全翼機の世界

第1章 全翼機の長所・短所

最終更新日1998.08.16

1.1 その長所(その1)

 全翼機の長所として、胴体や尾翼の作り出す抵抗がなくなる(全機の抵抗が低い)があります。
通常形態の航空機では水平尾翼は主翼とは離れた所にあるので、そのために胴体が発達してきたといっても過言ではないかと思われます。
即ち、人類初飛行のライトフライヤーのパイプもどきからモノコックによる胴体の発達は、ペイロードベイとしての役割よりも尾翼を主翼から離れたところに置くために発達 してきたものです。
 ただ、そのために胴体や主翼と胴体との干渉による抵抗が生じてしまうのも事実で、水平尾翼がなくても縦(ピッチ)安定が確保できれば 全機の揚力係数を高くすることができる・・・が無尾翼機の目的で、その魅力になっていると思われます。
全翼機はその構想を推し進めて、翼だけの飛行機を作れば「より揚抗比の高い航空機ができるのでは・・・」というものです。 事実、前述したNorthropは「有害抗力は20〜50%に減少でき、XB-35において最小抗力係数(Cd)を0.0113にすることができた」と述べています。

1.2 その長所(その2)

 全翼機の長所には、胴体や尾翼がないことによって同じ翼面積では当然軽くできます。
当然、胴体を構成する部材もなく、尾翼もないので曲げモーメント云々も不要で、構造的にも楽に、軽量化が可能になります。
大戦末期のドイツで全翼機形態や無尾翼機形態のジェット機が盛んに取り上げられたのは、当時のジェットエンジンの低推力からきた軽量化へのアプローチだったと思われます。

1.3 その長所(その3)

 B-2という全翼機形態のステルス爆撃機が出たことで注目されてますが、余計な反射物(胴体、垂直尾翼)がないので俗にいうステルス性が高いがあります。
但し、ステルス性のために全翼機形態を採用している機体はB-2くらいで、歴史的に見れば、作ってみたらステルス性が高かったという面がほとんどです。 (ノースロップYB-49という全翼爆撃機を米空軍が造った時に、「なるほど」と注目されかかったのが実際です)


1.4 その短所(その1)

 翼しかありませんでの、安定性が不足するのはやむを得ません。
特に縦(ピッチ)安定を得にくいことはだれの目にも明らかですが、動的な方向(ヨー)安定も確保しにくい面があります。 コンピュータが発達した現在とはちがい、50年以上も前では機械的な対応だけで安定を得ることは難しかったに違いありません。 実際もこの辺が解決しきれずに、試験機から抜け出せなかった機体がほとんどです。
一般的に全翼機(無尾翼機も含む)は浅い後退角付きの全翼機がほとんどですが、その場合、後退角によりモーメントを稼ぐとともに、ねじり下げ(揚力係数が内翼部より小さい)等により外翼部が尾翼の役割を果たしているのですが、 そうすると全翼としては揚力係数が低下し、抵抗係数が大きくなって・・・と全翼機の長所が色褪せてきます。(まあ、ねじり下げは全翼機だけの話に限ったことではないのですが)
 また、縦の安定性が不足気味であることから、離着陸時に使用する高揚力装置が使いにくいという欠点もあります。
ファウラーフラップ等に代表される高揚力装置は空力中心の変動を伴いますので、飛行中では確保できていた縦方向の安定性も離着陸時には不足するという状況になって、高揚力装置は使いにくいものとなってしまいます。 このことは定常飛行時と離着陸時とで揚力係数を大きく変えられないこととなり、特に大型機でない場合には離着陸時のために翼面積を大きく取らなくてはなりません。 そうすると、翼面荷重は低くなって、高速飛行性が失われてしまいます。折角の低抵抗性も高速性に向けることができず、燃費等の経済性等に活かすことしかできません。ただ「時は金也」の世の中ですので・・・。

1.5 その短所(その2)

 長所を裏返せば短所になるということがよくありますが、全翼機の場合がまさにそれです。
自家用機で飛ぶことだけが目的なら別でしょうが、ほとんどの航空機はペイロード(有償荷)を積まなくてはなりません。 この場合、翼しかない全翼機では当然翼内に収納しなければなりません。そのためのスペースを翼で確保すると、飛ぶことだけの翼よりも大容量化しなければなりません。 翼を全体的に大きくする、または厚さを増やすといった方法がありますが、何れにしろ飛ぶだけの翼よりも抵抗が大きくなります。B−747と同じペイロードを想定する と、全翼機形態では747よりはるかに大きな翼面積になってしまい、せっかくの長所が相殺されていく傾向となります。
 また燃料も積まなくてはなりませんでの、更に大きくなる(厚くなる)傾向が顕著になります。 2倍大きくなれば3倍重くなり・・・、何のための全翼機かの矛盾に悩まされることになります。
そんなに大きい飛行機が利用できる空港もなく、存在自体に疑問が生じてきます。


1.6 それでも・・・

 デメリットの1つである安定性の点については、コンピュータを利用した安定性強化やCCV構想から解決されたと言えると思われます。B−2が初の実用全翼機として就航していますし。 2点めの短所は、大きくなることが全翼機の生きる道でもあると言え、構想されている全翼機が大型輸送機であるのは興味深い点です。
 
 輸送量の拡大に備えて輸送機も大型化していくのはやむをえないことろですが、全翼機型航空機では2乗3乗の法則が主翼面積や容積の拡大としてのみ作用しますので、 通常型航空機に比べ影響を小さくできるのではないでしょうか。通常型航空機に比べて経済性で優れたものとできれば、生き残る可能性があると思います。
 右の写真は15〜6年前になるでしょうか、NASAで構想された、全翼機型超大型輸送機の1例です。ペイロードを翼幅方向に積み込むため、Spanloaderと呼ばれていました。 8つのエンジンをパイロンで吊り上げています。
尚、B-747より遥かに大きい本機は構想のままで終りました。
それでも私は全翼機が空港で見られることがあることを、それも近い将来にあることを待ち望んでいるのです。

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