春菜に連れられた由羅は旧市街の廃ビル群にたどり着いた。
そこは近隣にはまだ住民がいるものの、放置されて長い時間が経ち、手入れもなされていないのでいくつかのビルはまさに廃墟と呼ぶにふさわしいたたずまいを見せていた。 「ここか?」 「一応ね。ほら、早く降りなさい」 春奈に促されるままに車を降り、案内されたところはある廃ビルの中だったが照明もなく、その暗さは歩くのにも支障がある程だった。 「おい、ライトか何か無いのか?」 「あら、ごめん。これじゃ歩けないわね」 春奈が指をぱちんと鳴らすと、手の上に暖かみのある光を放つ球体が浮かび上がり目の前の道を照らす。 その明かりに導かれるようにして進むが、緊張しているのか由羅は春奈に話しかけることもなく慎重に足を進め、二人は階段を上った先にあった部屋の中に入る。 小さなオフィスほどの広さのある部屋だったが、そこにあった備品などはすべて撤去されてコンクリートの地肌がむき出しになっていた。 光球は春奈の元を離れ、部屋の中央天井付近に移動するとその輝度を増す。 その光に照らされた先には30代後半から40代半ばかの男性が立っていた。 「紹介するわね。私達の上司で高槻輝雅(たかつきてるまさ)さん」 「君が春菜君の言っていた子か?」 「あ、はじめまして。村雨由羅です」 ちょこんとお辞儀をする由羅を一瞬観察した高槻は春奈に声をかける。 「意志は確認したのかね?」 「えぇ。かなり強固なものでしたから。以前とは違って」 一言多い春奈に由羅は一瞬だけにらむが、春奈は気にしていなかった。 「そうか。では改めて、ようこそAEGIS(エイジス)へ」 「エイジス……イージス……イージス艦?」 「……確かに里美君の関係者だけあるな」 反射的に口をついて出た由羅の呟きに半ば呆れたような口調でつぶやく高槻。 「そういう返答を即座に返したのは私の知っている限りでは……少なくとも女性では他にはいないからな」 「里美はそもそも普通の子じゃないですけど、由羅はこの趣味と性格以外は普通の子ですから」 フォローされているのかけなしているのか分からない春菜の言葉に、由羅は複雑な表情になってしまう。 「まぁ、それはあとあとになって分かるだろう……それで、我々の組織については、春奈君から聞いたのか?」 「えぇ、大体の所は私が話しておきましたので」 「それなら話がはやい。春菜君から聞いたと思うが、我々の組織は防衛庁の秘密組織で、妖魔の撃退を主として、他にもいくつかの特殊任務の遂行を活動内容としている。細かい所はまた後にするとして、何か聞きたい事はあるかな?」 「妖魔が門を通して現れるのは分かったんですけど、人ごみの中で出現したら大騒ぎになるはずじゃないんですか?」 「そこがうまくできた所でな。どういう訳か集団の中では門の形成はなされない。これはまだ仮説だが、複数の人間で形成される意志力の場は門形成を初期段階で阻害してるらしい」 「じゃあ、UFOが公に見つけられていないというのと似たようなものですか」 「たとえは妙だが……まぁ、そうともいえるな」 「……と、あれ?」 そこでなにか引っかかる物があったのか、由羅はきょとんとした表情になる。 「どうしたの?」 「いくら人気のないところに出現すると言っても、戦ってたらその音を周りが聞き逃すこともないんじゃないですか?」 「じゃあ由羅、最初に妖魔に遭遇した時とこの間の時……誰か反応した?」 「あ……」 叫んでいた割には誰も助けに来てくれなかった……その時は不条理だとしか考えていなかった由羅だったが、考えを改める必要がでてきた。 「まぁそういうこと。妖魔は存在の歪みから周りと隔絶した空間……私達はそれを結界といってるけどね。それを形成するの」 「結界か……ある意味便利な代物だな」 「えぇ。妖魔の出現を探知できる材料にもなるしね」 「目撃者も限定されるという訳か」 「ご名答。それと結界は普通の人には見えないけどある程度の素質があればうすうす見ることはできるけど……硬いから私達でも進入は難しいわ」 「なら、そんな結界の中にいる妖魔をどうやって倒すんだよ」 言った直後、その結界の中にいる妖魔を倒した状況を自分は目撃していた事を思い出した……最初の妖魔との遭遇における春菜の出現という状況を。 「基本的には結界に穴をあけるような符をつかって進入することになるわね」 「なお、行動にはある程度の超法規的措置もとられ、ある程度の器物損壊等には免責される事になっている」 「えっと……つまり……」 「早い話、戦いとかで物を壊すようなことになったとしても弁償とか責任問題は免除されるってことよ」 「ただし、力を悪用してなにか問題を起こしたりしたら……」 言葉の続きを片手で首を切るようなジェスチャーで続ける。 「つまり、容赦なしってことですか」 由羅への答えは高槻に代わり春菜が続ける。 「だって、現代の科学では証明できないようなことで犯罪を犯すんだからね。処罰は私達でやるしかないじゃない」 「確かにそれもそうだな」 「他に何か聞く事はある?」 「特にはないな」 「まぁ、まだ何が分からないか分からないかもしれないから、何か聞く事があったら私にでも聞いてね。……それにしても、わざわざこんなところで待ち合わせだなんて、趣味ですか?」 話が一通り終わった後で高槻に話しかける春奈だったが、その声には先程のような重さはなく、むしろおどけた感じだった。 「べ、別にいいだろう」 「小さいとはいえ、オフィスがあるのにどうしてそっちの方じゃなくてわざわざこんな所に呼んだんですか?」 「機密保全のための結界を準備するには都合がいいしな……それに」 「それに?」 同時に口を開く春奈と由羅。 「たまにはこんなシチュエーションも雰囲気が出ていいじゃないか」 「課長……」 きっぱりと言う高槻だったが、彼を見つめる春奈の視線は限りなく冷たい。 しかし、組織としての冷徹な面だけでなく、そこに暖かい人間味を感じて由羅は安堵していた。 冷えきった春菜の瞳に冷や汗を出していた高槻であったが、どうにか威厳を取り戻した。 「では、訓練の時期など細かいところは追って春菜君から知らせてもらうこととしよう。それと、しばらくは春菜君達と一緒に行動したほうがなにかとわかるだろうな」 そう言い残した高槻はゆっくりと後ろ向きに歩き、闇の中に消えていった。 数瞬後、何かが崩れる音と共に男性の悲鳴らしき声が聞こえた。 「……瓦礫に足をとられたわね」 「おい……あれでもお前の上司なのか?」 「一応はね。偉そうにしてたけど結構動揺が激しかったようね」 「お前も難儀な上司を持ったものだなぁ」 「ほんと、これさえなければ有能と言えるのにねぇ」 「あれでも有能なのか?」 「あれはあの人の欠点の部分だからね。他はまともよ」 「……そうか」 大方自分は高槻から任務を受けることになるのだろうと思うと、複雑な気分になってしまう。 そこに、聞き慣れた可愛らしい声が聞こえてきた。 「二人とも、何してるの?」 振り返ると、そこには由羅の部屋で寝ているはずの萌が、柱の影からちょこんと姿を現していた。 「も……萌?」 驚く由羅の背後で、ちゃきっと軽い金属音がした。 直後、由羅が振り替える暇もなく、ぱんっとその場にそぐわないやけに乾いた音が室内に響く。 音が聞こえた瞬間、萌が後ろにのけぞるように倒れて、そのままくたっと動かなくなる。 そして、周りに漂う硝煙の匂い。 由羅はその光景に心臓が締め付けられるような感じを覚え、急いで振り返ると春奈の手にはいつの間にか拳銃が握られており、それはまっすぐ由羅の方向を向いていた。 「は、春奈、なにを……!?」 「部外者があんなの聞いたら消すのが当たり前でしょ」 「消すって……殺す?」 由羅は自分の口の中がからからに乾いていることを自覚し、なにか言い返そうにも言葉が出てこなかった。 「そういうこと。それと、こんなの見ちゃったんだからついでに由羅も死んでね♪」 その口調と表情は普段の春奈と変わりなく……いや、それ以上に冷酷な笑みを見せて、その冷徹な銃口をまっすぐ由羅の胸元へと向けていた。 「なっ……」 恐怖で一瞬動けなかった由羅がどうにか身体を動かした瞬間、春奈の指が動く。 それによって引金からのリンクで動きを開放された撃鉄が撃芯経由で薬莢を叩き、そこに取り付けられた雷管は与えられた刺激に過敏に反応して小さな爆発を起こし、その高温の爆風で発射薬を誘爆させる。 それによって発生したガスは急激に膨張して銃身内の銃弾を押し進め、弾は内部に刻まれたライフルにそって回転して銃口から飛び出る。 発射された一発の銃弾は数メートルというわずかな距離を瞬時に飛翔し、狙い違わず由羅の胸に吸い込まれる。 着弾の衝撃を感じた由羅は自分の心臓を射抜かれたと錯覚したが、感じたのはまさに衝撃のみで、それに付随して発生した軽い痛みだけだった。 「……え?」 自分の胸元を見つめる由羅。そこには何かがつぶれたような赤いシミが付いているだけだった。 「これで由羅は死んだわね」 「死んだってどういう意味だっ」 それこそ、死ぬかと思った由羅は春奈にくってかかる。 「弱気の由羅は今ので死んだということよ」 「どういう意味だ?」 「由羅は実践経験はかなりあるだろうけど、本当に命の危機を覚えるってことは無かったと思うわ。それで本当の死ぬ恐怖っての知ってもらって精神的に強くなって欲しかったの。もっとも、これがトラウマになって逆に動けなくなる可能性もあるけど――」 一呼吸おき、由羅の瞳をじっと見据え、続ける。 「由羅なら乗り超えると信じているわ。どんな状況にも向かっていける強い心を持った由羅になってね」 「あぁ。弱気な自分でこれ以上嫌な目には会いたくないからな」 その答えに春菜は柔かな笑みをもって答える。 「それに、ペイント弾だから怪我もなかったでしょ?」 「じゃあ……萌も?」 「そうそう♪」 と、銃の安全装置を確認し、グリップから弾倉を抜き出して確認した春奈の顔がかすかに引きつる。 「あ、ごめん。里美が弾を入れ間違ってたみたい。さっきの実弾だったわ」 「………………は?」 「だから、萌に撃ったのは本物の銃弾だったって事」 その言葉は里美のようなどこかとぼけているような色合いがあったが、春奈の言葉に由羅の思考は一瞬停止し、直後に春奈に再びくってかかる。 先ほどとは違い、今度は全身から明らかに殺気を振りまいていた。 「そんなごめんですむ問題かっ!」 胸ぐらをつかんで怒声を浴びせかける由羅。殺気は春奈にすべて叩きつけられ、今すぐにでも春奈を殺すような勢いで、さすがの春菜も心を恐怖に支配されようとした時、由羅の背後から聞こえてきた声に殺気は急速に霧散した。。 「はみゅう〜〜」 「も……萌?」 「春奈さぁん……痛いよぉ」 「ごめぇん、里美がミスしなかったらこういう事はなかったんだけど」 目をうるうるさせて春奈に訴えている萌を見つめる由羅は状況が読み込めていないようだった。 「……実弾じゃなかったのか?」 「実弾だよぉ……痛かったしぃ」 「実弾なら、痛いですむ問題じゃないぞ」 「その点は大丈夫。萌は防弾チョッキを着ているような物だからね」 「防弾チョッキって……お前何時の間にそんなもの持ってたんだ」 「これぇ」 と、ひらひらさせて見せるのは少し厚手に見えるものの、普通の服にしか見えなかった。 「これが防弾チョッキ?」 「そうみたい」 「こんな妙なもん……里美さんにでももらったのか?」 「近いけど……事実とはだいぶかけ離れているわね」 「事実?」 真意をつかめていない由羅にゆっくりと、聞き間違うことがないように由羅の耳に入れる。 「そう。萌はもうエイジスの一員になってるのよ」 「萌が?」 春菜が確実に伝わるように話したにもかかわらず、その意味を受け止めきれなかった由羅の言葉が途切れる。 「だ、だって萌の記憶はあの時……」 「しっかりと消したはずだったわ。でも、萌まで記憶操作を破ってきてるし……私ちょっと自信喪失しそうになったわよ」 「萌、あたしがあれほどやめろと言ったのに」 「由羅ちゃん、ごめん……でも、自分に何かが出来るのならそれをやりたいんだもんっ」 「やりたいって、もし死んだらどうするんだ」 由羅の叱咤に、萌はひるむことなく由羅の目を見つめたままはっきりとした口調で返す。その瞳にははっきりとした決意が現れていた。 「わたしは一度死んだようなものだし、それを春奈ちゃんに助けてもらって、自分にもなにか出来ることがあるって知ったらなにかやりたいの」 「わかった?萌は別に私が誘った訳じゃなくて彼女の意志だって事が」 「あ、あぁ……でも、だからってあたしに黙ってなんて」 「由羅ちゃん、わたしがやっているの知ったらやめろって言うか、それとも自分もやるって言うでしょ?」 「そんなの当たり前じゃねぇかっ」 「だからよ……由羅ちゃんに心配させたくなかったの」 「萌……」 優しく言う萌を、由羅は思わず抱きしめていた。 小さく華奢な身体、泣き虫で由羅の手をなにかと煩わせる存在だった萌が自分の手を離れていたということに一抹の寂しさを感じると同時に言い表せない愛おしさを感じた。 「でも、戦って後で包帯とか巻いてきたらそれはそれで心配したからな」 「あ……ごめんなさい」 「やっちまったもんはしょうがないし、お前の考えはよく分かったから小言はこれ以上はいわねぇよ」 萌を解放し、少し微笑みながら頭をなでる由羅に萌もはにかみながら答える。 「うん……ありがと」 「相変わらず仲がいいわねぇ」 「当たり前だろ。あたし達は昔から一緒だったんだから」 「うんうん。やっぱり萌が関わってたら由羅も素直になってくれるわね」 そんな仲良し二人を楽しそうに眺める春菜だが、その表情には由羅達が気がつかないわずかばかりの寂しさが混じっていた。 「……つまり、萌が加わっているが分かったらあたしも加わると踏んでのことか」 「そういうこと♪」 「そんなことが分かっているなら、なんでわざわざ萌に銃弾を撃ち込んだりしたんだ!」 ペイント弾のつもりで実弾を撃ち込んだ春菜に怒りの声を上げるが、春菜は眉の一つも動かさずにひょうひょうとしたものだった。 「だって、その方が緊迫感出るし、由羅もさっきのでこれがモデルガンなんかじゃないって事を分かったでしょうし」 「う……」 「そして、萌を守りたいっていうのなら油断する事はできない……それを自覚して欲しかったのよ」 「それは分かった。だが、こうなった以上は譲れないものがあるってのは分かってるだろ?」 「『萌はあたしが守る』こう言いたいんでしょ?」 「その通りだ」 春菜に先手をとられたが、常に主張し、そして実践していることなので当たり前のように応える。 「まったく、まるで萌の騎士様ね。まぁ、そう言うと思って課長にはその旨はもう伝えているわ。あとはあなたの努力で萌を守るだけの力を持っている事を証明する事ね」 「そのくらいわかってるさ」 「それでこそ由羅ね。何か質問は?」 「それこそいろいろあるが……萌が参加してるって事は萌もなにか普通じゃない能力でも持ってたのか?」 「能力って大抵普通じゃないものを指すんじゃないの?」 すかさずつっこみを入れる萌だが、性格ゆえか切れ味にかける。 「それ言ったらお終いだよ。しかし……出来すぎた話だよな」 「なにが?」 不意に呟いた由羅の言葉を聞きつけた萌が聞き返す。 「あたし、里美さん、萌。知り合い三人が揃いも揃って特殊な素質を持っているなんて」 「由羅は格闘能力以外はまだ何か出来るかすら分かってないんだけどね」 「それでも、こうして戦う事になるなんて普通じゃないぞ」 「ま、それはね。でも、こういう報告もあるのよ。幼い頃から素質を有する人と接していたら感受性とかが発達して素質を持っていなかった人でも素質をもつようになる可能性がある……と」 「じゃ、じゃあもしかしたらあたしは……」 「萌の影響を受けたか、それとも萌に影響を与えたか。もしかしたら二人の共通の知り合いがそうだったのかもしれないわね」 「里美さんは……高校時代だから違うよな」 「そうね。もっとも、里美は持っていたかもしれない素質のほとんどを私がもらっちゃったみたいなものだけど」 「もらったって……身体は同じなんだから同じなんじゃ……」 「あら?言ってなかったかしら。素質っていうのは身体に依存ではなくて精神の方に依存するって」 「そういえば里美さん精神構造が違うから魔法が使えないとか言ってたような……」 「そういうことよ」 一通り話し終えた後で、ずっと二人の話を聞いていた萌に話を振る。 「萌、お前は結局なにが出来るんだ?」 「それはまだ秘密……っていうか、まだ不安定だから使いこなす自信がないの」 「それでも教えてくれていいだろ」 「まぁまぁ、萌にも事情があって秘密にしたいのよ」 「……じゃあ、今は聞かないが……きちんと教えてくれよ?」 「うんっ」 元気に返事をする萌を見て、ふいに一つ気になったことを思い出した。 「里美さんもエイジスに所属しているんだよな?」 「そうだけど?」 「お前みたいに魔法を使うことはできないみたいだけど、銃だけでどうにかなるのか?」 「特殊な弾丸とか使ってるから、どうにか戦えているわよ」 「あと、体捌き……里美さんってあんなに敏捷だとはしらなかったぞ」 里美と一緒で妖魔に襲われたときに見せた彼女は鈍そうな普段の仕草からは想像もつかないものだった。あれが本当に里美の動きだったのかといまだに半信半疑の由羅だった。 「まぁ、場数と訓練の結果ね……戦いの時にでもならない限りは本気で動いてないけどね」 「やっぱりかぁ」 「でも、あいつは私と違って魔法が使えないから特殊な技術が要求される仕事が舞い込む事が多いわ」 「特殊な技術?」 「えぇ、鍵開けに盗聴にハッキングとか」 「……あの人、そんな本読んでたのは知ってたけどまさか本当にやってるとは」 それを聞いて呆然と納得が同居したような複雑な表情を由羅は見せてしまうが、聞くんじゃなかったという内心だけはどうにか外に出さずに押さえることができた。 「それで戦う時は拳銃か?」 「えぇ。もっとも、妖魔相手には里美が撃てるような普通の弾丸だと威力不足の時もあるから特殊な弾丸を使う事もあるけどね」 「前に使った炸裂弾のようなものとかか?」 「えぇ。作るのには技術が必要みたいだけどね。他にも魔力を込めて特殊な効果を持たせたのもあるわ」 「どれを使うにせよ、里美さんが妖魔なんかと戦っているという事実自体がまだなかなか信じられないんだけどな」 「あはは、それは私もよ」 春奈の軽い笑いが伝染したのか、由羅と萌も同じように笑みを見せていた。 「じゃあ、話も付いたことだし帰りましょうか」 ひとしきり笑った所で春奈が糸を引くような仕草をすると、天井に陣取っていた光球はその場から動き出し、最初と同じように由羅達の行く道を照らす。 行きと違って由羅も春奈や萌と雑談をかわしながら進んでいった。 外に出る前に再び春奈が軽く指を鳴らすと光球はすっと照度を下げ、外に出る頃には消滅していた。 建物の外に出ると乗用車は相変わらず同じ場所に駐車していて、運転手は相変わらずサングラスをしたまま座っていた。 「そんな所にずっと座っていないでちょっとでてきなさいよ」 ドアを開けて運転手を引きずり出す春菜。 「涼、今度私達と一緒にこの子が行動する事になったから、そんな風に顔を隠さないでもいいわよ」 運転手がその言葉の意味を理解するよりも早く、春菜がそのサングラスと帽子をとる。 その素顔は平均よりは多少顔の作りはいい青年だったが、その瞳は少々気弱なもので、由羅にとっては忘れる事のないものだった。 TO BE CONTINUED |