一発お見舞いしてスカーッとした爽快な気持ちになるのは、ほんの一瞬だけです。逆に、パンチをくらうか（管理者の多くは、大概それほどの勇気を持ち合わせていないので、そうなることは滅多にありません）、馘になる、あるいは、ブラックリストに載るか、訴えられるか、格下げされるか、日の当たらないところに左遷させられるか等々、閑職に埋もれるようになってしまいます。

　しかし、上役にそれ相当の返報返しをしたいとは、誰もが願っていることです。
この様な場合、管理者の鼻をへし折ってやるようなやり方は、もっとも下手なやり方です。実際にそんなことをすれば、管理者への同情を集めることになり自分の立場を逆に悪くしかねません。

　もし、下手なやり方でもやったとすれば、その彼を、内心では英雄と思っている同僚や後輩がいるかもしれませんが、おおっぴらにバックアップするということは先ずありません。それに、腹を決めて手を下したからには、自分が取り返しのつかない状況をつくったわけですから、何も悩むことはなくなり流れに身を任せることになるでしょう。

　こうした方法以外にも、いくつかの方法がありますが、あまり危険なため奨めることは出来ません。ただ、ひどく意地の悪い上役の元で、いらいらじりじりに、苦しんできた人達が、その方法を試して成功したことがあるので、簡単に紹介します。

　○○君は、ある大手の鉄鋼会社で、視聴覚関係の仕事をしていました。○○君は自分の管理者である宣伝課長に、二、三の理由でいつも腹を立てていました。昇給のチャンスは与えてくれませんし、無意味な会議を開いては時間を無駄にします。

それに、自分の男らしさや学歴を半ば意識的に、自慢するかのようにいつも口汚くののしるのです。それで、しっぽを掴まれずに、課長をやっつけるには、どうしたらいいか考えた末○○君は、あることを思いついたのです。

　小さなテープレコーダを、ズボンのポケットに隠しておくことにしたのです。
マイクはネクタイの裏に隠しました。それから数カ月と経たないうちに、課長の口汚いののしりや怒鳴り声、机を叩く音や無味乾燥的人間性の冗談など、十分間程の合成テープが出来上がりました。

○○君は、このテープを複製したうえ匿名で、社長や、課長の夫人、課長の出入りしているゴルフのクラブなど、社交場の社長や責任者に郵送したのです。

　この課長は、たいへん甲高く苛立たしい特徴のある声の持ち主ですから、テープは、たちまちお偉方の目に止まって仕舞いました。数日もすると、課長は会議も開かなくなるし、姿も見せなくなって仕舞いました。そして、数カ月後には、別の会社に移って行ったのです。

　○○君は、本当は課長が自分を疑っていたのかも知らなかったし、課長に当然と思われる報いを与えたことについては、悪いとも思ってはいないのでした。

　△△君の場合は、貿易の新しい××課長をどうしても好きになれなかったケースです。
　それは、××が残酷無情にも前の課長を陥れて、その地位を奪ったことを知っているからだかもしれません。△△君は、この卑怯ものの新××課長に追い出されるのも時間の問題だと感じている節がありました。

△△君は臆病です。年金を貰うために、二十数年間を無駄にしたくないので××課長に面と向かって、自分が課長に対してどのように感じているかを言えないでいるのです。ここを辞めて他の仕事を探すのは嫌だったのです。そこで、ずるくて臆病な卑怯な方法を取りました。

　彼は、経理部にいる友人を通じて、××課長の交際費のコピーを手にいれました。
なんと言っても、二十数年もその会社にいるのですから友人もなんにんかおります。課長の必要経費のコピーを熱心に読んだ△△君は、ごまかしや、勝手な書換や、都合良く操作した例をたちまちの間に何十も見つけ出したのです。

　△△君は課長の上司が個人的な監察報告などはこまめに良く見ることを知っていたので、報告用紙に、課長の規則違反を事細かに、きちんと書き入れたのです。十分な証拠書類を準備し終わり、課長が出張先からの戻りをまつばかりとなったとき、彼は、その書類を社用封筒にいれ、××課長の上司に匿名で発送しました。

出張旅行から戻った課長は、必要経費の報告書について上司に説明させられ、醜態を晒したのです。仕事は辞めさせられませんでしたが、明らかに権力は失いました。

　大いに鍛え抜いた卑怯者とつき合わなければならないとき、平然としているためには、△△君には、それぐらいのことしかできなかったのです。