第三回  ジャズのスタイルの変遷A

   毎回沢山の感想・質問等を書いて頂きました。簡単にQ&Aを書いてみます。
 
Q1  jazzに関する書籍などでおすすめのものは?
A1  私がjazzを聞き始めた頃に指針としたジャズ評論家は、粟村政昭氏と油井正一氏です。この二人の本は信頼できます。数多く出ているジャズ本の著者の中にはジャズの歴史に詳しくなかったり、独善的な好みを押しつけるような人もいないわけではないようです。
 
Q2 ジャズ・ミュージシャンには楽譜が読めない人もいたと言うことですが、どうやって演奏したのでしょうか?
A2  現在でも楽譜が読めない(読む必要がない)人や盲目のミュージシャン(サックスのローランド・カーク、ピアノのジョージ・シアリング、テテ・モントリューなど)がいます。彼等は常人では信じられないほど耳が良いのです。一度聴いたメロディーをすぐに自分の楽器で正確に再現でき、ピアノの和音を聞けば即座に即興的なメロディーを合わせることができます。特に即興演奏(アドリブ)に関して極端に言えば、楽譜や音楽理論は天才的演奏家が自分の感性に基づいて行った素晴らしい演奏を凡人が再現するために利用するものだと言っても過言ではありません。
 
Q3  ジャズ・ミュージシャンは早死にする人が多いのですか?
A3  たしかにジャズの重要な演奏家で早死にした人は、ジミー・ブラントン(b)、チャーリー・クリスチャン(g)、ファッツ・ナバロ、クリフォード・ブラウン(tp)、チャーリー・パーカー(as)、など沢山います。しかし現在も90歳を過ぎてもステージに立つライオネル・ハンプトン(vib)をはじめ長生きする人もいますし、極端に早死にが多いというわけではないでしょう。もちろん、黒人芸術家故にアメリカの人種差別等で苦しみ麻薬の悪習から命を縮めた人たちもまた多かったのも事実です。
 
Q4  ジャズの生演奏を聴ける店を紹介してください。
A4  都内にはたくさんあります。どういう演奏が聴きたいか(ベテランのスイング・ジャズ、若手のハード・バップ、ロックっぽいヒュージョン、フリー・ジャズ、などなど)によって店を選び、店に問い合わせてから聴きに行くと良いでしょう。どんな店があるかを調べるにはジャズの専門誌が良いです。「スイング・ジャーナル」と「ジャズ・ライフ」というのが毎月刊行され生演奏を聴かせる店の案内が沢山載っています。
 
Q5  黒人のジャズ、白人のジャズってはっきり違うのですか?
A5  現代では違いはない。といっても良いと思います。ただ、黒人独特のメロディー感覚(3度、5度、7度の音がわずかに低めになる-ブルー・ノートといいます)がジャズに独特のフィーリングを付け加えたのは確かです。我々黄色人種にも色々あるように「黒人」と一言でまとめるのもおかしいですけれど。
 
Q6  第二回で説明があった和音進行ですけれど、あの和音を考えるのはリーダーなのですか?
A6   曲の和音進行や小節数はその曲の作曲者が決めます(メロディーと和音進行と小節数を決めるのが「作曲」ですよね)。演奏するときに、前奏(イントロ)や後奏(エンディング)アドリブの長さ、などは演奏者が決めたり大幅に原曲とは異なるときは「編曲者」(アレンジャー)が決めます。
 
Q7  ジャズの発展に大きな影響を与えたキー・マンとしてレスター・ヤングがそれほど重要とは初めて知りました。
A7  そうなのですよ!今回の「ジャズ講座」で強調したいのは、ジャズを深く理解して楽しむには「ジャズのスタイルに大きな影響を残した奏者の演奏を知ること」これが大切だと思っています。レスター・ヤングの最高の演奏は現在なかなか入手しにくいので(晩年の演奏は結構すぐ買えるのですが)無視され勝ちなのですが、彼こそモダン・ジャズの原点なのです。
 
Q8  ジャズの演奏で一人でやっているものはないのですか?
A8  クラシック音楽と同じで、ピアノ・ソロはたくさんありますが他の楽器では少ないです。ギター・ソロ、サックス・ソロ、ベース・ソロのレコードもあります。
 
Q9  前回のチャーリー・クリスチャンのギターは、ジャンゴ・ラインハルトと似てませんか(「ギター弾きの恋」で知りました)?
A9  時間があればジャンゴ・ラインハルトもお聴かせしたかったのですが・・。ジャンゴは1950年代以前で唯一と言っていいアメリカで有名になったヨーロッパのジャズ・ギタリスト(ジャズと言い切って良いかどうか・・ジャズの曲も演奏したジプシー音楽家)で、実に独特な音楽で私も大好きです。ジャンゴとクリスチャンとに直接影響しあったということはないと思います(たぶん)。
 
Q10  現代のジャズ演奏の主流は「モード・ジャズ」なのですか?
A10  現在世界中で、「ニューオーリンズ・ジャズ」から「フリー・ジャズ」まであらゆるジャンルのジャズが毎日演奏されています。「現代ジャスの主流」は何かというと・・・「フリー・ジャズ」までの音楽的成果をすべてふまえたうえでの「ハード・バップ」のようなジャズ・・でしょうか。私の考えではジャズ界に1970年代以降新しいカテゴリーで呼ぶ必要があるような革命的な変化はないと思います。将来現れるであろう「天才」がどのような音楽を創造するのかが楽しみです。
 
Q11  教室に備え付けの録音機などありませんか?家でもう一度聴きたいのですが。
A11  この教室にはありませんので、気に入った演奏はCD店等で探してみてください。レコード名と曲名・演奏者で探せば見つかると思います(一部入手難しいものもありますが)。
 
インターネット可能な方はメールか掲示板で質問して頂ければわかるものはお答えします。
 
   電子メール mail: masa-y@mvc.biglobe.ne.jp
   掲示板:FMP掲示板
 
 
 


本日のレコード

 さて今日は、前回の続きで「ビ・バップ」「クール」「ウエストコースト」の代表作品を聴いてから、1950年代「ハード・バップ」の名演をたっぷり聴きたいと思います。


1. 2. "Tea for Two" "Wail" Bud Powell 1949-50 "Moods" "the Amazing vol.1"

  ビ・バップを代表するピアニストバド・パウエル。
彼のスタイルは、左手はコード(和音)を絶妙のタイミングで入れながら右手で複雑なアドリブ・ラインを弾くというもので、彼以降のジャズ・ピアニストに圧倒的な影響を及ぼしました。
パーカーもこのパウエルも「破滅型」の天才としてジャズの歴史にその名を刻まれています。"Wail"のホーン奏者はテナーのソニー・ロリンズ(50年代に圧倒的な作品を残します)、トランペットのファッツ・ナバロ(26歳で亡くなりますが大きな影響を残しました)です。


3.4. "Strike Up The Band" "Dear Old Stockholm" Stan Getz "the Sound"1950-51

  「クール・ジャズ」と呼ばれたスタイルも聴いてみましょう。スタン・ゲッツもレスター・ヤングの影響を強く受けた白人テナー奏者です。「ビ・バップ」の悪く言えば「やかましい(Hot)」音楽に対して「クール」なジャズということです。



5.6. "Brown Gold" "Tickle Toe" Art Pepper "Surf Ride" 1952-53

  「ウエスト・コースト・ジャズ」は好景気に沸いた50年代はじめのアメリカ西海岸での白人中心のジャズです。その中心となった即興演奏家はアルトのアート・ペッパーとバリトン・サックス(作曲・編曲もすばらしい)のジェリー・マリガンです。ここではアート・ペッパーのコンボを聴きましょう。ピアノのハンプトン・ホーズは兵役中日本に滞在して日本のジャズ・ミュージシャンと交流したことでも有名です。
「ティックル・トゥ」は40年代のレスター・ヤングの名演で有名な曲です。ペッパーは自らのルーツを公開するように、この曲を快演しています。 



7. "Solitude" Sonny Rollins "Way Out West"1957

  前回に続いてロリンズをもう一曲。エリントンのバラードを題材に、レイ・ブラウンのベースとシェリー・マンのドラムという最小限のバックで圧倒的な即興演奏を生み出しています。
この「ウエイ・アウト・ウエスト」も前回の「サキソフォン・コロッサス」と並ぶロリンズの大傑作です。(僕はどちらか選べと言われればこちらを取ります)
本当に「汲めども尽きない泉」のように次々と湧いてくるような即興フレーズの素晴らしさ!たまりません! 



8.9. "Pithecanthropus Erectus" "Haitian Fight Song" Charles Mingus jazz workshop
                 "Pithecanthropus Erectus"1956 "The Crown"1957

  ベース奏者、作曲家、バンド・リーダーのチャールズ・ミンガスを聴いてください。
2曲とも5人編成(前者はテナー・サックス、後者はトロンボーンが入りますが、あとはアルト・サックス、ピアノ、ベース、ドラム)のバンドですが、非常にスケールの大きい緻密な構成と大胆な即興が融合して素晴らしい作品になっています。
「直立猿人」の5人で演奏しているとは思えないほどのスケール感、「ハイチ人の戦いの歌」の大胆にして繊細なベース・ソロ、いいでしょう?



10.11.12. "Quicksilver" "Once in a While" "Cherokee" Clifford Brown 
     "a night at Birdland vol1"Art Blakey Quintet 1954 "Study in Brown"1955

  1950年代はじめに登場したトランペッター、クリフォード・ブラウンは、完璧なテクニックと泉のように湧き出る即興的なメロディーで当時のジャズ界に旋風を巻き起こしました。
誰からも愛される人柄で、大学では数学を専攻し数学者になろうかミュージシャンになろうか迷ったとも伝えられます。しかし惜しくも25歳で自動車事故で亡くなってしまいます。
評論家粟村政昭氏の名言「ブラウンのソロは、次にどんなフレーズが来るかわくわくさせられるが、彼の演奏は常に聞き手の予想を遙かに超えた素晴らしさで裏切ってくれる」(正確な文言は覚えてないのでごめんなさい)が思い起こされます。 



13."Brilliant Corners" Thelonious Monk "Brilliant Corners" 1956

 ジャズの歴史上抜かすわけにはいかないピアニスト・作曲家の一人がこのセロニアス・モンクです。
1930年代末から活躍していてバド・パウエルの師匠に当たる人なんですが、ユニークな人の多いジャズ界でも群を抜いて変わった人で、その音楽もあまりに独特故に1950年代中頃までは不遇でした。
聴いての通り、ピアノ奏法も作曲も変わっているでしょう。しかし、1950年代から彼の音楽のすばらしさが次第に理解されるようになり、彼のオリジナル曲もマイルスを始め多くのミュージシャンに取り上げられるようになっていきます。



14. "Isn't It Romantic?" Tal Farlow "Tal" 1957

 ギタリストに目を向けますと、クリスチャン以後1950年代に活躍したギタリストではこのタル・ファーロウが最高の即興演奏家でした。
太いがっしりした音色と尽きることなく湧き出るアドリブのアイデアがすばらしいです。この曲では前半「ハーモニクス奏法」が聴けます。



15. "Blue 'n' Boogie" Wes Montgomery "Full House" 1962

  ジャズ・ギタリストで一番有名なのは多分この人、ウエス・モンゴメリーではないでしょうか。
クリスチャンの影響から独自のスタイルを作り上げました。右手親指の腹で弦を弾くというやり方で太く暖かい音色を作り出しています。
彼も、36歳という若さで心臓麻痺で亡くなっています。ちなみにこのウエス、タルの二人も楽譜が読めない(読む必要がない)人としても有名です。
この演奏はテナー・サックスのジョニー・グリフィンもいいでしょう?「リトル・ジャイアント」(アメリカ人にしては背が低かったので)と呼ばれたテナーの名人で、70年代はヨーロッパに渡って活躍しました。



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