仕事の教え方事例集Ⅱ 【目 次】 | |||||||||||
NO | 項 目 | 内 容 | |||||||||
Ⅰ | 「やる気を起こすとは」 | 今どきは、根性論や精神論では通じません。ではどうすれば下記の項目から…… | |||||||||
Ⅱ | 「仕事に無関心」 | 「仕事に興味をもたせるには」 | |||||||||
Ⅱ-1 | 部 下が聞きに来るまで教えるな | 物事を手取り足取り教えるのは、親切なようですが、これでは自発的に興味を持って覚えられません。教えられた知識や経験が自分の中にとどまるための手がか りが見つからないで忘れられてしまうことが多いのです。 | |||||||||
-2 | 自分 の体験を"教材"にせよ | 話の上手下手に関係なく、若い頃の失敗談や創業当時の苦労話を始めると、新入社員等の上体が前にせ り出すといいます。それは語る人間がしっかり織り込まれるからで"疑似体験効果"とでもいうものでしょう。 | |||||||||
-3 | 教え るときは、成功談よりも失敗談を引き合いに出せ | 俗に言われる「馬を川に連れて行くことは出来ても、飲む気のない馬に水を飲ますことは難しい」と言 うケース | |||||||||
-4 | マ ナー一つ教えるにも、自前の教材を作らせよ | 色々な情報から何が大切かを選び抜く作業は容易ではありません。これを身につけるには、普段から配列、整理等の選択力、整理力を自然に身につけなければなりません。 | |||||||||
-5 | 同じことを教えるにも、一人で教えるより二人で教えよ。 | 多数の口から教えることは、内容は同じでも、客観性が高い。教える人の立場の違いで、伝え方のニュアンスは微妙に違います。が、一人が教えなかった情報の補完があります。 | |||||||||
-6 | 実地指導するときは、一つぐらいわざとミスせよ | 『先生でもミスをすることがあるんだ』と思わせながら、教え方も相手のレベルにまで落としたり、其のちょっと上のことを教えることで『自分にも 出来そうだ』と興味や自信を持たせてから教えます。 | |||||||||
-7 | 部下に教えたいことは、「ホウレンソウ」などと短くまとめよ | 教えられた仕事をケロッと忘れるのには、部下のほうに責任がありますが、教え方にも問題があるのではないでしょうか。教えたいことは、「ホウレンソウ」などと短く、消化吸収に効果のある工夫も大事です。 | |||||||||
-8 | 教えるポイントは、三つに絞り込め | なぜ三語であることが優れているのかといいますと、問題を三つに絞り込んで話すので、聞き手の頭に話し手の言わんとすることが単純化されよく受け入れやすくなります。 | |||||||||
-9 | 仕事を教えるときには、一区切り「三分」を目安にせよ | 教えたいことをよりよく伝えるためには、まず、教える側がきちんと教える内容を覚えやすく整理しておくことが大切です。 | |||||||||
-10 | 教えたことは、その場でメモを取らせる習慣をつけよ | 覚えようとする意思がなかった場合、人間の記憶力ははなはだ頼りないものと言えます。覚えた後にすぐ復習すれば、忘れることが極端に少なく なると言うこともわかりました。 | |||||||||
-11 | 『滅多に叱らない』イメージを作り、ポイントにだけ雷を落とせ | 人間の『適応力』はごく簡単に『慣れ』とも言います。教え方についても、まったく同じことが起きます。物事に"慣れ"があると、『何か重要な変化』と言う心構えが失せるリスクが出てきます。 | |||||||||
-12 | 節目節目に"反省会"を開く慣習をつくれ | 反省会という言葉が嫌なら、"報告会"でも"発表会"でも"勉強会"でも構いません。企業としても創立記念日や決算と言う節目があります。特に、日本には四季の変化があるだけに節目には敏感です。 | |||||||||
-13 | 教えることのポイントは、最後にもう一度繰り返せ | 部下に大事なことを話す場合には、一番初め に其の話しのポイントを話すほうがいいことです。「新近効果」ともいいます。これを利用して話をすると、混乱が生じた話でも明瞭になります。 | |||||||||
-14 | 仕事に行き詰まった部下には、いったん仕事を中断させよ | 何か仕事に行き詰まったときでも、とにかく仕事へのやる気だけで乗り越えようとするので す。ものの見方が固定されてしまうとも言います。それ故に別の小さな仕事を与えることでもよいのです。 | |||||||||
-15 | どの程度わかったかだけでなく、より深く教えるためにレポートを書かせよ。 | 各作業は、同時に考える作業であり、その考えをまとめる作業にもなります。ですから、多くの文章を書かせ、その内容をチェックすることによって、自分の考えを理解させようとしたことが考えられます。 | |||||||||
-16 | 自分のミスを知らせてきた部下には、叱るよりその積極的な態度をほめよ」 | 注意して上司を見ていると、自分から進んでミスなどを報告に行ったときには、きつく叱らないことに気づいたと言うことです。ミスを報告しない、または出来ないと言う部下には、叱られたことを避ける「回 路」が出来上がっているのです。 | |||||||||
-17 | 「ときには、最高レベルのものを黙って見せろ」 | 「一流の品、最高の品を見せ続ける」と、なぜ価値があるのか最初はわかりません。しかし、『今はわからないが、この品の価値を見極める眼力をやがてつけてやるぞ』と言う貪欲さが芽生えてきます。 | |||||||||
-18 |
「部署内には"専門職""定位置"を作らないよう、あえて担当を替えよ」 | それを逆に見ると、人はいったん"座"を得てしまうと、それの安住に慣れ やすくなります。そして、えてして"専門バカ"になってしまうのです。 | |||||||||
-19 |
アラが目立ちうちはほめ、アラが減ってきたら叱れ | つまり「アラがあるから叱る→萎縮してアラは減らない→ますますほめるチャンスを失う→一層自身を失いアラが増え る」と言う悪循環に陥ってしまうのです。 | |||||||||
-20 |
単純ミスほど厳しく叱れ | 出来るはずの問題を単純ミスで落としたような場合こそ、厳しく叱るべきだ、と氏 は言います。慣れてきてからの単純ミスやうっかりミスは、慣れの上に安定した集中力の欠如から起こります。 | |||||||||
-21 |
要領のいい部下ほど、ときには"アラ探し"をしろ | 部下に仕事を教えるということは、実際の仕事の技術を教えることだけを意味しません。そして、部下を叱るときこそ、このような仕事の技術以外のことを教えたり、考えさせたりする絶好のチャンスになります。 | |||||||||
-22 |
基本常識の大切さは、"客"に教えてもらえ | 『知っている』と思ってしまったことほど、それを変えるのはむずかしいことです。人は、同じ情報に接すると、聞くこ とをやめ、省略しがちです。しかし、実際に体験したことや客の意見には逆らえません。 | |||||||||
-23 |
"安定指向型"の部下には、わざと能力以下の仕事を与えよ | 能力以下の仕事が続いていくと、能力にあった仕事に戻りたいと言う切実な思いに駆られ、その仕事に戻ってからも上昇 志向は残って、仕事を覚える姿勢も積極的なものになっていくのです。 | |||||||||
-24 |
若者同士の"仲良しクラブ"は、解散させて孤独にせよ | そこでも同じ大学、同期入社と、若い人たちの"仲良しクラブ"はなくならないと聞きます。仲間意識が強すぎると、甘えの傾向がふかまり、緊張感が薄れます。これでは交流の意味もなく、やらなかったも同じことなのです。 | |||||||||
-25 |
初めに『出来ない仕事』を与えて、失敗させろ | 入社して一年もたつと、仕事にある程度の自信を持つようになります。仕事とはこんなものか、となめてかかるようでは困ります。それが高じてくると、上司や先輩に教わろうと言う気持が希薄になり、ショック療法が必要になります。 | |||||||||
Ⅲ | 「仕事に無責任」 | 「自らを学ぶ気にさせるには」 | |||||||||
Ⅳ | 「続 仕事に無関心」 | 「続 自らを学ぶ気にさせるには」 |
部下を無関心にしていないか◇no-1 部下が聞きに来るまで教えるな新日本製鉄の武田豊前社長は、職場の先輩でもあった経済界の重鎮・永野重雄氏(故人・元新日鉄会長)のものの教え方について興 味深いことを言っております。
永野氏は部下にポーンとテーマを与えると『手取り足取りのアドバイスなどはなく、その人個人のやり方に任せ、出来上がった
ものについて其の問題点を指摘するやり方』に徹していたそうです。ころあいを見て、『どうだ、出来たか』『もう一日くださ
い』『そうか、一日だけだぞ』できたものを見せると、『だいぶええ、しかしここはこうだ』。そんな調子だったといいます。
病名がわかり、それに適した薬を飲んでこそ、体はよくなるのです。しかし、「わからないこと」という病名に自分自身の関心
が向かなければ、どんな優れた内容でも、人間の心理の中を素通りしてしまいます。
物事を手取り足取り教えるのは、一見親切なようですが実はあまりうまい教育法ではありません。これでは何よりも教えられた
ほうが自発的に興味を持って覚えられません。せっかく教えられた知識や経験が自分の中にとどまるための手がかりが見つからな
いまま、忘れられてしまうことが多いのです。
やはり物事のつぼをつかませるためには、一つのテーマを部下自身の考えで試行錯誤させ、部下自身が具体的に疑問に突き当
たって、聞いてくるように仕向ける。其の上で、誤りや問題点を指摘してやるほうが、相手はずっと効率的に覚えるものです。 ◇no-2 自分の体験を"教材"にせよ
先日、あるテレビ番組で、教育志望の若者に、数日間教育実習を体験させる特集をやっていました。其の中で、特に印象に残っ
ているのは、算数を受け持った若者の教え方です。
ところが、二日目、彼と児童たちの間に劇的な変化がうまれました。児童たちの視線は黒板に集中し、彼の説明を聞き漏らすま
いとする好奇心がクラスを支配したのです。昨日と同じ内容のことを教えているのですが、彼はこんな風に授業を始めたのでし
た。
彼が実際に水を配ったかどうかに関係なく、とにかく自分の体験として語りかけたことが、何よりの"教材"となり、児童たち
を授業に引きずり込むきっかけになったわけです。 体験談や失敗談には、それを語る人間がしっかり織り込まれているのです。話し手は話の中の自分に、聞き手は話の中に織り込 まれた人間に、それぞれ感情を移入し、両者の間に一体感が生まれるのです。新入社員たちの上体が前にせり出したというのは、 彼らが情報を身近なものと感じて興味を抱き、積極的に吸収する態勢を体で示していたのです。
自分の体験を通して得た知識ほどしっかりと身につく、というのは、事実で、今更いうまでもありません。しかし、他人から体
験談などを聞いてたときにも、これに近い効果が得られるのも事実です。これは、"疑似体験効果"とでもよいのでしょうか。 ◇no-3 教えるときは、成功談よりも失敗談を引き合いに出せ ある会社のトップからきいた話しです。 この二人の課長の"競争"は、社内の誰もがA氏の勝ちだと思っていたらしいのが、大方の予想を裏切って、いままでのところ B氏のほうが勝っているということです。二人が課長になった年こそあまり差は出ませんでしたが、二年目以降、B氏の課の実績 が目覚しく伸びていきました。A氏の課もそこそこの実績はあげているのですが、B氏の課に比べると、さすがに見劣りすること は否めなかったのです。 この話をしてくれた人によると、これには部下の教え方の差であるというのです。A氏は、部下に仕事を教えるときには、自分 の成功談を引き合いに出すことが多いのに対し、B氏は失敗談を包み隠さず引き合いに出して教えることが多かったといいます。 おそらく、この差が、部下の成長の差になって現れたのだろうというのです。
私は、成功談を引き合いに出して教えることが別に悪いことだとは思っていません。成功談は成功談なりに教えを強化する効果
を持っています。しかし、特に若い部下に仕事を教えるときは、成功談よりも失敗談を引き合いに出したほうが、確かに効果的な
面があります。
一方、失敗は、若い部下には身近なものであるため、失敗談のほうは親近感を持って受け入れられやすい傾向があります。そし
て、上役でさえ何度も失敗しているのだからということを聞けば、自分たちが失敗するのは「当たり前だ」という気持が出てきま
す。その結果、失敗を恐れずにのびのびと働ける素地が気配りされるのです。 ◇no-4 マナー一つ教えるにも、自前の教材を作らせよ
筑波大学で、『期末試験における不正行為に対する懲戒のあり方のワーキンググループ』という委員会が、八十八年の十月から
スタートしているそうです。平たく言えば、カンニング防止、かつ処分のスピードアップを図る、ということらしいのです。
まず、各種の情報から何が大切かを選び抜く作業があります。これだけでも並大抵のことではありません。次いでそれを、配
列、整理しなければなりません。カンニングのためにこれだけのことをするというのは、すでに覚えるのと同じことをするので
す。選択力、整理力も自然に身につきます。
しかも、これは、いくら作っても停学や退学の心配はありません。かりに大げさなものでなくても、工場の道具整理マニュアル
を作ったとします。それを衆知を持ち寄って作ると、そこに仕事への興味も生まれ、其の過程で相互に検討を行って互いのコンセ
ンサスも得られます。そうして作業の流れが飛躍的によくなったりするのを目にしますと、道具の管理が以下に大切なことであっ
たかを認識するのです。そして其のマニュアルも、自分たちの作ったものなのだから、自ら進んで守っていこうとします。
新入社員ばかりでシナリオを作り、スタッフを割り振り、苦情を言う役、それに応対し接遇する約などとは違約もして、一本の
ビデオを作ってみます。こうすると、プロの作ったマナーようAV教材などより、はるかに面白く楽しく、飲み込みも早くなりま
す。つまり、この一本のビデオは、出来上がった段階ですでにマナー教育は終わっているのです。 ◇no-5 同じことを教えるにも、一人で教えるより二人で教えよ。
企業の新入社員研修のやり方にもいろいろあると思いますが、研修期間を通して一人の上役が教え続けることはあまりないよう
です。たいていの場合、ベテラン社員たちが入れ代わり立ち代りして教えています。
一つは、教えられた内容が、より強調されて印象に残るということです。一つの内容のことを教えるにも、一人より、多数の口
から教えることによって、客観性が高まっていきます。あの人も、この人も同じことを言っていました。という客観性が受け手に
信頼感を与え、教えられたことがしっかりと印象にとどまるのです。 実は、教える側が教えたかった内容とは、まさにこの共通した領域の中に含まれていることが多いのです。そして、この領域の 外には、それぞれの人が、それぞれの立場で付け加えた情報が付加されています。むしろこれが、部下の興味を引き、教えた内容 に厚みを持たせているのです。 また、一人が教えなかったことでも、もう一人が教えることによって、情報が補完されるという点も見逃せません。教えた内容 に厚みができ、それぞれの情報が補完しあうことで、受け手は教えられた内容をより広い視野から検証する手がかりを得るので す。 このように、同じ内容のことを複数の人間が教えることの効果は、何も新入社員教育に限ったことではありません。仕事に行き 詰まった部下は、ともすれば狭い視野から物事を見がちです。そんな部下には、たとえば、他の信頼できるベテランの部下からア ドバイスを送ってもらうのも良いでしょう。また、新人が研修を終えて新しい部署に配属されたときにも教育係として一人の部下 を当てるのでなく、部署にいる全員がいろいろな立場から教えられるようにしておくことも有効です。 ◆戻る◇no-6 実地指導するときは、一つぐらいわざとミスせよメキシコオリンピックで日本サッカーチームを銅メダルに導いた釜本邦茂氏が、ヤンマーサッカー部の監督になったころのこと です。練習の後、釜本氏は選手たちがいろいろ質問に来るものだとばかり思い、お酒を用意して選手たちを部屋で待っていまし た。けれども、選手たちは一向に来る気配がありません。結局、その夜は誰一人として釜本氏の部屋を訪れませんでしたのです。 実は、選手たちは釜本氏の完璧すぎる理論を一度聞いて辟易してしまい、近づこうとしなかったからです。釜本氏がそれに気づい たのは後になってからのことです。
人は、あまりに完璧な手本を示されると、かえって萎縮してしまい。学ぼうとする気持を失ってしまいがちです。学ぶと「まね
ぶ」の変化したものだといわれるとおり、真似して覚えていくことを意味します。其の目標があまりにも遠いと感じれば、まねる
きっかけもつかめないことになってしまいます。
逆に、常に『学ぶ気』を起こさせる教師は、学生にとっては兄貴分のような身近な存在になります。これは完璧なことをするの
ではなく、わざとちょっとしたミスをするなどして、人間的な行動をしながら接することで可能になります。『先生でもミスをす
ることがあるんだ』と思わせながら、教え方も相手のレベルにまで落としたり、其のちょっと上のことを教えることで『自分にも
出来そうだ』と興味を持たせてから教えているのです。
よい部下を育てるならば、いつも上司が『何をやるかわからない』といった危うさと親しみを兼ね備えたような演出を心がける
のも一つの方法です。少しでも部下に興味を持たせて仕事を教えるためには、はじめから高い目標を与えるのではなく、失敗する
上司といった手の届きそうな目標、サブゴール(下位目標)を示すことも大切です。 ◇no-7 部下に教えたいことは、「ホウレンソウ」などと短くまとめよ
最近、若いビジネスマンの間で転職がはやっている、といいます。新聞にも『入社してすぐやめる新人類』なる記事が出ていま
した。 上司に叱られたりするとけろっとやめる昭和四十年代生まれのため、ケロヨンというらしいのです。しかし、私に言わせれば。 彼らはケロットやめるのではなく、ケロッと仕事を忘れることのほうが多いようです。もちろん、教えられた仕事をケロッと忘れ るのには、部下のほうに責任がありますが、上司の教え方にも問題があるのではないでしょうか。部下は入社早々の右も左もわか らないときに、あれもこれもだらだら並べられるので多くのことを吸収できずに忘れてしまうのです。ただでさえ覚えきれない仕 事を、無理に詰め込んだりすると、部下に"反発心理"が働き、ケロッとやめることにもなるのです。
それでも、部下に多くのことを教える必要に迫られているのが、仕事の実情ですが、教えるほうも部下の消化をよくしてやる工
夫が必要でしょう。消化をよくしてやれば、多くのことで部下は吸収できるし、反発なども防ぐことができます。たとえば、旧制
中学以来の私の友人である山種証券社長・山崎富治氏は、仕事のポイントとして『ほうれん草が会社を強くする』と教えたことで
有名です。「ほうれんそう」とは、報告・連絡・相談の頭文字を並べた、いわば標語のようなもです。
そこで、ポイントを短くまとめ、かつ具体的な『ほうれん草』という消化のよさそうな食物のイメージに引っ掛けたため、部下
は興味をそそられ、忘れられなくなったのです。 もちろん、意味のあるフレーズにとらわれることはありません。毎日新聞社に勤めながらマスコミ界受験者のための私塾を開い た故・山崎宗次氏は、「カンカラコモデケア」と言う標語でものを聞く仕事を教えてきました。就職試験の作文対策に効果を挙げ ていました。就職試験の作文に求められるのは、感動・カラフル・今日性・物語性・データ・決意・明るさの七要素だ、と言うの です。きちんとしたカリキュラムなどはなく、授業料は取らない位置私塾なのに、このおまじないで合格率は高かったと言いま す。 ◆戻る◇no-8 教えるポイントは、三つに絞り込め プロ野球で新監督が就任するとき、標語を作るのが流行しているようです。
標語を掲げることで、チームの雰囲気を一新しようと言う願いらしいのです。1989年の各球団の標語が発表されたとき、日本
ハムのそれを新聞で見て、私は『やはり近藤貞雄という人は頭がいいな』と思いました。
しかし、私が感心したのは、標語の意味内容に対してではありません。"フアィと、ファスト、フレッシュ"という三つの言葉
で標語をまとめた点です。近藤氏は、大洋の監督時代にも、『スピード、シャープ、センス、の3S野球」というキャッチフレー
ズを作っています。 瀬島氏の影響力が大きくなっていったのも、この語り方と無関係ではないでしょう。
事実、私たちの住む宇宙そのものが『空間・時間・物資』の三要素から成り立っています。立体は、「縦・横・高さ」の三次元
で説明できます。 ◇no-9 仕事を教えるときには、一区切り「三分」を目安にせよ
NHKの看板キャスター、山川静夫氏の著書「もっとうまく話したい」には、スピーチをする上での具体的なノウハウがいろい
ろ示されていて、たいへん示唆に富んでいます。
あらかじめテーマを決めておいても、話しているうちに、あれもこれも話しておきたいと思って補足を繰り返すうちに、結局、
聞き手の印象が弱まってしまうのです。"いいたいことは的確に、かつ短く"と言うスピーチの心得は、部下に仕事を教えるとき
にも、そのまま当てはめることができます。 しかし、教わる側の立場から考えてみると、これはある程度やむをえないことです。 教える時間はいくらでもあると言う意識は,いきおい話しを脱線しやすく、自分でも何が教えたかったのか不明確になってしま
うことすらあります。自分であいまいに感じる内容は、相手にも伝わるはずがないのです。 ◇no-10 教えたことは、その場でメモを取らせる習慣をつけよ
人間の記憶と言うのはまったくあてにならないものです。それを証明した有名な『ゲッチンゲン実験』と言うのがあります。実
験の内容はこうです。心理学者四十人を集めて、次のような犯罪の芝居を、事前に何も教えずに見せました。突然ドアが開いて、
一人の農夫が部屋に入ってきます。其の農夫を追って、ピストルを持った黒人が飛び込んできます。 二十秒間の芝居を見せた後すぐ、おこったことについてレポートを書かせたところ、すべてを正確に記述できたのは、なんと四 十人中六人に過ぎませんでした。客観的な観察力を売り物にする心理学者でも、わずか十五パーセントのものしか、直前に起こっ たことを覚えていないというのです。つまり、覚えようとする意思がなかった場合、人間の記憶力ははなはだ頼りないものと言う ことがわかります。 それでは、普通の人は覚えようと努力して覚えたものを、どのくらい忘れてしまうものでしょうか。ドイツの心理学者エビング ハウスの実験によると、「TAG」{VEG}と言った意味のない単語を被験者に覚えさせたところ、其のうち四十七パーセント が二十分以内に、六十六パーセントが二日後に、そして一ヵ月後には七十九パーセントが忘却のかなたに消えてしまいました。
しかし、覚えたことを、覚えているうちにもう一度思い出す、つまり、覚えた後にすぐ復習すれば、忘れることが極端に少なく
なると言うこともわかりました。
もし、満足に復唱できないようなら、もう一度教えてメモを取らせるようにします。いったことが理解できないと言うのは、こ
ちらの言葉を意味のないものとして頭の中を通過させただけだったと言う可能性があるからです。 ◇no-11 『めったに叱らない』イメージを作り、ポイントだけ雷を落とせ
母親が子供を叱る言葉で、一番多いのは『早くしなさい』、次が『勉強しなさい』。それで、子供が機敏に動き、勉強するよう
になるかと言うと、決してそんなことはありません。
だから、ほめるにしても、叱るにしても、効果をあげるためには、『適応力』のメカニズムを狂わせる、『意外性』が重要に
なってきます。たとえば、自他共に認める美女に『あなたはお美しいですね』と言っても、相手は悪い気はしないはずだがあまり
喜びもしない。 教え方でも、まったく同じことが言える。若い部下のちょっとしたミスにも目くじらを立てて、其のつど叱りつけていると,い ざというときに、効果がなくなります。部下は、『また、例のヒステリーが始まったか』と思うくらいで、真剣に聞こうとしなく なりやすいのです。。『何か重要なことをいうな』と言う心構えがなくなり、"慣れ"が出てきます。
古い言葉を使えば、『ならぬ堪忍、するが堪忍』で、小さいことには、じっと我慢します。『あの人は、めったに怒らない』と
言うイメージを植えつけておくと、こんどは、いざというときに雷を落とせば、効果はてきめんに出ます。つまり、"意外性の効
果"です。こうすれば、『あの人は怒ると怖い』と言う定評が出来て、部下も無関心ではいられなくなります。 ◇no-12 節目節目に"反省会"を開く慣習をつくれ
昭和天皇の崩御によって一番得をしたのは、一部の新聞社や出版社ではないかと言われるほど"昭和史関係"の本は飛ぶように
売れたらしいのです。いままで歴史にまったく関心がなかった人でも、昭和史関係の本や雑誌を買い漁り、そこから何かを学ぼう
としています。
この節目効果を利用して、学年のはじめや進級のとき、あるいは学期の改まったときなどに、子供に勉強にも精を出すよう話し
て聞かせる父親も多いのです。こうしたときは、相手も受容しやすい気分になっています。ほしがっていたものを買い与えたりす
るのも、こうしたときや誕生日を選ぶと、改まった気持になるものです。
反省会という言葉が嫌なら、"報告会"でも"発表会"でも"勉強会"でも何でもよいです。要は、おさらいをすればいいので
す。 そのひと月の間にあったこと、考えたことなどを報告、説明させ、抜けている点や考え違いなどを相互にチェックさせます。反 省点や問題点を提起させます。司会、進行役を順送りにしていき、『当番になったものが整理し「報告書を作る」それを各部ごと に行い、報告書のコピーを作ってほかの部へ配布する』というシステムをとっているそうですが、其のコピー集は、会社運営上の 貴重な資料になっているとの事です。 雑談会のようなものであっても、集まって話し合ってみるとさまざまな問題点が出てくるものです。研修のときに飲み込んだつ もりになっていたことを実は忘れていたことに気づいたりもします。来週は金曜チェックがあるな、と思うだけでも、日ごろのこ とに関心を寄せて、仕事を覚えようとする"節目効果"が生まれるのです。 ◆戻る◇no-13 教えることのポイントは、最後にもう一度繰り返せ
人間には、先に与えられた情報ほど信じやすく記憶に残りやすいと言う傾向があります。これを心理学では『首意効果』と呼
び、またさらに、最後に与えられると記憶に残りやすいと言います。「新近効果」もあります。たとえば、先方との打ち合わせ
で、何日の何時でどこどこで、と、日時の取り決めをしたとします。
この効果を使って部下に話しのポイントをより深く教えることができます。つまり部下に大事なことを話す場合には、一番初め
に其の話しのポイントを話すほうがいいことです。それから付随するものをいくつか話す。無意識のうちにこのような話し方をし
ている人も多いでしょうが、意識して伝えるようにすると効果的です。 部下のほうも『長い話だな。エーと大事なポイントは何だったのだろう』と混乱します。 これにより、たとえ長々と話しても大事なことだけ覚えていることになるわけです。 また、『首位効果』は一人からの情報に起こりやすく、『新近効果』は大勢の人との話しで起こりやすいことが認められていま す。これを利用して、その場その場で使い分けると、部下の関心をより強くひきつけられます。 ◆戻る◇no-14 仕事に行き詰まった部下には、いったん仕事を中断させよたった一人で真夜中近くまで必死に残業している部下の姿を見たとき、あなただったらどのように声をかけてやるでしょうか。 『がんばれよ』の一言が、部下の大いなる励みになることは間違いありません。しかし、時と場合によっては、とりあえず仕事を 中断させることがよい結果をもたらすこともあります。 仕事上手は遊び上手と言われるように、仕事が出来る人は、仕事と、遊びの切り換えが上手です。大日本インキ化学工業社長・ 川村茂邦氏は、仕事に執念・やる気を持つのはよいが、執着してはいけない。と、『私のストレス解消法』の中で述べています。 氏によれば、何かに執着するとそれだけにとらわれてしまい。ものの見方が固定されてしまうと言います。いったん仕事を離れた なら、仕事のことはすっかり忘れ、遊ぶことに没頭します。そうすることで、自分の中に生じた執着心をさらりとかわし、新鮮な 目で物事を見る目を取り戻すと言うのです。 ところで、仕事の経験の浅い部下などは、このような気持の切り換えがあまりうまくないです。と言うよりは、切り替えのタイ ミングがよくつかめていないのです。何か仕事に行き詰まったときでも、とにかく仕事へのやる気だけで乗り越えようとするので す。ところが、執着すればするほどものの見方が狭くなり、せっかくの意欲が空回りすることになります。そんな部下の状態をよ く見て、タイミングよく気持を切り替えさせてやるのも、上役のつとめでしょう。 高校野球で有名な常総学院の木内監督は、選手たちが寮生活に野球を持ち込まないように注意しているといいます。選手たちを 野球漬けにしてしまうと、肝心の練習が惰性に流れてしまうと言います。そして、たとえばレギュラーから外されて行き詰まって いる部員には、テレビを与えたり、犬や猫をペットして与え、うまく"気"を紛らわせてやるのだそうです。 部下の仕事ぶりを見ていれば、仕事に行き詰まったときの様子はよくわかるはずです。そして、ここでひとまず気分転換だから といって、何も外へ飲みに連れ出す必要はありません。別の小さな仕事を与えることでもよいのです。そうすることが、次に同じ 仕事に戻ったときに、新たな視点から打開の手がかりを発見することにつながるのです。 さらに、そのときに、気分転換することの効用がはっきり自覚できれば、気持を切り替えるべきタイミングが自分でわかってき ます。気分転換のタイミングをこのような形で伝えてやることも、仕事への関心を持続させるための重要なテーマの一つになりま す。 ◆戻る◇no-15 どの程度わかったかだけでなく、
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