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一桁のビジネスマン《行動心理資料》より

【人間心理を知る訓練】

 一般に、心理学の教科書といわれているものは、人間性を知りたいと思う人にとって、殆ど有用ではありません。
読んでも本当の人間性が浮かび上がって来ないからです。人間のある特有の性質や、行動の型、反応の仕方、”確認””論証”といった局部的なことに、限られたものになっています。

 だからといって、人間性を本や書物からだけで学びとって、それを人間性に応用しようといっても、うまくはいきません。養成や指導を受ける人達の中に、書籍上の知識はずば抜けているのですが、実際の対人処理には最低という人は、必ずおります。反対に、心理学の本には無縁でも、手腕は抜群のリーダーもたくさんいます。

 しかし、人間の正常な(あるいは異常な)動機や反応に対するデータが山のようにそろっている今日、未経験者の役に立てることが出来ないのは、非常に残念なことです。こうしたデータを学ぶことによって、人間の扱い方を少しでも知り、試行錯誤を避けるように出来れば良いと思います。

 心理学とは、異なった状況のもとでの人間の行為の目的、方法、原因について、系統化し明確化する学問です。ですから今日では、心理学的な知識を無視して、リーダーになろうとすることは、科学知識無しに冶金の仕事をしようとするようなものと考えられます。

 ここで一つの例をあげます。リーダーは、心理学で、「発展的状況の心理」と呼ばれるものを、絶えず念頭におかなければならないでしょう。これは、グループ内での出来事が進展していくにつれて、各段階での新しい出来事が、問題の全局面を、一変するようなこともある得る、と、いうことを意味しております。

自分達は常に、自分が参加している事柄を、変化しながら進行していく全体を眺め、そこに、絶えず新しい力が入り込んで、処理されるべき現実を、変えようとしていることを知らなければならないのです。

 人間関係の問題処理において、リーダーが新しい問題乃至従来の問題の新しい局面に、絶えず直面していることに気づくのは、そう容易なことではありません。

とくに、リーダーが人々の反応に、常に直接に触れることがないような場合は実に大変な問題なのです。リーダーは、たとえ自分が安定した状況にいるように自分では思っても、実際は、絶えず進展している事実と、力に、対処しているのです。

昨日の事実で、今日の問題を処理しようとするようなリーダーは、現実からはなれてしまって、自分の心の中にしかないような事実を処理していることになります。

 E.D.スミス教授は、「Psychology for Executives」の中で、次のように述べています。
 ある会社が、労務対策として、ある部門の余剰人員を、受け入れ可能な他の部門に回そうとしました。配置転換された従業員は、従来の給料の全額をそのまま支払われる条件です。

 そのとき、たまたま養成期間に八、九ヶ月を要するある部門で、来るべき受注増を見越して、約二十人の女子従業員を新しく採用したところ、まだこれらの養成を終わっていないのに、需要が止まってしまいました。しかし、経営者側は、実習を続けることにして、そのかわり、前からいる人間が配転されることになりました。

 まずいことに、最初に配転命令を受けたのは、勤続二十五年というベテラン女性です。その上、彼女を移動させて、実習社員達を動かさない理由が説明されなかったのである。   つづく


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