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??どれを読んだらいいの??
ルパンシリーズ読書入門編

−その3−



☆現在もっとも完全な全訳全集である偕成社版を基準として、その巻数順に現在刊行されている訳本を紹介します。
☆訳者名のあとにある西暦は、現行版の出版年ではなく、その訳文が最初に出た年を示しています。


謎の家La Demeure mystérieuse(1928)
たくさんの宝石を身に付けた女優が、そしてさらにお針子が誘拐される。どちらの事件も全く同じ「家」が現場となっていた。ジャン・デンヌリ子爵に扮したルパンは刑事ベシュを相棒に事件の謎を解こうとする。傑作「バーネット探偵社」の後日談となる長編で、その後有名作家による模倣も続いた古典トリックの一冊。



 
偕成社全集版 第18巻
「謎の家」
創元推理文庫
「謎の家」
ポプラ社版 第17巻
「怪奇な家」
ポプラ文庫クラシック「怪盗ルパン全集」
「怪奇な家」
長島良三訳(1983)
井上勇訳(1960)
南洋一郎文(1958)
南洋一郎文(1958)
解説では訳者がパリの古本屋で見つけた「ジュ・セ・トゥ」について詳しく紹介。
大型書店でまだ置かれている場合もあるが、すでに絶版とのこと。

南版最初のバージョンの復刻版。


ジェリコ公爵Le Prince de Jéricho(1930)
地中海を荒らす海賊ジェリコ。記憶喪失の超人エラン=ロック。この二人の対決と美女ナタリーの愛をめぐる争奪戦をからめ、エラン=ロックの過去の謎が解き明かされていく冒険活劇。実はルパンはいっさい登場しないルブラン作品なのだが、キャラクターがルパンを彷彿とさせるためにシリーズあつかいされることが多い。南洋一郎版全集でも以前は「魔人と海賊王」のタイトルで入っていたが、現行シリーズではルパンが登場しないことを理由に除外された。


 
 
偕成社全集版 第19巻
「ジェリコ公爵」
創元推理文庫
「ジェリコ公爵」


大友徳明訳(1983)
井上勇訳(1960)


この全集に本シリーズ扱いで入っているのは正直意外。
これも東京創元社版「リュパン全集」の最後に収録されていたもの。「リュパンシリーズ」と表紙にも明記されているのだが、解説でいっさいおことわりがないのは不親切のような…



バール・イ・ヴァ荘La Barre y va(1930)
ラウール・ダヴナック子爵ことルパンが帰宅すると、一人の美女が待ち受けていた。そこへ刑事ベシュからの電話が鳴る。彼女とベシュはともにある不可解な殺人事件の解決を求めて来たのだった。「バーネット探偵社」「謎の家」に続く、ルパン&ベシュコンビの最終作。



 
偕成社全集版 第20巻
「バール・イ・ヴァ荘」
創元推理文庫
「バール・イ・ヴァ荘」
ポプラ社版第18巻
「ルパンと怪人」

大友徳明訳(1982)
石川湧訳(1959)
南洋一郎文(1972)

この作品をはじめ、ルパンシリーズの多くで舞台となっているノルマンディー地方について巻末解説で詳しく紹介。
それまで「セーヌ河の秘密」といったタイトルで訳されていたものを「バール・イ・ヴァ荘」としたのは創元社「リュパン全集」が最初。残念ながら絶版になっているとのこと。
南版では昔からこのタイトル。子供向けということで、犯人の「怪人」性を強調したつくりで、例によってルパンと美人姉妹との恋愛三角関係はばっさりカット。


二つの微笑をもつ女La Femme aux deux sourires(1932)
盗みに入った先で、ルパンは15年前に起こった歌手の怪死事件を知る。その謎を解くうち、ルパンは瓜二つの金髪の美女、清純な美少女と妖艶な女盗賊とを知ることになる。15年前の殺人事件の真相は、そして消えたネックレスの行方は…。以前の南版全集では「まぼろしの怪盗」のタイトルでシリーズ入りしていたのだが、なぜか現行シリーズでは外されてしまった。


 
 
偕成社全集版 第21巻
「二つの微笑をもつ女」
創元推理文庫
「二つの微笑を持つ女」


竹西英夫訳(1982)
井上勇訳(1972)


こちらは「もつ」とひらがな表記。
1960年前後に出た東京創元社版「リュパン全集」になぜかとりこぼされ、創元推理文庫で初登場した。トマ=ナルスジャックによるリュパン論が巻末におまけとして収録されている。残念ながら現時点で絶版。



特捜班ビクトールVictor,de la Brigade mondaine(1934)
神出鬼没する怪盗ルパン。警視庁特捜班のベテラン刑事ビクトールは、果敢にルパンに立ち向かう。ビクトールはルパン一味にまぎれこむことに成功するのだが…ルパンを追う刑事側の視点で描かれる異色作。



 
偕成社全集版 第22巻
「特捜班ビクトール」
創元推理文庫
「特捜班ヴィクトール」
ポプラ社版 第19巻
「ルパンの大冒険」

羽林泰訳(1983)
井上勇訳(1960)
南洋一郎文(1971)

解説でシリーズ訳題クイズをやってくれてるところがマニア大喜び(笑)。
初出の東京創元社「リュパン全集」では「特捜班のヴィクトール」という邦題だった。
ずいぶん印象の違うタイトルになっているが、筋書きじたいは原作そのまま。


赤い数珠Le Chapelet rouge(1934)
ある城館で催された園遊会の会場で、殺人事件が発生した。現場は一種の密室であり、参加者の中に犯人がいるとしか思えないのだが…食事をたらふく口にしながら参加者一人一人の行動を丹念に聞いていくユニークな大食漢探偵・ルースラン予審判事が事件の謎を解き明かす。ルパンはまったく登場しないが、探偵役のルースランが続く「カリオストロの復讐」に登場するため「準ルパンシリーズ」扱いされるミステリ作品。南版全集では以前「血ぞめのロザリオ」という短編にまとめて「まぼろしの怪盗」とのセットでシリーズ入りしていたが、現行のシリーズでは除外されている。


 
 
偕成社全集版 第23巻
「赤い数珠」
創元推理文庫
「赤い数珠」


長島良三訳(1983)
井上勇訳(1960)



東京創元社版「リュパン全集」に収められた訳文を文庫化したもの。



カリオストロの復讐La Cagliostro se venge(1935)
50歳に近付き、ぼつぼつ引退を考え始めるラウールことルパンは、パリ近郊の別荘地で大金を持つ男に目をつけた。自らもそこへ別荘を構えたルパンだったが、殺人事件が発生して雇っていた青年技師が犯行を疑われる。その青年はかつて「カリオストロ伯爵夫人」に誘拐された、我が子ジャンではないのか――「息子を泥棒に、そして父親と対決させよ」とのカリオストロの復讐におののくルパン。ルパン最初の冒険と対応し、実質的にルパン最後の冒険と扱われる作品。



 
偕成社全集版 第24巻
「カリオストロの復讐」
創元推理文庫
「カリオストロの復讐」
ポプラ社版 第20巻
「ルパン最後の冒険」
偕成社文庫
「カリオストロの復讐」
長島良三訳(1983)
井上勇訳(1959)
南洋一郎文(1972)
長島良三訳(1983)
原文に忠実な全訳。なにせルブランが間違えて書いてしまった固有名詞までそのまま訳されているんだから(笑)。解説ではルパンシリーズの誕生裏話をかなり詳しく書いている。
東京創元社版「リュパン全集」に載った訳文。
南版では本作をもって「最後の冒険」と題している。この表紙絵もさりげなく老けたルパンである(笑)。 偕成社全集版と全く同じもの。2005年公開の映画の原作の一つとなっているので急遽文庫化された。

ルパンの大財産Les Milliards d’Arsène Lupin(1941)
「ポール・シナー」という謎の言葉を追うアメリカ人女性記者パトリシア。その言葉は「アルセーヌ・ルパン」のアナグラムで、ルパンの数十億もの大財産を狙う一味の暗躍があった。50歳となったルパンが、自らの財産を守るために戦いに乗り出す。ビクトワール、ベシュ、ガニマールらレギュラーも再登場。原題は「アルセーヌ・ルパンの大財産」で、ルブランが晩年に執筆し、没年に単行本化された一編。邦訳は偕成社全集のみが収録しているが、底本の不備により完全な訳本はまだ登場していない。しかも「最後の事件」と題されたが、ルブランの手になる真の最終作「ルパン最後の恋」の原稿が確認され、今後このタイトルも変更を余儀なくされるかもしれない。



 
偕成社全集版 第25巻
「ルパン最後の事件」



榊原晃三訳(1982)



現時点で唯一の邦訳。以前から話が分かりにくいと思っていたのだが、底本の段階で連載一回分が抜けていたそうで。他に「山羊皮服を着た男」「エメラルドの指輪」の短編2編を収録。解説ではルパン翻訳史をまとめている。




ルパン最後の恋Le Dernier Amour d’Arsène Lupin(2012)
ルパンの先祖ルパン将軍がナポレオンに命じられて手に入れた一冊の本をめぐり、イギリス諜報部がルパンの周囲に暗躍。パリ北部の貧民街で子どもたち相手の教育や環境整備、考古学に財産を投じていたルパンは、美女コラを助けて少年少女たちと冒険を繰り広げる。ルブランが推敲段階まで書きあげながら未発表となっていた最終作で、ルブランの著作権が切れた2012年についに刊行され話題を呼んだ。ルパンが世界平和のために身を捧げると宣言し、これが最後の恋だと言い切って子どもたちや乳母と大団円を迎えるラストは泣ける。



 
ハヤカワ・ミステリ
「ルパン、最後の恋」
ポプラ社
「ルパン最後の恋」
創元推理文庫
「リュパン、最後の恋」
ハヤカワ・ミステリ文庫
「ルパン、最後の恋」
平岡敦訳(2012)
那須正幹文(2012)
高野優監・池畑奈央子訳
平岡敦訳(2013)
原書刊行後わずか4ヶ月というスピードで出た邦訳。雑誌初出版の「ルパンの逮捕」、エッセイ「アルセーヌ・ルパンとは何者か?」も併録。それにしてもなぜ「、」つきになったんだろ。
往年の南版全集そっくりの装丁(表紙イラストは過去作のコラージュ)で出版、「ズッコケ三人組」で知られる那須正幹氏が児童向けにアレンジし、原作の難解な部分に若干の改変をくわえている。こちらにもエッセイ「ルパンとは何者?」が収録されている。
創元推理文庫も出してしまい、これで久々の3者そろいぶみ。創元がルパンを出すのも久々である。しかしなんで早川版につきあって「、」入りなんだろ。
前年に出たばかりの本邦初訳を素早く文庫化。雑誌掲載時以来読めなかったバーネットものの一編「壊れた橋」も収録するおまけつき。




ポプラ文庫クラシック「怪盗ルパン全集」
「ルパン最後の恋」



那須正幹文(2012)



近年刊行のものだが「ポプラ文庫クラシック」のルパン全集入りとなった。表紙絵は新たに書き起こされ、他の文庫クラシックと雰囲気をそろえている。




女探偵ドロテDorothée,Danseuse de Corde(1923)
戦争孤児たちを集めた旅芸人一座をひきいる綱渡りの美少女ドロテ。旅先でおとずれたロボレーの城で、ドロテは明晰な頭脳により財宝のありかをしめす「幸運の力によりて」というラテン語の謎を解いていく。ルパンは全く登場しない作品だが、「カリオストロ伯爵夫人」で提示される四つの謎の一つが解決される物語で、ちゃんとしたリンクがある「準ルパンシリーズ」である。南版全集の以前のバージョンでは「妖魔と女探偵」のタイトルでシリーズ入りしていたのだが、現行のものではルパンが登場しない事を理由に除外されている。



 
偕成社全集版 別巻1
「女探偵ドロテ」
創元推理文庫
「綱渡りのドロテ」


長島良三訳(1986)
三好郁郎訳(1986)


現時点では入手容易な唯一の全訳本。しぶとく版を重ねているようで心強いのだが、「別巻」あつかいなのが残念!なお偕成社全集の別巻は全部で5冊あるのだが、あとの4冊はルパンとはまったく無関係。
貴重な全訳の一つで、僕もこれでこの作品を初めて全訳で読んだのだが、残念ながらとうに絶版。原題に近い訳題で、なかなか味のある訳文なのだが…もしかすると入手可能かも、ということで紹介しておく。



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