4.栄養状態と栄養指導

 はじめに
 在宅の患者さんは食事を楽しみに過剰に食べ過ぎたり,自分の口に合ったものばかり食べやすく,偏食になりやすく,いわゆる食事のバランスが悪くなって貧血や便秘になりやすいのです.私たちも飽食の今日,考えて食べなければならない時代となったように筋ジス在宅患者は極端な肥満が多いので食事は頭で考えて食べましょう.


(1)栄養状態
栄養状態が良好とはどういうことなのでしょうか.まず,身長と体重や一日の運動量,
そして血色,ひいては血液性状,皮膚のつや骨格の状態,そして摂取している食事の内容や量といったもの全てを知ることによって,栄養状態が解りますので,患者自身の病気の進行程度と併せて必ず専門の医師か,栄養士に見てもらうことが大切です.

  1. 体格
    身長 変形のある場合は,測定を頭部,上半身,大腿部,下肢と区切って行ないます.
    体重 一日の中で排尿と排便を済ませた後,決まった時間に測定するのがよいでしょう.

  2. 標準体重
     病型別の標準体重を表に示しますので,参考にして下さい.

  3. 摂取栄養状態評価
     栄養計算された食事について食べた栄養摂取量調査をすることによって栄養状態を推定することができます.筋ジスの患者の栄養摂取量の調査成績は,健常者と比べ
    ると約50〜60%と著しく少ないのです.しかし,これを単位体重あたりに換算した栄養所要量について比較すると,健常者と筋ジスの患者の両者は大差ないのです.


(2)栄養指導

  1. 栄養指導の必要性
     筋ジス在宅患者の栄養の特徴は、家族の愛情を一身に受け,その愛情を食物
    の量や食品の品数にかえて患者さんの欲しいものを豊富に与えて,偏食にかたよった食生活をおくっていることがあるように見受けられます.規則正しい生活は,規則正しい食生活を約束し,良く考えて頭で食べるようにすると,自然と患者の体力をもつけることとなります.できる限り正しい食生活すなわち,あり余る食品の中から患者自らに合った食品を選択して食事を行なわなければならないのです.

  2. 栄養指導の方法
     栄養指導は患者個々の病態に応じた指導を適宜に適切におこない,かつ継続して行なわなければなりません.食事が治療にとっていかに大切かということを,患者自身に充分理解させたうえで,やる気をおこさせ,実行していくようにすることが栄養指導のポイントになります.繰り返し,繰り返し,何度も,何度も指導することによって成功すると考えられます.在宅患者は常に接している身近な母親や,養護学校の先生方の役割りはこの意味で重大と考えております.もちろん、機会があれば療養所の栄養士に相談いただければいつでもお役にたちたいと考えております.
     食品についての制限は特にありません.食べてはいけない物も特に認められません.ただ食品によっては量を制限してあげる必要のあるものもあります.例えば,おやつは,低学年までは,嗜好と満足感のため少量必要です.量が多くなりますと,夕食に影響しますので,せっかく用意した夕食が,おやつによっておなかが空いていないと自分の好きな物だけ食べてしまって,あまり好まない野菜などについてはほとんど手をつけないといったことが見られますので,好ましい状態といえないのです.


(3)病態別栄養指導

  1. 便秘
     筋ジスでは,腹筋や横隔膜などのいわゆるいきむ筋肉が犯されるので便の排
    泄がうまくいかなくて便秘がちです.通常の排便は,毎日に一度程度ですが,腹部膨満感等の苦痛があるかどうかで便秘を判断します.
    1. 便秘の発生頻度
       入院筋ジス患者の中で便の通過がおくれたり,固くなり排便に困難を伴う状態で,薬剤そのほかの方法で調整している便秘の患者は,デュシャンヌ型で,32%,肢帯型で9%,筋強直性ジストロフィーで8%みられます.また障害度が高くなるほど便秘の発生が多くみられています.
    2. 便秘の予防
       繊維分の多い野菜を多く取り,決まった時間にトイレヘ行く,朝起きたらすぐに冷たい牛乳か水を飲む,下腹部へのマッサージを「の」の字を書くようにやります.

  2. 消化器疾患を合併している場合
     胃拡張や下痢があれば食事は消化のよい物(白身魚・ささ身・豆腐・卵・柔らかい野
    菜等)を食べて下さい.噛めない場合は食事の形態を刻むことや,嚥下に問題ある場合は飲込みやすい,喉に引っ掛からない増粘調剤を使用したような,滑らかな食事がよいと思われます.嗜好によってカツや天ぷらフライド・チキン等もよいのです.これらを切ったり,刻んだりミキサーにかけたり水分を補ったりして患者さんの摂食能力に応じて食形態を変えてやっていただくのが理想的と思われます.

  3. 貧血
     筋ジスの患者の中で血色素を男14g/dl以下,女12g/dl以下を貧血とみます.
    1. 貧血の発生頻度
       入院筋ジスの患者で過去一年間で貧血の認められたのは,15%で,過去二年間に貧血のみられたいわゆる常態性の貧血患者は5%でした.治療のおこなわれている患
      者は 2.4%でした.また在宅における貧血の患者は9%との報告があります.

    2. 貧血の予防
       鉄の含有量の多い食品(レバー.卵黄.ホウレン草.のり佃.切干大根)たん白質に富んだ食事(肉.魚.鶏.卵.牛乳.大豆)を食べましょう.

(三谷美智子)

   

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