はじめに
人の意欲と行動の研究は、例えていえば人間性という不可思議な疑問について答えを探ろう
とするものです。
組織の中で行動する人間という要素を考えながら、個人行動としての理解、つまり過去の
行動理由に限定しないで、未来の行動をある程度まで予測し、未来への働きかけ、あるい
それを制御するための理論構造への展開を試みてみます。
行動
人の行動は、基本的に目的指向の傾向で行われます。言いかえると、一般的にわれわれ
の行動は、何等かの目的を果たそうとする欲求によって動機づけられています。
けれども、行動に際して常に本人に特定の目的が意識されているわけではありません。
「どうしてあんなことをしてしまったのだろう」と感じたことは誰でもたびたび経験する
ことです。
ようするに、行動の理由は、われわれの意識の中に常に明らかであるとは限りませ
ん。特定個人に特有の行動様式(いわゆる個性)を触発する動機は、多分に意識レベ
ルより低い意識下レベルに属するので、容易に検出したり判定することはできませ
ん。
フロイトは、最初に意識下レベルの動機の重要性を認めた一人です。人間は自分の
望むもののすべてを、常に意識しているわけではありません。フロイトは、行動の多
くのものは、心の奥にある動機や願望に影響されると考えました。
実際にフロイトの研究によって、普通の人の動機づけの仕組みと、氷山の構造が似て
いることがわかりました。つまり、人間の動機の相当な部分が意識下のレベルにあっ
て本人自身にはハッキリと意識されているとは限らなかったのです。
そのため、多くの場合本人自身には、動機の一部しかハッキリわからず、僅かしか意
識されておりません。これは本人の側の自己の内部を、ハッキリ見抜こうとする努力
が欠けているのかもしれません。
けれども、例えば、精神療法などの専門家の援助を得たとしても、自分を理解するた
めには、難しいプロセスを経なければならないし、仮にそうしたプロセスを経たとし
ても、理解の程度は人によって当然違ってきます。
行動の基本単位は行為になります。ですからすべての行動は、一つにつながりのあ
る行為によって構成されます。人間として、われわれは、歩いたり、喋ったり、食
べ、眠り、働くなど、常に何かを行ってます。
また、多くの場合、われわれは職場へ向かって車を運転したり、歩きながら誰かと話
をするなど二つ以上の行為を同時に行います。また、ある行為を行っているとき、そ
の行為を停止して、全く関係のない別の行為を必要とするとき、いつでも切り替える
ことができるのでいくつかの疑問が湧きます。
なぜ、人はある特定の行為を行う場合、他の行為でなくその行為を選択するのか。
また、どんな理由があれば人は行為を変えるのか。
マネジャーとして、ある特定の時点を与えられた場所で、他人を理解しその人がどの
ような行為、または他のいろいろな行為をとるかなど予見したり、更にその行為をコ
ントロールするには一体どうすればいいのか。
マネジャーとして、人の好意を予見するためには、人間のどのような動機・欲求があ
る特定時点の行為を発動させるのかを知る必要が生じてきます。
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