星月夜作戦 - Tokyo Nova The Detonation Scenario

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Research Phase - リサーチフェイズ

■リサーチフェイズ

「パッケージの探索を開始しろ。
親愛なる猊下は、必ずこの街にいる」

――ミルトン・ブラウン

◆ノート:
 リサーチフェイズ開始時に、プレイヤーに伝えてもよいイベント情報は以下です。
・『イヌ』が危険な地域に赴くと、『●元“カンパニー”の影』が発生する
・全員の合流用として、『●映画館にて』がイベントとして用意されている
・『カブト』には、アンジェリンと共に『●父の歩んだ道』が用意されている

 このシナリオは情報量も多く、やることが思いつかなくて困るような事態にはそう陥らないはずです。アンジェリンが『“カリリオーン・クラスタ”』の中身を調べたくなったら『ニューロ』を呼べばいいですし、情報が集まってきたら、それを繋ぎ合わせるためにキャストたちは自然と合流するでしょう。

きみもヒヨシィをはじめるのだ。
●『イヌ』:元“カンパニー”の影

条件:『イヌ』がN◎VAのイエロー〜レッドエリアに赴いた時
登場:<社会:N◎VA><社会:ストリート>10
場所:危険な場所。ストリートの路地裏など
◆解説:
 MIDの工作チームがN◎VAで動いていることを伝えるシーンである。『イヌ』にスポットライトが当たる。リサーチフェイズ序盤、やることがなかったらこのシーンを入れよう。
◆描写1:
 消音器つきのくぐもった銃声と短い悲鳴が聞こえる。現場へ急ぐと、クグツの死体が転がっていた。向こうには大型バンが止まり、運転席にサイボーグが乗っている。
 眼鏡を掛けた女性が電子機器からコードを伸ばし、死体の首筋のIANUS端子に次々にジャックインすると情報を吸い出そうとしている。
レーネ「外れね。このカンパニーは、何も掴んでいないようだわ‥‥(肩を竦めて)もっとも、私たちも元“カンパニー”だけど」
I-7「ハハハ、違いねエな」
 二人は自分たちにしか分からない冗談に笑ったところで、『イヌ』に気付く。
レーネ「さ、撤収よ。‥‥誰っ?(キャストの方を振り向いて)」

◆描写2:
 ここは、緊迫した状態でしばらく会話を楽しんでもらおう。レーネたちは一旦は驚くものの動じず、しばらく会話した後にバンで逃走する。オープニングでミルトン・ブラウンが《買収》を使っているため、彼らはあくまで外交官の部下にしか見えないのだ。
レーネ「(眼鏡を直して)あら? ハウンド基地で会ったわね。わんちゃんが何の御用かしら?」
I-7「(アサルトライフルを素早く構えて)レーネ、どうした! (モノアイのレンズが細まり) 貴様は‥‥」
レーネ「(手で制して)インディア。ここは退くわ。ここは本土じゃないのよ。治外法権にも限度があるわ。派手な撃ち合いは控えなさい」
レーネ「いいこと、『(イヌの描写を入れよう)』。どんなにわんちゃんが頑張っても、犬では敵わない大きい相手だって、この世にはいるのよ」

 二人は素早くバンに乗ると光学迷彩を起動したバンは見る間に輪郭がぼやけ、猛スピードで逃走する。キャストが追いかけようとした場合は、このシーンはここで終わることを伝えよう。
 偽装したバンなのか、車体には黄色いひよこくんのファンシーな広告が踊り、SNSの宣伝が書いてあったのが記憶に残った。
『きみもヒヨシィをはじめるのだ。』

◆結末:
 情報項目『◆N◎VAで最近活動している非合法部隊』『◆レーネ・ジーン』『◆インディア・セヴン』が調査可能となる。
●オルタナティブ導入:モノアイの男』で『イヌ』がインディアと過去に会っていれば、心なしか背が伸び、もっと凶悪になったような気がする。(隠匿レートのない軍事用義体“ギガンティック”に換装したのだ。)

◆ノート:
 ここで死体になっているエキストラは哀れな千早の後方処理課員です。ナンバーズでも御庭番衆でも何でも構いません。シナリオと関係ないことを伝えましょう。公式設定のニューロエイジでは国家は力を失い、企業が取って変わっていることになっていますが、このシナリオには出てきません。
 レーネが言っている「元“カンパニー”」とは、『◆CIA』と掛けた冗談です。彼女の最後の台詞は、彼女の正体を匂わす伏線です。必要なら「そう言って蛇のような目で君を睨んだ」「爬虫類のような目で睨んだ」などと付け加えましょう。
 ヒヨシィは、このシナリオが掲載されているサイトにある2006年4月1日のエイプリルフール記念の冗談ページです。ただのネタなので先に進みましょう。

Dev Handler - デヴ・ハンドラー、品々を操る竜
●映画館にて

条件:映画館に行って『星月夜の祈り』を見る
登場:<社会:N◎VA><社会:メディア><社会:社交界>などで10
場所:映画館のありそうな場所。ウェンズデイ・マーケットや千早シネマコンプレックスなど
◆解説:
 映画を見る息抜きのシーン。キャストの合流に使うとよい。
◆描写1:
 映画館はかなり賑わっており、ブルーベリーの新曲が流れている。並んでいるのは女性が多いが、結城あやのコアなファンもいる。
 このシーンは自由に演出させよう。意外な場所で意外なキャストが再会するのは面白いシーンになるだろう。
 映画を観たなら、情報項目『◆映画『星月夜の祈り』』を判定させること。アンジェリンもかなり感動した様子で『カブト』と共に出てくる。

アンジェ「(じーんとする)よかったわ‥‥やっぱり女性のトーキーはあああるべきよね。主演の人も、よかったわよねー。早く、北米でも公開しないかしら」
アンジェ「ああ、私パンフレットとおみやげ買ってくるわね。あら? そちらの方、お知り合い?」

◆描写2:
 この映画はトーキョーN◎VAの様々な人物が観に来ている。キャストたちが会話を交わす背景に、オフィシャルゲストをお遊びで登場させてみよう。
 予めキャストがコネを持っているなどと関連人物を考え、描写を考えておくとよい。ちなみに、テラウェア関係人物は観に来ない。
 以下に幾つか例を示す。

▼結城あやのコアなファン代表、ご満悦の稲垣司政官
 袴姿の司政官氏が部下を従え、扇子を仰ぎながら非常に満足げな表情で出てくる。
稲垣司政官「うんうん、何度観てもあやちゅあんはいいなぁ。おまけにブルーベリーの新曲まで聞けるなんて一粒で2回美味しいとはこのことだ。これは10回は観とかないといけんな。おいお前ら、しっかり観とけよ」
行政府スタッフ「は、はい(微妙な顔で)」

▼北米代表、キース・シュナイダー
 派手めのスーツを着たどこか危なそうな集団の真ん中で、髪をかきあげて肩を竦めている男がいる。(『ストレイライト』掲載のイラストのあのポーズをしよう)
キース「Oh、Not Good. このムービー、全然イクナイでスネ〜。Take Cutter。ワタシたちのステイツは、あんなにステューピッドではアーリマセーン。Take Cutter!」

▼プロ系ゲスト代表、ブロッカー社長
 ふと見ると、護衛もつけずに銀の守護者が息抜きに来ている。
ブロッカー「やあ。クライアントから感謝されて前売り券を貰ってね。おや、『カブト』君じゃないか」
ブロッカー「ふふ。災厄前から変わっていないな。こういう映画に描かれている軍や諜報機関というのは、嘘が多いんだよ。うちの若い連中も、そろそろ分かっているはずだが。‥‥そういえば、『◆星月夜作戦』や『◆“カラリエーヴァ”』は歴史上の実在の固有名詞だと言われていたな」
ブロッカー「ああ、待ってくれ。うちの受付の女の子から早速電話が掛かってきた。やれやれ、次の仕事の話だ‥‥」

▼火星人代表、カーロス
 胸を開いた色男が、帽子を被り直しながら出てくる。
カーロス「いよう、セニョリータ。いい話じゃないか。『◆モスクワ・ルール』を守ったとは、なかなか律儀なスパイたちだったな。俺が相手にしてる連中も、こんな律儀な奴らだと楽なんだがね(しばし遠くを見る)」
カーロス「ハッ! 『モスクワ・ルール』を知らないのかい。火星じゃあ常識だったぜ」

▼アヤカシ代表、アルドラ大公
 映画館の指定席にやけに照明が暗く、人が近寄らない一角がある。この映画は年齢制限があったような気がするが、漆黒のドレスを着た少女が、お付きの者を従えてちょこんと座っている。
アルドラ「モスクワか。ソヴィエト連邦時代は行きにくい国じゃったな。夜しか走らぬ夜行列車を取るのに苦労した。サンクトペテルスブルグなら、わらわも何度か行ったことがある。ロマノフ王朝時代より、美しいところじゃ」
アルドラ「そなた、ロシア正教の十字架を知っておるか。西洋世界の十字架とは異なる形をしておるのじゃ。もっともわらわには、何の効き目もなかったがな」

◆結末:
 映画館から出たらシーンエンド。

◆ノート:
 このシーンはある程度情報が集まりだし、キャストが合流したいところで行うとよいでしょう。実際のプレイでは、カップルが沢山並んでいるところをアルファ=オメガのような小さい女の子と一緒に観にいった豪の者もいました。アンジェリンが紹介され、意気投合してみんなで仲良く卵料理の店に食事に行った回もありました。

Operation: Starry Night - オペレーション・スターリィ・ナイト、星月夜作戦
●『カブト』:父の歩んだ道

条件:『カブト』とアンジェリンが調査に赴く
登場:<社会:N◎VA>などで10
場所:新星帝都大学の付属図書館など
◆解説:
 アンジェリンとの触れあいを通し、彼女の人物像を伝えるシーン。『カブト』にスポットライトが当たる。シリアスなシーンになったら、他のキャストにはしばらく登場をご遠慮願おう。
◆描写1:
 今は少なくなった紙の本、ウェブライブラリなどと格闘し、アンジェリンは調査を続ける。
アンジェ「やっぱり、100年以上も昔の資料って探すの大変ねー。あの映画、あそこまでよく調べたわね」
 パラパラとめくる年鑑にはソヴィエト連邦の写真や歴代指導者の顔が並んでいる。その1枚に、1番最初の『●RLシーン:モスクワ・ルール』に出てきたリリン中佐も映っているのだが、彼女も、『カブト』も気付かない。
アンジェ「これ、面白い文字よね。ねえ、あなたはロシア語は分かるの?」
アンジェ「(笑いながら)失礼ね。私はコロンビア大メディア学専攻よ。ちゃんと外国語だって勉強してるんだから」

◆描写2:
 休憩することにし、彼女は自動販売機で飲み物を買ってくる。
アンジェ「ああ、私が買ってくるわ。私はコーヒーだけど‥‥『カブト』さんは何がいい?」
 彼女はふと、販売機の方からひょいと顔を覗かせると尋ねる。
アンジェ「そういえば、『カブト』さん、出身はどちらなの?」
 キャストの答えとアンジェリンの台詞を、予め考えておくとよいだろう。(キャストが日系人なら、「どこにも訛りがない」など)
アンジェ「やっぱりね! 当たりだわ」
アンジェ「言葉よ、『カブト』さん。あなたのニューロタングには、ちょっと訛りがあるわ。私たち北米人とは少し違うアクセントがあるもの」
 (これは、彼女にも観察力があり、ニール氏と父娘であることの伏線である。)

◆描写3:
 一息ついた彼女は映画のパンフレットをめくっている。
アンジェ「はー、ロマンチックな映画よねー。女性に人気が出るわけだわ。これから、トーキーを目指す人が増えるかもね」
 映画の中では、主人公の女性ジャーナリストの父親が実は日本の内閣情報調査室の重鎮であり、中盤で驚く主人公の前に現れて助けてくれるシーンがある。そのページを見ながら、彼女はふと言う。
アンジェ「そういえば、『カブト』さんは、お父さんはいるの?」
アンジェ「そう‥‥。私のパパも、映画の中のこの人みたいな感じだったわ。いっつも仕事だって家を空けて世界中を駆け巡ってることが多かったし。結局ママとも別れちゃったし。(寂しそうに遠くを見つめて) 私が大学を卒業する時も、結局、卒業式にはパパは来てくれなかったの」
 ここは、キャストの反応に期待しよう。
アンジェ「そうよね。私もそのつもりよ。いつか私もジャーナリストとして名を上げて、パパを見返してやる。この広い世界のどこかで私を見てるパパに向かって、見せ付けてやるのよ。アンジェリンは、ここまで大きくなったんだって」

◆結末:
 図書館のひとときは過ぎていき、シーンエンド。

◆ノート:
 北米連合の見えざる盾である情報機関員、ケース・オフィサー“カーディナル”として任務のために世界を巡っていた父親は、妻と娘には本当の職業を明かすことができませんでした。
 よもや父親がスパイの国の枢機卿として世界を巡っていたとは夢にも思っていないアンジェリンは、父がその目で何を見てきたのかを確かめるために、自らもジャーナリストの道を志したのです。
 キャストから彼女を励ますような言動を引き出すことができれば、このシーンは成功です。
 彼女とニールが父娘であることを匂わす伏線は、このシーンでなくともどこかで表現できるとよいでしょう。PC1の『フェイト』がアンジェリンと年の近い女性であれば、彼女とどこか共通点をつけるのもよい考えです。(趣味が同じ、映画館で会った時に意気投合する‥‥)

Angelin - アンジェリン、星月夜の天使、枢機卿の娘
●工作チームの影

条件:貴方が必要だと判断した
登場:本文参照
場所:本文参照
◆解説:
 これは特定のシーンではない。リサーチフェイズでは、軌道衛星のバックアップを受けたMID工作チームの影が、キャストの近辺に蠢く。貴方の判断で、シーンに描写を追加しよう。
◆描写1:
 舞台裏の判定で、手札交換を兼ね、RLも判定を行う。
 <社会:ストリート><社会:メディア><社会:企業><社会:警察><社会:ウェブ><社会:軍事>など。「最近ストリート活動しているフェイト」「ワーデン社で腕の立つカブト一覧」「最近活発な動きが見られるニューロ」「現在活動しているブラックハウンドの部署と要員」など、理由は適当でよい。
 スートも自由。最終達成値も言う必要はない。「ゴニョゴニョで達成値が5点上がった」などと誤魔化そう。
 ちなみに正確なルールでは、ミルトン・ブラウンは<■圧力>を加えれば+6、レーネ・ジーンが<電脳>を組み合わせれば+5が可能だ。

◆描写2:
 レーネ・ジーンが電脳意識体で、演出として“ゴーストフレーム”の能力を備えた“ドラゴンフライ”を操って登場する。
 <任意の社会>+<電脳>+<※発信器>、能力値6/4/4/7で達成値+9。
リアクションで誰も届かなかった場合は、誰も気付かない。(届く必要もないと伝えよう)
 カメラは切り変わり、シーンの上空。白く塗られた模型にしては大きいぐらいの無人飛行機が、カメラのズームを合わせて下界を写す。(キャストを写す。喫茶店で一休みなど、平和なところがよいだろう)
 光学迷彩が力を発し、見る間に輪郭が消えた無人偵察機は、方向を変えるとゆっくりとどこかに飛んでいく。

アンジェ「変ね。今、何かの音がしなかった??」

◆描写3:
 人通りが多いシーン。“ゴーストフレーム”つきの“ティンパニー”である例の工作用バンが去ってゆく。
 『キャスト』が歩いていくと、どこかで車の発進の音がする。おや、人込みの向こうに‥‥黄色いものが一瞬だけ見えなかったかな?

◆描写4:
 どこかのシーンの最後に挿入せよ。“オールマイティ・アイ”の全能の瞳が、目標をN◎VAに定める。
 カメラは切り替わり、赤道直下の災厄の街から、上へ、上へ。アマテラスやヴァラスキャルヴが鎮座する静止軌道(高度約3万5千km)までは至らない、高度数百kmの低軌道上だ。
 ひとつの人工衛星がゆっくりと向きを変え、赤道直下を向く。
 その船腹には、ピラミッドの中に一つの瞳が描かれた、不気味なシンボルが描かれている‥‥

 地上にいるキャストには「なんだか、嫌な予感がするな」「誰かに見られてないか?」などと最後に演出させるとよいだろう。

◆結末:
 以上である。

Almigty Eye - オールマイティ・アイ、全能なる瞳
●『ニューロ』:冬の女王の秘密

条件:情報項目『◆“カラリエーヴァ”の正体』を、神業によって突破する
登場:場所による
場所:『ニューロ』の自由
◆解説:
 冬の女王の正体が遂に判明するシーンである。ここは表舞台とし、『ニューロ』の見せ場である。
◆描写:
 『ニューロ』にいかなる演出で神業を使うか尋ね、ドラマチックに演出すること。他のキャストも登場し、盛り立て役になるのがよいだろう。厳かに、カラリエーヴァの正体を明かそう。
◆結末:
 キャストたちがもしも遠い過去に想いを馳せるような演出をしたならば、このシーンは満点だ。貴方の星月夜作戦を続行しよう。

◆ノート:
 実際のアクトでは、『ニューロ』のアヴァターが電脳の空を世界中に翔けていく、千早重工本社などの超高性能トロンの助けを借りる、など、様々な演出がありました。
 せっかくの見せ場です。雰囲気たっぷりに描写しましょう。
 なお、『ニューロ』のハンドアウトにある「ちょっとした迷光仕掛け」がここなのかと勘ぐったプレイヤーがいたら、それはエンディングフェイズにもうひとつ用意してあることを伝えましょう。

королева - U.S.S.R.カラリエーヴァ、冬の女王
●RLシーン:竜の国の尖兵

条件:情報がほぼ出揃っったリサーチフェイズ後半、貴方が判断したタイミング
登場:キャストは完全不可
場所:N◎VAのどこかを疾走する、一台の大型バンの中
◆解説:
 敵ゲストを印象付け、彼らの追跡が迫っていることをプレイヤーに知らせるシーンである。このシーンは必須ではない。また、キャストの設定によって描写の調整が必要である。
◆描写1:
 以下に例を載せる。
 様々な電子機器が立ち並ぶ中で、スクリーンを前にレーネ・ジーンが滑らかな手つきでキーボードを操作し、目の前のスクリーンに幾つものウィンドウが開く。キャストの写真やデータ、どこから取ったのか上方向から取った写真が混じっている。レーネの眼鏡が光り、横からインディア・セヴンが覗いている。少し後ろではミルトン・ブラウンが腕を組んで眺めている。

レーネ「チーフ。本件の阻害となる特務警察の要員ですが、ハウンドのデータベースに侵入しました。この人物です。(『イヌ』の描写を入れよう)」
I-7「ああ、この様子だと持ってる銃は9mm弾だろう? 拳銃弾じゃオレのボディには効かねぇ。ガトリングガンでバラバラにブチ壊してやるさ」
(これは、インディアがカブトワリ◎●であることの強調、そして<カブトワリ:トリガーハッピー>を匂わす伏線である。)

レーネ「それからターゲットが身辺警護に雇った相手ですが、この街で一番の個人警護斡旋企業、ナイトワーデン社の紹介でコンタクトしたようです。(『カブト』の描写を入れよう)かなり腕は立つようですね」
I-7「ほう、(『カブト』のハンドルを入れよう)とは、ご大層なハンドルだな!戦場じゃあこういうヤツからくたばるのさ。騎士だろうが何だろうが、どんな時でも銃弾の方が速いッてのを教えてやろうぜ」
ミルトン「例のデータを持ってN◎VAに来た若い方のターゲットの女だが、ジャーナリストだったね。では注意する必要があるかな?」
レーネ「(嘲笑って)もっとも、国防上の理由から、ジャーナリストが偶然の事故死を遂げるのは、我が国の得意技ですけどね」

レーネ「調査中の“カーディナル”が接触したらしき私立探偵ですが、特定できました。(『フェイト』の描写を入れよう)」
I-7「なんだ、こいつは‥‥」
レーネ「(眼鏡を直して)インディア。油断してはダメよ。それからサイバースペースには、ニューロの好むネクサスに自動ボットとクローラーを放って解析させています。可能性が高いのはこのエリア‥‥出ました。(『ニューロ』のアヴァターの描写を入れよう)」

◆描写2:
 後ろから見ていた工作チームのリーダー、ミルトンが言う。
ミルトン「レーネ君。現在のアセット(資産のこと)で対応可能かね。本件は完全な秘密作戦だ。ニューフォートに増援は要請できない」
 眼鏡の女性は、冷たく笑うと答えた。
レーネ「もちろん対応できます‥‥私たちには『“全能なる瞳”』の助けがあります。(スクリーンを睨んで) こんな人間たちに、ひけはとりませんわ」
(この台詞は、彼女の正体を匂わす伏線である。)

◆結末:
 ハイウェイを疾走するバンが遠景に映り、シーンエンド。

◆ノート:
 ここは貴方の腕の見せ所です。キャストの設定を活かし、かっこいいハンドルは必ず台詞で言わせましょう。プロフェッショナル的なキャストがいればその腕を認め、マイナス的な要素(ハウンドで勤務態度が悪い、探偵気取りの小娘など)があったら、レーネとインディアに嘲笑させて笑いを取りましょう。
 臆することはありません。自分のキャストを持ち上げられたり、その個性を認知されたプレイヤーは、たいてい喜ぶものです。

Dev Handler - デヴ・ハンドラー、品々を操る竜
●『フェイト』:引退した枢機卿

条件:情報項目『◆ニール・スミス』『◆“カーディナル”』の情報がほぼ出揃い、二人が同一人物であることに気付いた。また、『●『ニューロ』:冬の女王の秘密』は既に行われていることが望ましい。
登場:『フェイト』のみ自動登場
場所:N◎VA中央区、インペリアル・ホテルの高層ルーム
◆解説:
 情報項目『◆ニール・スミスの正体』を突破し、彼が自分の身の上を明かすシーン。『フェイト』にスポットライトが当たる。
◆描写1:
 部屋はかなり広く、ニール氏はゆったりしたガウンを着てくつろいでいる。
ニール「よく来てくれた。さあ、掛けてくれたまえ。どうだね、調査の方は」
ニール「カーディナル? ‥‥何を言っているのか、よく分からないね」

◆描写2:
 『フェイト』がいかなる演出で神業を使うのか、描写をさせよう。ここは見せ場だ。その後、ニールは全てを認める。

ニール「‥‥なるほど。君は期待通り――いや、期待以上の人間だ。この街へ来て、君を探し、君に依頼して良かったよ」
ニール「どうして分かったのだね。(キャストに答えさせ、納得すると)
‥‥そうか。私も年を取ったようだな」
ニール「(静かに息を吐いて)‥‥君の推理通りだ。私は“ラングレー”にいた。ラングレーの森の奥で知略を巡らし、世界中を巡ってきたよ。私の住んでいたスパイの国では、“カーディナル”の名を知る者は、敵にも味方にもいた」
ニール「ふふ。スパイの国で王になれるのは美しい王子ではない。周囲に完璧に溶け込むことのできる、灰色の男こそが本当の王なのだよ」

 彼は旧CIAとも現在のMIDとも誰とも関係しないことを伝えよう。
ニール「ああ、私は丸腰だ。本物のケース・オフィサーは撃ちあいなどしない。この仕事はどの勢力とも誰とも関係ない。最後の仕事を終えられなかったのがどうしても心残りでね。それで君には、こんな年寄りの最後の仕事に付き合ってもらったわけだ。済まなかったね。こんな依頼人では、さぞかし迷惑だろう」

“カラリエーヴァ”の正体について語った場合は:
ニール「(驚きを見せて)そうか、そうだったのか‥‥。冬の女王の名には世界のあちこちで何度も出会った。そのたびに、その本質を突き止められずにいたよ。すべて説明がつく。そうか、人工衛星だったのか‥‥。ありがとう。よく調べてくれた」
ニール「遥かな過去の時代から、冬の女王は我らの頭上の空にずっと眠っていたのか。
時の流れは残酷だな。女王が目覚めても、この星は大きく変わってしまった。女王の祖国はもう、この世界にはないのだから」
ニール「もちろん、使おうなどと大それた考えはない。私はただ、真実を突き止めたかっただけなのだ。そうか――では、女王には、いつまでも眠っておいてもらうべきだと私は思う」

退職の経緯を聞かれたら:
ニール「私も年だ。時の移り変わりには勝てなかったよ。馴染みの連中には、引き止められたのだがね。私はどうも、あの新しい大統領の作る新しい北米に、馴染めなくてね」

◆描写3:
 キャストがうまいこと、娘の話に持っていったら、彼にその話を匂わせよう。
ニール「(眉を上げて)そんなことまで調べたのかね。やれやれ、本職顔負けだな。
‥‥そうだ。もう別れたが、妻との間に娘が一人いたよ。成人して、今はジャーナリストをやっている。
私は娘の手本に相応しい父親ではなかった。‥‥皮肉なものだ。ジャーナリストは、私の本当の職業を隠すための仮面でしかなかったのだがね」

◆描写4:
 気が利くキャストがもし、アンジェリンがこの街にいることを伝えると、彼は最初は怪しむが、やがて理解する。
ニール「待ってくれたまえ。本当に、アンジェリン・エヴァーグリーンという人物が、この街に来ているのだね?」
ニール「(だんだん心配になって)確認させてくれたまえ。名前の綴りは。あー、天使のエンジェル(Angel)に、I と N でアンジェリン(Angelin)ではないかね。
(慌てて)外見は。大学を出たばかりの若い娘ではないかね。そう、背はこれぐらいで、髪はそう、ブロンドで‥‥このぐらいに短くしているはずだ」
ニール「(首を振って)なんということだ‥‥。あの子がN◎VAに来ていたのか‥‥。これも偶然か、それとも神が私を罰したのか」

◆描写5:
 もしも『フェイト』役にこの物語に最適なキャストが選定されており、キャストがベストな動き方をしてくれたら、あなたは娘さんに会いにいって話をしてあげるべきだ、などと言ってくれるかもしれない。
 冷静なスパイの国の枢機卿の仮面は剥がれ落ち、彼は父親の素顔を見せる。もしも『フェイト』が若年のキャストで、オープニングで完全にニール氏に敵わない様子を見せていたら、立場が逆転する。

ニール「(どこかそわそわして)ああ、そうだな‥‥会いには行こう。それは分かる。今からその災厄記念館に行くのかね? いや、それは分かるが、待ってくれたまえ。国でもずっと会っていなかったのだ。その、私にも心の準備というものが‥‥」
ニール「(首を振って)『フェイト』君。ああ、その――私はあの子に、どんな顔をして会ってやればいいのか、分からないのだ」

◆結末:
 二人の会話が終わったらシーンエンド。以降、イベントシーン『●『カブト』:世界の平和と安定を願う勢力』、『●RLシーン:完璧なエクストラクション』、『●クレムリンに響く鐘』が連続して発生する。

◆ノート:
 実際のプレイでは、アンジェリンと年の近い若いキャスト、女性のキャストが『フェイト』役だった場合が最も似合いました。謎めいた“カーディナル”にも娘の身を案じる父親の素顔があることを演出し、キャストには励ます、あるいはたしなめてもらいましょう。

Cardinal - カーディナル、スパイの国の枢機卿
●休憩時間:コーヒー・ブレイク

条件:休憩時間に、あなたがアクトのことを振り返る余裕ができた
登場:アクトの中の登場人物は、不可
場所:現実世界
◆解説:
 ここはシーンの解説ではありません。
 人間の集中力には限界があります。本シナリオを用いたアクトでも、適宜休憩を入れましょう。オープニング終了時点で1回。ここから先の連続イベントの後、クライマックスに入る辺りで1回。リサーチフェイズ途中でも適宜取るとよいでしょう。
 情報が多く迷っているようなら、表舞台ではなくプレイヤーレベルで話し合わせ、貴方が合いの手をいれ、情報を整理させるとよいでしょう。
 休憩中はルーラーも休憩しましょう。一息つけたら、貴方の星月夜作戦がどんな風に進んできたか、アクト全体を振り返ってみましょう。

★護衛相手のアンジェリン・エヴァーグリーンは『カブト』に好感を持って受け入れられたでしょうか?
★父の後を追いジャーナリストの道を志した彼女に、キャストたちは影ながら応援してやろうという気になったでしょうか?
★依頼人のニール・スミス氏は謎めいた渋い壮年男性として印象付けられ、『フェイト』は好感を持って、彼のために女王の謎を追う気になったでしょうか?
★新しい北米に馴染めずに引退した枢機卿の本当の話を聞き、キャストは共感したでしょうか?
★任務のために本当の職業を妻子に明かせなかったニールもまた父親であり、その娘を想う気持ちに気付き、後押ししてあげようという気になったでしょうか?
★“カラリエーヴァ”の秘密がおごそかに明かされたとき、場は盛り上がりましたか? 『ニューロ』は満足していますか?
★母なるロシアの最後の希望と共にこの人工衛星が打ち上げられ、また眠りについた時。ロシアの人々は、そして東西冷戦時代の世界の人々は、どんな気持ちだったのか。災厄前の世界はどうなっていたのか。そんな百年以上の遠い過去に、想いを馳せるような演出は出てきましたか?
★映画『星月夜の祈り』をみんなで観にいくシーンは盛り上がりましたか? 映画の中に偶然隠された真実に、事実は小説よりも奇なり、そんな演出は出てきましたか? 貴方がおまけで出したオフィシャルゲストは受けましたか?
★ミルトン・ブラウン、レーネ・ジーン、インディア・セヴンの3名は印象づけられましたか? 彼らの残りスタイルやブランチが何なのか、レーネはアヤカシなんじゃないか、そんな話でプレイヤーたちは盛り上がりましたか?
★序盤からあからさまに怪しい愉快なMIDチームは、倒すべき敵として認識されましたか? 『イヌ』は彼らとの対決の予感をモチベーションとして動いていますか?
★不気味な偵察衛星、無人偵察機、「準」軍事作戦の予感。どこか現実のアメリカと通ずる要素を持つ工作チームの影に、プレイヤーは笑ったり、怯えたり、アクト中にキャストを成長させようか考え出したり、わくわくしたりしていますか?
★洋画、冒険小説、スパイ物、情報機関、ロシアや北米、軍事、そして何より宇宙。これらのどれかが好きそうなプレイヤーがアクトに参加していたら、アクトが進むにつれ興奮して彼らの目の色は変わってきましたか?

 以上のうち幾つかが達成されていれば、勝利は貴方の元にあります。自信を持って成功を幻視し、冬の女王の物語を完遂しましょう。

◆結末:
 さあ、貴方の星月夜作戦を続行しましょう!

きみもヒヨシィをはじめるのだ。
●『カブト』:世界の平和と安定を願う勢力

条件:●『フェイト』:引退した枢機卿』の後
登場:『カブト』のみ自動登場、他のキャストはシーン終了時に登場可能
場所:ウェンズデイ・マーケット、平和なファミリーレストラン“パピーズ”のパラソルのついた屋外席
◆解説:
 ミルトン・ブラウンが『カブト』とアンジェリンの元を脅迫を兼ねて様子見に訪れる。彼を改めて不愉快な敵と認識させ、対決への予感を増大させるのが目的である。
◆描写1:
 一方その頃‥‥平和なウェンズデイ・マーケット。回りはいつものように人々が行き交っている。『カブト』とアンジェリンが飲み物でも頼んで丸テーブルで一休みしていると、あたかも友人でもあるかのように何気ない動作で、いつのまにか向かい側の席につく人物がいる。黒いスーツ、金髪の男だ。彼は確実な自信を持ち、ゆっくりと喋る。
 以下のやりとりは例のひとつだ。『カブト』には、その中で演出をさせよう。

◆描写2:
ミルトン「さて、ミス・エヴァーグリーン。連れの方はそう‥‥たしか『(カブトの名前を入れよう)』でしたな。失礼、私はこういうものです。(外交官のカードを見せる)。エヴァーグリーン嬢に少々依頼したいことがあります」
アンジェ「(びっくりして対応できずに)えっ‥‥‥‥」
ミルトン「貴方は現在、幾つかの言葉が指すものを追い求めている。『“カラリエーヴァ”』、『“マースカ・ディカーブリ”』、そして貴方の元には『“カリリオーン・クラスタ”』がある。求めるものは全て――そう、ロシアに繋がる。宜しいですね?」
アンジェ「どうして知ってるのよ‥‥? あなた、誰なの?」
ミルトン「それは重要ではない。“世界の平和と安定を祈っている勢力”、とでも言っておきましょうか。ぜひそれらを諦め、北米に帰国していただきたい」
アンジェ「(ハンドバッグを押さえて)あなたたちも、これを狙ってるのね!?」
ミルトン「(『カブト』に向きを変えて) ナイトワーデン社で教わりませんでしたかな? 危険を侵し、大きな騒ぎ自分や護衛相手が傷つくより、危険自体が起こらないほうがよいと。即ち、本当のプロは危険自体を避けて行動するものです。あなたもミス・エヴァーグリーンが無事でいた方がよいでしょう?」
(この台詞は、『カブト』がどんな種類のキャストかに合わせて変えるとよいだろう。また、『カブト』のプロ度合いによって以下を教えよう。ミルトンの絶対の自信には裏づけがある。一人ではなくバックアップがおり、奥の手を用意しているはずだ。――例えばこの人込みの中のどこかに、狙撃手が配置されているかもしれない、といったような。)

ミルトン「アンジェ。貴方もメディア学専攻だ。世界で起こる戦争で人々がどうなっていったか分かるでしょう。この先、貴方にどんな危険が起こるか保証できません。貴方が偶然、自動車事故に会ったり‥‥貴方の行動が監視されたり‥‥貴方の家族やコロンビア大の友人が、危険にさらされるかもしれない」
アンジェ「(恐れを見せて『カブト』の方に寄って)私をアンジェって呼ばないで! どうして私のことを知っているのよっ!」
ミルトン「(薄く笑って)我々は貴方のことは何でも知っている。これが私の属している勢力の力です。そう――私の属している勢力の」

◆描写3:
 彼の脅迫は様子見である。アンジェリンは恐れはするものの受け入れはしないし、恐らく『カブト』も承諾しないだろう。しばらくすると、ミルトンは席を立つ。
ミルトン「ははは、そう怯えることはない。失礼、今のは冗談です。我々の勢力では、大統領令で暗殺は禁止されておりましてね。そのような暴力的な手段は、もう滅多に用いられません。映画か何かの見すぎのようだ」
ミルトン「ではまた。2度と会わないのが一番なのですがね」
アンジェ「出てって! 私たちの前から消えなさい!」

 アンジェリンは強がるが弱気になり、肩を震わせて『カブト』に救いを求める。
アンジェ「『カブト』さん‥‥何なの、あの人‥‥」

 行き交う人々の姿がミルトンの後ろ姿を一瞬遮ると‥‥次の瞬間、世界の平和と安定を祈っている勢力の男は、かき消すように消えている。
(これは、彼にカゲが入っていることの伏線である。)

 以降は、『カブト』とアンジェリンに会話させるなり、他のキャストが登場するなり、自由だ。

◆描写4:
 シーン終了前に、以下の描写を入れよう。
 高倍率の狙撃スコープの中に、キャストたちの姿が映っている。路肩の目立たないところに止まっているバン。窓が僅かに開き、狙撃ライフルでインディア・セヴンが狙いをつけていたのだ。
 ミルトンがバンに後ろから入ってくると、インディアは狙撃姿勢を解き、大きな対物ライフル(メテオストライク相当)を車内に下ろす。

I-7「(振り返って)撃たなくていいんですか、ボス。あそこで仕留めることもできたのに。50口径で撃ち込めば、相手が義体でも一撃で殺れます。どうせなら『イヌ』野郎も見つけて一緒に仕留めちまいませんか」
ミルトン「やめておけ。この雑踏の中では、騒ぎが広がりすぎる。
それにあのボディガードだが、プロだ。銃弾を防ぐくらいのことはやってのけるだろう」
 ニューフォートから来た男は、ぞっとするような笑みを浮かべる。
ミルトン「それより、作戦を次の段階へ進める。我らが親愛なる枢機卿猊下を、確保するとしよう」

 黄色いひよこの絵で偽装されたバンは光学迷彩を起動させ、どこかへと走り去ってゆく‥‥

◆結末:
 枢機卿と書いてルビを“カーディナル”と振る。さあ、次のシーンへ進もう。

◆ノート:
 レストラン“パピーズ”は、Revolution時代のCDドラマ『ナイフ・エッジ』で、里見隼人くんが犯人を待ち伏せる店です。必要に応じてアンジェに弱みを見せさせ、『カブト』からの励ましの言動を引き出してもよいでしょう。

Separator - セパレーター、絶ち斬る者、黙示録の竜の尖兵
●RLシーン:完璧なエクストラクション

条件:●『カブト』:世界の平和と安定を願う勢力』の後
登場:キャストは完全不可
場所:N◎VA中央区、インペリアル・ホテル前の道路
◆解説:
 ニール氏が敵の手に落ちることを描くシーンである。ここまででキャストとプレイヤーたちが引退した枢機卿に好意を抱いていれば、敵ゲストに対する反感をさらに盛り立てることができる。
◆描写1:
 ニール氏、本名クリス・エヴァーグリーンがちらりと左右に目をやりながらホテルを出てくる。キャストと約束していれば、災厄記念館に赴くつもりだ。世界を巡り、どんな時も沈着だった老練な元スパイも、娘が関わっているとなるとやや焦りが出たのか、やや足早に道路を歩き始める。
 後ろから猛スピードで近づいてくる車のエンジン音がする。彼が振り返った瞬間、《不可知》を発動。使用するのはインディア・セヴンだ。
 光学迷彩を解いたバンがブレーキの悲鳴をあげ、真横に急停車。横開きのドアが開き、モノアイの大男が太い腕でニールをさっと中に引き込む。
 眼鏡の女がさっとドアを閉め、タイヤをきしませるとバンは急発進。黄色いひよこくんの広告は見る間に見えなくなり、輪郭がおぼろげになったバンは急加速してどこかへ走り去る。

 道を歩いている通行人は、あまりの速さに何が起こったのかまったく理解できない。バンが走り去ってからやっと気付く。
通行人の子供「ママー、いま、ひよこくんが見えたよ?」
通行人の母親「あら、何も見えなかったけど‥‥??」

◆描写2:
 大型バンの中。前でプラスチック手錠をかけられて拘束されたニール氏はようやく目隠しを外され、暗い車内を見渡す。後ろからサイボーグの剛力で押さえつけるインディア、眼鏡を直しトロンを操作しているレーネ。ジーン、そして、前方の運転席の方から、ミルトンが近づいてくる。

ミルトン「(大仰に腕を広げて)ようやくお目にかかることができました。高名なるミスタ・カーディナル。世界の影に広がる、スパイの国の偉大なる枢機卿猊下。かくて、我らはここに――邂逅を――果たす」
ニール「(手錠に抵抗して)お、お前たちはっ‥‥」
ミルトン「本国からここまで、ずいぶん掛かりましたよ。引退したとはいえ、あなたの痕跡の消し方はほとんど完璧だった。ほとんど何も残っていなかった。ですが最後には、我々が勝った。そう――最後には――我々が勝つのです」(語尾を繰り返すのを強調しよう)
ニール「誰かと聞いても、答えそうにはないな‥‥」
ミルトン「そう。さしずめ我々は、枢機卿を付け狙う、竜の神を崇める異国の異教徒とでも、言っておきましょうか」
ニール「その異教徒が、私に何の用だというのだ‥‥」
ミルトン「さて、枢機卿猊下」

 黙示録の竜の尖兵は、腰の後ろから見事な戦闘用ナイフを取り出すと、もてあそぶように刃先をなぞる。
ミルトン「閣下が本件に興味を持たれておりましてね。そう――我らが――プレジデント閣下が」

◆結末:
シーンエンド、一気に次へ。

◆ノート:
 キャストたちの活躍でようやく父と娘の確執が晴れ、二人が再会できそう‥‥というところで、この完璧なエクストラクションでニール氏が敵の手に落ちてしまうことを、このシナリオの記述では想定しています。
 もしもキャストとプレイヤーの連携が完璧であれば、互いに連絡を取り合い、先に父娘が合流してしまいそうになるかもしれません。そうならないように力を尽くしてください。「電話が偶然通じなかった」「『カブト』に連絡をとってもいいけど、それは次のシーンでお願いしますね」などなど。
 どうしても阻止できなかった場合は、恐らく災厄記念館で、ニールとアンジェリンは再会を喜び合います。多少描写を変更する必要が出てきます。
 いずれにせよ、偵察衛星から足取りを追っていたMID工作チームの愉快な面々は、冬の女王との通信手段の強奪のために、交通渋滞(N◎VAの道路は北米より混んでいるのです)で少し遅れながらも、結局は災厄記念館にやってきます。

Dominator - ドミネーター、絶対火力の制圧射撃
●クレムリンに響く鐘

条件:●RLシーン:完璧なエクストラクション』の後、最終イベント
登場:全員が自動登場
場所:レッドエリア、ハザード・メモリアル・パークの中の一角にある災厄記念館の中。問題なければ時刻は夜。館内の電子的セキュリティレートは10である。
◆解説:
 キャストが合流し、『“マースカ・ディカーブリ”』の正体が判明、遂に女王との交信が可能になるシーン。問題なければ夜にする。後半部分は『ニューロ』にスポットライトが当たる。
◆描写1:
 遠くに中央区のネオンが輝き、訪れる者もいないメモリアルパークはしんとしている。災厄記念館には案内用ドロイドのほかには誰もおらず、賑わっていない。現在を生きるのに忙しいニューロエイジの人々は、誰も過去のことには興味を抱いていないようだ。
 アンジェリンに父のことを話すかは、自由だ。このシーンには全員が集合し、会話を交わしてもらおう。

◆描写2:
 ロシア展示ブースには初期型ゴエルロに始まって、様々な展示がある。ソヴィエト連邦の国旗、歴代指導者の写真に国家組織。米ソの宇宙競争の歴史、本物のスプートニクやアポロ計画の模型、初めて宇宙に飛び立ったライカ犬のぬいぐるみ。災厄前のクレムリンの輝く宮殿の図が浮かび上がっている。
アンジェ「この“カリリオーン・クラスタ”が、鍵なのね。『カブト』さんがそう言うならいいわ。『ニューロ』さん、お願い。あなたの力で、12月の仮面の謎を解いて、女王への道を開いて」
 さあ、電脳空間にフリップしよう。

◆描写3:
 ウェブサイドへフロップ。
イントロンした『ニューロ』が眺めると、クレムリン宮殿の構造物が目の前に広がっている。通り過ぎた時に前にも見たことのある、ただの背景情報だ。立ち並ぶ20の尖塔も赤いレンガの壁も、ただの視覚情報でしかないはずだった。
 だが、『“カリリオーン・クラスタ”』を持っていれば、ここで変化が生じる。視覚情報のないシグナルを受け、データ集合体が自らを解凍していく。単純な黒い四角形のアイコンが一千の欠片に砕かれ、ばらばらに散っていく。
 見る間にデータブロックは再構築され、見事な鐘の視覚イメージを持つアヴァターへと変ずる。荘厳な音色が、論理的に無限長の高さを持つ電子の空に響き渡っていく。からーん、からーん、からーん‥‥
 セキュリティレート22の両扉の門が自動的に開き、中の扉が次々へと開き、初めての来客を招き入れる。
(ここで『ニューロ』のアヴァターの外見を聞き、それに合わせて演出させよう。)
 赤の広場とスパスカヤ塔の時計を後に、寺院広場の鐘が一斉に鳴り出す中を、広大なる無人の宮殿の中へ。誰もいない舞踏会の大広間と執務室、ロシア帝政時代からの様々な人物の肖像画の並ぶ廊下を抜け、奥へ、奥へ。

 一番奥の秘密の宝物庫の扉がひとりでに開くと、中は天井がガラス張り。電子の虚空を飛び交う光のストリームが、星空のように輝いている。
幾つもの宝物の奥に、紫のびろうどが掛かった台座の上に仮面が置いてある。
(視覚イメージは『オペラ座の怪人』に登場するような、目だけを覆う仮面だ。)
 台座にはロシア語でメッセージが刻んである。
『マースカ・ディカーブリ(12月の仮面)ここに眠る 我らの祖国の思い出よ永遠ならんことを』

 これが、光の海で囁かれ続けてきたアーバン・レジェンドの正体だ。『ニューロ』に演出させ、その手に取らせよう。
 おめでとう。君は、電脳空間上では決して認識することのできない眠れる女王、災厄前の人工衛星との通信手段を、災厄後の第三者としては初めて手に入れたのだ。

◆結末:
 現実世界で待っているキャストたちは、スクリーンから見守っているような感じにすると良いだろう。
 そして‥‥現実世界ではしばらくしてヴィークルの音が外で響く。クライマックスフェイズへ移行せよ。

королева - U.S.S.R.カラリエーヴァ、冬の女王
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