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江國香織「すいかの匂い」(新潮文庫)
 この人の文章は、カタカナと数値がきわめて少ない。
 読む人を選んでしまいそうな単語を選択しない。表面にあるのは、とるに足らないような事物にたいしての、惜しみない愛情を交えた丁寧な観察眼。
 パソコンの取扱説明書と対極にあるような文章である。

 短編集である。どの短編も、日常と非日常をすり抜ける、ささやかな刺激とエロティック(週刊誌のような下世話さでない、香辛料をまぶした程度の)が脇に隠れている。表題作「すいかの匂い」のプチ家出、「蕗子さん」の黒い下着姿、「水の輪」のビニールプールの光景とそれを覗く不具者の少年、「海辺の町」の孤独なおばさん、「弟」の葬式ごっこ、「あげは蝶」の乱れたカップル、「焼却炉」の傷害事件、「ジャミパン」の親族の恋人、「薔薇のアーチ」における登校拒否と嘘、「はるかちゃん」の幼女趣味変質者、「影」のいじめなどなど。ってこうやってわざわざトピックだけ挙げると、この作者の書いている大事なものが歪曲化していくようですが、邪気のない作者の日本語の包装紙があって、安心して読める。(要は読む人間が勝手に歪曲化させているのです)
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