3.やせと肥満

 はじめに
 体型は,痩せすぎていないか?太りすぎていないか? どうして痩せたり,太ったりするのかと不思議に思われるでしょう.それはエネルギー摂取量の過剰状態が続くと肥満となり、不足状態が続くとやせとなってくるのです.簡単にいえば摂取エネルギーと消費エネルギーのバランスが取れているかどうか,なのです.一日に食べた食事のエネルギー量と一日に消費したエネルギー量が適当であると過不足なく適切な栄養補給がおこなわれていることになります.筋ジスの患者さんのやせと肥満を判定するのにBMIを用いた方法を示します.


(1)やせと肥満の判定

  1. BMI(Body Mass Index)体格指数
     肥満判定の方法として国際的に使用されています.
     BMI=体重(Kg)÷身長(m)の2乗

  2. 判定の方法
     健常者のBMIは,20から23を標準値としています.筋ジスのBMIは,病型と性別によって標準値が異なりますので下記に一覧表として示します.筋ジスのやせは,標準BMIの0.8 倍をやせ傾向,0.7 倍以下を高度やせとします.肥満は,デュシェンヌ型と先天性では標準BMIの1.3 倍を,その他の型は1.2 倍を肥満とします.全病型ともに1.5 倍を高度肥満とします.
     また,腹部肥脂厚を測定して判定する方法もあります.デュシェンヌ型の場合,肥満を21.8〜29.2mm,高度肥満を26.1〜36.0mm,痩せを6.9 〜12.8mm,高度痩せを2.7 〜 9.4mmとします.


(2)やせ

  1. やせの発生頻度
     やせの発生頻度は入院筋ジス患者全体の15%に認められました.在宅患者では60%との報告があります.入院患者の中ではデュシェンヌ型が最も多く,障害度が進むとやせも著明に進行していました.

  2. やせの予防について
     食べることによって予防できますが,痩せている患者さんはしばしば食欲不振を訴えますので,食欲を増進させる食事環境に家族が配慮してあげることが必要です.人は,食欲を感じると,だ液の流出が活発になり消化が促進されます.食欲が低下するということは,だ液の流出が少なくなり消化が悪くなるということなのです.このために食事の時間は楽しい環境でなくては効率が良くならないのです.食べないからといって患者さんを怒ってはいけません.患者さんが,不快感を表わすとだ液流出は減少して食欲が無くなります.食事時間を明るく楽しいものにするにはどうしたら良いかを考え工夫することが必要です.次に具体的に注意することを述べましょう.
  1. 自分の病状でどれ位食べなくてはいけないのかを知ること.
  2. 毎日の食べているカロリーを計算して,知ること.
  3. 食事の時間を長くとり,咀嚼回数を多くする.
  4. おやつの工夫をしたり,食べられない時は濃厚流動で栄養補給をする.
  5. 食欲のある人と一緒に食事をする.


  1. やせに対する工夫
     るい痩になった患者さんには,少量でカロリーの高い油を使用した料理が好ましいと思われます.食欲不振のみられる患者さんに嗜好による食事の,好物のチキンナゲット,フライドチキンを試みたところ,好きな料理なので,他の料理は食べられなくとも,それらは好んで食べることができ,体力増加や体重増加に非常に役立った例もありました.食事の摂取が困難な場合は,濃厚流動食品(MA7・サンエットA・カロリーメイト等)の併用も栄養補給の手段として一つの方法であります.

  2. やせの濃厚流動等による栄養改善
     筋ジスの障害度が進行すると顕著にやせが多くなります.これらやせの患者には,食事の残食に見合う程度のカロリーを濃厚流動で補食し,エネルギー量の確保に努め,体力の維持と長生きに努めることが大切です.残食量1g に対しては補食量1g と概算して,(1ml1カロリーとなっている.)濃厚流動食を等量だけ補食するようにしましょう.その場合の濃厚流動は,カロリアン・MA7・エンシュアリキッド・サンケンラク
    ト・サンエットL・カロリーメイト等の名称で市販されており,種類も豊富にありますので各人の口にあった,飲みやすい濃厚流動食を選ぶとよいと思われます。また,時には食形態を工夫して,濃厚流動を使用してプリンやシャーベット等のデザート類に調理すると蛋白の補給ができてよいと思われます.


(3)肥満
 やや肥満ぎみの方が延命効果があり,病気の進行具合がおそいといわれていますが,高度肥満は臓器に脂肪がついて心臓など充分な働きをなさなくなるので,予防が必要です。特に在宅患者では運動が少なく食べるのが楽しみで極端な肥満が多いのが実情です.個人のエネルギー摂取量を変化させることにより,体重を変化させることができますので,患者の病型にあった標準体重を知って,その体重に合わせて体型を維持することを目標として下さい.

  1. 肥満の発生頻度
     肥満の発生頻度は入院筋ジス患者の約15%にあり,在宅は35%との報告があります.

  2. 肥満の予防について
     肥満の予防は,身体を自由に動かせない患者さんたちにとって日常生活のQOLを高めるために必要になってきます.このための具体的な注意点を上げましょう.
  1. 自分の肥満度を知る.
  2. 自分の体重の自己管理をする.
  3. 肥満の場合は,病型によって程度が異なるのでそれ以上太らないようにする.
  4. 食事をゆっくりとよく噛んで食べる.

(三谷美智子)

   

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