舵手、一切の統治機関を持たないトランクィル廃帝政体などの設定が実に魅力的。また、時に見せる一文のセンスや、アクションの切れ味も素晴らしく、なによりサブキャラクターの背景として語られるエピソードの上手さは絶品だ。

もちろん、欠点はある。強引な設定の数々のなかには、正直、それは無理だろうという部分もある。オタクネタの入れ方が余りにも露骨で、上滑りしてしまっているギャグも多い。すべての設定を説明してしまうのも気になるところだ。ヒロインももう少し大事に使った方が良かったのでは。などなど。

しかし、この作品には、そんなくだらない事は忘れさせるだけのパワーがある。すべての伏線を、何がなんでもまとめあげる豪腕と、その豪腕によって生み出される壮大なクライマックスは、並のスペオペに100倍する破壊力がある。その感動の質を、史上最強のスペースオペラ『マップス』と比較しては褒めすぎだろうか。
他の作品をぜひとも読みたいという気にさせてくれる傑作。

と、このあたりで時間切れなので、SFマガジン読者賞投票用紙のアンケート、国内ベスト5を決める事にする。
国内は海外に比べると消化率が低く、『わたしと月につきあって』『エリコ』などが未読なのだが(『エリコ』の雑誌連載版は既読)、それでもなんとかベスト5と言って恥ずかしくない作品は5作以上あった。ぎりぎり投票資格を満たしているのではないだろうか。以下がその5作である。

1位は文句無しの『クリスタルサイレンス』。これほど純粋にSFであり、SFでしかない作品は久しぶりだ。イーガンとは全く別の意味でSFの究極にある傑作。
2位は『蘆屋家の崩壊』。ジャンルは明らかにホラーだが、これほどの鋭さを持つ作品はぜひ評価しておきたい。「反曲隧道」の切れ味だけでも記憶される価値がある。
3位は『ペリペティアの福音』。文章、設定などに破綻は多いが、それを遥かに上回る面白さがある。特にトランクィル廃帝政体と星海艦隊の設定は魅力的。この設定だけでも壮大なスペースオペラが書けるだろう。稚気丸出しの小ネタを抑制する事を覚えれば、大ブレイクするかも。
4位は『東京開化えれきのからくり』。これっぽっちもSFではないが、草上仁という小器用な作家の到達点として評価したい。物語を力ではなく、技巧だけで纏め上げる職人芸はこの作家ならではのものがある。
5位はやはり『グッドラック』。前半から中盤にかけてはさすが神林という力があるが、終盤、雪風が喋ってしまうあたりが大きな減点対象となっている。無茶を言っているという気はするが、天才・神林なら雪風を人に近づけることなく、ジャムの遠さを示して欲しかった。その点だけが惜しまれる。

『クリスタルサイレンス』『ペリペティアの福音』の2作を読むまでは、海外に比べて大きく不作だなどと思っていたが、どうしてどうして。未読の作品の中にも傑作が有るだろうし、十分な収穫をあげた年だったようだ。願わくば、この豊作が永く続かん事を。

11月19日
なにやら突然、野尻ボードで名指されてしまったので、明日は京フェスという忙しい中で釈明の言葉を考える。

「別に、「SF右翼の人は周囲のすべてに向かって「科学考証がなってないから駄目」と言い出す」と思っているわけではないので、13日後半や、17日の記述がそのような意図に取れたのならお詫びする。言いたかったのは、(1)『カムナビ』はことさらとりあげて批判するほどの作品ではなく、(2)サイファイ掲示板のようにどうしても取りあげる必要のある場でも、科学考証ではなく文章レベルの低さ、構成のまずさ、内的論理の矛盾などを主戦場とする方が効果的だったのではないか、ということである。すべての場において科学考証は不要だというつもりはないが、『カムナビ』という作品が抱える問題は、それ以前のところにあるだろう。」

などという文章を考えかけていたところ、サイファイ掲示板で、くろきさんの書き込みを見つけて話が変わってしまった。なるほど、オルバースのパラドックス云々は、「科学的に間違っている」から取りあげられているのではなく、「嘘のつきかたのセンスが悪い」例として取りあげられているのですね。それなら、意図は分かる。「科学的に間違っている」事のみを指摘する発言をどこかで読んだか聞いたような気もするけど、僕が記憶の中で内容を置換していたのかもしれないし、一度前提付きで発言した内容を前提を省いて繰り返す、その繰り返しだけを読んだのかもしれない。誰も、あれを「科学的に間違っている」という理由で断罪することがないのであれば、僕が疑問に思った点はほぼ解決されるので、13日後半のSF右翼云々の発言は全面撤回しよう。不当な疑いを抱いて申し訳有りませんでした。> SF右翼の皆さん

ちなみに、僕が、オルバース云々に拘ったのは、(実際には、「嘘のつきかたのセンスが悪い」例だったにしても)他の欠点に比べて異様なほど重点を置かれているように見えたから。三種の神器に関する論理矛盾や、縄文VS弥生と邪馬台VS皇室の切り分けの不明確さなど、それ以外の欠点の方が遥かに致命的なように見えるのに、なぜそんな最後に出てくる他に比べて特に酷いわけでもない欠点が重視されるのか、が気になっていたのだが、まあいいや。きっと、たまたま最初に例として取りあげられてしまったので、そのままひっぱられたかなんかなのだろう。とにかく、「「科学的に間違っている」という理由だけで断罪する」ということが、ありえないとわかっただけでも、収穫である。よかったよかった。

ところで、冒頭に挙げた野尻ボードの書き込みで、ホラー云々というのは、ひょっとしてこの記述を受けているのだろうか。だとすれば、僕がここで書いているのは、あくまで『カムナビ』「ハイパー・ホラー」であるということであり、「ホラー」だなどとは一言も言っていないので、その点だけは確認して頂きたい。「ハイパー・ホラー」は、角川がつけた実体のわからないラベルにすぎないけど、「ホラー」はすでにジャンル名として確立した言葉なんで勝手に同一視するのはまずいでしょうやっぱり。

11月20日
てなわけで京フェス当日である。なんだかんだで、昨日寝たのが午前3時、今日の起床が午前5時という強行スケジュール。明日も1日起きているのに体が持つのかという不安はあるが、過ぎてしまった事はいまさら嘆いても仕方がない。足りない睡眠は、西に向かう新幹線の中で補う事にする。ぐう。

京都駅までは順調にいったのだが、その後は膨大な量の観光客に負けてしまい、やや遅れ。会場の芝蘭会館に着いたのは予定より15分遅い、開始15分前であった。とりあえず、名大現役組に挨拶……は一切せず、当然のように山田さん(8)と話をはじめる。まあ、知らない顔もそのうち覚える事が出来るだろう。

まだまだ空席が目立つ中、第1パネル、「新世紀の巨匠 グレッグ・イーガン」が始まった。話された内容はこっち(以下同)に。いきなりイーガンの欠点を挙げ始めたときにはどうなる事かと思ったが、最終的には美点、欠点をバランス良く指摘し、未訳の作品にも期待を持たせる良い作家企画となった。

パネル終了後、遅れてやってきた鈴木力、田中香織の東洋大組に挨拶し、一緒に飯を食いに行く。名大勢が全員動いて、その場にいた人がつられて動いて、となんだかんだのうちに出来た集団は驚くなかれの総勢16名。これで、全二四席ほどの店に入ったのだから非常識にも程がある。店のおばちゃんもよく捌ききったよな。
食事の席で、田中嬢@東洋大のリクエストがあったので、その場にいた名大SF研の人間を紹介してみた。そこにいたのは山田<まるぺ>博史(8)、林<三等兵>哲矢(10)、岡崎<特攻野郎>清宣(11)、住田<なぜここに>龍也(11)、堀川<やおい>知明(12)、堀口<下っ端>昌彦(13)、山川<若づくり>賢一(15)、田村<タメ口>龍(17)、野呂<冷酷>愛彦(17)、水野<こなす>未紀子(18)の10名。きっと、覚えきった人はいないに違いない。

昼食後の帰り道、野呂と話し込んでいるうちに、ふと気がつくと道に迷っている自分に気づいた。まぁ、だからどうということも無く、次の企画の出だし数分を聞き逃しただけで無事戻ったのだが、道に迷っていることに気づきながらもそれを一切顔に出さず相手が気づくかどうかを観察し続けた野呂の冷淡さに今更ながらの恐怖を覚えたのもまた事実である。

そんなわけで少し遅刻した第2パネル、「活字消失〜印刷と出版の未来」は今一歩。個々のトピックスは面白かったが全体としてはまとまりがない。やはり、「本は情報じゃない、物だ」派の人がいないのがいけなかったのかも。だから、今度は装丁屋も呼んでだな。

続く第3パネル「ヤングアダルト総括」は、漠然としたタイトルからは想像も出来ないほど締まったものだった。出演者の会話だけに任せていれば、何の結論も出ない散漫とした物になってしまったかもしれないが(これは出演者の問題ではなくテーマ設定の問題)、司会の仲澤誠が見事な仕切りで、空回りし始めた議論を救っていった。彼の数々の名言は、永く京フェス史に刻み付けられる事だろう。あの三村美衣すらも一言の元に切って捨てる暴言名言を生で聞けなかった人々は、生涯自らの不幸を嘆くべきである。いや、いいもんみた。

そんな凄まじいパネルを見た後だったので、正直第4パネル「H2 ロケット・レポート」はだれ気味だった。もちろん、笹本祐一の撮影したH-II8号機打ち上げの様子は大変興味深いものではあったのだが、先のパネルのインパクトに打ち勝っていたとは言い難い。順番が逆なら、どちらもより深く楽しめたのではないかと考えると惜しまれる。

企画終了後、飯を食いに行こうとすると、さすがに良くしたもんでまた人が増えている。今度はお茶大御一行様も合流しての17、8人である。すでに総員で何名になったかは覚えちゃいない。ここへの往復の過程では久々に山田さんとの会話を堪能できた。これ、これである。人がボケたら、それ以上にボケる。ネタの拡大なくして何の会話だろう。どんなくだらないボケでも広げる余地が無いかを一瞬で吟味し、全力で話を膨らましていく。これぞ会話の醍醐味というものだ。ああ楽しかった。

楽しかったまま、さわやに戻ると合宿である。オープニング前の短い時間に、数少ない知人に挨拶する。安富<史上最強の実行委員長((c)森太郎)>花景さんに先日手に入れたウィンダムの未訳作品のペーパーバックを自慢すると、「京大にはウィンダムを読む女性が入ったんですよ」と返されてしまった。なんでも京大期待の新星・塩崎さんは1年生にして、安富<ウィンダム至上主義者>花景さんの英才教育を受けているとか。きっと、立派な50年代者に育つに違いない。

オープニングは例によって淡々と進んでいったのだが、プロ参加者紹介が一渡りすんだところで、司会の小浜徹也が、Webサイト開設者は自己紹介するように、と言いだした。何事だろうかと思いつつも、その場にいたWebサイト開設者の半分程度が自己紹介をしたところで、小浜さんの真意が明らかに。「これがDASACONに対する回答です」だそうな。えーと、「なかなか外には声をかけづらいんですよ、などとWeb上で言っていたが、これで最初のきっかけは作ってやったから後は君たち次第だよ」みたいな意味なんでしょうか?しかし、だとすれば、京フェスという場で、元京フェス実行委員長・森太郎から自己紹介が始ってしまうのは、効果が薄いような気が。そりゃ、谷田貝@ノストラダまスさんとか、加藤@異次元を覗くホームページさんとか(上記意図が正しいとして)意図通りな人も自己紹介なさってましたが。
まあ、なんにせよ、「あの会場で全体に声が通る人間は小浜さんくらいしかいないから、自己紹介だと何にも聞こえない」という方が難点だったかも。

オープニング最後の企画は、大森望&三村美衣の司会による「クイズ(SF)年の差なんて」。細部を語るには出遅れた感があるんで詳細は企画担当者の日記参照ということにして、ここでは名大OBの立場として釈明を。名大SF研長老会としては、水野は可能な限りよくやったと思っている。「なぜそれを知っている」というタイプの芸が出来ないのであれば、存在感を出すためには力の限りボケ倒すしかない。ところが、あの場にはすでにボケキャラとして圧倒的な知名度を得ている田中@東洋大さんがいたのである。当然、ただのボケでは存在感をだすのは難しい。そんな中、数少ないチャンスを生かし、強引にご当地ネタに引きずり込んでボケたおした点は褒められこそすれ決して非難すべきものではない。確かに、塩崎@京大さんとのキャラの切り分けという課題は残るが、今回は素材を見せただけでも十分だろう。今後の成長を期待している。

そんなこんなのうちに合宿企画が始まった。一齣目はもちろんグレッグ・イーガン企画。志村弘之&菊池誠の2枚看板を立ててきただけに、『宇宙消失』ネタで量子論べったりの方向に流れるのかと期待したのだが、残念ながらそうはならず『順列都市』主体の話となった。これじゃ科学で暴走は出来ないだろうとは思ったものの、ひょっとしてなんかの間違いで「塵理論」に背景となる理論があるんじゃないかと一縷の望みを抱いたりもしたのだが、やっぱりそううまくはいかないらしい。でもまあ、それはそれで面白くはあった事である。一番の収穫はやはり「塵理論とはなにか」について真剣に悩んでいる人を生で見られた事。ありゃ、「そういうもんだ」として流す部分だろうと思っていたんで、そこに突っかかる人がいたというのは衝撃的な事実でしたね。菊池先生の言う通り、イーガンは細かいことに突っかからず高速で読み切るべき作家だと思います。
他で面白かったのは、イーガンは執拗に理論の証明をしている振りをするけど、実は何の証明にもなっていないという話。証明のための前段の手続きを徹底的に詳細にやるうちに、いつのまにか最初の証明がどうでも良くなってしまうという(e.g.塵理論のための数の数え上げ)。確かに、ありゃ何の説明にもなっちゃいないよな。

そうこうするうちに、話がループし始めたんで、年寄りの部屋を覗いてみる。小浜さんの「大学SF研時代は無かった論」は一度ちゃんと聞いておきたかったんで、期待して覗きにいったんだけど、話題はどうもSF大会話になっている様子。そんなら、どうでもいいや、と5秒で退出し、大広間でしばらく時間を潰したり。

てなわけで、実質的な2齣目はプロ野球企画。企画開始時参加人数わずか4人という小人数だけに、えらく閉鎖的な会話になってしまったが、その範囲内では実に楽しいときを過ごすことが出来た。話していたのは、当日のスポーツ誌を眺めながらのドラフト話と、企画担当者が作成してきた資料を眺めながらの昨年成績の確認。横浜スタメン野手最低打率が、進藤の.286だとか、色々為になりましたね(こんな事も知らなかったあたりファンと言っても底が知れているね。>おれ)。
いいかげんドラフトの話に飽きたところで来期の展望に移……ろうとしたら時間切れ。一応、セントラルは工藤、江藤の読売入団が無ければ、投の中日対打の横浜のマッチレースという予想、パシフィックは西武が頭一つぬけて他がどう絡むか、ってのが共通見解だったかな。何にせよ、かつきさんがここにいないのが良くないという結論が出て話は終わった。来年は、企画担当者らしいんで宜しく。> かつきさん

大広間に戻り、次はどうしようとぼんやりしていると、天川和久さんに声をかけて頂いたので、しばし話し込む。大洋時代以来の横浜ファンであり、まだファンジンだった頃のトーキングヘッズにも顔を出していたという天川さんからは色々と興味深い話を聞くことが出来た。これもみな、似合わないのを承知でかぶっていったベイスターズの帽子のおかげであろう。ありがとうベイスターズ。

なんだかんだのうちに企画を見に行くタイミングを失ったので、その場でウダウダしていると、オークションが始まった。1冊目が売れるか売れないかのあたりで、京大現役組から司会を奪い取ってしまった小浜さんは、やはり天性の司会気質という奴なのだろう。
特にどうしてもという本はなかったので、鈴木力氏が憑かれたようにディレイニーを買いあさる姿を冷静に眺めていただけだったはずなのだが、オークションが終わったときには、ハードカバーの洋書含む、6冊の本が手元にあったのは何故なのだろう。きっと、何かに騙されていたに違いない。

オークションが終わった後は、さすがに何をする気力も起こらない。しかたがないので、大広間の片隅で、京大OPの方々と、キャラクターがたくさんいるアニメの話などを細々と話し続ける。なんで、『冒険者たち』の全ねずみの名前がすらすらと出てきたりするんだ、この人達は。おそるべし、京大。

その後、やっとエンディングの時間となって、来年の新実行委員長が紹介されたり色々あったが、それはもう既に記憶の彼方。僕の心は、その時すでに名古屋で待ち受ける恐怖に震えていたのである。

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