症例18=ブラケットを付けても、治療方法(テクニック)が違う
症例写真の加工はしてません。HPにのせるためにファイルサイズ縮小のための切り取りはしてます。どうやって治したかは(治療法は)来院された方にのみ、お教えします。
アメリカの自動車産業に端を発する大量生産の方法とは、規格化して生産効率を上げるものです。同じ寸法で部品を作り揃え、それを組み上げるという発想です。
これを歯科矯正治療に応用したのが、アンドリュースという人です。白人の歯の形、かみ合わせた時の歯の傾き(歯軸)、接触点など7つの要素を分析して、ブラケットの溝に深さとひねりを組み込んだのです。矯正用線を曲げないで済むようにするために。
発想は良いのですが、すべての人に適合するわけではありません。隣の人の帽子を貴方がかぶることができるとは限りません。たまたま合うかもしれませんが。
それまでの歯科矯正治療はブラケットの接着面に90度に溝(スロット)が切られたブラケットが使用されておりました。深さも均一。そうすると、歯の大きさ歯の方向きなど三次元的な要素をワイヤーを曲げることによって達成しなくてななりませんこれはかなり面倒な作業で、熟練のテクニックが必要なのです。=素人さんには歯科矯正治療は無理!でした。
上記のことを頭に入れて、下の写真を見てください。
当院に転医時の下顎歯列弓の写真です右側犬歯の歯軸(➀)、第二小臼歯の歯軸(②)が内側(舌側)に倒れています。使用ブラケットはストレートワイヤーテクニック用のものです。
歯列全体が狭くなっているのも、わかりますね。舌がおさまらない。この症例の問題点は、ブラケットポジション(ブラケットを付ける位置)が、良くない点です。ブラケットポジションが狂うと、想定された刃の高さ屋歯軸が間違って発揮されます。で、よく噛めない状態になる。
ブラケットを付け替えたほうが早いのですが、材料代がかかるのを患者さんが嫌ったので、ワイヤーを曲げることで治しました。下の写真が最終形です。
犬歯の歯軸も第二小臼歯の歯軸も直立し、歯列弓が広がったのが分かります。上顎の歯と真っ直ぐ噛めます。舌もおさまります。
当たり前ですが、歯槽骨(歯の並ぶ骨のこと)に直立(90度)に歯が並ぶのが理想です。斜めにはえていると噛む力で倒れます。ビルや家(建物)を斜めに建てますか? 真っ直ぐ90度に建てますよね。
ストレートワイヤーだから、ワイヤーを曲げなくても良いわけではありません。微調整しないとキッチリ治りません。しかしそのためにはブラケットに組み込まれた3次元要素(高さや角度やねじれ)を理解して修正するので非常に難しくなります。(シロート矯正では無理。)
どうせワイヤーを曲げるのなら、最初からスタンダードテクニックで始めれば良い。私はそう考えて、実行してます。十人十色と言いますが、人はそれぞれ違う人間です。一種類のブラケットで万人の症例に対応できるわけがありません。ですから、ウチでは個人個人に合わせてワイヤーを曲げるというオーソドックスな治療法を採用してます。そのため、時間と手間がかかります。ご了承ください。
※ストレートワイヤーテクニックの欠点
1)ブラケットが三次元的な要素を組み込むために、大きくなる。(違和感が強く出る。)
2)白人のようブラケットだと、上顎前歯の歯軸が立つ。=見た感じが日本人の歯軸より内側に入る。
3)歯列弓の大きさに合わせてワイヤーを数種類用意しなくてはいけない。(コストアップ)
4)変則抜歯の症例では治療が難しくなる。先天欠如歯がある場合も同様。こういった場合、歯列弓に合わせてワイヤーを曲げて対応しないといけない。
5)一番の問題点は、矯正の専門教育や修練を積んでいない歯科医が、「これを使えば矯正治療ができる。」と信じて、ストレートワイヤーテクニックを使うことだと思います。ストレートワイヤーテクニックの欠点を十分理解している矯正専門で開業している先生ならよろしいのですが。
ブラケットを売っているメーカーの人に聞いた笑い話。「よく治るブラケットをくれ!」という要望が一番多いそうです。ブラケットの種類が問題では無く、診断(症例分析)や治療技術が大事なんですけどね。