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一桁のビジネスマン《行動心理資料》より

【縄張りを守る人々】

 仕事中であっても、自分の僅かに小さい「心の芝生」を守ろうとする本能は誰でも持っている。ある人は、自分の命を盾に必死に守ろうとするし、またある人は比較的に、寛容な態度をとる場合もある。

 よくある例である。出張外出で留守の多い上司の下にいる部下は、盗み聞きされる心配かがないから、上司の部屋の電話を使う癖がつくものだ。その上司が突然帰ってきたところ、自分の席に部下が座りタバコをふかしながらの電話使用が見つかる例は以外に多い。

 ある場合などは、上司が機嫌をそこね、自分の部屋(心の芝生)が不当に使用されているように感じて、いままで信用していた秘書を怒鳴りつけてしまった。その日以来二人のなかは険悪になり、まもなく秘書は、他の部署に配置転換になって仕舞った例がある。この上役は、縄張りを守ることに夢中だったのだ。

 ほとんどの人は、自分の職権を犯されることを嫌うものだ。そして、他人を絶対立ち入らせないようにして、権利と責任を守り、それによって自分の仕事の安全を守ろうとしている。このときに生ずる敵意は、非常に危険度が高いものである。

 中国、春秋時代の兵法学者韓非はこんな例をあげている。
むかし弥子瑕(ビスカ)という美男子が、衛の霊公の寵愛を受けていた。この国の法律では許しなく王の車にのれば、足切りの刑に処されることになっている。ところがある真夜中、母親が急病の知らせを受け、君命といつわって王の車を使った。
それを聞いた霊公は罪を問うどころか、母を思うあまり、自分の足を切られるのを忘れるとはといって誉めたという。

 またある日、霊公の供で果樹園を散歩した時、桃を食べたところあまりにも美味しい、半分を残して霊公にすすめた。
「なんと主人思いのやつだ自分の食べるのを忘れてまで、わしに食べさせてくれるとは」だが、弥子瑕の容色が衰え、霊公の寵愛も薄れてきた。

そのころ彼は公の許可なく、公自ら行なう仕事の手助けをしようとした。すると霊公は弥子瑕に腹を立て「こいつは嘘をついて、わしの車を使った。何時ぞやは食いかけの桃を食わせた」といって重罪に処したという。

 韓非はこのエピソードを紹介したあと、つぎのようにコメントを付している
 「弥子瑕いずれもの行為も同じである。前にほめられ、後で罪に問われたのは、霊公の聖域を侵したために愛情が憎悪に変わったため。愛情をもっている場合はいいことをいえば、気にいられ近付けられる。初めから憎まれていたのでは、いいことをいっても受けつけられず、遠ざけられるだけ。意見やいさめたりの行動は相手にどう思われているかを知っ上で行なうべきである」。

 部下も上司もお互いに扱いにくい存在である。
 常に細心の注意をはらいお互いの理解に勤めないと、労働集約の時代から脱けきれないことになる。

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