2.筋ジストロフィーの理学療法

 筋ジスでは,進行すると四肢や体幹の拘縮(筋肉がかたくなったり縮んだりして動かしにくくなること)は必ず起こります.しかし,変形や拘縮は努力によってある程度阻止することは可能です.その予防には早期からの関節可動域訓練(手足を動かしてやる訓練)や,筋のストレッチを行います.そして,筋力の低下した筋を積極的に動かし維持・増強をはかることも動作能力の維持にとって重要です.また,早期より心筋障害が見られる患者もあり,脊柱や胸郭の変形(背骨が前後左右に,胸部の凹凸が著明・左右非対象になりやすい),また,障害の進行とともに呼吸機能障害も進行してきます.歩行不能となり車椅子を使用するようになると,急速に四肢や体幹の変形が発生・増悪してきやすいので,可能な限り起立歩行期間を維持しなければなりません.障害が悪化し,後で改善しようとしてもかなり困難もしくは不可能なので予防が大切であり,そのためには早期から継続して積極的に訓練を行わなければなりません.


(1)目的

  1. 歩行を中心とした起居移動動作(階段昇降,立ち上がり,四つ這い,ずり這い,起き上がりなど)能力を可能な限り維持または改善する.

  2. 四肢,体幹の変形や拘縮の発生を予防・増悪阻止する.

  3. 筋力を可能な限り長期にわたって維持または増強する.

  4. 装具,車椅子,電動車椅子の適応により移動能力を維持・再獲得する.

  5. 呼吸機能障害の進行を可能な限り遅延させる.


(2)起居移動動作訓練
 起居移動の各動作を繰り返し行います.各動作能力を維持するためには,遂行可能な最高の動作を毎日数回必ず実施するのが最も効果的です.日常の生活活動そのものが訓練でもあります.運動負荷は心臓や呼吸機能に問題がない(主治医が判断)ならば,適度な負荷によりエネルギー消費が増加し,心肺機能が活発化し肥満を予防する効果もあります.

 起立歩行訓練
 起居移動動作の中でも,特に起立歩行訓練が重要です.歩行能力を長期間維持することは,下肢の変形・拘縮の予防や増悪阻止だけでなく,脊柱の変形の予防にもつながり障害の進行を遅らせます.また,後述の長下肢装具の装着により歩行期間の延長化が可能ですが,歩行困難な時期から作成・使用した方がよいです.装具歩行不能になっても,装具による立位保持訓練を可能な限り続けた方がいいです.歩行・起立時間は,起立を含め1日2時間を目標とします.適当な休息を含み間欠的に実施すると過負荷にはなりません.


 注意点・留意点

  1. 定期的な診察を受け心肺機能などをチェックしてもらいます.訓練の量は疲労感や自覚症状に注意して決めます.目安としては,歩行可能な者は同年齢の健常児の生活を基準とし,生活を含め訓練は適度の休息をとるように留意します.1回の訓練量は少なめに間欠的に1日数回実施し,進行に伴いさらに”間欠的に”実施します.訓練前後の脈拍の変化を調べるなどの方法もあり,目安は120〜130拍/分以下にすべきであると言われています.

  2. 可能な動作能力を正しく把握し,できるだけ自力で行わせ必要以上の介助は避けましょう.しかし,時間がかかりすぎたり,危険を伴う場合は細心の注意をはらいます.


(3)ストレッチ(伸張訓練),関節可動域訓練
 関節の運動範囲の増大・維持を目的とする訓練です.変形や拘縮の発生を遅らせると起居移動動作能力をより長く維持することが可能です.

図1に起こりやすい変形・拘縮を示します.ストレッチはその可動域の限界からわずかに伸張を加え,
痛みが強くない範囲で行い,訓練後に痛みが残らない程度にします.強すぎるストレッチは骨折や
腱・靭帯などの損傷をきたすおそれがあるので慎重に行わなければなりません.介助者がストレッチをする時は,常に患者の表情や反応を観察しながら注意して行い,小〜中等度の力で長時間かけて行う方法がよいでしょう.手で行うか機械器具などを用いるかは,変形や拘縮の程度,部位,伸張時間,要する力,障害度などによって決めます.関節可動域訓練は,その関節がもつあらゆる運動方向へ,動かし得る全範囲にわたって行います.温熱効果を期待して入浴後に実施した方が良いです.転倒による捻挫,風邪,長期休暇(夏休み)などの活動性低下により機能低下が生じやすくなります.安静臥床が必要となった場合でも病状に応じてストレッチは可能な限り継続し,できるだけ早く訓練を再開しなければなりません.継続・再開にあたっては医師の指示に従います.


(4)筋力維持訓練
 疾患が進行性であるため筋力低下を阻止することはできません.また,進行による筋力低下だけでなく活動量が少なくなることで筋肉の不使用による筋力低下や萎縮がさらに増悪します.この不使用に対する筋力低下に対しての筋力訓練はある程度効果あります.しかし,運動負荷(運動の強度・回数・時間)の設定によっては訓練が多すぎる危険性もあります.したがって,日常の活動量や疲労度を考慮しながら運動負荷量を設定する必要があります.ある動作を行うための主な筋を最大に活用させることを数回行わせることも必要です.運動負荷の様式は疾患の進行とともに,重りを持たせたり介助者による抵抗を加えるなどの抵抗運動から,患者に最大の努力をさせながら最小介助を行う運動へと移行していきます(具体的な方法は,3章4項の家庭・学校で行える機能訓練に記述されています).


(5)装具

 

  1. 長下肢装具
     歩行不能に陥ってもこの装具を装着することによ
    り起立歩行が可能となり,四肢や脊柱の変形予防に
    つながります.装具歩行が不能になっても起立訓練
    に使えます.

  2. 体幹装具
     体幹装具は脊柱の増悪阻止,または矯正のために
    使用します.障害にあわせたものが作成されます.


(6)車椅子,電動車椅子
 歩行不能になると車椅子が必要になります.車椅子は障害に適したものが必要です.上肢や体幹の筋力低下予防のためにも手動式車椅子を使用した方がよいです.手動式のもをこぐのが困難または不可能な場合には電動車椅子へと移行します.


(7)呼吸理学療法 
 呼吸理学療法については,5章5項に詳しく記載されていますので参照して下さい.

(中川真吾)

   

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