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??どれを読んだらいいの??
ルパンシリーズ読書入門編

−その2−



☆現在もっとも完全な全訳全集である偕成社版を基準として、その巻数順に現在刊行されている訳本を紹介します。
☆訳者名のあとにある西暦は、現行版の出版年ではなく、その訳文が最初に出た年を示しています。


オルヌカン城の謎 L'Éclat d'obus(1915)
原題は「砲弾の破片」という意味で、第一次大戦の最中にルブランが執筆した戦争&スパイ風味のミステリ小説。本来ルパンものではないのだが、単行本出版にあたってルパンが1シーン(2ページ程度)だけ登場する追加がなされてシリーズ入りした。マイナー作の割に現役訳本が多く、忠実な全訳と大幅に改変した児童向けとがある。




偕成社全集版 第9巻
「オルヌカン城の謎」
創元推理文庫
「オルヌカン城の謎」
ポプラ社版 第9巻
「ルパンの大作戦」
講談社青い鳥文庫
「怪盗ルパン地底の皇帝!」

竹西英夫訳(1982)
井上勇訳(1973)
南洋一郎文(1972)
久米みのる訳(1973?)

もちろん原典に忠実な全訳。ルパン登場シーンはしっかり挿絵入り(笑)。解説では物語の舞台となるアルザス・ロレーヌ地方について中立的な立場で説明しており有益。
1960年前後に出た東京創元社版全集ではとりこぼされていたのを文庫で初訳。「オルヌカン城の謎」という邦題はこちらが元祖のはず。文庫本唯一の全訳なのだが、残念ながら売れ筋ではないため書店ではなかなか見つからず、すでに絶版になっている。
南版児童向け全集の現行バージョンでも残った作品だが、内容は大幅に改編されて、後半は乱入したルパンが大活躍して主役を食ってしまう(笑)。南洋一郎が第一次大戦の戦場を訪れた際の回想が唐突に入るという特徴もある。
こちらは久米版の児童向け翻案もので、南版「ルパンの大作戦」と読み比べると改変が微妙にちがっていて面白い。解説では第一次世界大戦について子供向けにくわしく解説している。


金三角Le Triangle d'or(1917)
第一次大戦のさなか、傷痍軍人のパトリスと看護婦コラリーは運命の糸に導かれるように出会い、恋に落ちる。そのコラリーの夫エサレスはフランスから他国へ大量の金貨を密輸していたが、惨殺死体となって発見された。事件の鍵を握る「金三角」の謎とは何か?ドン・ルイス・ペレンナことルパンが中盤から乱入して活躍する一編。翻訳権決定の経緯から以後のシリーズの訳本はかなり少なくなってくる。



 
偕成社全集版 第10巻
「金三角」
創元推理文庫
「金三角」
ポプラ社版 第10巻
「黄金三角」
ポプラ文庫クラシック「怪盗ルパン全集」
「黄金三角」
竹西英夫訳(1981)
石川湧訳(1960)
南洋一郎文(1958)
南洋一郎文(1958)
例によって全訳。「パリ発地獄行き、片道切符、霊柩寝台」は名訳(笑)。
例によって東京創元社版「リュパン全集」に収録されていた訳文。一番入手しやすい「金三角」で、訳文もとくに古さは感じない。
南版児童向け全集では初出時からこのタイトル。内容的に改変されそうな気もするのだが、大筋で原作のまま。
こちらは最初のバージョンの復刻版。

三十棺桶島L’Île aux trente cercueils(1919)
死んだと思っていた我が子が生きていた―ベロニックは息子に会うべくブルターニュの「三十棺桶島」とあだ名されるサレク島へとわたる。ところが島に着いたとたん、人智を超えた不可解現象と古代の異教儀式に彩られた、悪夢のような大量殺人劇の幕が開ける。ルパンシリーズ中随一のホラーサスペンス大作で、横溝正史の金田一もののルーツとも思える異色編。ドン・ルイス・ペレンナことルパンはドタンバで登場(笑)。



 
偕成社全集版 第11巻
「三十棺桶島」
新潮文庫 ルパン傑作集(X)
「棺桶島」
ポプラ社版第11巻
「三十棺桶島」
ポプラ文庫クラシック「怪盗ルパン全集」
「三十棺桶島」
大友徳明訳(1983)
堀口大学訳(1964)
南洋一郎文(1961)
南洋一郎文(1961)
偕成社全集中、一冊のものとしては最大の厚さをほこる。挿絵も内容にあわせていつになくホラータッチ。
新潮文庫の「ルパン傑作集」の最後を飾った。これもやはり新潮社が出版権利を持ってたらしく、創元推理文庫では出ていない。
南版には珍しく昔から原題どおりのタイトルだった。かなりの長編なので、スピーディーな展開にして圧縮している。
最初のバージョンんの復刻版。

虎の牙Les Dents du tigre(1920)
大富豪コスモ・モーニントンが莫大な遺産を残して不審な死を遂げた。犯罪の秘密をかぎつけた刑事も毒殺される。ドン・ルイス・ペレンナことルパンは部下の刑事マズルーと共に事件の謎を追うが、遺産継承権のある関係者は次々と謎の死を遂げる。ルパンも絶体絶命の危機に陥ってしまうのだったが…「813」と並ぶ本格推理長編で、アメリカ映画会社からの依頼で執筆され、アメリカで先に出版されたという経緯がある。




偕成社全集版 第12巻
「虎の牙(上)」
偕成社全集版 第13巻
「虎の牙(下)」
創元推理文庫
「虎の牙」
ポプラ社版 第12巻
「虎の牙」
矢野浩三郎訳(1982)
矢野浩三郎訳(1982)
井上勇訳(1973)
南洋一郎文(1960)
偕成社全集版は上下2分冊となった。
底本の関係で創元推理文庫版と一部の内容が異なることについて詳しい解説がある。
文庫本の限界に挑む(?)560ページの分厚い一冊。1959年に出た東京創元社版「リュパン全集」の訳文をベースに、リュパンのモロッコ冒険譚を他の底本をもとに補足している。
児童向けリライトで、長い物語を一冊に圧縮している。




ポプラ文庫クラシック「怪盗ルパン全集」
「虎の牙」



南洋一郎文(1960)



1960年刊行の最初の南版ルパン全集の復刻版。




八点鐘Les Huit Coups de l'horloge(1923)
駆け落ちを計画した若き美女オルタンスの前に現れたレニーヌ公爵ことルパンは、彼女に8つの冒険を約束する。二人の前で次々と起こる奇々怪々な事件をあざやかに解決していくルパンが盗もうとしているものとは…?推理小説史上に残る独創的なトリックが連打され、恋の駆け引きまで加わったロマンチックな傑作短編集。



 
偕成社全集版 第14巻
「八点鐘」
新潮文庫ルパン傑作集(VIII)
「八点鐘」
ポプラ社版 第13巻
「八つの犯罪」
ポプラ文庫クラシック「怪盗ルパン全集」
「八つの犯罪」
長島良三訳(1981)
堀口大学訳(1961)
南洋一郎文(1959)
南洋一郎文(1959)
とくに特徴はないのだが、読みやすい全訳。
さすがは詩人・堀口大学。ロマンチックなストーリーにぴったりの名訳文になっていると思う。もっともこれがあるために創元推理文庫で本作が出せないらしい。
ロマンチックのかけらも無いようなタイトルだが、これも昔から。やはり恋愛関係(そもそも不倫話)は大きく改変されている。
1959年に刊行された最初のバージョンをそのまま復刻したものなので、左の現行版とかなり内容が異なる。「八点鐘」から6話、他の短編集から2話をミックスし、ルパンが正体を明かすオリジナル部分がある。

カリオストロ伯爵夫人La Comtesse de Cagliostro(1924)
20歳のアルセーヌ・ルパンは美しく清らかな娘クラリスとの恋に落ちていた。その彼の前に現れた妖艶な女盗賊「カリオストロ伯爵夫人」ことジョゼフィーヌ・バルサモ。若きルパンはジョゼフィーヌとの情熱的な愛に溺れるが、やがて敵味方に分かれたルパンとジョゼフィーヌは修道院財宝のありかを示す「七本枝の燭台」の謎をめぐる戦いを開始する…。ルパン最初の冒険を描き、「怪盗ルパン」誕生の秘話が明かされる重要な一編。21世紀になって本国フランスで作られた映画「ルパン」はこの小説を原作としていたため、訳本が若干多い。




偕成社全集版 第15巻
「カリオストロ伯爵夫人」
創元推理文庫
「カリオストロ伯爵夫人」
ハヤカワミステリ文庫
「カリオストロ伯爵夫人」
ポプラ社版 第14巻
「魔女とルパン」
竹西英夫訳(1982)
井上勇訳(1959)
平岡敦訳(2005)
南洋一郎文(1961)
かなり読みやすい全訳。挿絵のジョゼフィーヌの美しき悪女っぷりはイメージにピッタリ。
東京創元社版「リュパン全集」に収められた訳文を文庫化したもの。すでに絶版とのことだが大型書店では見かけるケースが多い。
映画原作ということで公開を前にハヤカワミステリ・ルパンシリーズの第1弾として訳出された。現時点で最新の全訳。
南版ルパン全集では昔からこのタイトル。原作のドロドロした三角関係恋愛ドラマはやっぱり大幅にカット。




偕成社文庫
「カリオストロ伯爵夫人」
ポプラ文庫クラシック「怪盗ルパン全集」


竹西英夫訳(1982)
南洋一郎文(1961)


映画原作となったことで2005年に急遽文庫化された。中身は全集版とまったく同じ。
最初に出た南版「ルパン全集」の復刻版で、この復刻版全集はここで打ち止めとなっている。



緑の目の令嬢La Demoiselle Aux Yeux Verts(1927) 
ラウールことルパンは、サファイヤのように美しい緑の瞳をもつ美少女を見かけ、そのあとを追った。ところが次々と犯罪事件に巻き込まれ、その現場にはいつも「緑の目の令嬢」の姿があった。宮崎アニメ「ルパン三世カリオストロの城」の元ネタとしても知られる一編。



 
偕成社全集版 第16巻
「緑の目の令嬢」
創元推理文庫
「緑の目の令嬢」
ポプラ社版 第15巻
「緑の目の少女」
ポプラ文庫クラシック「怪盗ルパン全集」
「緑の目の少女」
大友徳明訳(1983)
石川湧訳(1960)
南洋一郎文(1959)
南洋一郎文(1959)
とくに大きな特徴はないが例によって読みやすい全訳。挿絵のオーレリーがやっぱり可愛い?(笑)
東京創元社版「リュパン全集」に載った訳文で、「緑の目の令嬢」という邦題をつけたのはどうもこれが元祖らしい。残念ながら絶版で運が良ければ書店で見つかるレベル。
南版では初出以来「青い目の少女」というタイトルだったが、カラーコンタクトでも入れたのか(笑)現行バージョンでは「緑」に変更。「青」としたのは戦前の保篠龍緒以来の伝統だったがこれで全滅したことになる。
南版ルパン全集の最初のバージョンの復刻版なのだが、当時は「青い目の少女」のはずなのにこの復刻版でも「緑」に変更された。

バーネット探偵社L'Agence Barnett et Cie(1928)
ルパンが「ジム・バーネット」と名乗って私立探偵を開業した。看板にはなんと「調査無料」と明示。ところがバーネットは事件解決の影でいつも必ず「ピンはね」をしてガッポリ稼いでいるのだ。刑事ベシュはそんなバーネットをいまいましく思いながらも難事件にはその推理力を借りざるをない―。推理小説史上初(?)のコメディ探偵小説の連作。全8編収録だが、これに収録されなかったバーネットもの短編が2本確認されている。



 
偕成社全集版 第17巻
「バーネット探偵社」
新潮文庫ルパン傑作集(VII)
「バーネット探偵社」
ポプラ社版 第16巻
「ルパンの名探偵」

矢野浩三郎訳(1983)
堀口大学訳(1960)
南洋一郎文(1972)

堀口訳には時代がかった表現が目に付くので、全訳としてはこれが一番。挿絵も内容を反映してちゃんとコミカルになっている。
一番入手しやすい全訳なんだけど、どうしても訳文に古臭さがつきまとう。堀口訳文はコメディタッチにはちょっとあわないんじゃないかなぁ?
7つの短編を収録。児童向けでないとして除外されたのはやはりというべきか、ベシュが離婚中の妻を寝取られてしまう一編だった。



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