不破氏の今どきレーニン批判
共産党の政権入り準備なのか
アエラ2000年1月31日号
(注)、これは、朝日新聞社週刊誌『アエラ』(2000.1.31号)に掲載された政治欄記事(P.18)の全文です。
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『レーニン「国家と革命」の位置づけ』革命ユートピア・逆ユートピア小説
不破哲三『一九一七年「国家と革命」』抜粋
加藤哲郎『一つの国家論入門』 『国家と革命』批判
TAMO2 『国家と革命』全文(大月書店国民文庫版)
宮本顕治氏が完全に一線を退いたいま、「不破共産党」の動きが急だ。マルクス・レーニン主義の党かと思ったら、レーニンの本格的な批判である。
これは「事件」だ。
共産党の不破哲三委員長が、党機関紙「しんぶん赤旗」の紙上で、レーニン批判を展開し、返す刀で米国の建国理念を讃えた。
いってみれば、ソニーの現社長が、故盛田昭夫氏の経営理念に異を唱え、ついでに故松下幸之助氏をほめたようなものかもしれない。
記事は不破氏へのインタビューの形をとり、「レーニンはどこで道を踏み誤ったのか」という見出しがつけられた。レーニンが議会で多数を得ての革命を進めず、暴力革命路線をとったことを間違いだったと指摘。マルクスがリンカーンに送った手紙の中で、米国について、「偉大な民主共和国の思想がはじめて生まれた土地」と書いたことも紹介している。
いうまでもなく、レーニンはマルクス、エンゲルスと並び、日本共産党の理念を支える巨大な柱だった。例えば、一九八九年に不破氏は『「新しい思考」はレーニン的か』という本を出し、当時のソ連のゴルバチョフ書記長による改革をレーニン的ではないと批判している。一方、米国といえば、党の綱領で「アメリカ帝国主義」と断じている敵役だ。
党内向けに浸透狙う?
なぜ、いまレーニン批判なのか。
国会で共産党と共闘する民主党の川端達夫国会対等委員長は、「政権入りの障害にならないよう、暴力革命を改めて否定し、米国とも付き合える党だということをPRしているのではないか」
民主党ブレーンの一人である後房雄名古屋大教授も、「一昨年の参院選後、共産党は日米安保廃棄の凍結を打ち出し、首相指名で民主党の菅直人氏に投票するなど、政権入り路線に転換した。今回はそれを党内向けに浸透させるという方針の表れだ」と見る。
だが、これで政権への展望が開けたかというと、党の根本的な「体質改善」が先、という声は強い。二十年来の批判的な「共産党ウォッチャー」で、雑誌「カオスとロゴス」編集長の村岡到氏は、「この路線を徹底させるなら、マルクスについても、どこが間違っていたか評価しなければならなくなる。自分たちの過去の発言が、誤りだったと認める必要もある」と話す。川端氏も、「綱領で、党が国民を導くというおこがましい考えを捨てない以上、連立政権は組めない」と、やはり共産党の「独善性」を問題にしている。
「マルクスも遠慮なく」
共産党の変身は、はたして本物なのか。不破氏を直撃した。
この時期にレーニンを批判したのは、なぜですか。
「二十世紀の科学的社会主義者レーニンの問題は、二十世紀中に解決したいということで、三年前から研究を始めた。総選挙の前にどうこうという計画性はないですよ。鳩山由紀夫さん(民主党代表)とどうするかという目先の話で読まれちゃうとね・・・・・・。それやんないと、あなた方マスコミは商売になんないと思うけど(笑い)。日本の政局も大事だけど、こういう世紀的な仕事を並行してやるのは意味があるんですよ」
イタリア共産党などは、かなり早くレーニンを批判し、やがて社会民主主義に転換しました。
「イタリア共産党の主流がやったのは、科学的社会主義批判。社会主義の基礎理論放棄です。我々はそういう立場をとらない。ただ、科学の目から、マルクスが言ったことでも、今の時点で間違っていることは遠慮なく批判します」
マルクスが米国の建国理念を讃えたことも紹介しましたね。
「それは不思議ではないんです。だって世界で国民主権が問題になったのは、米国の独立宣言が最初ですから。我々は、日本の資本主義を『ルールなき資本主義』と言っていますが、米国や欧州の資本主義の方が国民の権利を守る部分が多い。例えば、企業の政治献金を初めて禁止したのは米国です」
共産党も変わってきた?
「一九五八年と六一年の大会で今の路線の基本を確立して、その後は細かい変化はありますが、根本が間違っていたから変えるということはしないで済んでいます。発展する時に根拠なしに過去を捨てるのは簡単だが、そこからは何も生まれない。マルクス、レーニンも、乗り越えるべきは乗り越え、引き継ぐ面は引き継ぐ。日本の社会の変化との相互作用で私たちの路線も発展するんですよ」
レーニン批判は、宮本顕治名誉議長にも報告したのですか。
「もう引いた人ですから」
(不破写真コメント) 共産党は、かつてお家芸だった他の野党への批判も、最近はほとんどしていない。不破氏は「大局の利益に立って、いろいろなやり方を考えるのが第一なんです」という
編集部 森川愛彦
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