開設一周年記念 全翼機の世界特別編


4. 萱場4型無尾翼機

4.1 萱場4型
 萱場製作所は、陸軍航空技術研究所からの「エンジン付き機を買い上げるので製作して欲しい」との要請に対する回答として、萱場4型を動力付きの無尾翼軽飛行機として開発を開始し、風洞試験は航研の木村技師が担当、成績もよかったとのことです。 モックアップ(右下写真)は伊藤飛行機製作所で進められ、昭和16年4月末には図面が完成しました。 ジプシーメジャー(120 HP)付きの単座機です。
 萱場資郎氏の回想では触れられていないので不明ですが、開発時期は昭和15年くらいでしょうか。2型、3型との関係も不明ですが、 あれを動力付きにするのはかなり無理があるので、改めて4型を開発することになったのだと思います。
 なお、4型にはエンジン付き機であるにも係わらず陸軍グライダーである略譜号「ク−4」が割り当てられました。また萱場氏の回想録では一時期「キ−60」が割り当てられたとありますが、時期的に川崎のキ−60と重複しているようで、真偽は定かではありません。

 図面完成後の昭和16年5月10日の立川での2型の事故をきっかけに、陸軍航空技術研究所は態度を豹変させます。 4型の試作費10万円の支出を渋るのです。
時まさに大東亜戦をひかえ実戦用の機体開発・生産を優先するため、実験機の予算も減らされたことが主因だと思われます。事故は単にきっかけに過ぎなかったのではないでしょうか。

 結局、4型の実機は製作されることなく終り、もとより、萱場製作所としても自費で開発を進める余裕はなかったため、萱場の無尾翼機シリーズは挫折します。
陸軍航空技術研究所からは1型〜3型の製作費用として17,000円が支給されるのですが、萱場としては大赤字だったとのことです。

4.2 萱場4型の機体緒元(予定)
 4型の緒元は以下の通りです。また図面は、『航空技術(1967年11月号)』からです。
 
 ・全幅9.80 m(2型と同じ)
 ・全長3.42 m
 ・全高1.86 m(プロペラ高さ含まず)
 ・翼面積13.30 u
  (内翼)4.30 u
  (外翼)9.00 u
 ・上反角(外翼)6.0 °
 ・取付角2.5 °(主翼 ?)
 ・後退角26.5 °
 ・全備重量650 kg
 ・構造重量515 kg
 ・搭載量135 kg
  (操縦者)67 kg
  (燃料)63 kg(82 l)
  (滑油)5 kg(5 l)
 ・発動機ジプシーメジャー1.
  (常用出力)120 hp(2,100 rpm)
  (最大出力)130 hp(2,300 rpm)
 ・最大速度180 km/h
 ・巡航速度150 km/h
 ・着陸速度85 km/h
 ・航続時間2 h
 ・航続距離300 km

 
 図面を見ると、推力軸と翼とに距離があるのが気になります。
内翼部分では1m近くありそうで、翼端がようやくプロペラ軸に同じ垂直位置になってるようですが、この機体規模では推力増減によるピッチング制御が苦しいのではないかと考えられます。 特に低翼配置のやめ推力増加が頭下げ方向のモーメント増減として出てきますので、迎角が減ることになり、(外翼の翼端部が生み出してしているであろう頭上げモーメントも減ることになって、 トリムは取れる方向だと思いわれますが)全機の揚力が減ってしまいます。速度増加による揚力増分とどれくらいの比率で釣り合っていたものなのか、興味深いところです。 まあ、120 hp程度のエンジンでは大きな影響はなかったのかもしれませんが・・・。

4.3 追補(萱場かつおどり戦闘機)
 下は昭和18年頃に構想されていた萱場資郎氏の夢の機体、ラムジェット戦闘機「かつをどリ」です。
これは構想に終ったのですが、萱場氏の目指した姿が想像できます。
 
 ・全幅9.0 m
 ・全長4.5 m
 ・翼面積13.50 u
 ・後退角25.5 °
 ・全備重量3000 kg
 ・構造重量800 kg
 ・主エンジンラムジェット
  (M 0.3)300 kg
  (M 0.5)550 kg
  (M 0.6〜0.9)750 kg
 ・離昇用エンジン火薬ロケット(推力7200 kg)
 ・最大速度900 km/h
 ・上昇限度15000 m
 ・上昇性能約3分で高度10,000 m
 ・航続時間30 min.
 ・航続距離400 km
 ・武装30 mm無反動機関砲(2 門)


使用/参考文献
  ・航空技術 No.149(67-8),152(67-11),154(68-1)、萱場資郎、日本航空技術協会
  ・昭和の日本航空意外史、鈴木五郎、1993、グリーンアロー出版社
  ・日本軍用航空戦全史(第五巻)、秋元 実、1995、グリーンアロー出版社

 使用した写真や図面は、航空技術からのものです。



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