4.介護者,ボランティア
在宅で療養されている患者さんは,常に「自分でできる範囲の事はできるだけ自分でやる,やりたい」という気持ちで生活されていると思います.しかし,障害の程度にもよりますが,どうしても自分の力でできないこともあります.その時,自分の手となり足となってくれる誰か(お世話してくれる人)がいなくてはなりません.
ここでは,在宅療養をしていく中で,介助や身の回りの世話(炊事,買い物,洗濯,掃除など)に携わる介護者やボランティアの現状と今後のあり方について述べます.
(1)家族による介護
在宅で療養されている患者さんの主たる介護者は,やはり家族が大半を占めています.その中でも母親に集中することが多いようです.
家族による介護は,性格や考え方など,あるいは介護の方法を熟知しているので,介護する方も介護される患者さんも安心して接することができます.
したがって一番身近な存在である家族は,介護される患者さんにとり最良の介護者と言えます.
しかし,次のような問題点もあります.
1.低年齢の在宅児をもつ場合
- 母親中心の介護
低年齢の在宅児は,まだ介護者に頼らなければならない場面も少なく,また体格的にも小さいため,母親一人の介護場面が多いようです.母親は通学している学校へ送り迎えや,学校から帰宅した後の世話まで一日の大半を介護に費やしていることも少なくありません.
市福祉事務所,町村役場の福祉課担当に相談しながら,在宅福祉サービス事業の活用を図ることをお薦めます.
- 経済的な問題
病気の進行とともに母親は,介護に専念する必要に迫られ,就いていた仕事をやめざるを得ないことがあります.その他,介護し易い条件を作るための家屋の改造など.経済的な問題が出てきます.
心身障害者または心身障害者と同居する世帯を対象とする低利な貸付・融資精度があります.最寄りの社会福祉協議会または市福祉事務所,町村役場の福祉課担当にご相談下さい.
2.成人の在宅者をもつ場合
- 複数の介護者の必要性
進行性の病気のため,徐々に介護者に頼らなければならない場面が増えてきます.また,体格も大きくなり一人での介護は困難となります.
現在,福祉機器・介護用品に開発が進んでいるとともに,それらのリース・レンタル業も増えてきていますので,デイ・ケアを行っている病院などで相談して下さい.
- 介護者の肉体的疲労
生活のあらゆる場面での介助(入浴や着替え,車椅子からベッドへの移動など)は,介護者に恒常的な神経痛や腰痛など身体的問題を引き起こしますし,また肉体的疲労を蓄積させます.
デイ・ケアを行っている病院などで,療育指導(負担の少ない介護の方法など)を受けることをお薦めます.
3.身近な存在であるがゆえの問題
普段の行動を良くみているため,介護者は「次に何をしたいのか」を察することができ,必要以上の手助けをしてしまうことがあります.また,逆に自分でできることも安易に頼んだりして,「自らやろう」という気持ちとの兼ね合いが難しいこともありがちです.
(2)ボランティア
家族による介護は必要不可欠なものですが,時にボランティアによる介護や交流をもつことは本人は勿論,家族にとっても地域社会との関わりをもつことや視野を広める上で大変重要なことと言えます.
地域によりボランティア活動に携わる方の人数やその種類に隔たりはありますが,厚生省による「福祉ボランティアの町作り事業(ボラントピア事業)」の開始から10年が経ち,ボランティアの発掘や育成に力がかけられ,ボランティアやそのグループの数は年々増加傾向にあります.
婦人会,町内会,自治会なその団体や個人での登録,また近年,一般企業によるボランティア活動が盛んになってきています.
1.「ボランティアセンター」としての社会福祉協議会
ボランティアを希望する際,さまざまな方法がありますが,その一つに社会福祉協議会の利用があります.ボランティアとしての登録者も多いため有効な手だてと言えます. 社会福祉協議会は,ボランティアについての情報を提供する機能を持ち合わせており,ボランティアを必要とする人とボランティアを結び付けるコーディネーターの役割を果しています.また,ボランティア講座などを開催し育成にも力を入れています.
どのような内容の援助を希望するのかということも大切ですが,まず問い合わせることにより,地域に在宅療養者とその家族の存在を明らかにしておくことも必要ではないかと考えます.
2.ボランティアと接する際の心構え
- ともに高め合おう
「自らの意志で」「無報酬で」行われるものが,ボランティア活動の基本精神です.「与える者」と「与えられる者」という上下関係で成り立っているものではありません.むやみに遠慮することもなく「ともに生きる」という姿勢で,例え年齢的に離れていたとしてもお互いに尊重し,良い関係が保てるような態度で望むことが必要です.
双方で無理したり,焦ったりせず,お互いに信頼し合うことが始まりです.
- ボランティア保険
万が一の事故に備えて「ボランティア保険」の制度を活用しましょう.
これは,ボランティア自身がこの保険に加入することにより,傷害(ボランティア自身のケガ)と賠償責任(活動中,他人の身体,財物に損害を与えた時)をセットにして保障するものです.
保障期間は加入年度ごとです(毎月4月1日から翌年3月31日まで).掛け金は2種類(1名につき1口300円と500円)あり,ほえknんの支払われる金額が異なりますが,各社会福祉協議会ごとに加入プランがきまっています.
申し込みや照会は,最寄りの社会福祉協議会にお問い合わせ下さい.
在宅療養していく上で介護者にかかる負担は少なくありません.在宅療養の患者さんが,介護的な問題から施設への入所を考えるとすれば,非常に残念なことです.
家族の中でも両親や兄弟姉妹などが,協力し合いながら生活していくことは勿論ですが,ボランティアのもつ資質や能力を十分に生かしながら,在宅療養の患者さんを取り巻く「介護者の輪」が幾重にも広がっていくことが重要であると考えます.
地域の中でボランティアを含めた多くの人が,在宅で療養されている患者さんの暮しを支援体制を作っていく姿勢が望まれます.(阿部和俊)