第弐拾七話 AD物語〜23〜
お昼の放送につきものと言えば?
そう・・・「中継コーナー」です。
この「中継」を入れることを、ラジオ業界では、
「入中」(いりちゅう)と呼称しています。
今回は、そんな「入中」のお話。
お昼のラジオには必ずといっていいほど、「入中」がありますね。
この「入中」、ちょっと聞くと、レポーターが1人で喋ってるように聞こえますが、
実は、ちゃんとディレクターがくっついて行ってるんですよ。
ニッポン放送の場合、中継場所が、よほど本社から近い場合を除けば、
中継チームは、3人を最小単位としています。
「レポーター」「入中ディレクター」そして、電波を出す「技術」兼「中継車のドライバー」です。
この「入中ディレクター」は、新人、あるいは「サウンドマン」、もしくは「フリー」のディレクターの
大事な大事なお仕事です。
さあ、では、一体どのように「入中」が行われるのかお話ししていきましょう。
入中チームが、中継現場に到着するのは、実際に中継が行われる時間の約1時間前です。
「あれっ? ずいぶん早く行くのね。」
・・・・と思う方、いるでしょ?
そうなんですよ。
たかだか、5分〜10分の中継コーナーです。
準備があっさりうまくいけば、のーんびりしながら、
入中時間までコーヒー飲んでたりすることも、確かにあります。
ところが、そんなにうまく準備ができるのは、10回に1回もないでしょう。
ラジオの神様は、常に僕たちの前に難題をご用意して下さっているのです。
中継場所に着くやいなや、レポーターとディレクターは、ラジオカーを飛び降りて、
「放送に出演してインタビューに答えてくれる人」を探しはじめます。
これが、前もって、商店街のお店のおじさんなんかと約束してあればいいのですが、
「道行く人を捕まえろ!」
っていう指示がスタジオのディレクターから出されることの方が多いんですね。
東京のど真ん中を歩いてる人は、みーんな、
「キャッチセールスのエジキになってたまるものか。」
・・・と警戒して歩いているらしく、
「・・・あのぉ・・・」
と声をかけても足早に通り過ぎていってしまいます。
めいっぱい、満面の笑みをたたえつつ、
「ラジオのぉ、ニッポン放送ですがぁ。」
と「安心のカタマリ」をばらまきながら近よっていって、
足をとめてくれる確率が、まあ、良くて、
「イチローの打率」と、どっこい・・・ってとこですな。
インタビューに出てくれる人が決まったら、今度はその人と打ち合わせ。
「こーんなことをお聞きしますから、意見を聞かせてくださーい。」
「・・・・はあ・・・・わかりま・・し・・た。」
((ヤベー!暗い人捕まえちゃった!!))
人間は千差万別です。明るい人もいれば、むろん暗い人もいます。
どっちがいいか、なんて、僕は特に関係ないんですが、
スタジオにいる「チーフディレクター」は、この辺をおおいに気にします。
「放送に出るのは、明るく喋ってくれる人!!」
と、決めつけちゃってるような人たちです。
全くもって面倒です。
すこーし暗い程度の人ならば、こっちで盛り上げて、
短時間で「エセ明るい人」に改造することも可能ですが、
「真に暗い人」を「エセ明るい人」に改造するには、時間があまりにも足りません。
丁重にお断りをして、再び「人探し」ですな。
さあ、こうして、出演してくれる人も決まり、打ち合わせもだいたい終わったら、
入中ディレクターは、ラジオカーのもとに戻ります。
「あのー、電波の状況いかがでしょうか。」
「・・・だめだね。飛ばないわ。」
「なにい!!!」
ラジオカーのドライバーは、レポーターやディレクターが「人探し」をしている間、
ボーッとしているわけではなく、中継電波を出す準備をしてくれています。
この中継電波がまた、あっさり飛んでくれればいいのですが、
結構手をやかせてくれる「やんちゃ坊主君」だったりします。
ニッポン放送は、中継用に「160メガヘルツ帯」「400メガヘルツ帯」と2つの電波を所有していますが、
「ラジオカー」は、どちらの電波も、最大で「5ワット」の出力でしか出せません。
「ラジオカー」のプラモが発売されたら、その箱に「近距離中継用マシーン・ラジオカー」って、
書かれちゃうであろうくらい、「電波の飛び」が悪いんです。
だいたい、限界が、環7の内側って感じかな(関東以外の人、分かんないね)。
それより遠くからの中継の場合、最大「50ワット」の出力を誇る「中継車」が出動しちゃいます。
そんなわけで、環7よりチョビッと外側だったり、
あるいは、内側だったとしても、やけに土地が低くて「電波の飛び」が悪い場合、
ディレクターとラジオカーのドライバーは、顔面蒼白です。
インタビューに出てくれる人が、明るかろうが暗かろうが、「音」が出てれば大問題にはなりません。
・・・・小問題になるとは思うけど。
ところが、電波が飛ばなきゃ、「音」そのものが出ないんだから、大問題です。
入中ディレクターは、レポーターや出演者をほっぽらかして、
ラジオカーのドライバーとともに、電波を飛ばす、最大の努力を始めます。
手っ取り早く電波を遠くまで飛ばすには、高ーいアンテナをたてることです。
微弱な電波でも、高い所からだしてやれば、遮蔽物が無くなり、受信所まで届くってモンです。
え? ラジオカーにそんな長いアンテナを積んでるのかって?
積んでません!
じゃ、どうするのかって?
高いとこから電波を出しゃいいんでしょ?
高いとこに登りゃいいじゃん!
入中ディレクターとラジオカーのドライバーは、車から放送機材を取り外し、
近くにある高いビルの管理者に頭を下げて回ります。
「こんちはー。ビル、登らせてくださーい。」
「はぁ?」
・・・ほとんど、バカです。
必死こいてビルを駆け上がり、機材をセット。
中継時間まで、あとわずか。
もう全身、冷や汗とホントの汗でぐっちょりです。
「はーい、電波OKでーす。」
という、本社からの声が聞こえてきたときには、
すでに中継開始20秒前・・・なんてことは、日常茶飯事です。
こーんなに苦労して電波を飛ばしても、
番組がおしていて(予定の時間より遅れてる状態)、
中継時間短縮、あるいは、まるまるカットになっちゃったりもします。
・・・カンベンして下さい!
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