全翼機の世界

第3章 全翼機の翼型

最終更新日1998.12.06

 第2章で空力中心の話をしましたが、一般にキャンバーを持った翼型は空力中心周りに頭下げのモーメントを持っています。
このことが「空力中心より重心が前になければいけない」理由でもあるのですが、そういうことがない翼型はないのでしょうか。 つまり、揚力=0で頭上げモーメントをもち、迎角を増やすことで頭下げモーメントを生むような翼型です。
 あります。それは翼型をひっくり返すのです。
もちろん、それでは飛べませんので、それを同じ効果を持つプランク翼とかが使われているわけですが、後退角をもった全翼機や無尾翼機では どんな翼型でもいいのでしょうか。
 ここでは、全翼機に使われる翼型を取り上げていきたいと思います。

3.1 対称翼
 対称翼というものがあります。
基本的に上下キャンバーが同じ翼型なので、早い話が、イルカを上から見た時の身体の形が対称翼です。 この翼型は揚力係数が低い代りに、風圧中心と空力中心が一致するという特徴を持っています。
つまり、迎角が変わっても風圧中心が移動しない状態となり、空力中心だけのモーメントを全機に適用するだけ済むことになります。 これは全翼機にとっては設計上の利点として受け止められることと思います。

3.2 実際の翼型(ノースロップ)
 ノースロップが用いている翼型は、各機のデータ表にも書いたようにNACAの対称翼を用いています。
一例としてXB-35が用いている翼型を取り上げてみます。
 翼端側に使用されている翼型は「NACA 653-018」という、層流翼系列の翼型です。(翼根側には「NACA 653-019」) これは次のような意味を持っています。

 6  NACAの6桁方式による翼型系列を示しています。
 5  この10倍が最小圧力点の、前縁からの距離(%)を示しています。つまり翼弦の50%です。
 3  設計揚力係数(CL、この場合は0)を中心として、±0.3の間は層流を保って小さい抵抗係数を持ちうることを示しています。 
 0  設計揚力係数の1/10を示します。この場合は、0ですが。
 18  厚み比(=最大肉厚(翼の最大厚さ)を翼弦長の%で表した比)18%を示しています。

 なんとなく、翼型が想像できてきたでしょうか。画にするとこうなります。
図3.2-1
上図はその名もズバリ「翼型(1985年、電波実験社)」からのものです。 他には「NACA 633-018」が参考文書(1)「航空を科学する」のP.44に、「NACA 66-018」が参考文書(2)「飛ぶ」のP.39に載っています。

3.3 実際の翼型(ホルテン)
 ホルテンの翼型はゲッチンゲン翼型を用いていると思われるのですが、どんな翼型を使用しているのかはホルテン自身の著作でも記述していませんので、不明です。
唯一、ホルテンH IVbの翼型図面があるのですが、本機はP-51の翼型を使用しているので、ホルテン系列のオリジナルな翼型ではないと思います。P-51は層流翼ですが、対称翼を用いてはないので迎角変化による風圧中心の移動をどう処理してのでしょうか。 うまく処理できていなかったのかどうかは分かりませんが、H IV bの性能や安定性は芳しくなかったようです。

図3.3-1

参考文献、使用文献
 ・別冊 航空情報 航空を科学する(東昭 著)1994年、酣燈社
 ・テクノライフ選書 飛ぶ 〜そのしくみと流体力学〜(飯田誠一) 1994年、オーム社
 ・21世紀への戦闘機 ラファールからFSXまで(デルタ翼の背景、武井裕正) 1987年、航空ジャーナル社
 ・翼型 Vol.1  FFからRC機まで模型の翼型374種 (長谷川 克/植本 多寿美) 1985年、電波実験社

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